高校事変Ⅲ

本書『高校事変Ⅲ』は、タイトルのナンバリングのとおり、『高校事変シリーズ』の第三巻の長編のアクション小説です。

今回の舞台は外国であり、戦いのプロである傭兵を相手にした結衣の目いっぱいのアクションが繰り広げられます。

 

『高校事変Ⅲ』の簡単なあらすじ

 

犯罪史に残る凶悪な半グレ連合リーダーを父に持つ優莉結衣を、全寮制の矯正施設・塚越学園のトップが訪ねてきた。結衣は転入を勧められるが、見学に出発した未明、突如として武装集団の襲撃に遭う。結衣の記憶はそこで途切れ、ふたたび目覚めたときには、熱帯林の奥地にある奇妙な“学校村落”に身を置いていた。同じく日本から来た少年少女ら700人が生活しながら通学する、要塞化された校舎の謎。シリーズ最高傑作登場!(「BOOK」データベースより)

 

優莉結衣は、以前在籍していた泉が丘高校での暴力事件がもとで、現在在籍している葛飾東高校を去らなければならなくなっていた。

その事件は結衣が起こしたものではなかったものの、ディープフェイクによる動画をもとに判断されたものだった。

その結衣のもとを訪ねてきた塚越学園学園長の角間良治の誘いに応じ、結衣は塚越学園を見学に行くことになったが、途中で襲撃に会い、角間良治は殺され、結衣も拉致されてしまう。

結衣が目が覚めると、そこは日本ではなさそうなチュオニアンという学校施設であり、七百人を超える日本人の生徒たちがいた。

親たちに見放された子供たちが塚越学園の入学前に集められていて、数多くの監視カメラや盗聴マイクのもと点数制が敷かれており、ある点数が貯まると最悪では銃殺に処せられるのだという。

ここチュオニアンの檜蘇という名の学園長は、結衣に対し、問題を起こせば生徒を一人ずつ処分すると脅しをかけてくるのだった。

 

『高校事変Ⅲ』の感想

 

本書『高校事変Ⅲ』で描かれている時代を反映している事柄と言えば、児童虐待など破壊された家庭環境の問題でしょうか。

でも、本書とテーマというには、壊れた家庭環境のような問題は半グレ集団を相手にする本シリーズでは普遍的な問題のような気もします。

あえて反映された時代性を言うとすれば、それは「ディープフェイク」などの技術上の先進性であると言えるでしょうか。でも、それもシリーズを通して言えることだと思います。

本書では前巻の最後で現れた結衣の妹の凜香も絡んできます。と言っても凜香自身の行動はあまり描かれているわけではありません。

他に、第一巻で登場した啻山(ただやま)理緒子や、矢幡総理を警護するSPの代表の錦織清孝の息子である醍醐律紀などが登場しています。

 

本書『高校事変Ⅲ』の惹句には「シリーズ最高傑作」とありますが、その文句には疑問があるところです。ただ、この異論はまだ三巻しか読んでいない時点でのものです。

少なくとも、インパクトにおいては第一巻のほうが大きいでしょうし、個人的なアクションという面では第二巻の方がリアリティがあったような気がします。

第一巻、そして本書第三巻よりは第二巻の方が起きる事件が相対的に身近であり、結衣のアクションの相手も個人、もしくは暴力団であって、物語として現実味があると感じたのでしょう。

 

本書『高校事変Ⅲ』は、まさに荒唐無稽な物語です。そして、だからこそ、と言っていいと思いますが、アクションに特化したエンターテイメント小説としてただ楽しんで読むべき作品だと思います。

そして、物語に厳密なリアリズムを求める読者でなければ、その期待に応えて物語を楽しむことができる作品だと思います。

今後の展開が楽しみな作品です。

高校事変Ⅱ

本書『高校事変Ⅱ』は、文庫本で384頁の『高校事変シリーズ』第二巻の長編アクション小説です。

驚異的な身体能力を持った女子高校生を主人公とする物語であり、アクションエンターテイメント小説としてかなり面白く読んだ作品です。

 

『高校事変Ⅱ』の簡単なあらすじ

 

世間を震撼させた「武蔵小杉高校事変」から2か月―平成最悪のテロリストの次女・優莉結衣は新たな場所で高校生活を送っていた。そんな中、結衣と同じ養護施設に暮らす奈々未が行方不明に。さらに、多数の女子高生が失踪していたことも判明する。結衣は奈々未の妹に懇願され調査に乗り出すが、JKビジネスや“特権階級”の存在など、日本社会の「闇」の数々が浮かび上がってくる。問題作ダークヒロインシリーズ第2弾!(「BOOK」データベースより)

 

本書『高校事変Ⅱ』での優莉結衣は、前巻『高校事変』での武蔵小杉高校での戦いの後、とある養護施設で暮らしており、高校は葛飾東高校へと通っています。

その養護施設にいた葛飾東高校三年の嘉島奈々未は、この養護施設の費用を払うために風俗店で働いていましたが、ある厄介な客に拉致されてしまいます。

同じ施設に住んでいた嘉島奈々未の妹で中学一年生の理恵は、結衣に奈々未を探してくれるように頼むのです。

結衣は少しの手掛かりを頼りに、奈々未がJK専門のデリヘルでアルバイトをしていた事実にたどり着き、そのデリヘルの元締めの城山譲二から、タカダという客が奈々未の最後の客だったことを知ります。

警察へそのことを通報すると、警察はタカダという客が実は辻舘鎚狩(つじたててがり)という男であることをつきとめますが、そのことを察知した鎚狩は奈々未を連れて逃亡してしまいます。

一方理恵は、姉を探すために城山のもとを訪れますが、その城山は暴力団から依頼のあったパーティーに理恵を送り込んで客の餌にしようと企むのでした。

 

『高校事変Ⅱ』の感想

 

本書『高校事変Ⅱ』では、時代性を反映した事柄として、まず女子高校生を食い物にしているデリバリーヘルスを取り上げています。

同時に、高齢者が暴走し通行人を跳ね飛ばし、結果として母子を轢き殺しでしまったにもかかわらず逮捕されなかったため、上級国民として話題になったいわゆる池袋暴走事件も取り上げてあります。

ただ、こちらの方は、交通事故という事実だけを借り、その背後に全くのフィクションとして主人公が戦いを挑むべき設定を設けてあります。

 

そして、これら二つの事柄を軸とした構成を持った緻密な描写が為された作品として仕上げられていることが本書『高校事変Ⅱ』という作品にリアリティーを与え、読者の感情移入がしやすくなっているのではないでしょうか。

もちろん、この手の人によってはグロテスクに過ぎると敬遠しそうなバイオレンス場面もあります。

しかし、そうした場面でさえもその過程を丁寧に描いてあり、もともとこの手の作品が苦手な人は別として物語の世界に入りやすいと思われるのです。

また、主人公の優莉結衣(ゆうりゆい)が常人とは異なるずば抜けた身体能力と、そうした身体能力とを備えるに至った理由とを明確に描いてあり、読者が納得するようにしてあります。

そしてその主人公が世の悪を懲らしめる、ダークヒーローとして痛快に活躍するのです。

 

本書『高校事変Ⅱ』の主人公がもともとは感情が欠落したクールな人物として登場し、実際、大人たちとの会話でもそのような行動しかとっていません。

しかし、本書の中心人物となる嘉島奈々未やその妹の理恵に対しては若干様相を違えています。この嘉島姉妹を積極的に助けようとします。

その理由について、解説の書評家タカザワケンジ氏は、一つには同じ女性としての同情と怒りがあったからであり、もう一つは結衣自身の暴力衝動を欲求を満たすためだと言います。

こうした、読者も納得できるそれなりの理由を引っ提げて彼女は胸のすくアクションを見せてくれるのです。

高校事変

本書『高校事変』は、文庫本で427頁の『高校事変シリーズ』第一巻の長編アクション小説です。

驚異的な身体能力を持った女子高校生を主人公とする物語で、アクションエンターテイメント小説としてかなり面白く読んだ作品です。

 

『高校事変』の簡単なあらすじ

 

優莉結衣は平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の次女。彼女が通う武蔵小杉高校を総理大臣が訪問することになった。だが、突如武装勢力が侵入。総理が人質にとられそうになる。結衣は幼い頃から身につけた化学や銃器の知識を使い、次々と襲ってくる武装勢力に対抗するが…。武装勢力の真の要求は?そして事件の裏に潜む驚愕の真実とは?日本という国家の「闇」を暴き出すバイオレンス文学!(「BOOK」データベースより)

 

神奈川県立武蔵小杉高校を八幡嘉寿郎総理が訪問してきた。国民的ヒーローである田代勇次のいる武蔵小杉高校への訪問が支持率回復のために有効だと判断したのだ。

ところが、総理が訪問しているときに、米軍特殊部隊そっくりの迷彩服に防弾ベストなどを装備したテロリストが襲ってきた。

とっさに、教師の溝鹿に先導され、警護の錦織警部と共に用具室に隠れた八幡嘉寿郎総理だった。

危険人物の結衣を総理大臣に近づけないよう四階の地理歴史教室に隔離されていたためにテロリストからの拘束から免れた優莉結衣は、すぐに友人の濱林澪を避難させ、反撃を開始するのだった。

手近にあったナトリウムなどを利用してプールで大爆発を起こしたり、テロリストらが持ち込んだ車載式の短距離地対空ミサイルやガトリング砲などの電子機器を無効化させたりと、その知識をフルに使い対抗する結衣だった。

そして結衣らが校内の様子を外部に知らせた結果、政府は柚木国務大臣の指示のもと強行突入を決定するのだった。

 

『高校事変』の感想

 

本書の主人公は神奈川県立武蔵小杉高校二年に在籍する優莉結衣(ゆうり・ゆい)という女子高校生です。

結衣の父親は、「平成最悪のモンスター」と呼ばれ、世の中を震撼させたテロリストである優莉匡太(ゆうり・きょうた)という男です。

数々の犯罪行為に手を染め、武装した彼のグループは、最後は警察の捜査をかく乱するために銀座のデパートでサリンを散布し、死者十八人、負傷者七千人を出す大惨事を招いたのです。

恭太ら幹部十四人は平成最後の年に死刑が執行されましたが、彼の子供たちはその母親不明の子が正確な数さえも分からないままに取り残されました。

 

結衣は、父親やその仲間から様々な格闘技や人殺し、サバイバルの技術、それに武器の作成方法などの知識を叩き込まれて育ちました。

父の死後、母も分からない結衣は児童養護施設に引き取られ、人権保護団体らの世話もあって、何とか小・中学校を卒業し、そして今武蔵小杉高校の二年C組に在籍しています。

その結衣がいる学校へきた総理を襲ってきたテロリストを、結衣はその全能力を使って殲滅しようと活躍します。

 

そもそも、自分一人が助かればいいのであれば、彼女の能力を持ってすればテロリストに占領された学校からの逃亡など簡単なはずです。

しかし、結衣は逃げ出さずに友人の濱林澪を助けようと努力し、隠れていたその他の生徒や総理大臣を守り、SPの錦織警部と共に闘うことを選択するのです。

そのこと自体が、結衣のスーパーヒロインとしての役割であり、それができるだけの能力を持った人物として設定されています。

 

しかし、そもそも総理大臣を確保するために高校を襲撃し、そのために車載式の短距離地対空ミサイルやガトリング砲、携帯式の対空スティンガ・ミサイルなどを準備できるものかどうか疑問です。

加えて、そうした武器を操作できるだけの軍隊並みの練度を持った人材をこの日本で確保できるものなのか疑問です。

また、本書で登場するテロリストは殆どが半グレの若者たちであり、彼らが高校生を無差別に撃ち殺し、高校を占拠するというのですから、その設定自体があり得ないでしょう。

 

しかしながら、その荒唐無稽な設定が、作者松岡圭祐の豊富な知識、綿密な調査に裏付けられた緻密な描写のために、この物語世界でのリアリティを醸し出しています。

そうした荒唐無稽ではあってもそれなりの真実味を持っている世界観ですから、結衣のようなヒロインが魅力的に映るのでしょう。

 

ただ、半グレらの敵役や結衣を差別的に扱おうとする大人たちなどは、その描き方がステレオタイプな側面はあるかと思われます。

しかし、この手の純粋にアクションを楽しむジャンルの作品は、アクションを際立たせるための舞台設定としてはステレオタイプにならざるを得ず、ある程度舞台の簡略化は前提として読む必要があると思われます。

また、家族の愛や友情などという情緒面を剝奪された非人間的な能力を持つヒロインが、それでもなお友人に対する友情などの人間的な側面を見せてくるところもこのシリーズが人気が出ている原因だと思われます。

 

色々と書いてきましたが、そうした言葉など不要だと思わせられるほどに本書『高校事変』はアクションが突出しています。

アクションが強調されたハードボイルド小説としては大藪春彦の『蘇る金狼』などの作品がまずは浮かびます。

 

 

でも、大藪作品が銃と車の詳細な描写の上に魅力的なストーリーがあったのと異なり、本書はさらに緻密な描写は武器一般に広がり、さらに手近な物を武器として利用する知識に満ちています。

勿論、結衣の見せる体術もアクションの大きな要素でしょう。

とにかく、他のことは考えずにストーリーに浸り、単純にアクションを楽しむ物語だと言えます。

高校事変シリーズ

本『高校事変シリーズ』シリーズは、優莉結衣(ゆうりゆい)という名の女子高校生を主人公とする、荒唐無稽な、しかし面白い長編のアクション小説シリーズです。

すなわち、一人の少女が明晰な頭脳、そして驚異的な身体能力を武器に半グレ集団や暴力団などを相手に戦うエンターテイメントに徹したシリーズです。

 

高校事変シリーズ(2021年03月12日現在)

  1. 高校事変
  2. 高校事変 Ⅱ
  3. 高校事変 Ⅲ
  1. 高校事変 Ⅳ
  2. 高校事変 Ⅴ
  3. 高校事変 Ⅵ
  1. 高校事変 Ⅶ
  2. 高校事変 Ⅷ
  3. 高校事変 Ⅷ
  1. 高校事変 X

 

本『高校事変シリーズ』の主人公は、優莉結衣(ゆうりゆい)という名の高校二年生です。

彼女の父親は「平成最悪のモンスター」と呼ばれ、七つの半グレ集団を率い、強盗や詐欺などの犯罪行為の末に銀座のデパートでサリンを散布し犠牲者を多数出すまでに至った平成を震撼させたテロリストである優莉匡太(ゆうり・きょうた)という男です。

この父親は平成最後の年に幹部たちとともに死刑が執行されていて、すでにこの世にはいません。

 

主人公の優莉結衣(ゆうりゆい)は、この父親の次女であって、母親の違う兄弟姉妹と共に殺人に役立つ知識や技術を徹底して仕込まれ育っています。

ここで、本シリーズの流れに関係してきますので、高校事変第九巻までに判明している兄弟姉妹の名前を挙げておきます。

長男 架禱斗(当時16): 次男 篤志(当時13):長女 智沙子(年齢不詳):三女 詠美(享年7):四男 明日磨(当時5):次女 結衣 :三男 健斗(享年14):四女 凛香(現在14):六女 伊桜里(13):五男 耕史郎(11):六男(本名非公表 10)

 

中でも結衣はその身体能力もさることながら、知能の面でも優れており、身近にあるものを即興の武器として危地を脱する能力が高い点も特徴の一つでしょう。

ペットボトル火炎瓶や輪ゴムを使った簡易弓など、各巻でその知識の一端を見せながら、戦いに臨んだり、窮地を脱したりします。

本『高校事変シリーズ』では、彼女がこのような能力を持つに至った理由、その身体能力を生かして人を殺すことをためらわなくなった理由など、それ自体で一編の物語ができるような理由付けをしてあります。

 

ただ、生まれ落ちたときから人殺しを何とも思わない半グレ集団の中で育ったわりには、人間性を失ったというわけではなく、同級生などに助けを求められると救いの手を差し伸べたりもしています。

こうした人間性ゆえに人気シリーズとしてベストセラー作品にもなっているのでしょう。

結衣は、その狂暴な父親を持つ子という理由で受け入れてくれる学校も無いなか、何とか小学校は愛知県の公立小学校を卒業し、静岡の施設に移り静岡市内の中学校を卒業します。

さらに栃木県宇都宮市の高校に入学しますが、同学年の男子生徒三人に怪我を負わせ、不起訴となるものの退学となり、二年生となっている第一巻では神奈川県立武蔵小杉高校へと通学しているのです。

このあと、結衣は葛飾東高清墨学園芳窪高校泉が丘高校など、住まいが変わるにつれ高校を転々とすることになります。

 

テロリストの子供として各学校でいじめの対象にされてきた結衣ですが、本シリーズ第一巻では友人ができます。

それが、神奈川県立武蔵小杉高校二年C組の濱林澪であり、この美緒はクラス担任だった敷島和美などと共にシリーズの随所で顔を出すことになります。

当初は自分個人が生き残ることしか見えていなかった結衣が、澪やそのほかの生徒を助けるために行動する様子などが描写されています。

そうして、少しずつではありますが、他者に対して心を開いていくようになる様子を細かに描き出しているところも、本『高校事変シリーズ』の魅力の一つになっていると思われます。

 

この『高校事変シリーズ』では、当初は見えていなった結衣の敵ともいうべき存在がいます。

第一巻では単にいち政治家の暴発と思われていたテロ行為が実はそうではないことが明らかにされ、シリーズを重ねるにつれより巨大な敵が顔を見せてきます。

そもそも最初からそういう予定だったのか、シリーズの途中でそのような設定を設けたのかは不明です。

この点は、二月に一度という本シリーズの驚異的な刊行スピードをみると、当初から設定されていたとみる方が妥当だと思われます。

第九巻まで刊行されている現時点では武蔵小杉高校から始まった戦いに、一応の区切りがつき、更なる強敵が出現するようです。

もしかしたら、この新たな敵もまた、倒したと思った敵に連なるものかもしれませんが、それは続刊の楽しみというところです。

 

本書のような荒唐無稽なアクション小説と言えば、いつも月村了衛の『槐(エンジュ)』や大沢在昌の『明日香シリーズ』などを紹介していましたが、これからは本シリーズも加えることができそうです。

 

 

また、本シリーズは、オオイシヒロト氏の画でコミック化もされているそうです。

 

千里眼 ミドリの猿

本書『千里眼 ミドリの猿』は、『千里眼 クラシックシリーズ』第二巻の、文庫版で「著者あとがき」を除いて353頁の長編のエンターテインメント小説です。

純粋に物語を楽しむ痛快活劇小説であり、単純に楽しく読めた作品でした。

 

『千里眼 ミドリの猿』の簡単なあらすじ 

 

きみも緑色の猿を見たのかい?嵯峨敏也と名乗る男にそう聞かれた瞬間から、女子高生の知美の存在は周囲から認識されず、母親からも拒絶されてしまう。彼は敵か味方か?折しも国内では岬美由紀のある行動が原因で中国との全面戦争突入のタイムリミットが迫っていた。公安に追われながらメフィスト・コンサルティングに立ち向かう美由紀の活躍が、改稿の域を超えほぼ新作となり生まれ変わったクラシックシリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)

 

須田知美は、赤羽精神科で診察を終えて出てきたところでいつもの浮遊感に襲われ、保護を求めて派出所に行っても拘束されそうになり、母親に電話しても知美を知らないと言われてしまう。

一方岬美由紀は、内閣官房直属の主席精神衛生官という立場にいて、アフリカのジフタニア共和国にODAの視察団の一員として訪れていた。

ところが、内戦状態を隠すジフタニアの担当官の嘘を見抜き、子供たちを助けるために戦闘用ヘリを奪取して政府軍に挑み、これを撃退するという事件を起こしてしまう。

なんとか日本へと帰ると、中国国民が日本に対し急激に反感を抱くようになり、戦争を仕掛ける機運が盛り上がっている事実を知る。

事件の背後には恒星天球教がいると考えた美由紀は、新宿にある公安の前哨基地の公安調査庁首都圏特別調査部へと乗り込む。

そこには公安調査庁首席調査官の黛邦雄という男が待っていて、そのビルの地下で見たのは監禁されている須田知美の姿だった。

何とか須田知美を助けて脱出した美由紀らは、須田知美が隠れていた嵯峨敏也と名乗る男のマンションへとたどり着き、そこにいた嵯峨と合流し、ともに行動を始めるのだった。

 

『千里眼 ミドリの猿』の感想

 

本書『千里眼 ミドリの猿』では、前巻『千里眼 完全版』での恒星天球教という存在とは異なる、メフィスト・コンサルティング・グループ日本支社ペンデュラムという存在が敵役として前面に出てきています。

恒星天球教はペンデュラムとどのような関係にあるのか本書の時点ではまだよく分かりません。

 

 

そして、前巻でも少なからずツッコミどころはあったのですが、本書においてはそれ以上に疑問点が山積しています。

美由紀が他国へ行ってその国の戦闘ヘリを奪取し、そのままその国の航空機と戦闘行為に入ったり、その行為に対してはなんのお咎めもなく日本に帰っています。

また、普通に日常生活を送っているはずの美由紀が、中国と日本との間で戦端が開かれそうになっていることを全く知らなかったりもしていて、かなり不自然な場面が多いのです。

上記は疑問点のほんの一端ですが、本書『千里眼 ミドリの猿』は痛快エンタテイメント小説でもあり、かなりの場面は容認して読み進めました。

本書の場合は少々世界観に無理があると思いつつ、全体としてまだ許容範囲だと自分に納得させての読書だったのです。

 

今回『千里眼 ミドリの猿』では、新たな敵役としてメフィスト・コンサルティング・グループという存在が出てきます。

具体的にはメフィスト・コンサルティング・グループ、ペンデュラム日本支社常務取締役で実質的に極東地域を統括する立場にあり、表の顔として公安調査庁では黛邦雄を名乗っている鍛冶光次という男がそれです。

この男の行動もツッコミどころ満載なのですが、それを挙げていたらきりがありませんのでここでは書きません。

またその部下として芦屋という精神科医もいますが、これはいわば雑魚キャラでしょう。

このメフィストグループは、「全知全能の知識と実行力によって歴史を操る闇の組織」であり、その実体は心理学を駆使した扇動で物証を残さないプロ集団です。( ウィキペディア : 参照 )

こうした敵役の設定は、物語の規模を壮大にはするでしょうが、ホラ話にはホラ話なりの理由付けが必要です。本書にその世界観を支えるだけの理屈があるかと言えば、若干の疑問があります。

 

一方、美由紀にも味方ができます。それが著者松岡圭祐の別作品『催眠シリーズ』の主人公で東京カウンセリングセンターの催眠療法科長の臨床心理士である嵯峨敏也です。

正体不明のキャラクターとして登場しますが、美由紀と共に須田知美を助ける手伝いをします。

 

 

そして、前巻『千里眼 完全版』からの登場人物である警視庁捜査一課の警部補の蒲生誠が今回もまた美由紀を助けます。

 

『千里眼 ミドリの猿』のシリーズ特性

 

本書『千里眼 ミドリの猿』では物語が完結せず、「千里眼 運命の暗示 完全版」につづく、とされています。

多分ですが、シリーズ内の他の著作は単巻でそれなりに独立しているものと思われます。

ここで、本書の「著者あとがき」で「小説『催眠』の正当続編として新たに書き下ろすことにし」たと明記してありました。

そして、「本作以降、角川『千里眼』クラシックシリーズは、旧・小学館のシリーズとはまったく別の作品となります」と、明言してあるのです。

こうした言葉もあって、『千里眼シリーズ』の項でも書いたように、本稿では角川版を読むことにしているのです。

千里眼 完全版

本書『千里眼 完全版』は、『千里眼 クラシックシリーズ』第一巻の、「著者あとがき」「解説」まで入れると全部で452頁にもなる長編のエンターテインメント小説です。

純粋に物語を楽しむ痛快活劇小説であり、単純に楽しく読めた作品でした。

 

『千里眼 完全版』の簡単なあらすじ 

 

房総半島の先にそびえる巨大な観音像を参拝に訪れた少女。突然倒れたその子のポケットから転げ落ちたのは、度重なるテロ行為で日本を震撼させていたあるカルト教団の教典だった…。すべてはここから始まった!元航空自衛隊の戦闘機パイロットにして、現在戦う臨床心理士岬美由紀の活躍を描く、千里眼シリーズの原点が、大幅な改稿で生まれ変わり、クラシックシリーズとして刊行開始!待望の完全版。(「BOOK」データベースより)

 

航空自衛隊の航空総隊司令官仙堂芳則は、米軍の関係者までも参列している総理官邸地階危機管理センターの対策本部対策室へと呼び出され、茨城の山中にある寺がミサイル攻撃を受けたとの説明を受けた。

横須賀基地に停泊している米軍第七艦隊所属のイージス艦に侵入した何者かが陸上攻撃ミサイルの発射コマンドを入力したものであり、さらには、総理官邸を標的としたミサイルが発射へのカウントダウンを始めており、あと二時間強で発射されるというのだ。

ミサイルの迎撃もできず、犯人から発射停止の暗証番号を聞き出すしかないため、仙堂は、千里眼との異名をとる東京晴海医科大附属病院の院長の友里佐知子と、仙堂の元部下で友里のもとにいる岬美由紀を呼ぶこととなった。

それに答えた二人は見事暗証番号を聞き出し、危機は回避されたが、犯人は恒星天球教を名乗り自害してしまう。

そこに恒星天球教を名乗る男から連絡が入り、今後恒星天球教への干渉は禁ずると言ってきた。

また、美由紀のもとに通っている宮本えりという小学二年生の患者が、朝早くから一人で富津にある東京湾観音に出かけていて、その子が恒星天球教のパンフレットを持っている事実が判明する。

 

『千里眼 完全版』の感想

 

本書『千里眼 完全版』は、戦闘機を乗りこなし、格闘技も万能の、表情から人の心裡を読む達人である臨床心理士が主人公です。

本シリーズを読み始めたのは、本書は『千里眼シリーズ』の項でも書いたように、作者である松岡圭祐の別作品『高校事変シリーズ』が非常に面白かったためです。

 

 

ただ、この『千里眼シリーズ』は『高校事変シリーズ』に比べると、小説としての完成度はかなり落ちると思われます。

というよりも、どちらの作品も荒唐無稽に過ぎるともいえるのですが、本シリーズの方が設定が甘く、書き込みも冗長です。

本書の冒頭で起きる米軍艦船への侵入およびミサイル制御システムの乗っ取りという事態だけでも荒唐無稽という言葉を超えた出来事であり、もうファンタジーというほかない出来事です。

ただ、その過程での米軍関連の武器情報など、かなり調べ上げた上での描写と思われ、単純に突拍子もないホラ話と切り捨てられないだけの本書の世界観内でのリアリティーを持っているところが惹きつけられるところです。

 

敵役としては、本書『千里眼 完全版』においては恒星天球教と名乗る集団がいます。

このオカルト教団は教祖を阿吽拿(アウンナ)といい、信者の心裡をうまく誘導し、脳に直接メスを入れるなどの方法で信者を思うがままに動かす集団です。

そこに、同様に心理学を学んだエキスパートとしての臨床心理士の岬美由紀がその前に立ちふさがることになります。

冒頭の米軍ミサイルの事件も犯人が恒星天球教の信者であり、次には東京湾観音で恒星天球教による何かが行われている疑惑が巻き起こり、調査を開始することになります。

その東京湾観音での出来事もまた荒唐無稽です。岬美由紀が戦闘機パイロットで会ったほどの運動神経の持ち主という前提で、アクションのあり方もその運動神経の良さを十二分に生かした常人ではなし得ない動きで危機を回避します。

 

ただ、本書『千里眼 完全版』の展開だけを考えると、文庫本の本文だけで447頁という長さが必要だったか、という疑問は残ります。もう少し簡潔に処理できたのではないでしょうか。

とはいっても、読んでいる途中でそれほど長いと感じなかったのは、本書での緻密な書き込みがあるからこそでしょう。

この長さがあったからこそ途方もないホラ話がそれなりのリアリティを持つことができたのかもしれません。

とりあえずはシリーズを読み続けてみたいと思います。

千里眼シリーズ(クラシックシリーズ)

 

『千里眼シリーズ』について

 

本『千里眼シリーズ』は、元航空自衛官の臨床心理士・岬美由紀を主人公とした長編のアクション小説シリーズです。

本稿は旧・小学館版ではなく、角川文庫版をその対象としています。

 

千里眼 クラシックシリーズ(2021年01月12日現在)

  1. 完全版
  2. ミドリの猿
  3. 運命の暗示
  4. 千里眼の復讐
  5. 千里眼の瞳
  6. マジシャンの少女
  1. 千里眼の死角
  2. ヘーメラーの千里眼
  3. トランス・オブ・ウォー
  4. 千里眼とニュアージュ
  5. ブラッドタイプ
  6. 背徳のシンデレラ

千里眼 新シリーズ (「クラシックシリーズ」の続編)(2021年01月12日現在)

  1. The Start
  2. ファントム・クォーター
  3. 千里眼の水晶体
  4. ミッドタウンタワーの迷宮
  5. 千里眼の教室
  1. 堕天使のメモリー
  2. 美由紀の正体
  3. シンガポール・フライヤー
  4. 優しい悪魔
  5. キネシクス・アイ

 

まず前提として、本『千里眼シリーズ』は、もとは小学館から発行された全十二巻のシリーズがあったもので、後に角川文庫から「クラシックシリーズ」として「完全版」と銘打たれて再刊されています。

そして、例えば著者自らがクラシックシリーズ第二巻の『千里眼 ミドリの猿』の「著者のあとがき」では、本書は改稿ではなく「大部分を新しいストーリー」として、「旧・小学館版のシリーズとは全く別の作品となります」と書かれているなど、「クラシックシリーズ」が現時点での正式版だと思えます。

以上の次第で、本稿は角川版のクラシックシリーズを対象としていますし、旧・小学館版のシリーズは未読のままになると思います。

 

もともと、本『千里眼シリーズ』についてはそのシリーズ名は聞いていたのですが、千里眼千鶴子という名前も取りざたされていたためオカルトものだと勝手に思い込み、読まずにいたものでした。

 

千里眼千鶴子とは、わが郷土熊本の宇土郡松合村、現在の宇城市不知火町に実在した女性です。「千里眼」能力の持ち主として話題になり、最後は自殺を遂げました。( ウィキペディア : 参照 )

 

それはともかくとして、本シリーズの著者松岡圭祐の別作品『高校事変シリーズ』を読んだところこれが非常に面白く、本シリーズもアクション中心のエンタテイメント小説であったことから読み始めたものです。

 

 

 

『千里眼シリーズ』の感想

 

本『千里眼シリーズ』の主人公岬美由紀は、元航空自衛官であり、不祥事により自衛隊を退職後、動体視力に優れたその能力を生かして臨床心理士として活躍しています。

自衛隊を辞めた美由紀は知人の友里佐知子が院長を務める東京晴海医科大付属病院に勤務することになるのですが、この友里佐知子が患者の心の裡を知る技術に長けていたために「千里眼」と呼ばれていたのです。

後に美由紀が戦闘機のパイロットでもあったため動体視力に優れていたこともあり、人の表情からその内心をも読み取ることに優れていたことから、美由紀自身が「千里眼」と呼ばれるようになったそうです。

 

本『千里眼シリーズ』第一巻では恒星天球教というオカルト教団が様々なテロ行為を仕掛け、それを岬美由紀が阻止するという流れであり、シリーズの敵役としてこの恒星天球教が設定されているものと思っていました。

ところが、第二巻になると、恒星天球教は存在だけ指摘されるだけで、新たに「メフィスト・コンサルティング・グループ」なる存在が岬美由紀の前に立ちふさがります。

本シリーズの真の敵役はどちらなのか、または他にもいるのかについてはまだ全く分かりません。

 

また、『千里眼シリーズ』の第二巻『ミドリの猿 完全版』は第三巻『運命の暗示 完全版』に続くとなっています。調べてみるとこの部分だけが二分冊になっているようです。

ほかの巻は、一応個別の巻だけでも読むことができると思われます。

 

 

結局、このシリーズの構成も含め、二つの団体の関係や敵役の存在についてはシリーズの続刊を読まなければ分からないようです。

ともあれ、文章のタッチや物語の構成など、『高校事変シリーズ』には若干及ばないものの、本シリーズは本シリーズとして、痛快アクション小説としてかなり楽しみな時間を持てそうです。

続巻を読み進める中で本稿も修正していこうと思っています。