隆 慶一郎

この隆慶一郎という作者のことは、最初、その物語の面白さにはまった原哲夫のコミック「花の慶次」が隆慶一郎の「一夢庵風流記」という小説を原作としていることで知りました。もう既に鬼籍に入られている方であること、この小説が直木賞の候補にまでなったこと、この作者が多方面で評価されていることもその後知りました。

この原作がまた漫画に負けず面白いのです。そのエンターテインメント性は素晴らしく、当然のことながら他の作品をも読もうという気にさせられました。

この作者も脚本家であったようです。脚本家出身の作家は読者を楽しませることに長けているのでしょう。和田竜にしてもそうですが、脚本家出身の作家の文章はエンターテインメント性が強いように感じられます。

私が三冊しか読んでいないので紹介もその三冊しかできませんが、他の本も間違いなく面白いと思います。隆慶一郎という人は小説家としての活動期間は五年と短いですが、発表された本はどれも面白い(筈)です。少なくとも既読の三冊は面白い物語でした。

そういう作家ですので、面白さは言うまでも無く、お勧めです。

竜馬がゆく

勿論、坂本竜馬という魅力的な人物像が中心にあってのことではありますが、幕末の青春群像をこれほどまでに濃密な空気感の中で描写した作品を他には知りません。

坂本竜馬といえばこの作品が作り上げた竜馬像であることは周知の事実ではありますが、それにしても見事な造形だと思います。

物語の途中に歴史的な事実を物語の背景紹介として語りかけ、読者をより深く舞台となる時代に引きずり込み、感情移入しやすくしているようです。

勝海舟、西郷隆盛、大久保利通、桂小五郎、高杉晋作等々歴史で学んできた人物達がこの作者の筆の力で血肉を得て活躍するのです。一度すれば虜になること間違いありません。

ちなみに、この作品もNHKの大河ドラマで福山雅治の竜馬で放映されましたが、それ以前に1968年にもNHKの大河ドラマで北大路欣也の竜馬で既にドラマ化されていました。

蛇足ですが私はこの時の岡田以蔵役を萩原健一が演じていたと思っていました。しかし、それは間違いで、同じ大河ドラマでも1974年の「勝海舟」の中での以蔵が萩原健一だったようです。この時の萩原健一は素晴らしかった。

禁中御庭者綺譚 乱世疾走

群雄割拠の戦国時代、ついに上洛を果たした信長。天下布武を掲げた彼の者の心中は、我欲への依怙か天下静謐か―。信長の行状と真意を探るべく、剣聖上泉伊勢守の下に集められた五人のはみ出し者たちは、互いに牽制と信頼を繰り返しながらその異能を開花させていく。乱世を生きた若者たちの青春活劇開幕。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

新陰流の使い手、豪商の長男坊、陰陽師家の香道師、役の行者の末裔、男装の女剣士。朝廷の命運までも左右する信長とは、果たして何者なのか?その答えを探し続ける五人は、疋壇城近くで於市御寮人が実兄・信長へあてた密状を入手する。海道作品ならではの、典雅な世界観と豪快な剣戟場面に胸が躍る。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

戦国時代を背景に、天皇の耳目となり活躍する五人の若者の姿を描く長編時代小説です。

 

下流公家ではあるが天皇の信任の厚い立入左京亮宗継は山科言継と共に天皇の耳目となるべき禁中御庭番を作ろうと思い立つ。

そこで上泉伊勢守信綱、宝蔵院胤榮、柳生宗巌との知恵を借りて五人の若者を選びだした。新陰流の丸目蔵人、宝蔵院の大角坊、堺の商人の息子楠葉西門、陰陽師の香阿弥こと土御門有之、そして柳生宗巌の妹の凛の五人である。

五人は織田信長の動向を探るべく、山科言継の同行者としてまずは岐阜へと旅立った。

 

選ばれた五人が活躍する活劇ものだと思っていました。

確かにそうではあるのですが、歴史的事実の方が主人公だと感じました。つまり、歴史的事実があって、その狭間に本書の五人の行動が当て嵌められている印象なのです。

勿論、この五人の役目が天皇の目となり、耳となることであって、何事かを為すことではないのでそれも当然ではあるのでしょう。

 

しかし、個人的には「驚天動地の大活劇がいま始まる。」という謳い文句なのですから、冒険活劇小説を期待していたので残念でした。

この五人が何事かを為すことにより歴史的事実が変わるわけも無いので当り前ではあるのですが、そこはもう少し期待していたのです。歴史が好きで詳しい人ならばかなりはまる小説かもしれません。

 

この作品の後に『真剣 新陰流を創った漢、上泉伊勢守信綱』を読んだのですが、『真剣 新陰流を創った漢、上泉伊勢守信綱』はあまり資料がないからかもしれませんが、非常に面白く、この作家の力量に脱帽でした。

 

真剣

戦乱の世、上州の小領主の次男として生まれながら、武人としてより兵法者としての道を選び、「剣聖」となった漢がいた―。剣の修行に明け暮れていた少年は、過酷な立切仕合を経て出会った老齢の師から「己の陰を斬る」ための陰流を皆伝される。だが己自身の奥義はまだ見つからない。大型歴史巨編開幕。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

剛の神道流と柔の陰流を融合させ「新陰流」を編み出した秀綱。だが度重なる戦の中で兵法者として円熟を増しながら戦国武将としての苦悩は続く。敵方、信玄にまでその天稟を認められながらも晩年、兵法の極みを目指して出た廻国修行で、ついに「転」の極意に至る。己の信じる道を突き進んだ漢の熱い生き様。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

「新陰流」の祖であり、剣聖とよばれた剣豪上泉伊勢守信綱の生涯を描いた、長編の時代い小説です。

 

上泉伊勢守信綱と北畠中納言具教との試し立ち会いの場面から始まります。この北畠具教から宝蔵院胤榮の話を聞き、胤榮との立ち会いをすべく旅立ちます。

この後、話は上泉伊勢守の子供時代に移り、松本備前守や愛洲移香斎との修行の様子が語られるのですが、この修業の様子もまた興味が尽きません。

その後、長じた伊勢守は城持ちの武将として北条家や武田信玄との戦いに臨みますが、武田信玄に敗れ、その臣となった伊勢守は剣の道を極めるべく旅立つのです。

そして宝蔵院胤榮との立ち会いに臨むことになります。この宝蔵院胤榮の物語も少し語られていますが、この話も面白い。

また柳生宗巌との会話も、関西弁で為されています。当たり前と言われればそうなのですが、実にリアリティを持って読むことが出来ました。関西弁を話す柳生一族。面白いです。

ここでの柳生宗巌を立会人としての宝蔵院胤榮との立ち会いの場面の描写はとにかく読んでもらいたい、というしかありません。

 

池波正太郎の「剣の天地」もまた上泉伊勢守信綱の物語です。武将としての上泉伊勢守に焦点が当てられ、より一般的な上泉伊勢守が語られています。

本書「真剣」は剣聖としての上泉伊勢守信綱であって、剣の道に焦点が当てられているのです。

 

 

どちらも面白いです。個人的には「真剣」が好きですが、人間上泉伊勢守信綱もまた魅力的です。

鬼平犯科帳 TV版

池波正太郎原作による人気時代劇のフジテレビ版第1シリーズ。江戸時代後期に実在した火付盗賊改方長官・茶L谷川平蔵の活躍を描いている。スペシャル2話を含む全26話を14枚のDVDに収録し、特製ブックレットと共に豪華特製BOX化。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

池波正太郎作品最大の人気シリーズと言えるかもしれません。テレビドラマも繰り返し放映されており、八代目松本幸四郎、丹波哲郎、萬屋錦之介と演者も超一流の役者さんが演じていて、八代目松本幸四郎の子である二代目中村吉右衛門もまた鬼平を演じています。

下記はウィキペディアに掲載されていたものです。

『鬼平犯科帳』 (制作:東宝、主演:八代目松本幸四郎)『鬼平犯科帳’69』とも
『新・鬼平犯科帳』(制作:東宝、主演:八代目松本幸四郎)『鬼平犯科帳’71』とも
『鬼平犯科帳』 (制作:東宝、主演:丹波哲郎)
『鬼平犯科帳』 (制作:東宝、主演:萬屋錦之介)
『鬼平犯科帳』 (制作:松竹、主演:二代目中村吉右衛門)

鬼平犯科帳 劇場版

テレビシリーズが高視聴率をマークしている池波正太郎原作の傑作時代劇の劇場版。鬼平の抹殺を企む悪の大組織が、悪行の限りを尽くして、いざ鬼平へと戦いを挑む。テレビ版では決して見ることのできない壮大なスケールで臨場感たっぷりに魅せる。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

未見です。

鬼平犯科帳

斬り捨て御免の権限を持つ幕府の火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵。盗賊からは“鬼の平蔵”“鬼平”と恐れられている。しかし、その素顔は義理も人情もユーモアも心得た、懐の深い人間である。新感覚の時代小説の世界を拓き、不動の人気を誇る「鬼平犯科帳」シリーズ第一巻は、同心・小野十蔵の物語から始まる。(Amazon内容紹介 より)

 

このシリーズも色々言うまでもありません。

悪に対しては問答無用の非情さを持ちながら時に情の深さも垣間見せる、主人公の火付盗賊改方長谷川平蔵の人物造形が素晴らしいことがこの大人気シリーズの一番の理由ではないでしょうか。

テレビ版の鬼平犯科帳も原作を越えんばかりの出来だったように思います。最初に平蔵を演じた八代目松本幸四郎の出来が見事でした。そのあとを継いで四代目の平蔵を幸四郎の次男、二代目中村吉右衛門が演じていますがこの人の平蔵も評価が高いですね。

他に、舞台化、映画化とされていますが、さいとう・たかをにより漫画化もされているようです。

鬼平犯科帳 コミックス

さいとうたかをは言うまでも無く劇画会の大御所で、あのゴルゴ13の作者でもあります。この作家は貸本屋時代から読んでますがその創作力ははすごいですね。

現時点(2019年01月08日)でリイド社のコミック乱に連載中です。リイド社からはSPコミックスで55巻、SPコミックスコンパクトで68巻待っ出ており、文春時代コミックスから105巻が出ています。上記写真はリイド社版にリンクしています。

壬生義士伝 コミック

本コミックスは2014年4月17日に「ホーム社書籍扱いコミックス」として出版されました。

 

発表誌が廃刊したりなどの事情があり、出版社も「角川書店」「講談社」「集英社」「ホーム社」といろいろですが、現在は「ホーム社書籍扱コミックス」として一元化されている、と思っていいようです。

 

現時点(2018年12月)時点で第八巻まで出版されています。

本作品は原作をほぼ忠実に再現されており、その画力は見事です。

NHKで放映された「浦沢直樹の漫勉」という番組でも取り上げられていたのですが、本作品は一人で作画されているということです。

そのため出版のペースは決して早くはないものの、待つだけの価値はありました。