向う端にすわった男

ある夜「俺」のところに、結婚詐欺にまつわる依頼が舞い込んだ。詐欺を仕組んだのは、元一流商社マンの伊野田という男だという。さっそく「俺」は、札幌にメディア革命を起こそうと息巻くこの男の企画会社にもぐり込んだのだが…夢見る男の不気味な犯罪を描く中篇「調子のいい奴」ほか、バーにすわった謎の男をめぐる表題作など、5篇を収録。札幌ススキノを舞台にした新感覚ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

出版年順にいけば「ススキノ探偵シリーズ」の第四弾となる作品集ですが、短編集なので番外編的な位置づけになるのでしょう。全部で五編の中・短編を収めたハードボイルド作品集です。

 

「俺」が主人公の初めての短編集です。いろんな男が登場します。

標題になっている「向う端にすわった男」では、まずは文章がこれぞハードボイルドだという雰囲気をあたりに振りまいています。そんな男が実際に居る筈もないと思いつつ、それでも<ケラー・オオハタ>では静かな店の中にキースジャレットのピアノが流れており、男はひとり静かにマティニを飲んでいるのです。

これがまた実にかっこいい。ここだけ取り出せば、北方謙三の『ブラディ・ドール シリーズ 』だといっても通るかもしれない。 そうした設定のもとで「俺」はまた悪い癖でトラブルに巻き込まれていそうな男に声をかける・・・・・。

 

 

この短編とあわせて5編の物語はやはり面白い。

 

結局、このシリーズがもっとも私の感性に合うようで、続編を読めるのはいつだろうかと、今から心待ちにしているのです。

消えた少年

学校では問題児扱いだが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い意気投合した(俺)。ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいたはずの彼も行方不明となってしまった。変質者による誘拐か?暴力団がらみなのか?それとも、学校をも巻きこんだ障害者施設反対運動に関係があるのか?担任の教師、春子に翔一の捜索を依頼された(俺)は、彼の姿を探してススキノを疾走する!新感覚ハードボイルド長篇第三作。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の第三弾の長編のハードボイルド小説です。

 

この作家は若者への怒りの量が多いのか、今の若者を物語のどこかで、それも結構な重要なポイントで絡ませることが多い。そしてその若者は結構なアホなのです。

現実の若者がこの作者の言うような理不尽な行いをしているのかは私にはわからない。しかし、作家という人たちは少なくとも私よりは世間を、今の若者を知っているだろうから、物語そのままではないにしろ、近しいところがあるのでしょう。

 

物語は相変わらず面白いです。

バーにかかってきた電話

いつものバーで、いつものように酒を呑んでいた「俺」は、見知らぬ女から、電話で奇妙な依頼を受けた。伝言を届け相手の反応を観察してほしいという。疑問を感じながらも依頼を果したのだが、その帰り道、何者かによって殺されそうになった。そして、ひとり調査を続けた「俺」が知ったのは依頼人と同じ名前の女が、地上げ放火ですでに殺されていたことだった。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の第二弾の長編のハードボイルド小説です。

本書は、大泉洋主演で大ヒットした、映画版「探偵はバーにいる」の下敷きとなった作品です。

映画の方を先に見たのですが、本シリーズを読んでみると、大泉洋というキャラクターと本書の「俺」とのイメージの違いに驚いたものです、

しかし、映画は映画でかなり面白く、本書の雰囲気とはかなり異なるものの、映画としてかなりよく出来ていたのではないでしょうか。映画は2018年10月の時点で第三弾まで醸成されています。

 

前作と同様に若干の冗長さは感じるのだけれど、それはそれとして面白さは間違いない。

先に映画を見ていると本を読むときに困る。個人的には本が先で映画を見た方が楽しめる気がする。

探偵はバーにいる

札幌の歓楽街ススキノで便利屋をなりわいにする「俺」は、いつものようにバーの扉をあけたが…今夜待っていたのは大学の後輩。同棲している彼女が戻ってこないという。どうせ大したことあるまいと思いながら引き受けた相談事は、いつのまにか怪しげな殺人事件に発展して…ヤクザに脅されても見栄をはり、女に騙されても愛想は忘れない。真相を求め「俺」は街を走り回る。面白さがクセになる新感覚ハードボイルド登場。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵」シリーズの第一作です。

最初にこのシリーズの『探偵、暁に走る』を読んだのは良かったのか、悪かったのか。

 

後輩から恋人探しを頼まれた「俺」は気楽な気持ちで依頼を受ける。どうもその恋人は売春行為を行っていたらしい形跡はあるが、なかなかその姿を現さない。そのうちに子供と言って良いグループから襲われたり、不穏な空気が漂い始めるのだった。

 

どうしても常連組の顔合わせ的な感じが残りましたが、これはシリーズ第一作目でもありしかたのないところでしょう。

このシリーズで最初に読んだ作品の『探偵、暁に走る』では、台詞回しも軽妙で無駄を感じさせることはなかったのですが、本作ではその軽口が冗長に感じる場面が少なからずありました。これはやはり、作者の経験の差でしょうか。それとも読み手の問題なのでしょうか。

しかし、最初に本作品を読んでいたのだとしてもやはりこの作者を追いかけて続けて読んだでしょう。それほどに面白い小説です。

ススキノ探偵シリーズ

 

この作家のメインのシリーズと言っても良いのではないでしょうか。それほどに、主人公の設定がいい。決してタフではなく、スタイリッシュでもない。携帯電話は使わなかったり、シャワートイレで無ければ用を足せなかったり、妙なこだわりを持った男です。

主人公が能天気だけど愛すべき男であり、その主人公を取り巻く登場人物がまた魅力的です。空手の達人で後に主人公の腕力担当とも言えそうな高田、主人公の喧嘩相手であったやくざの組長桐原、その右腕の相田等々きりがありません。

主人公の饒舌さも魅力の一つでしょう。ロバート・B・パーカーのスペンサーのように軽口ばかり叩いています。そういえば、スペンサーにはホークというこわもての相棒がいますが、「俺」にも高田という空手の達人がいます。

主人公の名前は明かされていません。他のシリーズに出てくるときは「便利屋」と呼ばれています

 

蛇足ですが、名前を明かしていない探偵といえば、ビル・プロンジーニ「名無しの探偵」がおり、日本では三好徹の「天使」シリーズ(下掲イメージはKindle版)の主人公がいます。

 

 

また、本『ススキノ探偵シリーズ』は映画化されており、現時点(2018年10月)で「探偵はBARにいる3」まで三作品が作成されています。映画版もそれだけ人気があるということでしょう。

 

黒後家蜘蛛の会

“黒後家蜘蛛の会”の会員―弁護士、暗号専門家、作家、化学者、画家、数学者の六人、それに給仕一名は、月一回“ミラノ・レストラン”で晩餐会を開いていた。食後の話題には毎回不思議な謎が提出され、会員が素人探偵ぶりを発揮する。ところが最後に真相を言い当てるのは、常に給仕のヘンリーだった!SF界の巨匠が著した、安楽椅子探偵の歴史に燦然と輝く連作推理短編集。(「BOOK」データベースより)

 

アシモフが描き出す上質のミステリーを収めた文庫本で全五巻の短編小説集です。

 

化学者、数学者、弁護士などのその道の専門家が月に一度集まり食事をし、語りあう集まりがありました。その話の中に「謎」が含まれるのが常であり、その謎について皆で語るのですがなかなか結論が出ません。その時、給仕をしながら話を聞いていたヘンリーが謎を解決するのです。

 

確か私が三十歳になる前の頃にこのシリーズを読んだと思うのですが、その頃でさえ少々古臭い感じがしたものです。でもそれは登場人物の造形であったり、集まる店の雰囲気であったりと、謎解きそのものではありませんでした。

もともと謎解き自体にはあまり興味を持てない私ですが、この作品はそうした古さを感じながらも殆どの作品を読み終えたものです。

 

SF臭は全くありません。ただ、今の推理小説の謎解きとは少々趣が異なります。どこかのレビューで「パズル」と書いてありましたが、まさにパズルの感覚だと思います。

殺人事件が起きるわけでも、何か異常な出来事が起きるわけでもありません。日常の生活の中でのちょっとした謎、その謎がまた面白いのです。

そうしたパズル的作品がお好みの方には是非おすすめの一冊です。

鋼鉄都市

警視総監に呼びだされた刑事ベイリが知らされたのは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件だった。地球人の子孫でありながら今や支配者となった宇宙人に対する反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく鋼鉄都市へ、ベイリは乗り出すが……〈ロボット工学の三原則〉の盲点に挑んだSFミステリの金字塔!(Amazon内容紹介より)

 

SFの古典的名作の一冊で、ミステリとしても超一級の長編小説です。

 

はるか未来、ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリは、スペーサーと呼ばれる異星への移民の子孫の居住区域での捜査を命じられ、相棒としてR・ダニール・オリヴォーという人間型のロボット(ヒューマンフォームロボット)が指定された。

スペーサーの科学者が殺された事件なのだが、問題は、ロボット三原則によりロボットには人は殺せず、人を殺しうる人間はスペーサーの居住区域への回廊を通った者はいないというのだ。

ただ、回廊を通らずに野外から居住区域へ入る道はあるが、ドームという閉鎖空間に慣れた人間にとって屋外は恐怖の場所でしか無く、まず不可能と考えられていた。捜査の結果次第では地球の未来に多大な影響を与えるというのだが、ベイリとオリヴォーは問題を解決できるのか。

 

SFミステリの傑作と呼ばれている作品です。『われはロボット』同様に「ロボット三原則」により論理の縛りを加え、その隙間をついてミステリー仕立てとして構成しています。

背景こそSFですが、この作品もSFを苦手とする人にも読みやすい物語ではないでしょうか。

 

続編、といいますかベイリとオリヴォーが活躍する物語として『はだかの太陽』『夜明けのロボット』があり、『ロボットと帝国』によって『ファウンデーションシリーズ』に組み込まれ、ロボットものも全体としてアシモフの未来史の一環を為すことになっています。

 

 

 

数年前にハリウッドで映画化の話もあったように思うけど、大友克洋のAKIRAのように立ち消えになったようですね。

アイ,ロボット [DVD]

ありがちなことですが、原作とはかなり異なります。

しかし、この映画自体を原作から離れて独立した作品として見ると、そこそこ見れるCGを駆使したアクション映画として面白い映画だと思いました。

われはロボット 〔決定版〕

ロボットは人間に危害を加えてはならない。人間の命令に服従しなければならない…これらロボット工学三原則には、すべてのロボットがかならず従うはずだった。この三原則の第一条を改変した事件にロボット心理学者キャルヴィンが挑む「迷子のロボット」をはじめ、少女グローリアの最愛の友である子守り用ロボットのロビイ、ひとの心を読むロボットのハービイなど、ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史。(「BOOK」データベースより)

 

ロボットものの初期短編集で、ロボットSFの古典的名作と言われる作品です。

アシモフのロボットシリーズとしてまとめても良いかもしれません。それほどに「ファウンデーション」と「ロボット」の二つの作品群はアシモフの未来史の中で大きな存在です。

 

何と言ってもこの本でロボット工学三原則が示されていることが大きいです。このロボット三原則をもとにミステリ仕立てで物語が展開していきます。

いかにもこの原則に反しているかのような行動をとるロボットを、USロボット社のロボットである心理学者スーザン・キャルヴィンが回顧していきます。

 

SFが好きな人でなくても入りやすい作品だと思います。短編毎にロボットの進化もみられ、ミステリーであったり、ペーソス漂う作品であったりと、超一級の短編集です。

ロボットを主人公として書かれている作品群ではあるのですが、結局は人間について想いを馳せることになる、そんな物語になっています。

 

下記にロボットものと思われる作品をまとめてみました。このほかにも例えば「サリーはわが恋人」という短編などもロボットものと言えなくも無さそうで、覚えていない作品が多数あり、全部は拾えていないと思います。

  1. われはロボット(短編集)
  2. ロボットの時代(短編集)
  3. 聖者の行進(短編集)
  4. 鋼鉄都市
  1. はだかの太陽
  2. 夜明けのロボット
  3. ロボットと帝国
  4. コンプリート・ロボット(短編集)

 

上記の最後に掲げてある「コンプリート・ロボット」は「われはロボット」や「ロボットの時代」他の作品を含んだアシモフのロボットものの短編全31編をまとめた本です。でも古本しかないようで、あとは図書館でしょう。
 

ファウンデーション

まだ読んでいませんが、是非読んでみたいですね。

ウィキペディアによると、この2巻でファウンデーションシリーズの第一巻目を漫画化してあるそうです。今のところ(2015年3月)、この2巻しか出版されていません。