『外科医、島へ 泣くな研修医6』とは
本書『外科医、島へ 泣くな研修医6』は『泣くな研修医シリーズ』の第六弾で、2024年1月に幻冬舎から312頁の文庫本書き下ろしで刊行された長編の医療小説です。
成長した主人公が、離島へ行きさらなる成長を遂げる姿が描かれる感動に満ちた青春小説でもあります。
『外科医、島へ 泣くな研修医6』の簡単なあらすじ
半年の任期で離島の診療所に派遣された、三一歳の外科医・雨野隆治。島ではあらゆる病気を診なければならず、自分の未熟さを思い知る。束の間の息抜きを楽しんだ夏祭りの夜に、駐在所の警官から電話が。それは竹藪で見つかった身元不明の死体を検死してほしいという依頼だったー。現役外科医が生と死の現場をリアルに描く、シリーズ第六弾。(「BOOK」データベースより)
なる牛ノ町病院に勤め始めて七年になる雨野隆治に離島の診療所に行かないかという話が飛び込んできた。三宅島から船で一時間ほどの神仙島の診療所への派遣医がいないというのだ。
島へ着いた隆治を港まで出迎えたのは半田志真という診療所の看護師であり、診療所では島に勤務して三十二年になるという所長の瀬戸山という外科医が出迎えてくれた。
瀬戸山によれば、この診療所は透析設備まで備えており島の規模の割にはなかなかだというが、島にいる医者は隆治と瀬戸山の二人だけであり、小児科から産科や眼科等なんでも対応しなければならなかった。
不安になる隆治だったが、半田志真やもう一人の繁田秀子という看護師の助けを借りて何とかこなしていく隆治だった。
そのうちに工事現場で事故があり重症患者が運ばれてきたが、瀬戸山所長はこの診療所での開腹手術などできないという。
都立病院へヘリ搬送するしかないが、ヘリでの搬送は先方での開腹まで四時間ほどかかるというのだった。
『外科医、島へ 泣くな研修医6』の感想
本書『外科医、島へ 泣くな研修医6』は、『泣くな研修医シリーズ』の第六弾となる長編医療小説です。
シリーズ名は『泣くな研修医シリーズ』ではありますが、本書の主人公の雨野隆治はもう外科医として六年目になる一人前と言っていい(と思われる)お医者さんです。
その主人公が、三宅島からさらに船で一時間ほどのところにある神仙島へ派遣医師として行き、半年間の約束で都会とは異なる環境で医者として新たな試練に直面する姿が描かれます。
医者とは、医療とはなにかという主人公につきつけられる現実を乗り越える姿が感動的に描かれる作品になっています。
神仙島での隆治は、外科が専門などと言っておられず、小児科であろうと産科であろうと、いかなる病にも対応しなければなりません。
でも、たとえ外科のことであっても医療設備は都会の病院とは異なっており、少しのことでも瀬戸山や半田ら看護師を頼りにせざるを得ず、ましてや専門外のこととなれば自分の医者としての技量の無さに打ちのめされることになります。
それでも、そうしたことを覚悟の上で自分が医者として生きていく上で勉強になるからと神仙島へ来ることを承諾したことを思いだし、必死で努力する姿が描かれているのです。
医療小説と言えば、死を目の前にした患者に対して何も手を打つことのできない医者の無力さなどがよく変わられるところです。それは、人の命をテーマにするという医療小説の宿命とでもいうべきものでしょう。
そうした医療小説は少なからずのものがありますが、結局は同じように人の死に直面する医者の姿が描かれてはいてもそれぞれの作品が個性を持った作品として成立しています。
例えば、夏川草介の『神様のカルテシリーズ』や、大鐘稔彦の『孤高のメス―外科医当麻鉄彦』などはそれぞれに異なった医療に対する描き方が為されているのです。
話を本書『外科医、島へ 泣くな研修医6』に戻すと、本書ではこれまでとは異なってミステリアスな事件も舞い込む展開まで見られます。さらには隆治の新たな恋心まで見ることができるのです。
医療小説として新刊が期待されるシリーズ物となっています。次巻を期待している作品です。