陰陽師シリーズ

一時期ブームとなった「陰陽師」のきっかけとなった作品です。

個人的にはこの作者の作品の中ではランクは高くはありません。

同じ系統であれば、「闇狩り師」に軍配を上げます。しかし、一般的にはこちらの「陰陽師」シリーズの方が人気があるようなので取り上げました。

妖魔封じを稼業とする、仙道と中国拳法の使い手である九十九乱蔵を主人公とする伝奇小説で、『キマイラ・吼』シリーズに登場する九十九三蔵は乱蔵の実弟です。

 

 

本書は、闇にうごめく妖怪(あやかし)達と陰陽師安倍晴明との戦いの物語です。

ただ、戦いと言いきるには語弊があるようです。平安時代、日々の生活は闇と共にあり、その闇には妖怪が住まっていたのです。妖怪とは即ち人間の怨みや妬みであり、結局は人間そのものなのです。安倍晴明はそのような恨みを持つ妖怪、人間との対話を通して怨みを解き放つのです。

陰陽師シリーズ(2015年04月01日現在)

  1. 陰陽師
  2. 陰陽師 飛天ノ巻
  3. 陰陽師 付喪神ノ巻
  4. 陰陽師 生成り姫
  5. 陰陽師 鳳凰ノ巻
  6. 陰陽師 龍笛ノ巻
  7. 陰陽師 太極ノ巻
  8. 陰陽師 瀧夜叉姫(上)
  9. 陰陽師 瀧夜叉姫(下)
  1. 陰陽師 夜光杯ノ巻
  2. 陰陽師 天鼓ノ巻
  3. 陰陽師 醍醐ノ巻
  4. 陰陽師 酔月ノ巻
  5. 陰陽師 蒼猴ノ巻
  6. 陰陽師 螢火ノ巻

おとこ鷹

天下の直参、と言えば聞こえは良いが、勝小吉はお役に就くこともなく市井に生きる貧乏御家人。だが、人情に厚く腕も立つ小吉は、詐欺師や悪徳高利貸たちを懲らしめるため東奔西走し、町の人々に慕われている。そんな小吉の楽しみは、剣術と蘭学の修業に励む息子・麟太郎の成長だった。後の海舟の若き日を、貧しくとも鷹のように気高く清々しく生きる父子の物語として描いた傑作長編。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

私塾を開いて妻も娶った麟太郎。貧しい生活をつづけながらも、蘭学や砲術研究にますます磨きをかけ、その力量は諸大名や幕閣の目に留まるまでになった。息子の立身に目を細める小吉は、市井の人々と喜怒哀楽をともにする日々をおくっていたが、いつしか病を得るようになり…。幕末という時代のうねりと、たくましく生きる江戸ッ子たちの姿を生き生きと描いた畢生の歴史時代小説。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

父子鷹の続編であり、両方の本を合わせて小吉伝とでも言うべき作品になっています。

 

変わらずに勝小吉とその子勝海舟、いやこの作品の頃ですから勝麟太郎の親子の愛情にあふれた物語です。

暴れん坊の勝小吉も麟太郎が大人になり、幕府の役職に就くようになると息子に頭が上がりません。それでもやはりやんちゃばかりしているのです。

江戸末期の下町情緒豊かなこの物語を「父子鷹」とあわせて是非読んでみてください。

 

なお写真は新潮文庫版にリンクしていますが、他に講談社文庫新装版、嶋中文庫版もあります。ただ、殆ど古本になるようです。

父子鷹

旗本・男谷平蔵の妾腹の子として、江戸深川に生まれた小吉は、微禄の旗本・勝家の養子になった。剣術が強く、根っからの江戸っ子気質で、豪放な性格と面倒見のよさから、周囲の人々に慕われていた。この小吉と妻・お信の間に男の子が生まれた。名付けて麟太郎。幕末から明治の武家政治家・勝海舟である。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

旗本とはいえ、御役にもつかず、市井の庶民のような気楽な暮らしを送る小吉だが、父とは違い向上心の強い麟太郎は、長ずるにつれ文武に才能を示すようになった…。自らが果たしえなかった青雲の志を子に託す父と、その期待に応えようと不断の努力を続ける子。下町を舞台に清冽な父子愛を描く傑作長編。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

勝海舟(麟太郎)の父の勝小吉の物語を描き出す、文庫本で全二巻の長編時代小説です。

 

とにかくこの小吉という男が魅力的です。あの勝海舟の親父というから更に興味を惹かれます。実際の勝小吉は男谷家の三男として生まれたのですが、勝家に養子に出され勝姓を名乗るようになったそうです。

一言で言えば、幕末の本所を舞台にしたピカレスクロマンです。実際相当なワルだったようで、小吉の本家である男谷家の男谷信友は剣聖と言われた剣豪ですが、喧嘩となると小吉にはかなわなかったなど、数々のエピソードがあります。

本人の著書「夢酔独言」が遺されており、また勝海舟の著書「氷川清話」に記されたエピソードなどを元にして本書が描かれたそうなので、本書記載の挿話は脚色はあるにしても事実に近いものなのでしょう。

とにかく戦後の痛快時代小説の原点とも言うべき一冊です。

 

 

蛇足ですが私の若い頃に八代目松本幸四郎(松本白鸚、現九代目松本幸四郎の父)が勝小吉を演じたテレビドラマがあったのですが、そこに描かれていた小吉が実に魅力的だったのをいまだに覚えています。

その後、子母沢寛のこの作品を読んだのですが、原作の小吉もそのイメージになってしまっています。

ちなみに、この松本白鸚は鬼平犯科帳の長谷川平蔵も演じていてはまり役でした。今の二代目中村吉右衛門の長谷川平蔵も素晴らしいですが、やはり親子ですね。よく似ています。

 

なお写真は新装版講談社文庫版にリンクしていますが、他に新潮社文庫版、嶋中文庫版もあります。ただ、殆ど古本になるようです。

勝海舟

時は幕末・維新の動乱期、近代日本の運命を背負った勝海舟の半生を、同時代に輩出した幾多の英傑たちとともに描く大河小説。嘉永六年、浦賀沖に来航したペリー率いる四隻の黒船は、徳川三百年の泰平の夢を破り、日本は驚愕と混乱の極に陥った。そのころ勝麟太郎少年は、父の小吉はじめ愛情あふれる人生の師に恵まれ、蘭学を志しながら豪放磊落かつ開明的な英才へと育ちつつあった。(「内容紹介」より)

 

勝海舟の幼少期から咸臨丸による渡米、軍艦奉行としての第二次長州征伐と将軍家茂の死去、徳川慶喜と為した大政奉還、西郷隆盛相手の江戸開城、そして明治新政と全六巻で語られる一大長編小説です。

 

明治維新を幕府側から描いた物語でもあります。というよりも勝海舟個人から見た維新といった方が良いかもしれません。

特に一巻目は麟太郎の青春記とも言え、麟太郎の父小吉の挿話と共に、物語としての面白さは無類のものがあります。勿論、二巻目以降の物語も十分以上に面白いのですが、その面白さの質が若干異なる気がします。「父子鷹」「おとこ鷹」と合わせた親子像も是非読んでみてください。

 

 

 

司馬遼太郎の「竜馬がゆく」他の作品も明治維新期を描写してありますが、あえて言うならば司馬遼太郎の作品よりも子母澤寛作品の方がより物語性が強い、と言えると思います。

 

 

歴史の一大変動期における勝海舟という人間の特異性がよく分かります。その特異な人間の周りにはまた特異な人間が集まります。

まずは杉純道という人でしょうか。この人がいなければ勝海舟もあんな活躍は出来なかったと思えるほどです。勝家の内情全般まで面倒を見ているのですからたまりません。

ついで、幕府の内部で勝の後ろ盾ともなった大久保忠寛、この人も幕府内部で筋を通し紆余曲折があった人です。

更に坂本竜馬岡田以蔵も勝に惹かれたし、薩摩の益満休之助もそうです。挙げていけばきりがありません。

 

一方で女にはだらしなく、少なくとも勝家の女中なども含め5人の妾を囲い二男三女をもうけたそうです。妻民子はその妾の子まで引き取り育てたといいます。この正妻民子という人もまた特異な人と言えるでしょう。

維新期の話はこの「勝海舟」と司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読めばその殆どを網羅できるのではないかと思えます。

深川安楽亭

抜け荷(密貿易)の拠点、深川安楽亭にたむろする命知らずの無頼な若者たちが、恋人の身請金を盗み出して袋叩きにされたお店者に示す命がけの無償の善意を、不気味な雰囲気をたたえた文章のうちに描いた表題作。完成されたものとしては著者最後の作品となった「枡落し」。ほかに「内蔵允留守」「おかよ」「水の下の石」「百足ちがい」「あすなろう」「十八条乙」など全12編を収録する。(「Amazon」紹介文より)

短編集です。私が友人に勧められて最初に読んだのがこの本でした。山本周五郎の各年代の作品が収納されているので、入門用としても良いのではないでしょうか。

標題にもなっている「深川安楽亭」はいわゆる一場面ものです。決して明るい話ではないのですが、しずかに心に沁み入ってくる物語です。

赤ひげ

山本周五郎原作の小説を黒澤明監督が映画化した作品。江戸時代の医療施設・小石川養生所を舞台に、出世の野心に燃えるエリート医師が長屋で暮らす人々との触れ合いを通して成長していく姿を描く。出演は三船敏郎、加山雄三、山崎努ほか。(「Oricon」データベースより)

かなり昔に見たのですが、内容はあまり覚えていません。

また、2018年に船越英一郎の主演でNHKの土曜時代ドラマでドラマ化されました。

赤ひげ | NHK 土曜時代ドラマ : 参照

 

赤ひげ診療譚

幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は尽く赤ひげに反抗するが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く快作。

 

青年医師の眼を通して「赤ひげ」と呼ばれる一人の医師の姿を描き出す、長編の時代小説です。

この青年医師の成長譚という見方もできるかもしれません

 

この作品も映画化されています。主人公の赤ひげ医師を三船敏郎、赤ひげ医師に師事する青年医師を加山雄三が演じていました。

 

 

ちなみに、本作品は上掲の新潮文庫版以外に、角川春樹事務所の時代小説文庫からも出版されています。

 

樅ノ木は残った [DVD]

平和な世に突如起こった伊達藩のお家騒動。幕府・藩内に渦巻く人々の情念を描いたドラマ。

寛永11年、仙台藩に起きた伊達騒動を題材に、命をかけて伊達62万石のお家安泰をはかった家老・原田甲斐の苦悩と、孤独の中に信念を貫く姿を描く。主人公の相手役、吉永小百合と栗原小巻が男性ファンの人気を二分したことでも話題に。(商品の説明 より)

 

1970年の平幹二朗主演で放映されたNHK大河ドラマの総集編です。

私は未見です。

 

上記各リンクは、DVD二枚にまとめられた総集編です。

また、1990年に里美浩太朗、西郷輝彦らの出演で、日本テレビ系で放映された大型時代劇スペシャルのものもあります。

樅ノ木は残った 日テレ版』 : 参照

樅ノ木は残った

生誕100年。いま、この時代だから、山本周五郎の世界。必死に生きる私たちを静かに励ましてくれる……。
仙台藩主・伊達綱宗、幕府から不作法の儀により逼塞を申しつけられる。明くる夜、藩士四名が「上意討ち」を口にする者たちによって斬殺される。いわゆる「伊達騒動」の始まりである。その背後に存在する幕府老中・酒井雅楽頭と仙台藩主一族・伊達兵部とのあいだの六十二万石分与の密約。この密約にこめられた幕府の意図を見抜いた宿老・原田甲斐は、ただひとり、いかに闘い抜いたのか。(「内容紹介」より)

 

伊達騒動を主題に、それまで悪人との評価が定説だった原田甲斐を主人公として、武家社会の確執を描いた、長編の時代小説です。

 

この本を読むまで、伊達騒動の何たるやも知らず、従って原田甲斐が悪役であったことなど何も知らない私でした。NHKの大河ドラマで本書『樅ノ木は残った』を原作としたドラマが放映されたのが1970年ですので、このドラマを先に見たことになります。

平幹二朗が原田甲斐を演じていたことだけを覚えていて、ドラマ自体は途中でろくに見ていないのです。なにせ、私も高校生なのですから。

 

その後、山本周五郎という作家を知り、全作品を読破する中で本書も読んだのですが、主人公原田の生きざまに心打たれました。この思いは私だけではなく、全ての人に共通して心に迫り、だからこそ何度も映画化、ドラマ化がされているのでしょう。

山本周五郎文学の最高の一冊の一つだと思います。

 

ちなみに、本書は新潮文庫から全三冊として出版されているのですが、AmazonからKindle版として合本版が出ています。