ジェノサイド

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!(上巻 : 「BOOK」データベースより)

研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。一方、戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けていたのは、人間という生き物が作り出した、この世の地獄だった。人類の命運を賭けた二人の戦いは、度重なる絶対絶命の危機を乗り越えて、いよいよクライマックスへ―日本推理作家協会賞、山田風太郎賞、そして各種ランキングの首位に輝いた、現代エンタテインメント小説の最高峰。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

スケールの大きな長編のエンターテイメント小説です。

 

四人の傭兵はコンゴの紛争地帯にいる、あるピグミー一族と一人のアメリカ人の抹殺を命じられます。一方、古賀研人は急死した父親からのメールに従いある難病の治療薬の開発に着手するのでした。ここに人類の存亡をかけた戦いが始まります。

 

思っていた内容とは異なる作品でした。

ジェノサイドという題名からして、映画プレデターのようなアクションものを予想していたのですが、いい意味で裏切られました。他の作品と比してもまた全く異なるテイストで驚きます。

 

学術的なこともよく調べてあるし、構成も緻密に考えられてもいるのでしょうが、もう少しエンターテインメントとして徹してくれていれば、更に面白く読めたのではないかと思われる作品です。

というのも、著者の歴史観の取り扱い方が軽すぎるのです。歴史観が色濃く出ること自体は作品として問題はないのでしょうが、各場面で少々唐突にすぎますし、表現も単純で浅薄に感じられてならないのです。せっかくの物語が色褪せてしまいました。

 

もう一点加えれば、重要な役割を果たす友人の存在にしても少々説明不足でご都合主義的に感じられてもったいないです。残念でした。

でも、さすがベストセラーになっている本です。その面白さは否定できません。

13階段 [DVD]

高野和明原作の傑作ミステリーを小説を、山崎努、反町隆史を主演に迎えて映像化。刑務所の看守長・南泣Xcw、無実を訴える死刑囚の再審請求のための新たな証拠を探すよう依頼される。南郷は、傷害致死事件の元服役囚・三上を助手にし、捜査を開始する。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

未見です。

13階段

無実の死刑囚を救い出すために与えられた期限は三ヶ月、報酬は一千万円だった。不可能とも思える仕事を引き受けた二人の男に待ち受けていた運命とは―手に汗握る展開と、胸を打つ驚愕の結末。現代社会の罪と罰を問い、圧倒的なサスペンスで読書界を震撼させた江戸川乱歩賞受賞作。『十年ぶりの後書き』収録。(「BOOK」データベースより)

 

過失殺人で服役した少年と刑務官が、冤罪の恐れのある死刑囚の無実を証明しようと走り回る長編のサスペンス小説です。

 

重い本です。途中までもう読むのを止めようかと何度か思いました。

この本の中に出てくるように、刑罰そのものについての2つの大きな考え方として教育刑主義と応報刑主義の対立があります。

結論は簡単に出るものではありませんが、現代の通説と言われる応報刑主義に何となく、そういうものかもしれないという感じを持ったことがあります。

本書では、中ほどで回想シーンの多用などで死刑制度そのものの問題点などを読者に真正面から提起します。本筋の物語は全然進まずに、これでもかと死刑制度について問いかけてくるのです。これが少々重かった。

横山秀夫の「半落ち」という作品も問いかけるテーマは重く、決して明るい本ではありませんでしたが、それなりに物語として感情移入して読めました。

しかし、本書はその重さゆえか物語世界に入っていけないのです。体調次第では読むのを止めてしまったかもしれません。

 

 

それでも終盤になると話は急展開を見せ、物語世界に引き込まれました。今は最後まで読んでそれなりに良かったとは思っています。やはり選考委員の満場一致で第四十七回江戸川乱歩賞を受賞した作品だなと思っているのです。

まあ、お勧めではあるのですが、それなりの覚悟がいるかもしれません。

ふるさと銀河線 軌道春秋

ふるさと銀河線 軌道春秋』とは

 

本書『ふるさと銀河線 軌道春秋』は『軌道春秋シリーズ』の第一弾で、2013年11月に288頁で文庫本書き下ろしで出版された、現代の九編の物語からなる短編小説集です。

 

ふるさと銀河線 軌道春秋』の簡単なあらすじ

 

両親を喪って兄とふたり、道東の小さな町で暮らす少女。演劇の才能を認められ、周囲の期待を集めるが、彼女の心はふるさとへの愛と、夢への思いの間で揺れ動いていた(表題作)。苦難のなかで真の生き方を追い求める人びとの姿を、美しい列車の風景を織りこみながら描いた珠玉の短編集。(「BOOK」データベースより)

 

ふるさと銀河線 軌道春秋』の感想

 

本書『ふるさと銀河線 軌道春秋』は、著者の高田郁が川富士立夏(かわふじ りっか)というペンネームで原作を書き、深沢かすみという人が画を書いて集英社の「YOU」というコミック誌に連載された漫画だったのだそうです。それを小説化したものだと「あとがき」に書いてありました。

 

 

まず悪い印象を挙げると、若干の感傷が垣間見える作品集でした。

特に冒頭の「お弁当ふたつ」という作品には、ラストシーンの二人の先に「感動」を置いているような、ほんの少しのあざとさを感じてしまいました。

しかし、そこは高田郁という作家さんの上手さなのでしょうか。次の作品からは’感傷’の香りも後退していき、有川浩の「阪急電車」を思い出す「車窓家族」や、その次の「ムシヤシナイ」あたりからはそうした思いも忘れていました。

 

 

再度個人的な不満点を言いますと、今の私には少々重過ぎると思わざるを得ない作品もありました。

「晩夏光」で語られる「老い」や、「幸福が遠すぎたら」での「病」という言葉は、若いうちならばいざ知らず、その言葉を自らが抱えるようになると、高田郁の文章が上手いだけに心の奥深くに入り込み、そして普段は隠している自分の不安な思いを引っ張り出してしまうのです。

そうなると、感傷などとは言っておられません。途端に現実が突き付けられるのです。

でも、これはあくまで読み手の問題です。殆どの作品は作者も言っているようにほのかな希望を持っています。決して暗い物語ではありません。

 

蛇足ながら、「幸福が遠すぎたら」の最後に記されている寺山修司の詩が懐かしいです。

 この盃を受けてくれ
 どうぞなみなみつがしておくれ
 花に嵐のたとえもあるさ
 さよならだけが人生だ

 

という井伏鱒二の名訳を受けて書かれたと言われる詩です。この詩を受けて寺山修二は「さよならだけが人生ならば 人生なんかいりません」と詠ったのです。

ちなみに、上の詩は、別れが待つ人生だから今この時を大事に、との意味だそうです。

あい – 永遠に在り

あい – 永遠に在り』とは

 

本書『あい – 永遠に在り』は2013年1月に刊行され、2015年2月に429頁の文庫として出版された長編の歴史小説です。

北海道開拓に身をささげた関寛斎の妻あいの姿を描く、感動の長編時代小説です。

 

あい – 永遠に在り』の簡単なあらすじ

 

上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。男の名は、関寛斎。苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。(「BOOK」データベースより)

 

あい – 永遠に在り』の感想

 

本書『あい – 永遠に在り』の主人公あいは、73歳にして北海道開拓に身を捧げた関寛斎という医師の妻で、自らも夫と共に68歳のときに北海道へ渡ったそうです。

あいに関しては記録が殆ど無く、「手織りの木綿の布地が少し、着物一枚、帯締め、家族写真数葉。現存するものはそれだけです。あとは「婆はわしより偉かった。」等の寛斎の言葉がのこるのみ。その言葉に着目して、あいの物語を構築しました。」と、あとがきにありました。

資料が少ないとはいえ、実在の人物を描くのです。作家はその実像とのギャップをどう折り合いをつけるのか、疑問に思っていました。

しかし、作者の高田郁はあいの実際の遺言を読んで胸を打たれたそうで、その遺言も本書の中に紹介してあります。夫への愛情にあふれたその遺言からは、本書で描かれたあいは実像そのものと思えました。

 

みをつくし料理帖シリーズ』等の作品より一歩踏み込んだ感じのする、これまでの高田郁作品とは異なった作品です。「逢」「藍」「哀」「愛」という4つの章建ても見事なこの本は、あいと、真っ直ぐにしか生きられず何事にも不器用な寛斎との愛に満ちた物語でした。

 

蛇足ですが、関寛斎の後援者として描いてある濱口梧陵のことは、安政南海地震津波の時の、ある庄屋の人助けの話である「稲むらの火」という小泉八雲の作品の翻訳・再話の中でも語られています。この濱口梧陵という人がまた素晴らしい人だったらしく、一編の物語が出来そうです。

 

出世花

出世花』とは

 

本書『出世花』は2008年6月に祥伝社文庫から刊行され、2011年5月にハルキ文庫から328頁で出版された、短編時代小説集です。

本書が高田郁の小説家デビュー作というのですから驚きです。とても新人とは思えない筆の運びで、しっとりとした物語は私の好みの作風でした。

 

出世花』の簡単なあらすじ

 

不義密通の大罪を犯し、男と出奔した妻を討つため、矢萩源九郎は幼いお艶を連れて旅に出た。六年後、飢え凌ぎに毒草を食べてしまい、江戸近郊の下落合の青泉寺で行き倒れたふたり。源次郎は落命するも、一命をとりとめたお艶は、青泉寺の住職から「縁」という名をもらい、新たな人生を歩むことに―――。青泉寺は死者の弔いを専門にする「墓寺」であった。直擊に死者を弔う人びとの姿に心打たれたお縁は、自らも湯灌場を手伝うようになる。悲境な運命を背負いながらも、真っすぐに自らの道を進む「縁」の成長を描いた、著者渾身のデビュー作、新版にて刊行!!(Amazon「内容紹介」より)

 

出世花』の感想

 

本書『出世花』は作者高田郁の小説家としてのデビュー作です。

妻敵討ちを願う父と共に各地を放浪した末に、二人は毒草を食べて行き倒れてしまいます。

青泉寺の僧侶の手で看病を受けるも艶だけが生き延び、新たに縁という名を貰った艶は、湯灌の手伝いをするのでした。

 

主人公の仕事が現代で言う「おくりびと」という設定がまず驚きました。

「湯灌場」を持つというお寺で育てられた主人公は、死者を風呂に入れ、死に化粧まで施す「湯灌」という作業を通じて他者とかかわり、成長していきます。

設定が設定なので「死」から正面と向き合うのですが、決して暗くも、重くもなく、他の作品とそれほど異ならない筆致で物語は進みます。

デビュー作ということですが、とても新人とは思えませんでした。

銀二貫

大坂天満の寒天問屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で焼失した天満宮再建のための大金だった。引きとられ松吉と改めた少年は、商人の厳しい躾と生活に耐えていく。料理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、またもや大火が町を襲い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す…。(「BOOK」データベースより)

みをつくし料理帖シリーズ」と同じく食べ物を主題にした物語ですが、こちらは珍しく大坂(当時は’大阪’ではない)を舞台にし、料理人ではなく、寒天問屋の小僧が主人公です。

でも、他の作品と同様に主人公のひたむきさ、それを見守る周りの人たちの温かさが心地よく感じられます。