山猫の夏

舞台はブラジル東北部の町エクルウ。この町では、アンドラーデ家とビーステルフェルト家が、互いに反目し合い、抗争を繰り返している。ある日、アンドラーデ家の息子・フェルナンとビーステルフェルト家の娘・カロリーナが、駆け落ちする。その捜索を依頼された謎の日本人・山猫。ブラジル版ロミオとジュリエットに端を発した、山猫による血で血を洗う追跡劇が始まる。冷酷非道な山猫の正体と思惑、そして結末に明らかにされる衝撃の事実とは…?冒険小説の第一人者が描く、手に汗握る怒涛のストーリー。究極のエンタテイメント小説が復刊(「BOOK」データベースより)

 

名作といわれる長編の冒険小説です。

 

舞台はブラジルのエクルウという田舎町。エクルウでは抗争中の2つの家の息子と娘が駆け落ちをし、「山猫」と名乗る日本人が追跡者として雇われることとなる。

エクルウでバーテンダーをしていた日本人の「俺」は「山猫」の通訳兼助手となり、「山猫」の語り部として共に行動することになるのだった。

黒沢明の「用心棒」のような設定のアクション小説で、第3回日本冒険小説協会大賞と第6回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

 

 

本作『山猫の夏』と『神話の果て』『伝説なき地』とで南米三部作と呼ばれています。(下掲の二冊はKindl版です)

 

 

本作『山猫の夏』はこの作家の初期作品のうちの一冊ですが、舞台設定や登場人物の書き込みは情報豊富で、なお且つ痛快さを持っています。

 

軽く読める本ではありませんが、いわゆるライトノベル好きな人にも読み易い本かもしれません。30年近くも前の作品ですが、古さは感じないと思います。

てのひらの闇

飲料会社宣伝部課長・堀江はある日、会長・石崎から人命救助の場面を偶然写したというビデオテープを渡され、これを広告に使えないかと打診されるが、それがCG合成である事を見抜き、指摘する。その夜、会長は自殺した!!堀江は20年前に石崎から受けたある恩に報いるため、その死の謎を解明すべく動き出すが…。(「BOOK」データベースより)

 

藤原伊織の長編ハードボイルドミステリーです。

 

企業小説として読んでもいいような、作者の電通勤務時代の知識が書かせると思わせられる広告業界の内幕が語られるのですが、次第にバイオレンス色が濃くなっていきます。

主人公が暴力団の息子として鳴らしたものだったという設定ですから、そもそも暴力に対しての禁忌が低いのです。ストイックさをもあわせもつ主人公は、個性豊かな仲間の助けを借りて真相を探っていきます。

 

ストーリは言ってしまえば単純ですが、ミステリーの要素も含みながら個々の人間描写が魅力的です。厚みのあるその文章と共に、面白い小説の最右翼の一つだと思います。

続編として、遺作ともなった「名残り火 てのひらの闇Ⅱ」が書かれています。

 

ひまわりの祝祭

自殺した妻は妊娠を隠していた。何年か経ち彼女にそっくりな女と出会った秋山だが、突然まわりが騒々しくなる。ヤクザ、闇の大物、昔の会社のスポンサー筋などの影がちらつく中、キーワードはゴッホの「ひまわり」だと気づくが…。名作『テロリストのパラソル』をしのぐ、ハードボイルド・ミステリーの傑作長編。(「BOOK」データベースより)

 

藤原伊織の長編ハードボイルドミステリーです。

 

あるカジノで、妻の死以来怠惰な日々を送る主人公の前に死んだ妻そっくりの女性が現れます。その後、何かと面倒なことが起き始めますが、それらの出来事の中心にはゴッホの「ひまわり」があるらしい。

 

ゴッホの8枚目の「ひまわり」の謎に加え、主人公の死んだ妻の死にまつわる謎もからめ、様々な個性的な人物が登場し、物語は展開します。

本作品は、この作家の会話の妙が十分に堪能できる作品であることに加え、エンタテイメント作品としての面白さがあります。

郷原宏氏の言葉を借りれば、本書の魅力とは「正確で美しい日本語、時代性を刻印した軽妙な会話、魅力的で彫りの深い登場人物群、奇想天外でしかも臨場感に満ちた物語展開」にあるのです。

また、誰かが本書を評して「愛の物語」と書いていましたが、まさにその通りではないでしょうか。

面白い小説として自信を持ってお勧めできます。

テロリストのパラソル

本書『テロリストのパラソル』は、文庫本で383頁の長編の冒険小説です。

1995年に第41回江戸川乱歩賞、翌1996年に第114回直木賞の両賞受賞という史上初の快挙を成し遂げているというのも納得できる作品です。

 

テロリストのパラソル』の簡単なあらすじ

 

乱歩賞&直木賞ダブル受賞、不朽の傑作ミステリ!
爆弾テロ事件の容疑者となったバーテンダーが、過去と対峙しながら事件の真相に迫る。逢坂剛・黒川博行両氏による追悼対談を収録。
ある土曜日の朝、アル中のバーテンダー・島村は、新宿の公園で1日の最初のウイスキーを口にしていた。そのとき、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。全共闘運動に身を投じ、脛に傷を持つ島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。後日、テロの犠牲者の中には“同志”だった学生時代の恋人と、ともに指名手配された男が含まれていたことが判明した。島村は容疑者として追われながら、事件の真相に迫ろうとする――。
江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した、小説史上に燦然と輝く傑作。(「BOOK」データベースより)

 

とある昼間、新宿の中央公園で爆発が起こった。

近くで飲んでいた島村はからくも爆発には巻き込まれなかったのだが、同様の事件を起こし人死にを出した過去を持つ身であるため、その場から立ち去ってしまう。

しかし、その時自らが現場に残したウィスキーの瓶からは島村の指紋が検出され、更にはその爆発での島村の過去につながる人の死を知り、爆発事件の真相を探るべく動き始めるのだった。

 

テロリストのパラソル』の感想

 

本書『テロリストのパラソル』では、世に潜みつつアルコールに溺れる日々を送る主人公が、自らの過去に立ち向かうその筋立てが、多分緻密に計算されたされたであろう伏線とせりふ回しとでテンポよく進みます。

適度に緊張感を持って展開する物語は、会話の巧みさとも相まって読み手を飽きさせないのです。

暴力的というわけでもなく、露骨に事件について嗅ぎまわる姿が描いているわけもありません。

しかし、文学的とも称される格調高い文章で語られるこの物語は、主人公の気の利いた台詞とも相まって読者を引きずり込んでしまうのです。

 

第165回直木賞の候補となった『おれたちの歌を歌え』を書いた呉勝浩は、自分なりの本書『テロリストのパラソル』を書きたかった、と書いておられました。

 

 

本書『テロリストのパラソル』を是非読んでください。面白い作品です。

小川の辺 [DVD]

藤沢周平作品の中でもひと際名作との声が高い「小川の辺」を、篠原哲雄監督が東山紀之主演で映画化。藩政を痛烈に批判して脱藩した佐久間を討つよう命じられた海坂藩士・戌井朔之助。しかし、佐久間は朔之助の親友であり、妹・田鶴の夫であった。(「キネマ旬報社」データベースより)

必死剣鳥刺し [DVD]

藤沢周平の原作を、豊川悦司主演で映画化した時代劇。海坂藩の物頭・兼見三左エ門が、藩主・右京太夫の愛人・連子を城中で殺害する事件が発生。しかし、意外にも寛大な処分が下された三左エ門は、1年の閉門後、再び藩主に仕えることになり…。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

豊川悦司が好きな役者さんなので、それだけでいいのです。更に言えば、殺陣が素晴らしく、見応えのあるものでした。

花のあと [DVD]

藤沢周平の短編時代小説を北川景子主演で映画化。藩の要職を務める名門・寺井家のひとり娘として生まれた以登。幼少の頃から父より剣の手ほどきを受けていた彼女が、武士の家に生まれた運命を受け入れながら凛として生きていく姿を描く。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

以登が剣術の達人という設定ですが、剣道の素養が見えない北川景子には少々かわいそうかと思いました。感想と言えばそのくらいでしょうか。

藤沢作品をうまく映像化した、というわけでもなく、だからと言って見る価値もない、とも言えず、可もなく不可もないとしか言えない、というところです。

山桜 [DVD]

藤沢周平による原作を時代劇初挑戦の田中麗奈と東山紀之主演で映画化。辛い結婚生活を耐え忍ぶ女性が、かつて縁談を断った実直な侍と山桜の下で偶然出会い人生の光明を見つけ出す。篠田三郎、壇ふみ、村井国夫ら実力派俳優人らが脇を固める。(「キネマ旬報社」データベースより)

武士の一分 [DVD]

海坂藩の下級武士、三村新之丞は最愛の妻・加世とつましく暮らしていたが、新之丞が失明した日から平和な日々は暗転してしまう。自害しようとする夫を必死に思い留まらせる加世は、愛する夫のために罠にはまり…。木村拓哉を主演に迎え、監督・山田洋次×原作・藤沢周平「盲目剣谺返し」(「隠し剣秋風抄」文春文庫刊)で贈る、時代劇三部作の最後を飾る「武士の一分」がDVD化。(「Oricon」データベースより)

 

山田洋次監督の藤沢作品三部作の最後の作品です

 

申し訳ないけど、主人公が木村拓哉でなかったら、と思ってしまいました。この人はどこでも木村拓哉でしかないと感じてしまうのです。けっして、下手だとは思わないのですが、イメージが固定し過ぎてしまい、ある意味可愛そうな役者さんだと思います。

隠し剣 鬼の爪 [DVD]

『たそがれ清兵衛』から2年。山田洋次が監督・脚本を務め、藤沢周平原作によるふたつの短編小説を元に男女の悲恋を描いた時代劇。幕末を迎えた江戸時代を舞台に、下級武士である片桐宗蔵と、かつての片桐家の奉公人・きえが恋に揺れ悩む姿を静かに映す。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

山田洋次監督が『たそがれ清兵衛』に続いて藤沢周平の時代小説を原作として作り上げた作品です。

永瀬正敏が主人公を演じ、松たか子ほかが出演しています。