高木 彬光

小説家という人たちは司馬遼太郎松本清張と言った大御所を例に挙げるまでも無く、実に勉強家で、一つの作品を仕上げるために膨大な資料を読み、勉強をしていると聞きます。中でもこの高木彬光という作家は法律方面の知識は弁護士をもしのぐと言われており、その知識を生かした作品を多数発表されています。

経済問題にも強く、「白昼の死角」は手形犯罪の教科書とも言える本だし、正木弁護士が丸正事件に関連して名誉既存で訴えられた事件では、刑事訴訟法の知識を生かし特別弁護人として実際の法廷に立ったこともあるそうです。

文章は読み易いのですが、作者が真面目な人なのでしょう、個人的にはもう少し遊びがあってもいいのではないかと思った記憶があります。

さすがにどれも30年以上も前の作品なので舞台は少々古いかもしれませんが、その点さえ分かって読めば今でも十分に面白い作品だと思います。

何故かこの頃この作家の名前を見ない。松本清張横溝正史という名前はそこそこ聞くのだけれど、何故だろう。高木彬光という人には面白い作品がたくさんあるのに。

犯人に告ぐ [DVD]

雫井脩介のベストセラー小説を豊川悦司主演で映画化!心に傷を負った刑事と姿なき殺人犯の緊迫の心理戦を描く本格サスペンス。川崎で起きた連続児童殺人事件。〈BADMAN〉と名乗りテレビに脅迫状を送りつけた犯人は3件目の犯行後、表舞台から姿を消す。膠着した警察は捜査責任者をテレビに出演させる大胆な“劇場型捜査”を決断する。担ぎ出されたのは過去に犯人を取り逃がし失脚した男・巻島。彼は犯人を挑発するが…。(「Oricon」データベースより)

 

もともと豊川悦司という役者さんが好きだったのです。この人が出ているだけで、その映画の面白さは保証されている役者さんの一人だと思っています。

この映画も大当たりとまでいかなくても、はずれではありませんでした。

犯人に告ぐ

犯人=“バットマン”を名乗る手紙が、捜査本部に届き始めた。巻島史彦は捜査責任者としてニュース番組に定期的に出演し、犯人に「もっと話を聞かせて欲しい」と呼びかけ続ける。その殺人犯寄りの姿勢に、世間および警察内部からも非難の声が上がり、いつしか巻島は孤独な戦いを強いられていた―。犯人に“勝利宣言”するクライマックスは圧巻。「普段ミステリーや警察小説を読まない人をも虜にする」と絶賛された、世紀の快作。(「BOOK」データベースより)

 

ユニークな設定で話題になった、長編のミステリー小説です。

 

この作家を取り上げる以上まずは「犯人に告ぐ」を取り上げないわけにはいかないでしょう。それほどに面白い。

誘拐事件で一度ミスを犯し被害者の子供の命まで失ってしまうという大失態を犯している主人公が、再び誘拐事件にかりだされます。その捜査が実にユニークで、マスコミを通じて犯人に語りかけるというものでした。

この主人公が結構短気で場所をも考えずに切れてしまったり、実に人間的で、すぐに主人公に感情移入してしまいます。

主人公、主人公が属する警察という組織、警察が利用しようとするマスコミ、そして主人公の上司とニュースキャスターの女性等々の思惑が絡み合い、事件は終結へ進みます。

雫井 脩介

とにかく読んでいて文章のリズムが良いのでしょう。どの作品も一気に読ませてくれます。

物語自体の意外性はそれほどないけど、文章のリズムが良いので全体がテンポ良く読める、と思っていました。でも、改めて考えてみると、特に結末については予想していたのではなく、文章のリズムに乗って読んでいるので、あたかもその結末を自分が予想していたかのように思ってしまったようです。そのくらい、自然な流れで物語が進んでいるのでしょう。

犯人に告ぐ」のようなサスペンス色豊かな物語、「クローズド・ノート」のようなロマンチックな物語、「つばさものがたり」のような家族の物語と、この作家は作品ごとに異なる一面を見せてくれます。

駐在巡査

数年前に読んだのですが、その時のメモに「格別面白くも無い。しかし、面白く無いわけでもない。」と書いていました。「元警視庁警部補が描く初めての駐在ミステリー。」とあったので、仕方のないことではあったのでしょう。

四方を山に囲まれた人口六〇〇人あまりの絵に描いたような僻地の山谷村にある「駐在所」に猪熊喜三郎巡査が赴任した。その直後、殺人および死体遺棄事件が発生!平和な村は大騒ぎに。だが、捜査は依然、難航し解決の糸口は全く見られない。容疑者はもちろん、犯行の動機も、被害者の足取りさえも、いまだ不明のまま。そんな中、猪熊巡査が「原点」に戻って再捜査を開始すると事件は思わぬ展開に…。元警視庁警部補が描く初めての駐在ミステリー。(「BOOK」データベースより)

作者が本物の警察官だったというだけあって、警察内部のことに関しては実に詳しく語られます。また、主人公が駐在さんということで捜査活動に直接かかわるわけではありません。しかし地域のことに関してはだれよりも良く知っているのです。地域の情報となると更には駐在さんの奥さんの存在が大きくなります。本作品では特に奥さんが推理力を働かせているのでその存在は貴重です。

しかし、派手な事件がしょっちゅう起きる筈もなく、捜査員でもない以上はどうしても舞台は地味です。その地味さを警察官だったという実際の知識で補い、読者を引き付けなければなりません。

ということで、平凡な印象になったのでしょう。

雑感にも書いたように54歳という若さで亡くなられてます。これからの方だったでしょうに、私とあまり歳が変わらない方でもあり、残念です。

佐竹 一彦

この作家の本は一冊しか読んでいません。あまり面白いと感じなかったのでそれ以降は読んでいないのです。

ただ、「ショカツ 」という作品はテレビドラマ化されてもいます。下掲「駐在巡査」もドラマ化されているところをみるとストーリーの面白さは認められていたのでしょう。

ただ、今回ネットで調べたら2003年に急性心筋梗塞で54歳という若さで亡くなられてました。全く知りませんでした。 これからの作家だったのでしょうに、残念です。

地層捜査

新しいシリーズということで読んでみました。

どうもテレビで見たような感じがしてならないので、調べてみても放映された記録がありません。

谷の底から見上げ、主人公が独白するシーンや、その町の古い料理屋(?)の主人に話を聞くシーンなど視覚的に残っている感じがあるのです。他の作品の見間違いなのでしょうか。

公訴時効撤廃という刑事法関係では結構大きな改正があったので、それに合わせて書かれたのでしょう。

十五年前に四谷の荒木町で起きた未解決の殺人事件の洗い直しに、加納というすでに退職している元刑事と、まだ若い警部補の水戸部とで捜査し直すという、言ってみればただそれだけの物語です。道警シリーズとは異なり、実に地道です。

しかし、丹念に丹念に荒木町を歩きまわり、事実を積み上げていく、これだけの話に引き込まれてしまいました。少しずつ事実が明らかになっていくその過程の見せ方がうまいですね。

決してスピーディーでもないし、派手でもありません。しかしじっくり書き込まれた本がお好きな方などには特にお勧めです。面白いです。

なお、本書で描かれている「特命捜査対策室」とは、2009年の11月に警視庁捜査一課に設置された、過去の重要未解決事件(コールドケース)などを捜査するための特命捜査班を言います。

「特命捜査対策室」を舞台とした小説として今野敏の『スクープシリーズ』や、曽根圭介の『TATSUMAKI 特命捜査対策室7係』などがあります。

また、堂場瞬一の『警視庁追跡捜査係シリーズ』は架空の部署ですが、第一作の発表後に現実の「特命捜査対策室」が設けられたらしく、その趣旨を同じくしています。

笑う警官

笑う警官』とは

 

本書『笑う警官』は『北海道警察シリーズ』の第一弾で、2004年の12月に『うたう警官』というタイトルで刊行され、2007年5月の文庫化に際し『笑う警官』と改題された、文庫本で448頁の長編の警察小説です。

その後、2024年2月に角川春樹事務所から新装版として、456頁の文庫本が出版されました。

 

笑う警官』の簡単なあらすじ

 

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者には交際相手で同じ本部に所属する津久井巡査部長が浮かぶ。やがて津久井に対する射殺命令までが出た。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつておとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するため有志たちと極秘裏に捜査を始めるが…。警察小説の金字塔、大ベストセラー「道警シリーズ」第1弾、新装版!(「BOOK」データベースより)

 

道警本部の婦人警官が被害者の殺人事件が発生し、津久井巡査部長が犯人と断定され、津久井に対する射殺命令まで出た。

その津久井とかつて仕事で組んだことのある佐伯は津久井の無実を信じ、佐伯を中心として津久井の無実を晴らそうと仲間が結集する。

折しも津久井は道警の不祥事について百条委員会に証人として出席する予定だったらしく、隠された事実を感じる佐伯達だった。

 

笑う警官』の感想

 

本書『笑う警官』は、そのタイトルに惹かれ読んでみた作品です。

読んでみたら思いのほかに面白く、結構展開も速めで、テンポ良く読めました。

 

本書『笑う警官』は出版時は『うたう警官』というタイトルだったのですが、大森南朋主演で、漫才コンビ雨上がり決死隊の宮迫博之も出演して角川映画で映画化もされた折り、文庫化に伴い『笑う警官』と改題されたものです。

ただ、この映画は角川春樹氏がジャズのしゃれた雰囲気を狙って監督したようですが、本書のイメージとは異なりあまり好みではありませんでした。まわりの評判もよろしくなかったようです。

 

 

『笑う警官』といえば、若い頃読んだマルティン・ベックシリーズの「笑う警官」を思い出します。

この本はスウェーデンの警察小説なのですが、当時はまっていたエド・マクベインの『87文書シリーズ』に触発されて読んだシリーズでした。ウォルター・マッソー主演で映画化もされ、かなり面白い映画だった記憶があります。

 


 

今回佐々木譲の本書『笑う警官』について調べたところ、「マルティン・ベックのような警察小説」と言われて書き始めたとあり、同じタイトルなのだからそれも当たり前かと、納得したものです。

でも、内容は全く違います。即ち、証人として道議会の百条委員会に出席する筈だった津久井を抹殺しようとする道警組織との対決、という構図です。

この不祥事というのが本書内では「郡司事件」呼ばれている事件で、北海道警裏金事件や稲葉事件などの現実に起きた北海道警察の不祥事をもとにしているのです。( ウィキペディア : 参照 )

単に現実に起きた事件を下敷きにした警察小説だと言うにとどまらず、佐々木譲作品の根底にあると思われる主人公の人間性を深く追いかけたハードボイルドタッチの文章も相まって、重厚な作品として仕上がっています。

この物語を第一作としてシリーズ化され、ベストセラーシリーズとなるのですが、それほどに面白い小説だということでしょう。

佐々木 譲

1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『ユニット』『天下城』『笑う警官』『駿女』『制服捜査』『警官の血』『暴雪圏』『警官の条件』『地層捜査』『回廊封鎖』『代官山コールドケース』『憂いなき街』『犬の掟』などがある。
佐々木譲 | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )


最初にこの作家の作品を読んだのは「道警」シリーズの「うたう警官」でした。この作品は現実の北海道警裏金事件にヒントを得た作品です。主演が大森南朋、更に漫才コンビ雨上がり決死隊の宮迫博之も出演して角川映画で映画化もされ、その際に文庫化に伴い『笑う警官』と改題されました。

その後「警官の血」を読もうと思ったのですが、その前に江口洋介主演のドラマを先に見てしまい、結局本は未読です。映画は好きでもテレビドラマは殆ど見ない私ですが、日本冒険小説協会大賞受賞作品のドラマ化ということでついつい見てしまいました。ドラマは結構おもしろかったのですが、ドラマでイメージが固定されてしまい、本を読む気になれなかったのです。

図書館でこの作家の個所を見ると「鉄騎兵、跳んだ」という、妙に気になるタイトルの本があります。未読ですが、モトクロスをテーマにしている本らしいので、そのうちに読んでみたい本ですね。他に「武揚伝」なども目につきます。

どうも色々なジャンルの本を書かれている作家さんらしいのですが、私は警察ものしか読んでいません。

少なくとも私が読んだ警察小説を見る限り、スケールの大きな人間ドラマを書かれている方で、結構私には波長があう作家さんだと思っています。