深川安楽亭

抜け荷(密貿易)の拠点、深川安楽亭にたむろする命知らずの無頼な若者たちが、恋人の身請金を盗み出して袋叩きにされたお店者に示す命がけの無償の善意を、不気味な雰囲気をたたえた文章のうちに描いた表題作。完成されたものとしては著者最後の作品となった「枡落し」。ほかに「内蔵允留守」「おかよ」「水の下の石」「百足ちがい」「あすなろう」「十八条乙」など全12編を収録する。(「Amazon」紹介文より)

短編集です。私が友人に勧められて最初に読んだのがこの本でした。山本周五郎の各年代の作品が収納されているので、入門用としても良いのではないでしょうか。

標題にもなっている「深川安楽亭」はいわゆる一場面ものです。決して明るい話ではないのですが、しずかに心に沁み入ってくる物語です。

赤ひげ

山本周五郎原作の小説を黒澤明監督が映画化した作品。江戸時代の医療施設・小石川養生所を舞台に、出世の野心に燃えるエリート医師が長屋で暮らす人々との触れ合いを通して成長していく姿を描く。出演は三船敏郎、加山雄三、山崎努ほか。(「Oricon」データベースより)

かなり昔に見たのですが、内容はあまり覚えていません。

また、2018年に船越英一郎の主演でNHKの土曜時代ドラマでドラマ化されました。

赤ひげ | NHK 土曜時代ドラマ : 参照

 

赤ひげ診療譚

幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は尽く赤ひげに反抗するが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く快作。

 

青年医師の眼を通して「赤ひげ」と呼ばれる一人の医師の姿を描き出す、長編の時代小説です。

この青年医師の成長譚という見方もできるかもしれません

 

この作品も映画化されています。主人公の赤ひげ医師を三船敏郎、赤ひげ医師に師事する青年医師を加山雄三が演じていました。

 

 

ちなみに、本作品は上掲の新潮文庫版以外に、角川春樹事務所の時代小説文庫からも出版されています。

 

樅ノ木は残った [DVD]

平和な世に突如起こった伊達藩のお家騒動。幕府・藩内に渦巻く人々の情念を描いたドラマ。

寛永11年、仙台藩に起きた伊達騒動を題材に、命をかけて伊達62万石のお家安泰をはかった家老・原田甲斐の苦悩と、孤独の中に信念を貫く姿を描く。主人公の相手役、吉永小百合と栗原小巻が男性ファンの人気を二分したことでも話題に。(商品の説明 より)

 

1970年の平幹二朗主演で放映されたNHK大河ドラマの総集編です。

私は未見です。

 

上記各リンクは、DVD二枚にまとめられた総集編です。

また、1990年に里美浩太朗、西郷輝彦らの出演で、日本テレビ系で放映された大型時代劇スペシャルのものもあります。

樅ノ木は残った 日テレ版』 : 参照

樅ノ木は残った

生誕100年。いま、この時代だから、山本周五郎の世界。必死に生きる私たちを静かに励ましてくれる……。
仙台藩主・伊達綱宗、幕府から不作法の儀により逼塞を申しつけられる。明くる夜、藩士四名が「上意討ち」を口にする者たちによって斬殺される。いわゆる「伊達騒動」の始まりである。その背後に存在する幕府老中・酒井雅楽頭と仙台藩主一族・伊達兵部とのあいだの六十二万石分与の密約。この密約にこめられた幕府の意図を見抜いた宿老・原田甲斐は、ただひとり、いかに闘い抜いたのか。(「内容紹介」より)

 

伊達騒動を主題に、それまで悪人との評価が定説だった原田甲斐を主人公として、武家社会の確執を描いた、長編の時代小説です。

 

この本を読むまで、伊達騒動の何たるやも知らず、従って原田甲斐が悪役であったことなど何も知らない私でした。NHKの大河ドラマで本書『樅ノ木は残った』を原作としたドラマが放映されたのが1970年ですので、このドラマを先に見たことになります。

平幹二朗が原田甲斐を演じていたことだけを覚えていて、ドラマ自体は途中でろくに見ていないのです。なにせ、私も高校生なのですから。

 

その後、山本周五郎という作家を知り、全作品を読破する中で本書も読んだのですが、主人公原田の生きざまに心打たれました。この思いは私だけではなく、全ての人に共通して心に迫り、だからこそ何度も映画化、ドラマ化がされているのでしょう。

山本周五郎文学の最高の一冊の一つだと思います。

 

ちなみに、本書は新潮文庫から全三冊として出版されているのですが、AmazonからKindle版として合本版が出ています。

 

さぶ

小舟町の芳古堂に奉公する栄二とさぶ。才気煥発な栄二と少し鈍いがまっすぐに生きるさぶ。ある日、栄二は身に覚えのない盗みを咎められ、芳古堂から放逐されてしまう。自棄になった栄二は身を持ち崩し人足寄場へ送られるが―。生きることは苦しみか、希望か。市井にあり、人間の本質を見つめ続けた作家の代表作。(「BOOK」データベースより)

 

人間の優しさについて深く考えさせられる、山本周五郎が描く長編の人情小説です。

 

書名は「さぶ」ですが、物語はさぶの親友である栄二を中心に進みます。

どんくさい「さぶ」を利発な「栄二」が助けながら、経師屋で修業している二人でした。しかし、ある日盗みの濡れ衣を着せられた栄二は、人足寄せ場に送られてしまいます。苦労の末に栄二を探し出したさぶをも追い返してしまうほどに、世をすねた目でしか見られなくなった栄二ですが、人足寄せ場でいろいろな人たちに出会うのです。

徹底したさぶの人の良さ、善意を主題とし、人はここまで優しくなれるものか、とどこか映画のコピーで使われそうな言葉がそのまま当てはまる物語です。その爽快な読後感は素晴らしいものがあります。

山本周五郎といえば新潮文庫だと思っていたのですが、2018年になり講談社文庫、角川文庫からも出版されていました。

 

 

つばくろ越え

江戸と諸国を独りで結ぶ、通し飛脚。並外れた脚力に加え、預かった金品を守るため、肝がすわり機転がきき、腕も立つ男でなければ務まらぬ。蓬莱屋勝五郎の命を受け、影の飛脚たちは今日も道なき道を走る。ある者は寄る辺ない孤児を拾い、ある者は男女の永遠の別れに立会う。痛快な活劇と胸を打つ人間ドラマを共に備えた四篇を収録。著者の新世紀を告げる時代小説シリーズ、ここに開幕。(「BOOK」データベースより)

 

飛脚問屋蓬莱屋シリーズの第一作目の四編の短編を収めた時代小説集です。

 

飛脚問屋蓬莱屋の雇人夫々に焦点が当たり、各短編を構成しています。そして全体として飛脚問屋蓬莱屋の物語なのです。

夫々の短編の主人公の書き分けが若干分かりにくいかなという気はしますが、それでも、その人物なりの生き方を芯に持って、ただひたすらに生きていく様が描写されています。

 

この本を読んで久しぶりに良質のハードボイルドに出会った気がして、また志水辰夫の未読の本を数冊読むことになりました。

みのたけの春

幕末の北但馬。寂れつつある農村の郷士・清吉は、病気の母と借財を抱えながらも、つましく暮らしていた。ある日、私塾に通う仲間・民三郎が刃傷沙汰を起こす。清吉は友を救うべく立ち上がるが、事態は思わぬ波紋を呼んだ。激動の予兆に満ちた時運に、民三郎らが身を委ねていくなか、清吉はただ日常をあくせくと生きていく道を選ぶのだった。名もなき青春群像をみずみずしく描いた傑作時代長編。(「BOOK」データベースより)

 

志水辰夫の描く第二弾の長編時代小説です。

 

幕末、若者は時代の変革に乗り遅れまいとしますが、主人公の暮らす田舎へも時代の波は押しかけます。

病の母の看病に追われる主人公はその波に飲み込まれようとする仲間を引きとめますが、時代はそれを許そうとはしません。主人公とその仲間の生きざまを描きだす名品だと思います。

 

いわゆるヒーローが活躍するハードボイルドではありませんが、主人公の内面を叙情的な文体で照らしだす本書はまさにシミタツ節です。

本書は志水辰夫の時代物第二作です。

約束の地

ただひとりの肉親だった祖父を目の前で殺害された渋木祐介少年の生活は、その日を境に一変した。事件を契機に、大物右翼の庇護を離れて成長していった祐介は、やがて祖父と自身の出自、そして祖父の死の真相を知ることになる。運命に弄ばれるかのように、波乱の人生を送る祐介の姿を描いた長編冒険小説。(「BOOK」データベースより)

 

主人公は幼いころは祖父のもとで暮らしています。しかし、目の前で祖父を殺され生活は一変します。長じて自身や祖父のの秘密が明らかになるにつれ、トルコやアルメニアの歴史が絡むスケールの大きな話になっていきます。

 

この本を紹介するのはもしかしたら間違いかもしれない、と思うほどに少々とりつきにくい本です。

しかし、後半展開が動いてくるにつれ物語に引き込まれていきます。