さらば、荒野

港町N市にある酒場「ブラディ・ドール」。店のオーナー・川中良一の元に、市長の稲村からある提案が持ちかけられた。その直後、弟の新司が行方不明になっていることを知った川中は、手掛かりを掴むために動き出す。新司は勤務先から機密事項を持ち出し、女と失踪している事が判明した。いったい弟は何を持ち出したのか!?そして黒幕は――。
ハードボイルド小説の最高峰が、ここに甦る。シリーズ第一弾!!( BLOODY DOLL 北方謙三 シリーズ第一弾『さらば、荒野』紹介文 : 参照 )

東京から3時間も飛ばせばたどり着くN市でキャバレーとバーを経営している川中は、レーザーの研究をしている弟が会社から機密資料を盗みだしたとして、色々なところから接触をうけます。莫大な金が絡むその情報を握る弟を助けるべく、川中は行動を開始するのですが、その先に待っているのは思いもかけない事実でした。

この本を読むのはもう何度目のことでしょうか。何度読んでもその面白さは色褪せません。本書は「ブラディドール」シリーズの第一作目の作品です。1983年に本書が出版され、1992年に最終巻の『ふたたびの、荒野』が出るまで、シリーズ全10巻が続きます。

「北方ハードボイルドは“男はこうあらねばならぬ”という生き方を書いている」と言ったのは逢坂剛です。また、「北方ハードボイルドは精神と肉体の軋みを書く」と言ったのは大沢在昌です。共にハードボイルド作家の第一人者ですが、的確な表現はさすがです。

本書でも、主人公の川中は北方謙三の思う「男」を体現しています。更に言えば、キドニー他の本書に登場する男達皆がそうです。その上で、皆が実にキザな言葉を吐きます。ベタなハードボイルドで必ず言いそうな言葉が次々に出て来ます。驚くのは、それらの言葉がから回りすることなく、その場面の雰囲気をきちんと構築し、作品全体として成立していることです。よく考えて見ると、こうした台詞を違和感なく言わせる、そのことこそが作家の力量でしょう。だからこそ面白いし、人気もある。

本書はシリーズの中でも少々異なる一冊のように感じていましたが、今回読み返してみて、その印象は多分間違いないと思っています。というのも、第二巻の『碑銘』からが「ブラディドール」シリーズが本当に始まると思えるからです。それは、キドニーや坂井といった強烈な男達が本格的に動き始めるのが第二巻以降だからでしょう。

勿論、本書でも藤木のような男は既に登場してはいるのですが、本書ではまだ川中個人の問題が物語の中心なのです。ですが、このことは本書が面白さにおいて劣るということを意味しません。面白さの質がちょっと違うと思うだけです。

本書以降、例えば第二巻の『碑銘』では坂井直司が、第三巻『肉迫』では秋山が、それぞれに主人公となり話が進みます。視点の異なるそれらの作品は、また時間を見つけて再度読み返してみようと思わせるシリーズなのです。

蛇足ながら、2016年9月ころから、『ブラディ・ドールシリーズ』がハルキ文庫(角川春樹事務所)から再び刊行されているようです。2017年5月現在で第五巻の「黒銹」までが出版されています。

疾走

凄腕の始末屋として恐れられた榊原健三は、今では名前を偽り、人目を避けて山奥で暮らしていた。そんなある日、かつての恋人・多恵子の息子である恵太が、〈低レベル廃棄物処理研究施設・えびす〉見学に現れると知った健三は、胸騒ぎを覚える。だが、恵太をひと目見たい一心で施設に向った彼の前に、想像を絶する惨劇が待ち構えていた―――。命の危機に晒された恵太と同級生を救うため、健三はすべてを捨てて走り始める。傑作長編ハードボイルド。(全二巻)

〈低レベル廃棄物処研究施設・えびす〉での惨劇を目撃し、命を狙われる恵太と純江を救うため、榊原健三たちは、山林での逃亡を続けていた。執拗な“施設”の追跡により、健三たちは疲幣し、徐々に追い込まれていく。だが、そんな健三たちの逃走を陰で支えるものたちがいた―――。果たして健三は、恵太たちを守りぬけるのか! ? 東直己作品の主人公たちが集う記念すべき傑作長編、待望の文庫化。(全二巻)

 

榊原健三シリーズの第三弾の全二巻の長編小説です。

 

前作「残光」『残光』に続く、東直己ワールドが展開します。ただ、「俺」の活躍場面は少ないのが少々残念ですが、代わりに探偵畝原が顔を見せます。前作で「俺」が足手まといになったので、少なくとも体力的にましな畝原を登場させたのかもしれません。

しかし、疾走感も十分にあり、面白い小説です。

残光

凄腕の始末屋として恐れられた榊原健三は、今までは人目を避けて山奥で暮らしていた。ある日、山を下りた彼の目に飛び込んできたのは、テレビに映ったかつての恋人・多恵子の姿だった―――。事件に巻き込まれた多恵子の息子を救うべく、健三は単身札幌へと向かう。だが、彼女の息子が巻き込まれたのは、単なる人質事件ではなかった・・・・・。 第54回日本推理作家協会賞を受賞した傑作長編ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

榊原健三シリーズの第二弾となる長編小説です。

 

メモが残っていません。ただ、面白い小説であることは間違いありません。

フリージア

過去を隠し、人目を避けて山奥で暮らす榊原健三の許に、かつての暴力団仲間が現れた。その男が見せた数枚の写真には、髪型をかえて容貌が変わったが、健三が決して見間違うはずのない多恵子の姿が写っていた。多恵子が狙われていると知ったその瞬間から、健三の闘いが始まった―。札幌に進出を企む関西暴力団との抗争に巻き込まれたかつての恋人を、男は守りぬけるのか!?傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

榊原健三シリーズの第一弾となる長編小説です。

 

ススキノ探偵や私立探偵畝原とは全く異なるピカレスクロマンと言って良いのでしょう。 一種のファンタジーとして読みました。スーパーヒーローの活躍する物語です。

 

主人公の榊原はストイックで、強さは半端なく、普段は片田舎で木工製品を売って生活の糧にしています。そこに昔の兄貴分が、かつての恋人との安全との引き換えに助っ人を頼みに来ます。

かつての恋人の身の安全を取引の材料にしたためにこの兄貴分を殺し、更に恋人の情報を知っているだろう昔の仲間を殺しに札幌の街に現れます。

読み手には物語の背景情報は全く与えられず、話が進むにつれ少しずつ明かされます。

 

面白い物語というものは登場人物のキャラクタ設定がよくできているとあらためて感じさせられた作品でした。

かつての西村寿行の本は、例えば『鯱シリーズ』のような作品では全くの荒唐無稽なスーパーヒーローの活躍の物語でした。

 

 

この作品は、西村寿行よりはり現実的ですが、『ススキノ探偵シリーズ』よりは夢物語です。

でも、面白い。

文体を別にすれば大沢在昌の小説に出てきてもおかしくない主人公のような気がします。北方謙三には出てこないでしょう。

鈴蘭

探偵・畝原は、地元テレビ局の祖辺嶋の依頼で、家族旅行も兼ねて、札幌郊外にあるナチュラル・パークの視察と経営者の早山という男の身辺調査をしにいくことになった。だが家族団らんも束の間。そこに大音量をあげながら一台の車が現われた。車の男は近所にゴミ山とともに暮らしているのだという。一方で畝原は兼田というヤクザ者から行方不明になった恩師の調査を依頼される。やがて調査の中で、それぞれの悲しき過去を知ることになるのだが…。「私立探偵・畝原」シリーズ待望の文庫化!(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第八弾の長編ハードボイルド小説です。

 

この作家は、このシリーズでは、というより『ススキノ探偵シリーズ』もそうだけど、現実におきた事件若しくは出来事をテーマに作品を仕上げているようです。本作もごみ屋敷と貧困ビジネスという二つの問題を大きな縦糸として練り上げられています。

ススキノ探偵シリーズに比べ、トーンが重い本シリーズですが、相変わらず登場人物の個性が際立っていて物語として面白いのです。

先日読んだ大御所チャンドラーの文章と比べても非常に読み易いのです。描写も、チャンドラーは偏執的と言われかねない緻密さで情景を描写するのですが、こちらはただ単に映像を切り取りそこに置いただけで、後は読み手の想像力にまかせているような感じがします。

 

どちらも、暴力に対する耐性はかなり強いものがあるようです。畝原探偵に至っては、招待状無しにやくざのパーティーにも何の躊躇も無く参加できるという、恐怖感が欠落しているとしか言えない程の度胸もありそうです。そこらが現実社会との乖離を感じないででもないのですが。

しかし、相変わらず面白いシリーズではあります。

眩暈

私立探偵の畝原はある夜、なにかから逃げている様子の少女を目撃する。乗っていたタクシーで慌てて引き返すものの、少女の姿は忽然と消えていた。翌日、無残な遺体となって発見される少女。畝原は、自責の念から独り聞き込みを行うが、少女の両親の態度に不審を抱くのだった。さらに、かつて連続殺人を犯した少年が周辺に住んでいるという噂が…。果たして少女殺害事件との関わりはあるのか。そして第二の殺人事件が―。私立探偵・畝原シリーズ待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第七弾の長編ハードボイルド小説です。

 

人気作家なのだから当たり前ではあるのだけれど、この作家は物語の作り方が上手いと思います。

このシリーズでも人物造形が極端だとは思いながらも、ありがちとも思える人物、そこまで行くかという人物が多数登場し、そうした人物がストーリーを面白くさせていることもまた間違いないと思われます。

謎解きが好きな人たちには物足りなさがあるかもしれませんが、個人的には、ストーリー重視の物語が好きなので、なお更にはまるのだと思っています。また、社会派と言われる作家の方が好みだし、この人も現実社会に起きている事件をヒントに物語を構築しているようで、そこが私の好みに合うのでしょう。

主人公が家に帰り、家族の日常の微笑の中に幸せを感じるくだりなど、私の好みにぴたりとはまるのです。

挑発者

「エスパーを自称する男から父親を救ってほしい」―私立探偵・畝原に依頼してきた男は、飲食店を運営する会社の専務で美咲と名乗った。巽大人という怪しげな男に父親である社長が惚れ込み、多額の投資を進めているというのだ。社長の前で巽の詐称を暴く畝原。巽を撃退し、事は済んだかに思われた…。後日、クラブ・キャストたちのミスコンテストの素行調査を依頼された畝原は、その途中何者かに襲われる―。傑作長篇ハードボイルド。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

クラブ・キャストたちのコンテストの素行調査を行っていた畝原は、その帰りに何者かに襲われた。畝原が撃退した、自称エスパーの巽たちの仕業なのか。そんな矢先、巽たちの詐欺商法を証言した男が、殺害される事件が起きた。さらに、取材したテレビ・クルーも行方不明に。一方、調査を重ねるごとにミス・コンテストの女性たちに不審な動きが…。身の危険を感じつつ、畝原は真相に近づく。待望の完結篇。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第六弾の長編ハードボイルド小説です。

 

似非超能力者の正体を暴いたことで、正体不明の集団から襲われる毎日を送ることになります。主人公はそうした中でも仕事は続けなければならず、キャバクラの女たちのミスコンのための身辺調査や、夫の浮気調査をこなしています。

そうした日々の中で殺人事件が連続し、事件は主人公の畝原が請けた調査に絡んでくるのです。

 

シリーズの流れの中で、新しい生活を得た畝原の身辺は相変わらず暴力の危険に満ち溢れており、家族もその渦中に居ます。

普通のスーパーマーケットで買ったシャツを着る等身大の主人公の生活の中で、この理不尽な暴力への接触だけが特殊で、その特殊な環境の中でこそ主人公の活躍の場面があるようです。

並行する事件の中での殺人事件、その残酷さ、それにより引き起こされる悲哀が丁寧に描写され、一方で家庭の温かさが描かれます。

暴力に対して強さを持つ半面、人間としての弱さをも併せ持つ主人公の行動は、その点で読者に共感を呼ぶのではないでしょうか。

 

ストーリーは若干冗長な点が無きにしも非ずと感じたのですが、それよりも数段面白さの方が勝ち、長編であることを忘れさせてくれました。

墜落

女子高生の素行調査を引き受けた私立探偵畝原は、その行動に驚愕した。ホストクラブに出入りし、そのお金を稼ぐために老人に身体を売っていたのだ。一方、猫の首なし死体が投げ込まれるという相談を受けた畝原は、依頼主の経営する駐車場で、殺人事件に巻き込まれる。畝原を狙ったものなのか?彼が受けた二つの依頼に、ある共通点が見えた時、事件の恐るべき実体が明らかになる―。私立探偵畝原シリーズ、待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第五弾の長編ハードボイルド小説です。

 

本書に関しては、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません

熾火

私立探偵・畝原は、足許に突然縋りついてきた少女に驚きを隠せなかった。彼女は血塗れで、体中が傷ついていたのだ―。言葉も発することなく意識を失った少女。だが、収容先の病院で、少女を狙ったと思われる人物たちに、畝原の友人・姉川が連れ去られてしまう。何かを隠すような警察の捜査と少女の疵跡は、何を意味するのか。姉川を救うため、畝原は恐るべき犯人と対峙する。傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

本書に関しても、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません

悲鳴

ごくありふれた浮気調査のはずだった。私立探偵・畝原の許へ現れた女は、夫の浮気現場の撮影を依頼してきた。だが、畝原が調査を始めると依頼人から指定された現場に現れたのは夫の本当の“妻”だったのだ。依頼人の女は、何者なのか?やがて畝原へのいやがらせが始まり、依頼人の女に関わった者たちに危機が。警察、行政をも敵に回す恐るべき事実とは何か!?深く刻まれた現代の疵を描く、傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

本書に関しては、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません。