2017年本屋大賞は恩田陸氏の『蜜蜂と遠雷』に決定!
2017年4月11日に、本屋大賞が発表されました。(「本屋大賞」 : 参照 )
受賞作は恩田陸氏の『蜜蜂と遠雷』であり、156回直木三十五賞との同時受賞ということになりました。2005年の本屋大賞を受賞した『夜のピクニック』に次いで二回目ということになります。
実は、私はまだ読んではいません。
図書館に予約はしているものの、なかなか順番が回ってこずに未読のまま大賞発表をむかえてしまいました。自分で買えよという話ですが、諸事情によりそうもいかず、図書館のお世話になっている私です。この点に関してはいろいろと議論もあるところであり、そのうちに書きたいと思っています。
『蜜蜂と遠雷』は「青春音楽群像小説」です
受賞作の『蜜蜂と遠雷』ですが、この作品は著者本人の言葉によると「青春音楽群像小説」だそうです。
音楽小説と言えば、本書同様の本屋大賞受賞作で、第154回直木賞の候補作にもなった宮下奈都氏の『羊と鋼の森』がありました。
ピアノの調律師になろうとする一人の若者の物語であるこの作品は、ピアノの調律という作業により、顧客のいろいろな要求に応じた音色を出せるようにピアノの音階、音色を調整する作業の中で、ピアノの「音」の表現を、主人公が育ってきた森になぞらえて表現したりと、主人公の成長の物語であると同時に、心打たれる音楽の物語でもありました。
また、より直截的に音楽を描いた小説と言えば、中山七里氏の『さよならドビュッシー』から始まる岬洋介シリーズを思い出します。この作品は残念ながら本屋大賞とは無縁でしたが、第8回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞しています。
『岬洋介シリーズ』はピアニスト岬洋介を探偵役とするミステリーで、テーマとなる楽器はピアノであったり、バイオリンであったり、舞台も音楽大学やショパンコンクールなどと巻ごとにその傾向を異にしています。ところが、音楽の経験はないと言っていいこの作者の描く音楽の描写は、音楽の素人にも取り上げられているクラシックを聞く気にさせるほどの魅力を持っていました。
この二作品のどちらも、音楽という人の感性に直接に訴える芸術を、言葉で表現し読者に伝えるという非常に難しい作業を、それぞれの個性を持って表現されていたと思います。読み手にとっても、クラシック音楽という普段あまり馴染みのない音楽の分野に導いてくれる作品でもありました。
コミックの分野でも一大ヒット作となり映画化もされた二ノ宮知子の『のだめカンタービレ』や一色まことの『ピアノの森』、それに新川直司の『四月は君の嘘』ほかの好編が多く出版されています。『のだめカンタービレ』や『四月は君の嘘』は映画化もされているほどです。
今回の受賞作『蜜蜂と遠雷』も、「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスがある、芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に繰り広げられる青春群像劇ということですので、また新た音楽小説が誕生したことになります。
恩田陸の作品で音楽関係のものは?
「自身、高校生までピアノを続け、大学時代はビッグバンドでアルトサックスを担当。」( 恩田陸著『蜜蜂と遠雷』は傑作青春群像小説。著者にインタビュー! : 参照 )していたという恩田陸氏です。その恩田陸氏のこれまでの作品群に音楽関連のものがあるかと眺めてみたのですが、何せこの人の作品は『夜のピクニック』を始めとする数冊だけですので、どうもわからない。それでも何とか調べてみると、『ブラザー・サン シスター・ムーン』という作品が「本と映画と音楽…それさえあれば幸せだった奇蹟のような時間」という惹句がありました。
他には見つけることができません。悪しからず。
直木賞と本屋大賞を同時に受賞した『蜜蜂と遠雷』
直木賞と本屋大賞の同時受賞という作品は『蜜蜂と遠雷』の他には見当たらないようですね。
ただ、直木賞ではなくとも、他の様々な権威のある文学賞の候補になっていたり、受賞作であったりはしているようですね。例えば宮下奈都氏の『羊と鋼の森』は第154回直木賞の候補作になっていますし、2005年の受賞作の『夜のピクニック』は第26回吉川英治文学新人賞を受賞しています。2007年年の本屋大賞受賞作である佐藤多佳子著の『一瞬の風になれ』も第28回吉川英治文学新人賞受賞作です。
他にも伊坂幸太郎著の『ゴールデンスランバー』は山本周五郎賞を受賞していたり、湊かなえ著の『告白』は『週刊文春ミステリーベスト10』2008年版1位であったりと、全国の書店員の方たちが皆に読んで欲しいと選んだ作品である作品は、やはりそれなりの評価を受けていることがおおい、ということは言えると思います。
冲方丁著の2010年の本屋大賞受賞作である『天地明察』に至っては、第31回吉川英治文学新人賞、第7回北東文芸賞、第4回舟橋聖一文学賞、第4回大学読書人大賞と受賞しているのです。
とは言いながら、既存の権威のある文学賞とは異なるところでの、「商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本を作っていく、出版業界に新しい流れをつくる」という趣旨から設立されたこの賞ですから( 本屋大賞 : 参照 )、既存の文学賞の評価を見ること自体、意味のないことなのでしょう。
本屋大賞受賞作品としての『蜜蜂と遠雷』
個人的には、というよりも一般に認められている事実だと思うのですが、「本屋大賞」は、ノミネートされただけでもその面白さは保証されていると言っても間違いはない賞だと思っています。
ましてや、その中での大賞を受賞した作品ですから過去の受賞作を遡って検証するまでもなく万人に受け入れられ得る面白さを持った小説であることは間違いはありません。