森村 誠一

ホテルマンという前身をもつ森村誠一氏はその初期にはホテルを舞台にした推理小説を数多く書かれていました。

1970年を超えたあたりから、東京の西新宿に超高層ビル群が次々と出来つつあり、その最初が京王プラザホテルだった筈です。そのホテル人気と森村誠一氏の前身のホテルマンとが重なり、タイミングが良いと思っていました。

後に角川書店の戦略にも乗り、証明シリーズが映画と共に大ヒットしました。

1969年に「高層の死角」で第15回江戸川乱歩賞を、1973年には「腐食の構造」で第26回日本推理作家協会賞を受賞され、近年は2011年に第45回吉川英治文学賞を受賞されています。

この作家の作品は初期の作品はその殆どを読んでいます。そして、どの本も面白く、角川が力を入れる筈だと納得したものです。

しかし、1980年代に入ると何故か森村誠一氏の作品は殆ど読まなくなりました。本当に理由は不明です。他に新刊が次々と出るのでそちらで手一杯だったといういことが一番でしょう。近年まで人間の証明で活躍していた棟居刑事がシリーズものになっていることや、時代小説をも書かれていることなども知らなかったほどです。

近年の森村誠一の作品は読んでいないのですが、あちこちの評判を聞くと相変わらず面白い物語を書かれていると思います。また、時代小説も含めて読んでみたいものです。

水上 勉

改めては何も言うことも無い巨匠です。その作品は多数にのぼり、直木賞を始め主な文学賞を総なめと言って良いでしょう。

最初に読んだ作品は映画に触発されて読んだ「飢餓海峡」で、社会派の推理小説作家という認識だったのです。しかし、その後三島由紀夫の「金閣寺」を読んだとき、その対比として「金閣炎上」という作品をを知りました。水上勉という作家はこのような作品も書くのだと新たな側面を知った気になり、その後「五番町夕霧楼」「越前竹人形」「越後つついし親不知」と立て続けに読んだものです。

ただ、それ以外読んでいないのも事実で、追いかけて読むには少々暗すぎたのです。歳をとった今なら読めるかもしれませんが、まだ若かった私には救いを見つけることが出来なかったのでしょう。

それももう30年以上も前のことで、読み終えた数少ない本の内容までははっきりとは覚えてはいません。しかし、特に「越前竹人形」はその文章の格調の高さに驚き、美しい日本語といえば三島由紀夫と言われていた時代に、この作品の文章の方が美しいのではないかと思ったものです。

水上勉の幼少期は決して恵まれてはおらず、貧乏故に寺へ修業に出されて大変な苦労をし、その頃の体験が「雁の寺」等に生かされていると、多分あとがきだったか解説だったかに書いてあったと思います。

決してライトノベルを軽んじるわけではないのですが、ライトノベルでは味わうことのできない感動がここにはあります。じっくりと読み込んでもらいたい作家の一人です。

光瀬 龍

小学生のころからSFが好きで光瀬龍のジュブナイルSF小説を読んでいたのですが、ハヤカワ・ノヴェルズ(と言っていたと思います。今の「ハヤカワ文庫NV」)の存在を知り、アーサー・C・クラークやハインラインに衝撃を受けていた頃、この光瀬龍や小松左京の本に出会い、日本のSFも捨てたものじゃない、とのめり込んで行きました。

読んだのがもう40年以上も前のことになるので内容を覚えていない作品が多いのですが、その殆どの作品が壮大な時の流れをベースとして、人間存在の矮小さを訴えていたように思います。

今回この文章を書くにあたり少しネットで調べてみたところ、この作家はその無常性を語られることが多いようです。でも、悠久の宇宙という空間的広がりと、過去から未来への時の流れを見るとき、個々の人間のはかなさを思い知らされるのは当然の様な気もします。

勿論、ハードウエア等の設定の古さには眼を閉じて頂くとして、SFがSFらしくあった頃の物語の面白さを、究極にまで味あわせてくれる作品ではないでしょうか。ただ、決して明るい未来を描いているわけではありませんのでその点は注意してください。

残念ながら作品のほとんどは古書若しくは図書館で借りるしかないようです。それでも是非読んでもらいたい作家の一人です。

道尾 秀介

まだ三作品しか読んでいないので、「おすすめ」の作家と胸を張っては言えません。

ただ、三冊を読んで、更に『「シャドウ」は「向日葵の咲かない夏」の読者への著者なりの解答』だとの作者の「ここだけのあとがき」に書いてあったところをみると、決して気楽に読める作家ということではなさそうです。「僕は決して陰惨な出来事が好きなわけじゃない。」と書いてはあるのだけれど、要は読み手がどう受け取るかであり、若干私の好みとは外れるかも。

しかしながら「笑うハーレキン」や「花と流れ星」はそんなに暗い作品では無かったところをみると、気楽に読める作家ではないけどそんなに重くもないと言ったところでしょうか。

でも、この作家の受賞、候補歴を見るとそうそうたる賞が並びます。賞が全てだとは言いませんが、それでもそれだけの評価を受けていることは間違いなく、各賞に見合うだけの質の作品を出している客観的な指標にはなると思われます。

「物語性豊かな作品世界の中に伏線や罠を縦横に張り巡らせる巧緻な作風」という(多分出版社の)紹介文があるので、サスペンス作家だとの観点でこの人の作品をもう少しは読んでみようかと思います。

水田 勁

この作家はまだ『紀之屋玉吉残夢録』シリーズだけしかか出版されていないようです。

水田勁という作家の詳細は調べても見当たりません。ただ、本シリーズがデビュー作のようです。

ネットでは「時代小説界に驚異の新人現る! 」という惹句を書いているサイトもありました(愛媛新聞ONLINE)。

確かに、読んでみるととても新人とは思えない面白さです。

本シリーズに限らず、他の作品をも読んでみたい作家です。

真山 仁

私は見ていないのですが、2007年にNHKで「ハゲタカ」というタイトルでドラマが放映され、かなり好評だったと聞きます。このドラマの原作となったのが真山仁の小説「ハゲタカ」と「バイアウト」であり、私が真山仁という名前を耳にした最初でした

その後この作家の作品は一冊しか読んでいません。それが「コラプティオ」です。「ハゲタカ」もそのうちに読みたいとは思っています。

真山仁という作家は経済小説の旗手として期待されているそうです。まだ一冊しか読んで無いのでこの作家について語る資格も無いのですが、経済小説といえばまず思い出される城山三郎とは、時代背景が違うためかかなり異なる印象を受けました。

ただ、現代社会における数々の問題について改めて問い直しをする、そうした視点での問いかけの物語が多いようです。

松本 清張

この人から社会派推理小説という言葉が言われ始めました。

それまでの推理小説が謎解きの側面を見ていたのに対し、人間をより深く描くことを重視し、動機等の描写に重きを置いていったそうです。それでいて、推理小説という枠組みは外さないのですからそれまでの推理小説ファンからも大いに受け入れられ、水上勉や森村誠一などといった作家たちが生まれたのです。

一方、「日本の黒い霧」などのノンフィクションも相当の評価があり、作家の粋を超えていると言われたそうです。

個人的にも、この人を知るまではそれまでの推理小説(探偵小説)は謎解きありきが当たり前と思っており、嫌いではないものの決してのめりこむ対象ではありませんでした。しかし、動機等を重視して描写すると、物語に厚みが出るとでも言うのでしょうか、SFでもファンタジーでも、更にはどんな荒唐無稽な物語でも、その物語の中でのリアリティーが無いと感情移入できない私にとってはこの傾向は個人の好みに合致するものでした。

最初に読んだこの作家の本が何だったのか、今ではよく覚えてはいませんが、高校生の頃「点と線」「ゼロの焦点」「球形の荒野」あたりだったと思います。その後学生時代にかけてこの作家の作品は初期作品の大半は読みましたが今ではその内容も殆ど覚えていません。また後期作品は半分も読んでおらず、評論、ノンフィクションに至っては殆ど読んでいません。

というわけで、作品紹介も印象が強くそれなりに覚えている2作品だけにしました。しかし、物語の格調の高さも含めてこの作家の作品の面白さは皆の認めるところでしょう

松崎 洋

この作家の作品は「走れ! T校バスケット部」しか読んでいません。

2013年10月の段階では他に2作品しかないようです。共にスポーツ小説で、テニスとゴルフがその舞台になっています。

「走れ! T校バスケット部」だけに限れば、一言でいえば、ジュブナイル小説です。教訓めいたエピソードでつないだ物語と言ってもいいかもしれません。

筋立ても少々ご都合主義的な個所も散見され、キャラも漫画チックです。それでも、いじめ問題に真面目に、正面から取り組んでいる真摯な姿勢は好感が持てます。青春小説として人気があるのも良く分かるシリーズです。

誉田 哲也

「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」でムー伝奇ノベル大賞優秀賞を、「アクセス」で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しています。

そのためか、この人の作品はどことなくホラーテイストが入っている感じがします。「ブルーマーダー」にしてもその殺害方法は全身の骨を砕くという普通ではない殺し方です。

ところが、文体はスピーディーで登場人物のキャラクター設定が非常に上手な作家ですね。特に姫川玲子シリーズはそれが一番うまくできていると思います。なので面白い。気がつけば一気に読了しているのです。

この作家の魅力はそれだけにとどまらず、青春小説も音楽小説もそのスピーディーな文体に乗ってこなすことです。刑事ものに限らず他の分野もまた面白いのだからたまりません。この作家もどれをとってもそれなりに面白いと思います。ただ、ホラー系が苦手な人は対象作品が限られますが・・・。

殆どの作品は読んだのですが、以前読んだ本の紹介は今一つできていません。今一番のっている作家さんの一人だと思います。

船戸 与一

ロバート・ラドラムやクィネルといった骨太の冒険・アクション小説を読んでいた私は、日本の冒険小説といわれる分野のものは、作家が日本人というだけでスケール感においてかなう筈もないものと、食わず嫌いをしていました。

ところがこの船戸与一という作家の「山猫の夏」という作品に出会い、それまでの私の狭量な先入観は吹き飛ばされました。物語の舞台は世界であり、その舞台や背景についても豊富な情報量で読者を引き込むのです。世界の巨匠といわれる人たちの作品にも引けを取らないその物語は、本格的で重厚な作品を好む方にも十分こたえる作品だと思います。

その後、この作家は豊浦志朗名義でルポルタージュを発表しており、更にはあのゴルゴ13の原作者の一人でもある、ということを知り納得したものです。

それまでにも例えば「落合信彦」のように、世界を舞台に綿密な取材をもとに書かれた小説が無かったわけではありません。しかし、その小説としても面白さはこの人が群を抜いていると感じます。

その取材力を基に書かれた作品は濃厚です。軽く読める小説を探している方には向きません。しかし、読み応えのある小説をお探しの方には一番の作家です。

ただ一点心配なのは、私がこの作家の近年の作品を読んで無いことです。作風が若干変わったとも聞いたような気もしますが、この作家の基本は変わっていないでしょう。多分・・・・。