答え合わせ

答え合わせ』とは

本書『答え合わせ』は、2024年10月にマガジンハウスから240頁の新書として出版された、漫才コンビ「NON STYLE」の石田明自身が語る漫才論、芸人論です。

お笑いが大好きな私には、漫才を分析し、その構造を言語化して目の前に示してくれるこの本は驚き以外の何物でもありませんでした。

答え合わせ』の簡単なあらすじ

1章 「漫才か、漫才じゃないか」への回答“漫才論”(「偶然の立ち話」が漫才の原点/真空ジェシカを筆頭に増えてきた「共闘型」 ほか)/2章 「競技化」で漫才はどう変わったか?“M-1論”(面白いだけではダメ、上手いだけでもダメ/「イキリ漫才」を捨てて構築した新たなスタイル ほか)/3章 「お笑いの得点化」という無理難題に挑む“採点論”(「5つの採点基準」で「各20点ずつ」つける/2023年敗者復活審査で考えていたこと ほか)/4章 路上から王者へ、挫折からの下克上“コンビ論”(姉に連れて行かれた劇場で「漫才」に魅了された/初のネタ披露は「修学旅行」 ほか)/5章 漫才、芸人、お笑いの明日はどうなる?“未来論”(今の若手は「見せ方」が足りない/「台本の書き方」も知らないといけない時代 ほか)(目次(「BOOK」データベースより))

“M-1 2008優勝”“生粋の漫才オタク”がはじめて語る「漫才論」「M-1論」「芸人論」(「BOOK」データベースより)

答え合わせ』の感想

本書『答え合わせ』は、漫才オタクのノンスタイル石田が漫才を分析し、当該の漫才が面白い理由を教えてくれるユニークな作品です。

これまでも漫才の構造について語る人がいないことはありませんでした。

漫才コンビ「笑い飯」の哲夫や、今は引退してしまった島田紳助も漫才について語ったことはありましたが、それはあくまで番組の中でのフリートークにおいてのものにすぎませんでした。

しかし、本書はそうした個人のお笑い論とは異なり、きちんと古今の漫才を分析し、根拠を示したうえで一冊の本としてまとめられたものです。

 

本書はあくまでノンスタイル石田の個人的な分析の結果を示したものではあります。

しかしながら、漫才とは「偶然の立ち話」だというその指摘には納得させられるものがあり、漫才を見聞きするうえで参考になるものです。

お笑いはあくまで個人の感覚によるものであり、分析し論じるものではないという考え方もあるかもしれませんが、少なくとも本書を読む限りの漫才論はとても面白く、また興味を持って読むことが出来ました。

 

現在の漫才界で漫才を論じるとすれば、北野武(ビートたけし)や、先に述べた「笑い飯」の哲夫や「ナイツ」塙宣之などが挙げられると思います。

北野武(ビートたけし)は出版数が多く、そのうち漫才論があるのか、あるなら何冊くらいかよくわかりませんでした。

「ナイツ」塙宣之には『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』という作品があるらしいのですが、私は未読です。

しかし「笑い飯」の哲夫は、少なくとも2025年8月の時点では、仏教関係の例えば『ブッダも笑う仏教のはなし』のような書籍は何冊か出版されていりますが、お笑いを論じた作品はないようです。


漫才ではありませんが、落語家の世界を描いた小説といえば全くのノンフィクション作品として、佐藤多佳子の『しゃべれどもしゃべれども』があります。

そして、実在の落語家を描いた作品として、結城昌治の『志ん生一代』や安藤鶴夫の『三木助歳時記( 河出文庫 上・下二巻 )』などがあります。



 

ともあれ、特に漫才の世界では、近年は「やすしきよし」のような「芸」と呼べるほどの話芸を見せる芸人はあまり見当たらないかもしれません。

しかし、それでも「お笑い」としての漫才を分析した本書は読みごたえがありました。

石田 明

石田明』のプロフィール

いしだ・あきら/1980年2月20日生まれ。大阪府大阪市出身。
中学時代に出会った井上裕介と2000年5月にコンビ結成。神戸・三宮でのストリート漫才で人気を博し、baseよしもとのオーディションに合格してプロデビュー。
2006年「第35回上方お笑い大賞」最優秀新人賞受賞、「第21回NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞受賞、2007年、NHK「爆笑オンエアバトル」9代目チャンピオン、2008年「M-1グランプリ2008」優勝など、数々のタイトルを獲得。
2012年、2013年、2年連続で「THE MANZAI」決勝進出。「M-1グランプリ2015」では決勝の審査員を、「M-1グランプリ2023」では敗者復活戦の審査員を務めた。
2021年から、NSC(吉本総合芸能学院)の講師を務め、年間1200人以上に授業を行っている。
ゲストの芸人とともにお酒を飲みながら漫才論や芸人論などを語るYouTubeチャンネル「NON STYLE石田明のよい~んチャンネル」も人気。

引用元:石田 明 | 著者ページ

石田明』について

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田内 学

田内学』のプロフィール

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。
2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。
本書が初の著書。

引用元:田内学 | 著者ページ

田内学』について

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きみのお金は誰のため

きみのお金は誰のため』とは

本書『きみのお金は誰のため』は、2023年10月に東洋経済新報社から250頁のソフトカバーで刊行された、青春「お金」小説です。

経済について分かりやすい解説をしてある本と思って借りたのですが、その内容はあまりに抽象的で理解しがたい作品でした。

きみのお金は誰のため』の簡単なあらすじ

お金自体には価値がない、お金で解決できる問題はない、みんなでお金を貯めても意味がない。3つの謎を解いたとき、世界の見え方が変わった。大人も子どもも知っておきたい経済教養小説!学校では教えてくれない「お金と社会の本質」がわかる!(「BOOK」データベースより)

目次
第1章 お金の謎1「お金自体には価値がない」 | 第2章 お金の謎2「お金で解決できる問題はない」 | 第3章 お金の謎3「みんなでお金を貯めても意味がない」 | 第4章 格差の謎「退治する悪党は存在しない」 | 第5章 社会の謎「未来には贈与しかできない」 | 最終章 最後の謎「ぼくたちはひとりじゃない」

きみのお金は誰のため』の感想

本書『きみのお金は誰のため』は、経済のことがよく分からない自分のために入門書的な解説書、という思惑で借りた作品でした。

ところが、実際借りてみると本書は実用書ではなくて小説形式の作品だったのです。

 

目的は経済について理解が進めばそれが小説であろうが実用書であろうがその形式は何の問題はないので、とりあえずは読んでみました。

作品自体は実に読みやすく、それほど時間もかけずに読み終えることができました。

しかしながら、端的に言えばその内容が抽象的に過ぎ、決して私の理解が深まったとは言い難い内容でした。

 

Amazonなどで見られる本書の推薦文などを見ると、『現代の「お金の不安や疑問」を物語で楽しく解説』などとありいかにもお金の働きについての理解が深まるように感じられます。

ただ、ほかの推薦文を読む読むと、「お金の奴隷にならない』ための本であるとか、「お金に振り回されないための本」などの文言が目につきます。

つまり、経済についての解説ではなく、タイトルそのままに「お金」についての作品だったのです。「お金」至上主義に走らずに「お金」が動くことの意味、などについて教えてくれる作品でした。

 

その意味ではすごくいい作品だと思います。しかし、言われていることはその目次、例えば「第一章 お金の謎1 お金自体には価値がない」などという文言からも分かるように、「お金」の意味についての本でした。

つまりは、お金に自体の意味やお金が動くことの意味、その裏には社会があり、人間がいることを教えてくれているのです。

そして、お金そのものの存在する意味などを身近なたとえ話で教えてくれています。

ただ、対象が「お金」の話だからか、全体的に話しが抽象的で私個人はすんなり理解できた、とまではいきませんでした。

 

私が経済関係の実用書との思い込みで読み始めた作品であるため、まったくの私の主観的な評価になってしまっています。

でも、本書『きみのお金は誰のため』が「お金」についての精神的な指導書だったという理解はそう外れているとも思えません。

そして、本書は『読者が選ぶビジネス書グランプリ2024 総合グランプリ「第1位」受賞!』などの文言が並ぶほどに理解しやすい作品という評価のようです。

ただ、私が個人的に理解できにくいと思っただけのようでした。

マイ・プレゼント

マイ・プレゼント』とは

 

本書『マイ・プレゼント』は2022年7月にPHP研究所から刊行された、癒しの青い水彩画と、心ふるわせる48篇の物語が収められた、アート&ショート・ショートです。

まさに「アート」と呼ぶべき本であり、文章はショートショートというよりは詩であり、水彩画と合わせて絵本に近い感覚の作品でした。

 

マイ・プレゼント』の簡単なあらすじ

 

2022年本屋大賞第2位『赤と青とエスキース』の著者と装画家が再タッグ!
癒しの青い水彩画と心震わせる物語を収録した、世にも美しいアート×ショート・ショート。

心が疲れたと感じるとき、嬉しいことがあったとき、現状を変えるきっかけが欲しいとき……。
そんなときは、美しい絵画と言葉を味わいながら、ゆっくり自分と向き合ってみるのもいいかもしれません。
本書は、新進気鋭の水彩作家・U-ku(ゆーく)氏のアートから受けるインスピレーションをもとに、ハートフル小説の旗手・青山美智子氏が短い物語を綴った特別な作品集。
読む人によっても、読むタイミングによっても、まったく違う景色を見せてくれる本書の中には、今のあなただけが受け取れる、何かのヒントが詰まっているかも。

大切な人への贈り物にもぴったりな珠玉の一冊です。(内容紹介(出版社より))

 

マイ・プレゼント』の感想

 

本書『マイ・プレゼント』は、もし水彩画に焦点をあてるとすれば「画集」というべきかもしれません。

書かれているショートショートも物語ではなく詩、それも散文詩であり、絵と合わせると「絵本」というべきでしょう。

私の好みとは異なる作品でした。

 

私は芸術面の才能もないために描かれている水彩画も、特に抽象となるとよく分かりません。

本書の水彩を書かれているU-ku氏は、2021年本屋大賞の候補作となった青山美智子の『赤と青とエスキース』でもコンビを組まれていました。

 

そのU-ku氏の、本書に掲載されている抽象的な画の中に必ずと言っていいほどに現れている一人の女の人は作者なのでしょうか、鑑賞している人なのでしょうか。

それとも、この人物は誰でもなく、絵の一部として見る人の解釈に委ねる、そういう存在なのでしょうか。

夢想的で情感に満ちたこの絵画は、色合いや筆遣いなどのためなのか、眺めていると時間がゆっくりと流れるようで、この絵を見るだけでも落ち着く作品だとは思いました。

 

また、青山美智子の文章は、これまで読んだ『赤と青とエスキース』など長編の作品からすると若干感傷的にすぎるような気がします。

この人の文章は、もともと詩情豊かなタッチだとは思っていましたが、本書のような短文となると、私には情緒の裏付けが感じられずに感情だけの文章だと感じ取れてしまいます。

 

とはいえ、この絵と青山美智子の取り合わせは好きな人にとっては魅力的なものになるのでしょう。

ただ、私の好みとはちょっと異なる作品でした。

チョウセンアサガオの咲く夏

チョウセンアサガオの咲く夏』とは

 

本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は2022年4月に刊行された、234頁のオムニバス短編小説集です。

ショートショートを中心にした短編集だったためか、一読した時点ではエンタメ性が少ないと感じ、いつもの柚月裕子作品とは異なり私には合わない作品集だとの印象でした。

 

チョウセンアサガオの咲く夏』の簡単なあらすじ

 

「佐方貞人」シリーズ、「孤狼の血」シリーズ、『盤上の向日葵』『慈雨』など数々のベストセラー作品を世に送り出してきた著者。ミステリー、ホラー、サスペンス、時代、ユーモアなど、デビュー以降の短編をまとめた、初のオムニバス短編集。「佐方貞人」シリーズスピンオフ「ヒーロー」収録。(「BOOK」データベースより)

 

目次
チョウセンアサガオの咲く夏 | 泣き虫の鈴 | サクラ・サクラ | お薬増やしておきますね | 初孫 | 原稿取り | 愛しのルナ | 泣く猫 | 影にそう | 黙れおそ松 | ヒーロー

 

チョウセンアサガオの咲く夏』の感想

 

本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は、これまで書いてきた作品の中でどこにも収められていない作品を集めたという印象の、何ともとりとめのない作品集です。

各作品をざっと眺めると、軽いホラーの「チョウセンアサガオの咲く夏」「愛しのルナ」、ちょっとひねりを利かせた短編である「お薬増やしておきますね」「初孫」「原稿取り」。

そして、貧困故に奉公に出されいじめに遭う少年と一人の瞽女の少女との話「泣き虫の鈴」や、南の島国パラオのかつての日本軍の話の「サクラ・サクラ」。

また、母に捨てられ、その母を失った女の慟哭を描く「泣く猫」、一人の瞽女の少女の話の「影にそう」、何とも不思議な物語の「黙れおそ松」。

そして、「佐方貞人シリーズ」のスピンオフ作品の「ヒーロー」という作品が追加されています。

 

先に、なんともとりとめのない話と書きましたが、個人的にはあまり意味がよく分からない印象の作品がいくつかありました。

例えば、「サクラ・サクラ」は第二次世界大戦中の南太平洋での話であり、ここで描かれている事柄自体は実話らしいのです。ただ、史実をそのままに描いているようで、この物語を描いた意味が今ひとつ分かりませんでした。

たんに、太平洋戦争という不幸な時代に、軍人の中にもこのような人がおり、記されているような事実があったということを知らしめたいのでしょうか(ウィキペディアの「ペリリューの戦い ペリリュー島の島民の項」 : 参照 )。

でも、後に著者の柚月裕子のインタビュー記事を読んでみると、それぞれの作品には与えられたテーマがあったと書いてあり、少しだけ納得した気がします( 柚月裕子インタビュー : 参照 )。

チョウセンアサガオの咲く夏」「愛しのルナ」「影にそう」は、『5分で読める!ひと駅ストーリー』シリーズで掲載されたショートショートです。

チョウセンアサガオの咲く夏」は同シリーズ『夏の記憶 東口編』に、「愛しのルナ」は『猫の物語』におさめられており、個人的には今一つの印象でした。

 


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影にそう」は同シリーズ『旅の話』に入っていて、瞽女の少女の、彼女を世話する親方の哀しい、しかし心に沁みる話でした。

猫に関した話でいえば、「愛しのルナ」の他に「泣く猫」という作品があり、こちらは母を亡くした女性の心の内を探る好編でした。

ところがもう一遍、猫が出てくる物語がありますが、それが「黙れおそ松」であって猫の視点で書いてあります。この作品もちょっと中途半端な印象でした。

これは、私が「おそ松さん」というアニメを見たことがないのでそう感じたのかもしれません。

 

本書の最後におさめられている「ヒーロー」は、この著者柚月裕子の『孤狼の血シリーズ』と並ぶシリーズ作品である『佐方貞人シリーズ』に登場してくる、検察事務官の増田を主人公とする短編です。

佐方貞人シリーズ』の色をとても濃く残している作品であり、このシリーズの特徴の一つでもある物語の「青臭さ」をそのままに残した作品です。


結局、本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は、いろいろな雑誌に発表された作品をまとめた作品集らしく、ごった煮のようだとも言える作品集でした。

山根 貞男

山根貞男』のプロフィール

 

1939年、大阪生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒業。書評紙・書籍の編集者を経て、映画批評誌「シネマ」69~71の編集・発行に参加。1986年より「キネマ旬報」に日本映画時評を書き続けている。主な著書に『活劇の行方』『増村保造』『映画の貌』『現代映画への旅』などがあり、共著には『任侠映画伝』『映画監督深作欣二』などがある。引用元:山根貞男 | 著者プロフィール | 新潮社

 

山根貞男』について

 

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任俠映画伝

任俠映画伝』とは

 

本書『任俠映画伝』は、俊滕氏の関わった映画の全作品目録まで入れて新刊書で314頁の聞き書きです。

俊滕浩滋プロデューサーの語る自分の映画人生を描いた作品ですが、映画関連の書物としては面白さに欠けるものでした。

 

任俠映画伝』の簡単なあらすじ

 

『博徒』『昭和残侠伝』『緋牡丹博徒』シリーズなど、東映任侠映画生みの親・俊藤浩滋がついに語ったわが映画と俳優たち。(「BOOK」データベースより)

 

 

任俠映画伝』の感想

 

本書『任俠映画伝』は、俊滕浩滋という稀有な映画プロデューサーの人生を映画評論家の山根貞夫が本人の語りの形式で描き出した作品です。

二段組の構成で、俊滕浩滋という人物への長年にわたるインタビューを本人の語りという形式で紹介してあり、各章の冒頭や話題の切変わる時などに、客観性を持たせるためか映画評論家の山根貞夫の説明を挟んであります。

そうした事情からこの二人の共著としての紹介になっているものと思われます。

 

確かに、俊滕浩滋という人物自身の生き方は魅力的です。

映画好きならば知らない人はいない大監督のマキノ雅弘や、東映の社長であった大川博に個人的につながりを持ち、後には銀座で有名なクラブのママとなる祇園の芸者と一緒になった男。

私が子供の頃見た映画の中ではっきりと覚えている映画の一本がマキノ雅弘の「次郎長三国志」ですが、この作品つくりにもプロデューサーとしてかかわっていたというのには驚きました。

 

 

特徴的なのが、若い頃にボンノの通称をもつ、後に代目山口組若頭補佐となる菅谷政雄という人物と友達付き合いがあったり、五島組の大野福次郎という大親分とも知遇を得たりと、ヤクザのそれも大物と親交を結んでいることです。

そうした人脈は後に東映で映画をつくるときに大きな力となり、俊滕浩滋という人物が作るヤクザ映画はホンモノの匂いがして人気を博したのだと、これは本書だけでなく、映画関係の書物を読むと書いてあります。

そんな他の本で読んだことが本書『任俠映画伝』の中ではいとも簡単に手柄話のように書いてあるのです。

 

しかし、そのいとも簡単に書いてあるところがどうにも自慢話のように聞こえてきます。

様々な階層の様々な人たちとの人脈を築き上げているのはいいのです。それは俊滕浩滋という人物の魅力でしょうし、そこには何の嘘もなく事実を述べてあるだけのことだと思います。

しかしながら、若山富三郎藤山寛美などの大スターも自分が育て上げたと言い切る姿や、安藤昇も自分が映画に出したし、その紹介になる菅原文太なども自分が使ったからスターへの道を登っていった、といわんばかりのニュアンスは受け入れがたいものでした。

先般読んだ、『仁義なき戦い 菅原文太伝』にも指摘してありましたが、俊滕浩滋菅原文太との出会いなど、ほかの人が言っていることとは異なる記載もあるようで、やはり本人へのインタビューをそのままに載せるのは若干問題がありそうです。

特に、本書『任俠映画伝』のような第三者が間に入り事実の検証が為されているかのような作品の場合、本人の語りとしての記載ではあってもそこは著者山根貞夫の検証が入っていると思いますので、その点は明記していた方がいいのではないでしょうか。

 

たしかに、普通のプロデューサーではなく、毎作品で現場に詰めて、脚本や、時には映画音楽にまで口を出したということですから、普通以上に力を持ったプロデューサーだったのでしょうし、実際それだけの働きをした人だったのでしょう。

それでも、映画には監督もいれば役者、それに多くのスタッフも関わってできる作品ですから、そのすべてを俊滕浩滋というプロデューサーが為したといわんばかりの言葉にはちょっとばかり引いてしまったのです。

ただ、この点に関しては、「映画というのは、・・・全員で相談して、絶対できるものではない。・・・映画は個性で引っ張っていって・・・つくりあげていゆくところに、面白さが出るんだと思う。」と本人が言い切っています。

それだけの強烈な自負心と情熱に裏打ちされた言葉であったと思われます。

 

とはいえ、数多くの映画製作にかかわり、大ヒット映画も数多く制作して映画界への貢献度もかなり高い人であるのは間違いのないことでしょう。

そうした客観性が欠けている作品であることを除けば、本書『任俠映画伝』は映画好きならばそこそこに面白く読める本といえるかもしれません。

今では七代目尾上菊五郎の妻になっていて、映画スターとしては藤純子と言っていた富司純子俊滕浩滋の娘だというのはかなり昔から聞いていました。

父親が大プロデューサーで、その娘が映画界の大スターだというのですから見事なものです。

 

任侠映画の魅力は夢とロマンや、と言い切る俊滕浩滋姿は魅力的です。「私利私欲や打算を抜きにして男が命を懸ける、その純粋さが人の心を打つんだと思う。」と言い切っています。

また、任侠映画は悪役のキャスティングがかなめだとも言っています。「そのワルがワルをしなきゃならない何か、それをうまく出せるかどうか。そこが作品の魅力につながる」というのです。

先にも述べたように、映画作りは中心となる個性で引っ張っていくものだという考えなど、強烈な個性と自負心を持っておられた人なのでしょう。

ただ、一冊の映画関係の書物として見た場合、私の場合は今一つと言うしかない作品だったのです。

松田 美智子

松田美智子』のプロフィール

 

山口県生まれ。金子信雄主宰の劇団で松田優作と出会い結婚。一子をもうけて離婚。その後、シナリオライター、ノンフィクション作家、小説家として活躍。『天国のスープ』(文藝春秋)『女子高校生誘拐飼育事件』(幻冬舎)等の小説を執筆するとともに、『福田和子はなぜ男を魅了するのか』(幻冬舎)、『越境者松田優作』(新潮社)、『サムライ 評伝三船敏郎』(文藝春秋)等のノンフィクション作品を多数発表。引用元:松田美智子 | 著者プロフィール | 新潮社

 

松田美智子』について

 

読み終えて作者のことを知る中で、あの松田優作の前の奥さんだったことを知りました。

松田優作の評伝も書かれているので、読んでみたいものです。

 

仁義なき戦い 菅原文太伝

仁義なき戦い 菅原文太伝』とは

 

本書『仁義なき戦い 菅原文太伝』は、著者自身によるあとがきまで含めて単行本(ソフトカバー)で299頁の評伝です。

『仁義なき闘い』という映画の主役である菅原文太という役者の評伝であり、面白く読んだノンフィクションです。

 

仁義なき戦い 菅原文太伝』の簡単なあらすじ

 

「俳優になったのは成り行きだった」誰もが知るスターの誰も知らない実人生。故郷に背を向け、盟友たちと別れ、約束された成功を拒んだ。「男が惚れる男」が生涯をかけて求めたものは何だったのか。意外な素顔、大ヒット作の舞台裏、そして揺れ動く心中。発言の裏に秘められた本音を丁寧に掬い上げ、膨大な資料と関係者の貴重な証言を重ね合わせて「敗れざる男」の人生をまるごと描き出す決定版評伝。( 内容紹介(出版社より))

 

菅原文太は、新東宝、松竹を経て、安藤昇の引きで東映はと移籍したそうです。

そこから『現代やくざ』シリーズ、『まむしの兄弟』シリーズなどのヒット作を得、『仁義なき戦い』シリーズ、『トラック野郎』シリーズなどで大スターの仲間入りをしました。

その後、大河ドラマ『獅子の時代』に主演したり、東映版の映画『青春の門』の伊吹重蔵役、『千と千尋の神隠し』や『ゲド戦記』にも声で出演したりしています。

その後岐阜県清見村に引っ込んで暮らしていたところにある悲劇が襲い、その後の自身の膀胱がんの発症などもあって、山梨県で本格的に農業をするようになったそうです。

そして2014年11月28日、転移性肝がんによる肝不全で永眠されました。

 

仁義なき戦い 菅原文太伝』の感想

 

映画好きの私にとって、これまで見た映画の中で最高の作品の中の一本は『仁義なき闘い』であり、その主役の菅原文太という役者は、高倉健と並んで最高の役者の中の一人です。

 

映画好き、それも小説と同様にジャンルを問わない映画好きの私は、御多分に漏れず学生時代には東映のヤクザ映画にもはまりました。

中でも『仁義なき戦い』という映画は衝撃であり、それまで名前しか知らなかった菅原文太という役者を知るきっかけにもなった映画です。

梅宮辰夫、松方弘樹、田中邦衛、成田三樹夫、室田日出男といった役者たちが顔をそろえた、これまでにない作品だったのです。

それまでの任侠映画とは異なる新しい現代ヤクザの流れを汲む作品であり、様式美を無視したリアリティあふれた映画であって、皆が声を揃えて面白いと叫んだものです。

 

その映画での主人公の広能昌三を演じた菅原文太という役者の存在感はすさまじいものでした。

この映画では、松方弘樹の演じた弱さを見せるヤクザや、千葉真一のすさまじいチンピラ姿など、ほかにも取り上げるべき役者や場面などいろいろあるのですが、菅原文太という役者はまた別格です。

その菅原文太という役者の評伝というのですからすぐに手に取りました。

ほかに、石原慎太郎が安藤昇という男を描いたノンフィクション『あるヤクザの生涯 安藤昇伝』という本を図書館に予約したところでもあり、本書の情報を耳にしてすぐに借りたということもあります。

 

 

本書『仁義なき戦い 菅原文太伝』の巻末に示された参考資料の膨大な数は数えるのも嫌になるほどであり、作者の主観と客観的な情報との峻別も明確です。

詰め込まれた情報もまた膨大ではあるものの、整理されていて読みやすい作品でもありました。

しかし、これまで菅原文太という役者の実像はほとんど知らなかったこともあって、思った以上に本書『仁義なき戦い 菅原文太伝』は面白い作品でした。