隠し剣 鬼の爪 [DVD]

『たそがれ清兵衛』から2年。山田洋次が監督・脚本を務め、藤沢周平原作によるふたつの短編小説を元に男女の悲恋を描いた時代劇。幕末を迎えた江戸時代を舞台に、下級武士である片桐宗蔵と、かつての片桐家の奉公人・きえが恋に揺れ悩む姿を静かに映す。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

山田洋次監督が『たそがれ清兵衛』に続いて藤沢周平の時代小説を原作として作り上げた作品です。

永瀬正敏が主人公を演じ、松たか子ほかが出演しています。

たそがれ清兵衛 [DVD]

藤沢周平原作、山田洋次監督の傑作時代劇。貧乏で日々内職にいそしむ通称“たそがれ清兵衛”。ひょんなことから彼はその強さを知られ、藩命で果し合いをすることに。困惑する清兵衛だったが、これを機に幼馴染への秘めた恋に決着をつけようとする。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

第26回日本アカデミー賞を総なめにした藤沢周平原作の「たそがれ清兵衛」を原作とする作品です。

真田広之の主演で、宮沢りえほかが出演しています。

 

いかにも山田洋二監督らしい、あたたかで、語りかけて来るような画面作りが為されていて、それでいて剣戟の場面ではメリハリの利いた殺陣で見せ場を作ってあって、見応えのある映画でした。

たそがれ清兵衛

下城の太鼓が鳴ると、いそいそと家路を急ぐ、人呼んで「たそがれ清兵衛」。領内を二分する抗争をよそに、病弱な妻とひっそり暮してはきたものの、お家の一大事とあっては、秘めた剣が黙っちゃいない。表題作のほか、「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「日和見与次郎」等、その風体性格ゆえに、ふだんは侮られがちな侍たちの意外な活躍を描く、痛快で情味あふれる異色連作全八編。(「BOOK」データベースより)

 

藤沢周平の代表作の一つである全八編の異色の連作短編集です。

 

どの作品も、剣の達人でありながら普段は同輩との付き合いもない生活をしているのですが、その剣の腕前を披露せざるを得ない状況が作られていきます。

中でも表題にもなっている「たそがれ清兵衛」はやはり「海坂藩」が舞台です。

剣の達人ではあるが、妻のために定刻には家に帰るところから「たそがれ清兵衛」と呼ばれる主人公が、主命により上意討ちを果たすという展開です。

 

山田洋次監督の映画版「たそがれ清兵衛」は、他に「竹光始末」「祝い人助八」が使われているので、この本とは筋が異なります。でも、この映画もよかったですね。真田広之の東北なまりでの演技もよかった。

 

 

ちなみに他の山田洋次監督の時代劇二作品、「武士の一分」「隠し剣 鬼の爪」も藤沢周平の作品が原作ですね。

 

三屋清左衛門残日録

日残りて昏るるに未だ遠し―。家督をゆずり、離れに起臥する隠居の身となった三屋清左衛門は、日録を記すことを自らに課した。世間から隔てられた寂寥感、老いた身を襲う悔恨。しかし、藩の執政府は粉糾の渦中にあったのである。老いゆく日々の命のかがやきを、いぶし銀にも似た見事な筆で描く傑作長篇小説。(「BOOK」データベースより)

 

蝉しぐれ』と並んで挙げられることの多い、藤沢周平の代表作の一つである長編時代小説です。

 

この本を読んだ後はこの作品の舞台となっている小藩は「海坂藩」のことだと勝手に思っていました。しかし、どうも明記されているわけでもなく、そうらしいというほかないようです。

主人公は引退した元用人で、例によって藩の紛争に巻き込まれていきます。

その人物造形が面白く、隠居爺さんと思ってたら五十代前半らしい。何と私より若い。それで、剣もそれなりに使え、体力が全くなくなっているわけでもない設定が腑に落ちました。

海坂藩大全

蝉しぐれ」もそうだけど、藤沢周平作品は海坂藩という東北の架空の小藩を舞台にした小説が多い。この本はそうした海坂藩を舞台にした短編を集めたものです。

殆どはずれはなく、藤沢周平の世界を堪能するには絶好の本ではないでしょうか。

蝉しぐれ [TV版]

藤沢周平の原作を内野聖陽主演で映像化した時代劇。海坂藩の下級武士の子・牧文四郎と隣家の娘・ふくは、幼い頃に淡い恋を育む。しかし、過酷な運命が文四郎を翻弄し、ふくにも人生の転機が訪れる。そして藩には陰謀が渦巻いていた。全7話を収録。(「キネマ旬報社」データベースより)

蝉しぐれ [DVD]

『隠し剣 鬼の爪』の藤沢周平のベストセラーを、市川染五郎と木村佳乃を主演に迎えて映画化。東北の小さな藩を舞台に、青年剣士・文四郎が、藩主に見初められたために派閥抗争に巻き込まれた幼馴染みの女性を守るため、非情な運命に立ち向かっていく。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

映像の美しさは言うまでもなく、とくに市川染五郎の牧文四郎と木村佳乃のふくとが物語の終盤に、それまでの思いのたけを静かに語りあう場面は、この映画を見てよかったと思わせられる名シーンでした。今でも心に残っている、美しい場面です。

今田耕司とふかわりょうとを起用した場面を除けば、かなり良い映画だと言えると思います。

蝉しぐれ

蝉しぐれ』とは

 

本書『蝉しぐれ』は1988年5月に刊行されて、2017年1月に上下二巻で586頁の新装版として文庫化された、長編の時代小説です。

 

蝉しぐれ』の簡単なあらすじ

 

「どうした?噛まれたか」「はい」文四郎はためらわずその指を口にふくむと、傷口を強く吸った。無言で頭を下げ、小走りに家へ戻るふくー。海坂藩普組牧家の跡取り・文四郎は、15歳の初夏を迎えていた。淡い恋、友情、突然一家を襲う悲運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を描いた、傑作長篇小説。(上巻: 「BOOK」データベースより)

不遇感を抱えながら、一心に剣の稽古にはげむ文四郎。18歳の秋、神社の奉納試合でついに興津新之丞を破り、思いがけない人物より秘剣を伝授される。前途に光が射しはじめるなか、妻をめとり城勤めに精をだす日々。そこへ江戸にいるお福さまの消息が届くー。時代を越えて読み継がれる、藤沢文学の金字塔。(下巻: 「BOOK」データベースより)

 

蝉しぐれ』の感想

 

本書『蝉しぐれ』は、もしかしたら藤沢周平作品の中では一番有名かもしれない、長編の時代小説です。

そして、それだけの面白さを持った作品であって、「藤沢文学の香り高い情景を余すところなく盛り込んだ名作」と言われるのも納得する物語でした。

 

主人公の牧文四郎と、その幼馴染のふくとの秘められた恋情を軸に、海坂藩の政変に巻き込まれていく二人やその周りの人々が情感豊かに描かれています。

藤沢周平の作品はどの作品も名作ぞろい、と言っても過言ではないと思うのですが、どれか一冊を挙げろと言われれば、私は本書を挙げるかもしれません。

それほどに惹き込まれ、また感動した作品でもありました。

 

ちなみに、本書『蝉しぐれ』は市川染五郎と木村佳乃とで映画化されて、2005年に一般公開されました。また、2003年にはNHKで連続ドラマ化もされています。

 

用心棒日月抄シリーズ

主人公は青江又八郎という浪人者であり、表題のとおり、又八郎の用心棒稼業の中で繰り広げられる日常を描いてある時代小説です。殆どは連作短編の形式をとっていますが、第三巻から十数年が経ったという設定の第四巻の「凶刃」だけは長編となっています。

藤沢周平が第69回直木賞を受賞した『暗殺の年輪』が発表されたのが1973年で、本シリーズの第一弾『用心棒日月抄』が「小説新潮」に連載されたのが1976年から1978年です。ということは、藤沢周平の初期の作品と位置付けられるのでしょう。

私が読んだ本シリーズの新潮文庫本版のあとがきや他の記述を読んでみると、藤沢周平の作品はどことなく暗い作風であったものが、本シリーズあたりから藤沢周平の特徴である豊かな抒情性とユーモアすらも漂わせる作風へと変化してきた、と書かれていました。

登場人物を見ると、主人公は、青江又八郎という浪人です。「月代がのび、衣服また少々垢じみて、浪人暮らしに幾分人体が悴れてきた感じだが、そういう又八郎を擦れ違う女が時どき振りかえる。」ような人物です。

 

又八郎は、家老の大富丹後の藩主壱岐守毒殺の話を聞き、許婚の父親の平沼喜左衛門に知らせます。しかし、逆に切りつけられ、これを返り討ちにしてしまい、脱藩する羽目になってしまいます。

そこで、江戸に出て浪人暮らしをすることになり、口入屋の相模屋を通して用心棒の仕事を請ける生活に入るのです。

 

主な登場人物として、細谷源太夫という用心棒仲間がいます。子が六人もいて、嫁そして自分と八人の食いぶちを稼がなければなりません。腕はたちますが酒と女にだらしのないところがあります。

そして、又八郎らに職を紹介する相模屋の主が吉蔵であり、こずるい一面も持ち合わせていますが、基本的に人情家です。

そして、二巻目以降の重要な登場人物として佐知という女性がいます。この女性は第一巻『用心棒日月抄』の終盤に又八郎の命を狙う女として登場するのですが、第二巻『孤剣 - 用心棒日月抄』からは逆に又八郎の重要な相方として活躍します。そして、又八郎の「江戸の妻に」と願うほどになるのです。

勿論、又八郎には苦労ばかりをかけている由亀という妻が故郷で又八郎の帰りを待っています。しかし、この物語は殆どの舞台が江戸であり、由亀が登場する場面はそれほどにはありません。それよりも江戸の又八郎であり、佐知なのです。

 

先に述べた本シリーズのユーモラスな側面は、相模屋の吉蔵と初めて出会う場面での「背が低く、狸に似た貌の男」という紹介の仕方からしてそうでしょうし、細谷源太夫というキャラクターの存在自体が滑稽味を前提としていると言えます。

 

物語の構成をみると、第一巻『用心棒日月抄』は、赤穂浪士の討ち入りを主軸に、その廻りを又八郎が走り廻っていると取れなくもありません。赤穂義士の物語を第三者として見た物語なのです。

しかし、第二巻『孤剣 - 用心棒日月抄』第三巻『刺客 - 用心棒日月抄』となると、又八郎が藩内の抗争に巻きこまれて再び江戸での浪人生活に戻るという体裁になっています。作者の単行本版「刺客」のあとがきにあるように、「第一巻だけで終わる予定だったもの」がシリーズ化されたものだからなのでしょう。

とはいえ、第一巻『用心棒日月抄』の終わりに、大富静馬という剣客や、佐知という女を登場させているところからして、続巻を前提としているとも読め、連載途中からは続編を構想されていたのではないでしょうか。

 

時代劇、それも用心棒ものといえば、鈴木英治の『口入屋用心棒シリーズ』があります。当初は主人公の湯瀬直之進と倉田佐之助との闘いが主軸だったのですが、途中から物語の雰囲気が変わりました。
 

 
また金子成人の『付添い屋・六平太シリーズ』もあります。付添屋とはいうものの実質は用心棒です。
 

 
他にも色々とありますが、やはり本『用心棒日月抄シリーズ』の面白さにはかなわないようです。作品の優劣ではなく個人の好みに帰着しますが、藤沢周平という作家のうまさ、面白さとどう違うのか、色々と考えましたが分かりませんでした。