『spring another season』とは
本書『spring another season』は前作の『spring』のスピンオフ作品で、2025年12月に筑摩書房から256頁のハードカバーで刊行されたバレエ小説集です。
2025年本屋大賞の候補作にもなった前作『spring』の天才的ダンサーで振付師でもある主役の萬春(よろずはる)の姿を中心に、『spring』でのそのほかの登場人物たちの姿が描かれています。
『spring another season』の簡単なあらすじ
恩田陸の新たな代表作・バレエ小説『spring』への熱いアンコールに応えた待望のスピンオフ刊行!
“けれど今、こうして僕らは一緒に踊っている。戦っている。
互いを理解するために、対話するために。
二人の神に近づくために。”シリーズ累計11万部!
2025年本屋大賞にノミネートされた傑作バレエ小説『spring』。本編『spring』では描ききれなかった秘められし舞台裏に加えて、深津、ヴァネッサ、ハッサン、フランツ、そして萬春自身はもちろん、永遠の師匠ジャン・ジャメやエリック・リシャールの教師コンビ、ロシア留学を果たした滝澤美潮など様々なキャラクターたちの気になる過去と未来を描く全12章の小説集。中編「石の花」ほかたっぷりの書き下ろし&『spring』刊行時に期間限定で公開された幻の一編「反省と改善」をはじめ、これまでに明かされた『spring』のストーリーを余すところなく完全収録。
ページをめくるとダンサーが踊りだす「パラパラ漫画」付き(電子版には収録なし)。内容紹介(JPROより 抜粋)
『spring another season』の感想
本書『spring another season』は、前作『spring』の主役である萬春(よろずはる)の生活を真ん中において、彼を取り巻く人たちの描かれなかった姿について記されています。
全部で十二章からなる作品集ですが、視点の主はチャリティー・パーティ開催しようとする萬春(HAL)であったり、自分の過去を語るヴァネッサであったりと、章ごとに変化しています。ですが、一番多いのはやはりHALのようです。
本書の感想は、前作の『spring』でのそれと同じだといえます。
前作で、バレエという踊りについて、単純にバレエという踊りを見ての印象を詳しく語る以上に、バレエを踊るダンサー自身の目線での物語を読者に示してくれた著者は、本書でも同様の感動をもたらしてくれているのです。
本書で付け加えるとすれば、それはスピンオフという形式の通りに、前作での登場人物たちの描かれなかった側面を描き出している、という当たり前のことしか言えません。
ただ、本書では「hal yorozu special gala」という本書の主役萬春のガラという特別なプログラムが組まれ、その紹介を兼ねた内容の話も組み込まれている点は特別ということができるかもしれません。
加えて本書には「hal yorozu special gala program」というパンフレットが添付されていたのですが、そこに記載されている「HAL YOROZUによる自作解説コメント」の内容が、まるで一冊の本を読んでいるようで見事だったことは紹介しないわけにはいきません。
でも、このことは『蜜蜂と遠雷』での音楽に関しての文章表現の見事さと、前作『spring』でのバレエについての描写の感動の表現を挙げるまでもなくわかっていることではありました。
それでも改めて本書を振り返ってみると、上記「内容紹介」でも書かれている通り、本書では中編「石の花」というHALの恋人であるフランツを主人公にした物語も収められています。
この話は、HALとフランツとの二人の関係を描いた六十頁程の話で、その中心に「石の花」という踊りを据えて描かれた作品です。
また、「内容紹介」で挙げられている「反省と改善」もまたHALとフランツの物語で、二人の関係性がよくわかる短編です。
その他の物語は、HALを取り巻く登場人物たちが入れ代わり立ち代わり主役となっている話であって、まさに前作のスピンオフ作品として、前作を補う物語集となっているのです。
恩田陸という作家の文章力や表現力のすばらしさを再認識させられた驚きの一冊です。
前作『spring』の感動を再び味わえる作品集でした。