鷺の墓

藩主の腹違いの弟・松之助警護の任についた保坂市之進は、周囲の見せる困惑と好奇の色に苛立っていた。保坂家にまつわる因縁めいた何かを感じた市之進だったが…(「鷺の墓」)。瀬戸内の一藩を舞台に繰り広げられる人間模様を描き上げる連作時代小説。(「BOOK」データベースより)

 

連作短編小説集です。瀬戸内の小藩を舞台にしたとある武士の生き様が描かれています。

 

森村誠一が「時代小説の超新星の登場」と絶賛したと本の帯に書いてありました。

物語に派手さはなく、物語全体を客観的に、それも俯瞰で見ているような静かなトーンで進んでいくので、若干の物足りなさを感じる人がいるかもしれません。

しかし、そこは好みの問題なのでそんな静かな優しい文章が好みの人にはお勧めだと思っています。

立場茶屋おりきシリーズ

武家の娘であったおりきが立場茶屋の2代目女将になって、旅籠の客や町の住人達の事件に巻き込まれたり、立ち向かったりする、定番ものではあります。

しかしこの主人公は武家上がりであるだけに何かしらの武術のたしなみがあるためかと思うのですが、少々の男ではかなわない凛とした強さを持っています。

そうした設定の主人公だからというわけではないのですが、例えば高田郁の『みをつくし料理帖シリーズ』の文章には少々物足らない感じを抱く方も、このシリーズには満足できるのでないでしょうか。料理が大切な要素になっていることも一興でしょう。

ただ、巻が進むにつれ、ちょっとせりふが長いかなと思われ、その点を嫌う人は少なからずいるのではないかと危惧されます。

蛇足ですが、旅籠の女主人という設定は平岩弓枝の「御宿かわせみ」が有名です。私は未読なのでお勧めというわけにはいかないのですが、一般に人気がある作品であることは間違いないでしょう。人気のあるシリーズなので全く触れないのも不親切かと思い付記します。そのうち読もうと思っています。

立場茶屋おりきシリーズ(2015年04月01日現在)

  1. さくら舞う
  2. 行合橋
  3. 秋の蝶
  4. 月影の舞
  5. 秋螢
  6. 忘れ雪
  1. 若菜摘み
  2. 母子草
  3. 願の糸
  4. 雪割草
  5. 虎が雨
  6. こぼれ萩
  1. 泣きのお銀
  2. 品の月
  3. 極楽日和
  4. 凜として
  5. 花かがり
  6. 君影草
  1. 指きり
  2. 由縁の月

今井 絵美子

1945年 広島県生まれ

成城大学文芸学部卒
画廊経営、テレビプロデューサーを経て、執筆活動に入る。

1998年「もぐら」で第16回大阪女性文芸賞佳作
2000年「母の背中」で第34回北日本文学賞選奨。
2002年第2回中・近世文学大賞最終候補作となった「蘇鉄の人 玉蘊」を郁朋社より刊行。
2003年「小日向源伍の終わらない夏」で第10回九州さが大衆文学大賞・笹沢佐保賞受賞。
(出典 : 今井絵美子のページ 今井絵美子 略歴 より)

 

宇江佐真理高田郁と読んできて、他に読後感が心地よい作者はいないかと探している時に出会ったのが「立場茶屋おりきシリーズ」でした。

読んでみるとなかなかに読みやすいのです。文章もリズムがあり、何より、四季の移ろいの描写、人物の心理描写が丁寧な語り口で語られ、読後感が気持ちのいいものがありました。

宇江佐真理高田郁の語り口とはまた違った趣で人情を語っていて、お勧めです。

ただ、初期の作品での表現と現在とではその作風に少々違いが出てきています。丁寧な描写ではあるのですが、特に会話文で若干独特な言いまわしが出てきていて、少々感情移入しにくくなっているのです。

また、状況説明を会話の中で語らせたりする場面があったりと、私個人の好みの問題に過ぎないかも知れませんが、若干の違和感を感じています。当初の透明感のある作風が好みだったのですが。

健康を害されている旨のメールを頂いております。

無理をしない範囲で、納得のいかれる作品を書かれてください、としか言いようがありません。お大事になさってください。

追記

本稿の最終更新日が2017年2月25日だったのですが、その年の10月8日に永眠されていたそうです。

先に書いたように、近年の今井美恵子さんの作風が私の好みと離れていたため、最終更新日のあと一度も本稿を見ていませんでした。

そのため四年以上も今井さん死去の事実を知らずにいたことを悔いております。

遅ればせながらご冥福をお祈りいたします。

研ぎ師 人情始末シリーズ

研ぎ師人情始末シリーズ(完結)

  1. 裏店とんぼ
  2. 糸切れ凧
  3. うろこ雲
  4. うらぶれ侍
  1. 兄妹氷雨
  2. 迷い鳥
  3. おしどり夫婦
  4. 恋わずらい
  1. 江戸橋慕情
  2. 親子の絆
  3. 濡れぎぬ
  4. こおろぎ橋
  1. 父の形見
  2. 縁むすび
  3. 故郷がえり

 

直心影流の使い手・荒金菊之助は、かつて八王子千人同心であったが、今は浪人となり、貧乏長屋で研ぎ師をしている。ある日、知り合いの子供の父親が殺された。下手人として凶賊・八雲の千造一味が浮かぶ。菊之助は、従兄弟で南町奉行所の臨時廻り同心・横山秀蔵に協力を求め、賊を追いつめていく。迫力満点の剣戟描写と、人情味溢れる痛快時代活劇。(第一巻:「BOOK」データベースより)

 

市井に暮らす浪人の織りなす長編の人情時代小説です。

 

主人公は荒金菊之助という元武士で、従兄弟に臨時廻り同心が居ます。この同心が主人公に依頼したり、主人公が探索を助けてもらったりと、うまく話を盛り上げています。主人公のキャラ設定が面白く、物語もテンポ良く読めました。

 

どうして稲葉実という作家の他の作品には波長が合わないのか分かりませんが、このシリーズはそれなりに面白く読めました。

近頃読んだ本で田牧大和女錠前師謎とき帖シリーズでは猫を上手く使ってありました。本書のように犬がそれなりの活躍を見せることはないのですが、場面の雰囲気づくりにとても効果的な描き方をしてあるのです。

また、動物と言えば赤川次郎の『三毛猫シリーズ』を忘れてはいけないでしょう。こちらでは、猫そのものが探偵ですから一枚上手をいっています。

しばらくこの作家の本を読んでいなかったら、本シリーズも15巻で完結していました。そのうちにこのシリーズも残りを読んでみたいと思います。

武者とゆくシリーズ

武者とゆくシリーズ(2019年01月04日現在 完結?)

  1. 武者とゆく
  2. 闇夜の義賊
  3. 真夏の凶刃
  4. 月夜の始末
  1. 陽月の契り
  2. 武士の約定
  3. 夕焼け雲
  4. 百両の舞い

 

剣術指南役を解かれ、手習い所を開いた桜井俊吾。大火で妻子を失い、今は拾った子犬とつましい暮らしを送っていた。だが男に攫われる寸前、川に飛び込んだ女を助けたことで生活は一変。執拗な男は、周囲の人間の命を容赦なく奪いながら二人の身近に迫ってくる。時代小説に新しい風が吹く。(第一巻 :「BOOK」データベースより)

 

野良犬だった武者を拾い、共に事件を解決する。と言っても「三毛猫ホームズ」や「迷犬ルパン」とは異なり、武者はただ吠えるだけです。たまにはかみつくけど。

でもこの”武者”の存在が本シリーズを個性的なものにしている気がします。人情豊かに描かれており、結構面白く読めました。

ただ、作者には申し訳ないけどキャラ設定のためなのか、ストーリー故なのか、佐伯泰英や鈴木栄治作品ほどの魅力には欠ける気がします。

2010年12月に第八巻が出ていますが、その後刊行は無いようです。

しかし、講談社から「全8冊合本版」が出ているところを見ると、完結した、と言っていいのでしょう。

 

稲葉 稔

「問答無用」「糸針屋見立帖」「囮同心」といったシリーズものを夫々一、二冊ずつ読んでみました。

しかし、どうも面白いと思えない。キャラや舞台設定に入り込めませんでした。

「武者とゆく」や「研ぎ師 人情始末」は結構おもしろかったのに、その後に書かれた作品には面白さを感じることができませんでした。

なので、紹介もその二作品だけです。この作者は他にも多数の作品を出されていますので、それらの作品を未読の私は波長の合うものにあたっていないだけかもしれません。我が郷土熊本が輩出した作家さんでもあり、もう少し読み込んでみようと思います。

NHK版 陰陽師 [DVD]

2001年5月29日からNHKで放送された、夢枕獏原作のドラマをDVD化。SMAPの稲垣吾郎が扮する、“陰陽師”の中でも天才と謳われた安倍晴明が、平安京を舞台に“鬼”や“生霊”となった者達の魂を鎮めていく。第1話「玄象」第2話「這う鬼」の2話収録。(「キネマ旬報社」データベースより)

だい十話までの全五巻DVDです。

未見です。

陰陽師 2 [DVD]

『壬生義士伝』の滝田洋二郎が監督し、原作者である夢枕獏がシナリオ作りに当初から参加した「陰陽師」劇場版シリーズ第2作。アマテラスを天岩戸から誘い出す神話のエピソードをモチーフに、命が保証されない神の領域に陰陽師・安倍晴明が挑んでいく。(「キネマ旬報社」データベースより)

もともとのシリーズを好みでないためもあるのでしょうか、やはり今一つでした。

陰陽師 [DVD]

小説、コミック、テレビドラマで話題となり一大ブームを巻き起こした『陰陽師』の劇場版。平安時代に実在した陰陽師・^倍晴明が、妖怪の跋扈する闇の世界に挑む姿を描く。原作は「上弦の月を食べる獅子」で日本SF作家大賞を受賞している夢枕獏。(「キネマ旬報社」データベースより)

特撮も今一つの出来で、個人的にはあまり面白いと思った映画ではありませんでした。

ただ、野村萬斎の存在感だけはあったと思います。