実際の事件を元にした高木彬光の小説を村川透監督が映画化。戦後の混乱期に、法の死角を突き完全犯罪を目論んだ男たちを描く。東大法学部の学生が設立した金融会社“太陽クラブ”は急成長を遂げたが、メンバーのひとりである隅田が焼身自殺を図り…。(「キネマ旬報社」データベースより)
かなり前に見たので内容は殆ど覚えてはいないのです。
しかしながら、夏木勲は鶴岡七郎のイメージではないなどと思っていたものの、さすがは役者さんで、迫力のあるかっこいい鶴岡七郎になりきっていたことは覚えています。
松田優作の『蘇える金狼』や『野獣死すべし』でも有名な村川透が監督だったことも覚えてはいませんでした。ただ、原作の印象とは若干違うワルとしての鶴岡七郎の印象が全面に出ていると思った印象があります。
今回調べるまで忘れていたのですが、主題歌がダウンタウン・ヴギウギ・バンドの「欲望の街」だということをまで全く忘れていた、ということが一番の驚きと言っていいかもしれません。
ダウンタウン・ヴギウギ・バンドの「欲望の街」
白昼の死角
明晰な頭脳にものをいわせ、巧みに法の網の目をくぐる。ありとあらゆる手口で完全犯罪を繰り返す“天才的知能犯”鶴岡七郎。最後まで警察の追及をかわしきった“神の如き”犯罪者の視点から、その悪行の数々を冷徹に描く。日本の推理文壇において、ひと際、異彩を放つ悪党小説。主人公のモデルとなった人物を語った秘話を収録。(「BOOK」データベースより)
本書は1948年に実際に起きた東大生らによる「光クラブ」闇金融事件をモデルにした小説です。
鶴岡七郎は友人隅田光一と共に学生金融会社「太陽クラブ」を興しますが、じきにその会社も立ち行かなくなり隅田は自殺してしまいます。しかし、事実上の黒幕だった鶴岡はここからその本領を発揮し、自分の頭脳のみで勝負をし、天才詐欺師として名を馳せます。
経済事犯として血を流すこと無く大金を手にするその方法は、小説とはいえ見事です。特に、「光クラブ」消滅後、鶴岡七郎が実質的に活躍を始める後半以降は、高木彬光の創作したフィクションであり、そこで語られる手形の知識は少々法律をかじった程度の人では追いつかない域だといいます。ピカレスクロマンの頂点の一冊でしょう。
施行されている法律も変わった現在では通用しない話ではありますが、そんなことは関係ありません。物語として面白いのですから。
なお、同じく「光クラブ」をモデルにした小説として三島由紀夫の「青の時代」があります。この作品は三島由紀夫本人が、資料を十分に発酵させることもなく、ただ「集めるそばから小説に使つた軽率さは、・・・残念なことである」と三島由紀夫作品集のあとがきに書いているように、決して満足のいくものではなかったようですが、「今なほ作者は不可思議な愛着の念を禁ずることができない」とも述べています。(ウィキペディア 青の時代 (小説) : 参照)
また、本作品は夏木勲が鶴岡七郎を演じていました。監督が村川透だということもあってか、かなり迫力のある映像で、原作のイメージとは少々違うと思った印象があります。なによりも、主題歌がダウンタウン・ヴギウギ・バンドの「欲望の街」だということを、この文章を書くために調べるまで全く忘れていたことに驚きです。
ダウンタウン・ヴギウギ・バンドの「欲望の街」
陽炎時雨 幻の剣 – 死神の影
団子屋の看板娘・おひのがかどわかされた。夫である桶屋の波津彦とともに姿を消してから十日。七緒は二人の探索を引き受ける。一方、北町奉行所同心・和倉信兵衛は、両目がくり抜かれた死体と対峙していた。かつての繁盛が嘘のように閑古鳥の鳴く団子屋。おひのの明るい呼び声は戻ってくるのか。文庫書き下ろし。シリーズ第二弾!(「BOOK」データベースより)
陽炎時雨 幻の剣シリーズの第二巻です。
主人公秋重七緒は、団子屋の「常葉屋」が、以前よりも活気が無くお客も減って、団子自体の味も落ちているように感じられた。店の者に聞くと、おひのという娘と夫の波津彦とが行方不明になっているという。
そこで七緒は行方不明の娘夫婦の探索を請け負うのだった。
本シリーズの第一作目の『歯のない男』では、その謎や筋立てに不自然さがあり、続刊では変わっていると期待していたのですが、残念ながら今ひとつでした。
例えば秋重七緒の探索の端緒が、その店の雰囲気が変わっていたことだけというのは少々安易に感じます。見知らぬ夫婦の探索のきっかけとしては単純過ぎるでしょう。
せっかく新しいシリーズとしてそれなりのキャラクターを設定してあるのに、ストーリーをもう少し練り上げてくれればと思わずに入れないのです。
この点は、この作家の『若殿八方破れシリーズ』と同様に、細かな設定は無視して単純に話を楽しむべき作品なのかもしれません。
それにしても、本シリーズは捕物帳的な物語であり、謎解きが主軸になっている物語ですから、やはり状況設定はもう少し緻密に練って欲しいと思うのです。
鈴木英治という作家の描きだす物語の面白さはまだまだこんなものではないと思うのですが、残念です。
ただ、本書が刊行されたのが2014年の4月ですから、もう4年以上も続編が書かれていません。それだけ人気を得ることがでいなかったということなのでしょう。
陽炎時雨 幻の剣 – 歯のない男
剣術道場の一人娘・七緒は、嫁入り前のお年頃。耄碌のはじまった祖父の秋重治左衛門のもと、師範代として稽古をつける日々。町のやくざ者を懲らしめる、剣の腕と好奇心の持ち主でもある。ある日、道場の門前に男が行き倒れていた。ただの空腹だったというその男は、七緒や門人たちの前で、からくり人形を操り出すのだが…。
新しく始まった陽炎時雨 幻の剣シリーズの第一巻です。
登場人物は秋重治左衛門とその孫娘の七緒、北町奉行所同心の和倉信兵衛その手下の善造、加えてやくざまがいの岡っ引きの達吉達、とまあありそうな面子が並んでいます。
秋重治左衛門は剣術道場の師範であり、七緒は師範代という腕前です。
七緒には兄蔵之進がいたのですが、惨殺されており、和倉信兵衛はその探索をも行っています。兄は何故殺されたのか、がシリーズを貫く謎になるのでしょう。
和倉信兵衛は、全ての歯を抜かれた死体を検分していた。続けてまた全ての歯を抜かれた人殺しが起こり和倉信兵衛は更なる探索を続ける。
一方、七緒の道場の前で生き倒れていた男を介抱した七緒はその男の身元を探ることになる。
本書も鈴木英治作品らしく、読み易く、キャラも立って面白そうです。
しかし、本書の謎は頂けません。かなり無理があり、とても話について行けませんでした。
また結末も安易としか思えず、この作家らしくない纏め方という印象しかありませんでした。
でも、鈴木英治という作家が書いているのですから、次の巻からはまた面白い物語が展開することを期待します。
陽炎時雨 幻の剣シリーズ
新シリーズは良いのだけれど、どうも内容が今一つのような感じです。
まだ二冊しか出ていないのではっきりしたことは言えませんが、すこし前の鈴木英治氏の作風はどこかに行っちゃったのでしょうか。
でも、『大江戸やっちゃ場伝シリーズ 』などはまだ十分に面白そうだし、『口入屋用心棒シリーズ 』シリーズも従来の面白さをそれなりに持っているので、全部が私の好みから外れて行っているわけでもなさそうです。
このシリーズはもう四年以上も続編が書かれてはいません。評判が良ければ続編が書かれるでしょうから、やはりそうでもなかったのでしょう。
そう言えば、『大江戸やっちゃ場伝シリーズ 』も六年以上書かれていませんので、同様にもう続編は出ないのかもしれません。
徒目付 久岡勘兵衛シリーズ
徒目付 久岡勘兵衛シリーズ(完結)
- 闇の剣
- 魔性の剣
- 怨鬼の剣
- 怨鬼の剣
- 稲妻の剣
- 凶眼
- 定廻り殺し
- 錯乱
- 遺痕
- 天狗面
- 相打ち
- 女剣士
- からくり五千両
- 罪人の刃
- 徒目付失踪
「面白い小説」の条件のひとつに主人公のキャラクター造形があると書いたことがありますが、この徒目付久岡勘兵衛シリーズ人はそのことが特に当てはまります。
主人公はでかい頭の持ち主で、そのことを皆にからかわれますが自覚もしているようです。
また、勿論剣の達人です。更に、与力や同心といったよく聞く役職ではなく、徒目付( 江戸幕府の場合は交代で江戸城内の宿直を行った他、大名の江戸城登城の際の監察、幕府役人や江戸市中における内偵などの隠密活動にも従事した。 : ウィキペディア 参照)という職にあるのも珍しい設定です。
勘兵衛が、よくありがちなスーパーマンというだけではなく人間までよく描かれていて面白いと、読んだ当時のメモに書いてありました。
鈴木英治の小説らしく登場人物の掛け合いがおかしく、シリーズの途中まではテンポ良く話が進み、それなりに面白く読んでいました。
ただ、物語自体の展開に新鮮味もなくなり、中だるみを感じていたら、最終話も決して出来が良いとはいえないままに終わってしまったのは残念でした。
手習重兵衛シリーズ
手習重兵衛シリーズ(完結)
- 闇討ち斬
- 梵鐘
- 暁闇
- 刃舞
- 道中霧
- 天狗変
- 母恋い
- 夕映え橋
- 隠し子の宿
- 道連れの文
- 黒い薬売り
- 祝い酒
鈴木英治という作家の作品を読み始めたのはこのシリーズからでした。
とある藩の政争に巻き込まれて藩を抜け、ひょんなことから白金村の手習師匠となっている興津重兵衛を主人公とする痛快時代小説です。
何故このような事態に陥っているのか、が大きな謎として物語は展開されていきます。
この手習重兵衛シリーズが鈴木英治の最初のシリーズ作品です。
『父子十手捕物日記シリーズ』でも書いた、同心とその中間との掛け合いの面白さは本シリーズですでに十分に展開されていて、その手ごたえから他のシリーズでも掛け合いの場面を多用したのではないかと思えるほどです。
途中第六巻「天狗変」で一応の完結を見ましたが、少ししてから再開し、全十二巻で完結しました。
最初は変わった作風としか感じていなかったのだけれど、どんどん鈴木英治という作家の面白さにはまりました。
大江戸やっちゃ場伝シリーズ
大江戸やっちゃ場伝シリーズ(2018年10月14日現在)
- 大地
- 胸突き坂
主人公が武士ではなく一小作人という設定はこの作者では初めてではないでしょうか。
この小作人が一念発起し、江戸のやっちゃ場(青物市場)を目指すことになるのでしょう。まだ、二巻しか出ていないので今後の展開は不明ですが、タイトルがそうなので・・・。
他のシリーズと異なり、あの独特の登場人物の内心を示す独白文は影を潜めていますが、テンポの良さはそのままです。
金も力も無い一青年がのし上がっていく物語といえば、獅子文六の小説「大番」があります。「大番」では主人公が相場の世界でのし上がっていく立身出世の物語でした。本シリーズがどのような展開になるのか分かりませんが、その「大番」をも超える物語になってもらいたいものです。そうした期待を込めてお勧めです。
若殿八方破れシリーズ
若殿八方破れシリーズ(完結)
- 若殿八方破れ
- 木曽の神隠し
- 姫路の恨み木綿
- 安芸の夫婦貝
- 久留米の恋絣
- 萩の逃れ路
- 岡山の闇烏
- 彦根の悪業薬
- 駿府の裏芝居
- 江戸の角隠し
鈴木英治作品は軽く読めて読み易いのだけれど、このシリーズはその最たるものではないでしょうか。ちょっと行きすぎの感が無きにしも非ずです。
信州真田家跡取りである主人公は自分に尽くしてくれていた家来が殺されたため、本来許されない筈の仇打ちに出ます。
「傑作廻国活劇」と宣伝文句にあるように全国を巡るのですが、当時は勝手に江戸外へとでることはできないにも拘らず、廻国の途中の主人公は実に人望が厚く、鷹揚なその性格で人々を魅了し、各地でその身分を明かしてしまいます。
いくらなんでもそれはないだろう、と思いつつも、そういう小説だからと読み続けてしまいます。
まあ、そんなことは痛快活劇小説として無視できる設定ではあるのですが、ちょっと軽すぎるきらいはあります。そうした点を許せる人なら面白く読めるのではないでしょうか。
私はファンタジーでさえその物語なりの世界観が出来上がっていないと違和感を感じてしまい、読まないのですが、本シリーズの場合そこまではなく、結構面白く読んでいます。
父子十手捕物日記シリーズ
父子十手捕物日記シリーズ(完結)
- 父子十手捕物日記
- 春風そよぐ
- 一輪の花
- 蒼い月
- 鳥かご
- お陀仏坂
- 夜鳴き蝉
- 結ぶ縁
- 地獄の釜
- なびく髪
- 情けの背中
- 町方燃ゆ
- さまよう人
- 門出の陽射し
- 浪人半九郎
- 息吹く魂
- ふたり道
- 夫婦笑み
本シリーズは、名同心といわれた御牧丈右衛門の跡を継いだ息子の文之介が、父親丈右衛門や文之介の幼馴染みの中間勇七の力を借りながらも江戸の町でまき起こる様々な事件を解決していく姿を描く、痛快人情時代小説です。
鈴木英治の特徴である登場人物の内心の声をそのまま描く独白形式の文体が心地よく、軽快に読み進むことができる作品となっています。
また、登場人物のかわす日常会話も物語の適度な息抜きとなっており、鈴木作品の独特な個性となっている点も他の作品と同様です。
そのことは幼馴染みでもある中間勇七との掛け合いにもおらわれており、小気味よく響きます。この中間との掛け合いの設定は鈴木栄治作品のあちこちで使われていますが、その似た設定がそれなりに物語の潤滑油になっていると思います。
勿論文之介自身も同心としてもそれなりに優秀で、剣の腕も立ち、事件を解決していくのです。
他に文之介の幼馴染みのお春という大店の味噌問屋の娘や、御牧丈右衛門の上司で盟友でもある与力の桑木又兵衛などが文之介の後押しをしています。
本シリーズは完結しており、一気に読みたい人向きです。