武士道シックスティーン [DVD]

3歳から鍛錬を積んできた中学チャンピオンの剣道エリートの香織は幼い頃から負け知らずだったが、とある大会で同学年の選手に負けてしまう。その選手を追って剣道の名門・東松学園に入学した香織は、因縁の敵早苗と再会する。誉田哲也原作による痛快エンタテインメント小説「武士道シックスティーン」を映画化。成海璃子、北乃きいによる女子高生が弾ける、剣道ガールズ・ムービー。(「Oricon」データベースより)

武士道シリーズ

武士道シリーズ(2017年08月01日現在)

  1. 武士道シックスティーン
  2. 武士道セブンティーン
  3. 武士道エイティーン
  4. 武士道ジェネレーション

剣道に打ち込む女子高校生を主人公とした王道の青春小説です。

この作家の他の作品にみられるホラーテイストは微塵も無く、空はどこまでも青く澄み渡っている青春世界です。

これはどの作家にも言えることだと思うのですが、本作品は女子高校生が主人公なのにその心理描写などどうしてあんなによく書けているのでしょう。いや、私が女子高生の心裡が分かる筈もないので、書けていると思われると言うべきなのでしょうか。

私は昔ちょっとだけ剣道をかじったこともあり、個人スポーツ(武道)としては剣道が最高のスポーツ(武道)だと思っているのですが、その剣道の辛さ、素晴らしさ、なども含め良く書けているなあ、と感心するばかりです。

剣道というと、藤沢周 の『武曲(むこく) 』という作品
などがあります。アル中コーチ矢田部研吾の人間描写と、現代っ子の高校生羽田融(はだとおる)が剣道にのめり込んでゆく姿を描いた作品です。この作品は綾野剛と村上虹郎というキャストで映画化されるそうです。


他方で、若干猟奇的な描写も入る人気の警察小説である『姫川玲子シリーズ』や『あなたが愛した記憶』のようなノンストップホラーも書くのですから何も言えません。

誉田 哲也

「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」でムー伝奇ノベル大賞優秀賞を、「アクセス」で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しています。

そのためか、この人の作品はどことなくホラーテイストが入っている感じがします。「ブルーマーダー」にしてもその殺害方法は全身の骨を砕くという普通ではない殺し方です。

ところが、文体はスピーディーで登場人物のキャラクター設定が非常に上手な作家ですね。特に姫川玲子シリーズはそれが一番うまくできていると思います。なので面白い。気がつけば一気に読了しているのです。

この作家の魅力はそれだけにとどまらず、青春小説も音楽小説もそのスピーディーな文体に乗ってこなすことです。刑事ものに限らず他の分野もまた面白いのだからたまりません。この作家もどれをとってもそれなりに面白いと思います。ただ、ホラー系が苦手な人は対象作品が限られますが・・・。

殆どの作品は読んだのですが、以前読んだ本の紹介は今一つできていません。今一番のっている作家さんの一人だと思います。

武曲(むこく)

羽田融はヒップホップに夢中な北鎌倉学院高校二年生。矢田部研吾はアルコール依存症で失職、今は警備員をしながら同校剣道部のコーチを務める。友人に道場に引っ張られ、渋々竹刀を握った融の姿に、研吾は「殺人刀」の遣い手と懼れられた父・将造と同じ天性の剣士を見た。剣豪小説の新時代を切り拓いた傑作。

 

どこかで剣道をテーマにした青春小説、という解説を見ていたので、誉田哲也の「武士道シリーズ」のような青春小説の男子版という感覚で読み始めたところ、全く異なる物語でした。

 

 

北鎌倉学院高校に通いラップ命と公言する羽田融(はだとおる)は、剣道部の上級生とのトラブルから防具をつけて試合をすることとなります。その折に、剣道部のコーチの矢田部研吾からたまたま一本を取ってしまいます。矢田部は羽田融に剣の才能を見出し、剣道を続けさせることになるのです。

この物語はエンターテインメント小説ではありません。どちらかというとコーチの矢田部研吾という人間の苦悩を描きたかったのではないかと思うほどに、矢田部研吾の心の裡にこれでもかと迫っていきます。

矢田部研吾の父矢田部将造は剣を殺人の道具として捉えている人で、研吾との立ち会いの結果、植物人間となっています。

一方、そうした事情もあってか研吾はアル中になり、剣の達人でもある光邑禅師に助けられ、剣道部のコーチとしているのです。

 

こうした事情を抱える矢田部研吾の内面の描写は、鬼気迫るものがあります。藤沢周という作家の本質が出ているのでしょう。気楽な気持ちで読み始めると思惑違いになります。

また、光邑禅師の存在は、研吾や羽田融にとって重要な役割を果たしていて、この物語に一段と深みを加えているようです。

羽田融は剣の道にラップと同じように自分を表現する道を見出し、のめり込んでいきます。この羽田融を描いている面では青春小説的な側面もあるのですが、より内心に踏み込んだ描写が為されていて、コーチである研吾との交流の場面は凄まじいものがあります。

 

研吾は、羽田融の中にこの父と同じ「殺人剣」を見、更に深くかかわっていくのです。

本の紹介に「超純文学」という言葉を使ってありました。造語でしょうが、本書の特徴をよく捉えた紹介文だと思うようになりました。

単なるエンターテインメントではないこの物語は気楽に読める本ではありませんし、剣道をかじったことがあるという、剣道の入り口に立っただけの私には分かりにくい描写もありましたが、それでもなお奇妙に魅かれる本でもあります。

 

ちなみに『武曲II』という作品が書かれているようです。

主演・綾野剛で映画化! 青春武道小説、待望の第二弾! 恐るべき剣の才能を持つラップ少年の羽田融。 高校三年生の冬の陣。 恋と、受験と、さらなる剣の高みへ。 壮絶な果たし合いを経てさらに激しい運命が……。

という惹句があるようです。早めに読みたいものです。

 

 

蛇足ながら、本書『武曲(むこく)』が映画化されるという話をネットで見つけました。

どんな映画になるのでしょう。今から楽しみですが、本書の谷田部の苦悩などがどれだけ表現できるか、剣道の場面はどうなのか、等々若干の不安はありますね。

藤沢 周

一冊しか読んでいないので藤沢周という作家についての感想は未だ書けません。

その読んだ一冊についての感想を一言で言うと、人間の内心へ踏み込んだ描写が巧み、ということでした。経歴を見てみると芥川賞を受賞されていると知り、一人で納得したものです。「花村萬月」氏もそうなのですが、芥川賞を受賞するような作家さんはやはり「人間」を描くことが中心になるのでしょう。

ということで芥川賞受賞者をざっと眺めてみたところ、近年の受賞者の作品は吉田修一、辺見庸を除けば殆ど読んでいませんでした。1970年代の村上龍の「限りなく透明に近いブルー」、三田誠広、池田満寿夫、宮本輝、高橋揆一郎、高橋三千綱と結構読んでいるのですが、やはり純文学系の作品は読むのに体力を必要とするのでしょうか。

デビュー作は『ゾーンを左に曲がれ』(『死亡遊戯』と改題)で、『ブエノスアイレス午前零時』で第 119 回芥川賞を受賞されています。

ボックス!

天才的なボクシングセンス、だけどお調子者の鏑矢義平と、勉強は得意、だけど運動は苦手な木樽優紀。真逆な性格の幼なじみ二人が恵美寿高校ボクシング部に入部した。一年生ながら圧倒的な強さで勝ち続ける鏑矢の目標は「高校3年間で八冠を獲ること」。だが彼の前に高校ボクシング界最強の男、稲村が現れる。(上巻「BOOK」データベースより)

稲村に勝つため、階級転向を希望する鏑矢。しかし監督はそれを認めない。一方、優紀は「いつかカブちゃんと戦いたい」その一心でデビュー戦に向けた練習を重ねていた。選抜予選大会3日目、ついに鏑矢と稲村の対戦が始まる。そして幼なじみ二人がグローブを重ねる瞬間がやってくる。圧倒的青春小説決定版。(下巻「BOOK」データベースより)

 

一人の天才型の少年と、秀才ではあるが運動は決して得意とはいえない少年が、共にボクシングに打ち込みライバル達との試合に臨む青春小説です。

 

ボクシングをテーマにした本は初めて読みました。

物語が結構定番に近いこともあり、ボクシングがテーマのわりには特別血が沸くというほどではありませんでしたが、物語の組み立てが上手いためか、結構引き込まれてしまったのも事実です。

ボクシングに関しての知識がふんだんに盛り込まれており、新しい情報を得たという意味でもそれなりに面白く読みました。

 

第30回吉川英治文学新人賞候補作品であり、第6回本屋大賞で5位になりました。

海賊とよばれた男

一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。( 上巻 : 「BOOK」データベースより )
敵は七人の魔女、待ち構えるのは英国海軍。ホルムズ海峡を突破せよ!戦後、国際石油カルテル「セブン・シスターズ」に蹂躙される日本。内外の敵に包囲され窮地に陥った鐡造は乾坤一擲の勝負に出る。それは大英帝国に経済封鎖されたイランにタンカーを派遣すること。世界が驚倒した「日章丸事件」の真実。( 下巻 : 「BOOK」データベースより )

出光興産の出光佐三をモデルとしたこの小説はまさにドラマであり、不屈の男の一代記です。つまり、いわゆるメジャーと言われる国際的な石油資本に対し、それに属しない独立系の会社という意味での民族派の石油資本である出光興産を起こした男の物語です。

この本の中にもありますが、私の地元の小(中?)学生の代表が、出光丸を見学するために上京した記憶があります。また、私が多分中学校の時の修学旅行の行き先の一つに、徳山にある出光興産の石油化学工場がありました。

本書の主人公国岡鐵造は日田重太郎から資本提供をうけ、国岡商店を興します。その後個人商店からから会社組織になり、その会社はやがて満州鉄道へ食い込むほどに成長します。そして、戦後の一からのやり直しの中育っていた社員という人材の力を合わせて、この困難を乗り越えるのです。そうした中での日本の独自の石油確保のための日章丸事件などの山を乗り越え、日本の石油産業がメジャーのくびきから解放されるまでの苦難の道のりが描かれています。

特に下巻の日章丸事件のくだりなどは手に汗握る男の物語であり、実話だとはとても思えないほどです。そうした男達の努力の上に今の私たちの生活があるということを忘れてはならないでしょう。



ただ、主人公と対立するメジャーの傀儡として描かれている旧来の石油業界が、あまりに一方的に悪とされている点が若干気になりました。もう少し旧勢力の側の事情を加味した描き方であれば更にのめりこめたのに、と思わざるを得なかったのです。とはいえ、旧勢力がメジャーの息がかかっていたことは事実でしょうから個人的な好みの問題になるのかもしれませんが。

2013年の「本屋大賞」受賞作品です。

同じような経済人の一代記としては、城山三郎価格破壊という作品がありました。今ではもうありませんが、あのダイエーを興した中内功をモデルとした作品で、既存の大手企業との闘いはもであるがあると知って驚いたものです。

また、一昔前の作品になりますが、獅子文六大番は、戦後の東京証券界でのし上がった男の一代記を描いた痛快人情小説です。実在の相場師、佐藤和三郎をモデルにした作品で、日本橋兜町での相場の仕手戦を描いていて、面白さは保証付きです。

百田 尚樹

1956(昭和31)年、大阪市生まれ。同志社大学中退。放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組構成を手がける。2006(平成18)年『永遠の0』で作家デビュー。他の著書に『海賊とよばれた男』(第10回本屋大賞受賞)『モンスター』『影法師』『大放言』『カエルの楽園』『雑談力』などがある。( 百田尚樹 | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )

百田尚樹という人は「探偵!ナイトスクープ」などの構成作家として長年勤めていると聞きます。だからこの作家は読み手の心に迫るストーリーの組み立が上手く、人間を描くのが上手いのでしょう。

作品ごとにその舞台設定が全く異なり、更には読者が全く知らない世界についての情報小説的なところもありながら、その上で登場人物が個性的で小説としての面白さがあるのですから、人気が高いのは良く分かります。

この人を語る上ではその舌下事件を抜きにしてはいけないでしょうね。その数も多すぎて、例示すらも困難なほどですが、NHK経営委員を務めたりする公的な身分をも有する人としては、如何なものかという気はします。

なお、「永遠の0」「モンスター 」は共に2013年に、「海賊とよばれた男」は2016年に映画化され、好評を博しました。ただ、「モンスター 」は2014年11月現在ではまだDVDとしては発売されていません。

雨やどり

舞台は新宿裏通りのバー街。「ルヰ」のバーテンダー仙田を主人公に、彼の前を通り過ぎて行く、いろいろな男と女の哀歓漂う人間模様を描き出す連作。直木賞受賞の表題作をはじめ、「おさせ伝説」「ふたり」「新宿の名人」など八篇を収録。(「BOOK」データベースより)

 

半村良の現代の新宿の街を舞台にした短編集です。

 

川口松太郎の「人情馬鹿物語」に触発(?)されたという半村良の言葉があったように記憶しています。

 

 

本書は、これまでのSF伝奇小説とはまったく異なる、現代の新宿の街での水商売の世界を舞台とした人情物語です。

新宿の小さなバーのマスターに持ち込まれる人生相談や事件をとおして、新宿の裏通りに繰り広げられる人間模様が描かれています。確か、主人公を愛川欽也が演じてテレビドラマ化もされたのではなかったでしょうか。

 

人情話が好きな人は時代物ばかりでなく、新宿の小さなバーのマスターを主人公とするこの人情物語を是非一読すべきです。いや、人情話に限らず小説好きの人には是非読んでもらいたい本の一冊です。

半村 良

半村良の作品は「およね平吉時穴道行」というSF短編集に始まり、ほぼ全部を読破していると思います。

その作品ジャンルは多岐にわたり、一つに絞ることはできません。でも少々乱暴に分ければ「産霊山秘録(むすびのやまひろく)」を始めとする伝奇小説の分野と、直木賞を受賞した「雨やどり」等の現代の人情ものとに大別できるのではないでしょうか。

不確かな記憶で申し訳ないのだけれど、「物語を紡ぐ作家でありたい」という趣旨のことを本のあとがきだったかどこかで半村良本人が語っていた記憶があります。また、これまた曖昧なのですが、影響を受けた本として国枝史郎の「神州纐纈城」(しんしゅうこうけつじょう)を挙げていた記憶があり、そのような物語を書きたいと思っていたそうです。

とにかく半村良という人は面白い物語の語り手として、確かにその仕事を果たしていると言えるのではないでしょうか。本当に残念なのですが2002年に68歳で亡くなられました。伝奇小説が好きな人はぜひ読んでみてください。