悩め医学生 泣くな研修医5

悩め医学生 泣くな研修医5』とは

 

本書『悩め医学生 泣くな研修医5』は『泣くな研修医シリーズ』の第六弾で、2023年4月に320頁の文庫本書き下ろしで刊行された、長編の青春医療小説です。

よく知らなかった医学部生の毎日が描かれていて、お仕事小説的な面白さとともに青春小説の爽やかさも持った作品でした。

 

悩め医学生 泣くな研修医5』の簡単なあらすじ

 

一浪で憧れの医学部に入学した雨野隆治を待ち受けていたのは、ハードな講義と試験、衝撃の解剖実習・病院実習。自分なんかが医者になれるのか?なっていいのか?悩みながらも、仲間と励ましあい、患者さんに教えられ、隆治は最後の関門・国家試験に挑むー。現役外科医が鹿児島を舞台に医者の卵たちの青春をリアルに描く、人気シリーズ第五弾。(「BOOK」データベースより)

 

悩め医学生 泣くな研修医5』の感想

 

本書『悩め医学生 泣くな研修医5』は、主人公の雨宮隆治の医学生時代が描かれている、青春医療小説です。

これまでこのシリーズでは、東京の下町の総合病院で新人外科医となった主人公の一年目から成長していく姿が描かれていました。

ところが本書では舞台となる病院へ赴任する以前の鹿児島の国立大学医学部を目指す受験制時代から合格後の医学部時代までが描かれています。

医学生時代の過酷な講義に加えての病院実習や解剖実習、そののち研修医となる主人公の姿は、青春小説の一場面であるとともに医療小説として「命」というものをあらためて考えさせられる作品でもありました。

 

私自身は文系の大学生活を送っていたこともあっていわゆる普通の大学生生活を送っていましたが、理系の学部に行った仲間はそれなりに忙しくしていたのを思い出します。

なかでも医学部に進んだ同級生たちは確かに勉強ばかりしていたそうです。

と言うのも私の周りにいたのは出来の良くない仲間ばかりでしたので医学部生は卒業以来殆ど会っていなかったというのが本当のところなのです。

ですから、かれら医学部生の忙しさが本書でよく理解できたといっても過言ではありません。

 

今では夏川草介などを始めとしてかなりの数の医療小説が出版されていますが、医学生時代を正面から描いた作品は私が知る限りではありません。

ただ、夏川草介の『神様のカルテシリーズ』の短編集である『神様のカルテ 0』の第一話「有明」が信濃大学医学部学生寮の「有明寮」での出来事を描いた作品として思い浮かぶだけです。

他にも、作品の中で登場人物の学生時代が描かれていた医療小説はあったかもしれませんが、明確に覚えているものはありません。

 

 

もっとも、佐竹アキノリ著の『ホワイトルーキーズ』という作品が四人の研修医の話らしいので、もしかしたらその中に医学生時代の話が出てくるかもしれませんが、未読なので不明です。

近いうちに読んでみたいと思っている作品です。

 

やめるな外科医

やめるな外科医』とは

 

本書『やめるな外科医 泣くな研修医』は『泣くな研修医シリーズ』の第四弾で、2022年4月に299頁の文庫本書き下ろしで出版された長編の医療小説です。

外科医となって六年目の雨野隆治ですが、まだまだ患者の看取りに泣き、手術の失敗に落ち込む日々を描いてある、リアルな作品です。

 

やめるな外科医』の簡単なあらすじ

 

雨野隆治は三十歳の外科医。受け持ち患者が増え、大きな手術も任されるようになった。友人の癌患者・向日葵は相変わらず明るく隆治を振り回すが、病状が進行しているのは明らかだった。ある夜、難しい手術を終えて後輩と飲みに行った隆治に、病院から緊急連絡が入り…。現役外科医が生と死の現場を圧倒的リアリティで描く人気シリーズ第四弾。(「BOOK」データベースより)

 

雨野隆治が当直のある日、救急外来は夕方から混雑していたものの、あいにく研修医もいない日であるために一人で診なければならなかった。

そんな日に同時に二台の救急車が到着してしまったのだ。患者は二人とも高齢の女性で、ベテラン看護師の吉川佳代は、七十九歳の普通そうな上田さんと、七十八歳の下品な下澤さんと呼んでいる。

印象のとおり、上田さんは応対も丁寧であったが、見た目も派手な下澤さんは横柄な対応しかできない人のようだった。

二人ともに腸閉塞の診断で入院したその翌日、隆治はひさしぶりに恋人のはるかとレストランへ行くが、病院からの緊急の呼び出しがかかってしまう。

そんな中、隆治の勤務する牛の町病院にも新任の医師がやってきたが、その中に籠島大学時代の同級生だった消化器内科の遠藤須古雄がいた。

 

やめるな外科医』の感想

 

本書『やめるな外科医』は、主に腸閉塞の診断で入院した上田さん下澤さんという二人の患者の話と、前巻の『走れ外科医』で登場してきた向日葵という癌患者の話題が中心になっています。

 

 

もちろん、主人公である雨野隆治の六年目の外科医としての日常も詳しく描いてあり、腹腔鏡手術を任せられたものの途中で指導医であった佐藤玲に「取り上げ」られたりしています。

この「取り上げ」とは、どうしても手術が進まなかったり、危ないと判断された場合などに一時的に術者が交代することを言うそうです。

経験を積んだ先輩医師が立ち会う手術で、後輩医師の手術の手際が悪いと判断されたことになります。

また、入院患者への病状の説明も医師の重要な仕事の一つであり、今回の隆治は上品な上田さん、下品な下澤さんについて、患者本人、またその家族への説明をすることになりますが、これがまた何かと問題が立ちふさがるのです。

 

本書『やめるな外科医』ではまた、前巻から登場してきている向日葵の話がもう一つの話になっています。当然ですが、そこでは隆治の後輩医師である西桜寺凛子もともにかかわることになります。

余命が限られている葵とのデートや、隆治自身の恋人との関係性の話なども絡み、どうにもプライベートなことでも悩み多き隆治です。

 

そうした隆治の物語が、もちろん医師としての活動を中心に語られているのですが、適度な会話文を交えながら進行していきます。

読みやすく、そして語られている内容はかなり濃い話です。

でありながら、作者自身の経験でしょうが目線は暖かく、叱咤するような言葉と共に、応援する心情も見て取れるのです。

医者として成長していく隆治の姿が、まさに青春小説としての物語でありながらも、現役の医師が描く医者の成長の物語として、かなり読みがいのある作品となっています。

走れ外科医 泣くな研修医3

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』は『泣くな研修医シリーズ』第三弾の、文庫本で396頁の長編の青春医療小説です。

医者になってこの春で五年目の、少しは医者として成長がみられる新米医師の姿を描いた作品です。

 

走れ外科医 泣くな研修医3』の簡単なあらすじ

 

若手外科医・雨野隆治のもとに急患で運ばれてきた二十一歳の向日葵。彼女はステージ4の癌患者だった。自分の病状を知りながらも明るく人懐っこい葵は、隆治に「人生でやっておきたいこと第一位」を打ち明ける。医者として止めるべきか?友達として叶えてあげるべきか?現役外科医が生と死の現場を圧倒的リアリティで描く、シリーズ第三弾。(「BOOK」データベースより)

医者になってこの春で五年目の雨野隆治は牛ノ町病院外科での後期研修医になって二年目になっていた。

牛ノ町病院救急外来で既に二台の救急車依頼を受け入れていた雨野隆治は、さらにもう一台の救急患者を受け入れるしかなかった。かかりつけの病院が受け入れてくれないというのだ。

その患者は二十歳の頃に胃の癌で胃を摘出しているステージ4の二十一歳の女性で向日葵という女性だった。

 

走れ外科医 泣くな研修医3』の感想

 

前巻の『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』では主人公の雨野隆治が初めて担当する二人のがん患者のことを主軸に据えた物語でした。

それに対し本書『走れ外科医 泣くな研修医3』では、一人の女性患者のことが軸になっています。

また、新たに新人の外科医も登場し、隆治の手助けをすると同時に振り回しもする姿が描かれます。

そして、隆治の指導医であった佐藤玲のプライベートも描かれていて、これまでの先輩医師としての姿とは異なる姿が示されています。

 

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』では、雨野隆治も医者になってこの春で五年目になり、それなりに一人前の外科医となっています。

その隆治のもとに、前巻の『逃げるな新人外科医』で研修医として登場してきた西桜寺凛子という女性外科医が新人の外科医として登場してきます。

そんな隆治たちの前に、癌のために余命いくばくもない二十一歳の向日葵という女性が患者として現れ、隆治たちの日常をかき乱します。

新人外科医の凛子は歳も近い向日葵にどうしても感情移入してしまい、医者と患者との関係性を越えたつながりを持ってしまいます。

そうした二人に引きずられる隆治であり、ついには女性二人の勢いに押され、富士登山まで付き合うことになってしまうのです。

 

一方、隆治の指導医である佐藤玲もまた一人の女性として、付き合っている男性にプロポーズされ、ともにアメリカへ行ってくれないかとの誘いを受け悩みに悩みます。

女性医師にとって結婚は、妊娠、出産を経ることを意味し、その間医師としての仕事をあきらめることでもあります。また、その後の子育てを夫が手伝ってくれるかも不明です。

つまりは、自分の家庭を持つということは医師としての仕事をあきらめることにつながる可能性が強く、医師という仕事に情熱を燃やせば燃やすほど結婚からは遠ざかることになりかねません。

そんな女性医師としての佐藤玲の直面する問題も取り上げてあり、医師の抱える一つの側面を示してあるのです。

 

隆治個人も、研修医のころからの同期で今では耳鼻科医となっている川村に連れていかれた合コンで知り合い、後に付き合い始めたはるかという彼女のことも描かれています。

この女性と交際する姿は、医者全般に普遍化するわけにはいかないでしょうが、それでも緊急の呼び出しなどは同じでしょう。

 

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』は、医者の物語であり、当然のことながらいろいろな患者の様子が描かれています。

でも、常連さんという高齢のお婆さんや常に横柄な態度で人を見下す態度しか取れない議員など、そうした患者の描き方はステレオタイプとも言えそうです。

しかしながら、外科医の現場の仕事の描写となるとさすがにリアリティに富んだ描写が続きます。

本シリーズが今後も続くことを期待したいものです。

逃げるな新人外科医 泣くな研修医2

本書『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』は『泣くな研修医シリーズ』第二弾の、文庫本で405頁の長編の青春医療小説です。

後期研修期間に入り、とりあえずは医者の仲間入りをした新米医師の姿を描いた感動的な物語です。

 

逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』の簡単なあらすじ

 

雨野隆治は27歳、研修医生活を終えたばかりの新人外科医。二人のがん患者の主治医となり、後輩に振り回され、食事をする間もない。責任ある仕事を任されるようになった分だけ、自分の「できなさ」も身に染みる。そんなある日、鹿児島の実家から父が緊急入院したという電話が…。現役外科医が、生と死の現場をリアルに描く、シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)

 

牛ノ町病院で後期研修に入っている隆治にも後輩ができた。西桜寺凛子という新人研修医で、外科以外はどこでもいいという派手な、しかし明るい女性だった。

この凛子は若干のんびりしている印象はあるものの仕事はよくでき、人当たりがよく、患者たちにもすぐに溶け込む性格の持ち主だった。

そして隆治は、七十二歳の水辺一郎、六十六歳の紫藤博という二人の大腸がん患者を担当することになる。

何もかも始めての経験であり、とくに入れ墨が入った水辺には最初の挨拶のときに叱られてしまうが、凛子は持ち前の明るさで水辺にも明るく接し、すぐに溶け込むのだった。

そんな隆治に鹿児島の実家から父親の具合がよくないとの連絡が入るが、忙しさにかまけて忘れてしまっていた。

 

逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』の感想

 

本書『逃げるな新人外科医』での雨野隆治は二十七歳、医者になって三年目で、二年間の初期研修を終えて外科医になる道を選び、前期同様牛ノ町病院で後期研修に入っています。

本書では、隆治が初めて主治医として担当することになった二人の患者を巡る話を軸になっています。

外科医の仕事にも少しだけ慣れてきた隆治がいよいよシビアな外科医療の現場に接し、汗と涙にくれる様子が描かれるのです。

それは例えば、下血し救急車で運ばれてきた癌患者への挿管処置などですが、その患者に関し、外科医というよりは医者としての心得なども指導医である佐藤玲から叩き込まれます。

例えば、家族からの患者の病状についての質問に対し、隆治は「大丈夫」という言葉を発してしまいますが、後にその患者の病状は悪化してしまいます。

そこで、家族の安心のために「大丈夫」などというのは医者が楽になりたいからだと言い切ります。

そして、「外科医はその重荷から逃げちゃいけない。」「外科医は、時に人を殺すんだ。」という佐藤の言葉は重みがあります。

ほかにも隆治の外科医としての仕事の様子が描かれています。それは最初の手術であったり、また患者を看取ることであったりもするのです。

 

それとは別に、牛ノ町病院には西桜寺凛子という新しい研修医が入ってきますが、派手な見た目とは裏腹にのんびりした話し方の凛子は、しかし仕事はできる女性でした。

また隆治のプライベートとしては、鹿児島の実家では父親が大腸がんで入院することになりますが、なかなか帰省できないでいます。

そのほかに、研修医のころからの同期で耳鼻科医の川村に連れていかれた合コンで知り合い、付き合い始めたはるかという彼女もできています。

たまに会ったりもするのですが、緊急の呼び出しなどでゆっくりした時間も取れない隆治でした。

 

たしかに、本『泣くな研修医シリーズ』は小説としてみると決して文章がうまいとは思えず、本書『逃げるな新人外科医』では意地悪な看護師のエピソードが途中で立ち消えになっていたりと、微妙に気にかかるところもあります。

しかしながら、手術の場面や患者との会話、救急医療の現場など、現場を知るものならではの臨場感にあふれていて惹き込まれるのです。

とくに隆治が、外科医として患者が死ぬことに慣れてしまったのではないか、と悩む姿は医者ならではの姿であり、それは作者中山祐次郎自身の姿でもありそうです。

でも、主人公雨野隆治というキャラクター自体が作者中山祐次郎の姿に重なるのでしょうから、それは当たり前と言えば当たり前かもしれません。

そして、けっしてうまい文章ではありませんが、やさしい文章であって、とても読みやすい物語になっています。

そして何よりも主人公の隆司の外科医としての成長が描かれていて、前巻から本書『逃げるな新人外科医』までの二年間の隆治の現場での経験を経ていることが確かに伝わってくるのです。

読んでいてそうした感覚が嬉しく、また楽しみでもあります。

続巻が楽しみに待たれる作品でした。

泣くな研修医

本書『泣くな研修医』は、新刊書で270頁の、現役の外科医が描き出した長編の青春医療小説です。

現場を知る現役の医師ならではの、医療の現場の新米医師の姿を描いた真実味にあふれる感動的な物語でした。

 

泣くな研修医』の簡単なあらすじ

 

雨野隆治は25歳、大学を卒業したばかりの研修医だ。新人医師の毎日は、何もできず何もわからず、上司や先輩に怒られてばかり。だが、患者さんは待ったなしで押し寄せる。初めての救急当直、初めての手術、初めてのお看取り。自分の無力さに打ちのめされながら、ガムシャラに命と向き合い成長していく姿を、現役外科医が圧倒的なリアリティで描く。(「BOOK」データベースより)

 

東京の下町の総合病院の新米医師の雨野隆治は、医師歴が四・五年の後期研修医と呼ばれる医師の佐藤玲と共に当直についていた。

そこに高速道路で通事故にあった親子三人が搬送されてきた。一人は五歳の男の子で腹壁破裂と腸管脱出といういわゆる高エネルギー外傷と呼ばれる重傷であった。

隆治は、緊急手術のために呼ばれた岩井医師と先輩医師の佐藤と共に手術室に入ったものの、岩井と佐藤との会話のほとんどが理解できないでいた。

そして、手術が終わったそのとき、龍治は気を失ってしまったのだった。

 

泣くな研修医』の感想

 

本書『泣くな研修医』は、本稿の冒頭に書いた通り医療小説です。それも、新米医者の目から見た医療の現場を実にリアルに描き出してあります。

もちろん小説ですからある程度の脚色はあるでしょうが、「あまりにリアルで、自分の話かと思った」という同業の医師からの感想が来るほどだそうです( PRESIDENT 2020年1月3日号 : 参照 )。

多分、著者自身の経験がかなり入っている物語だと思われます。

本書『泣くな研修医』は、現場医療の実際をこれでもかと描いてあります。そこにはユニークな登場人物もいなければ、心が洗われる情景描写もありません。

けっしてうまいとは思えない文章で、新米医師が現場に振り回される様子が描かれています。

 

そうした点では夏川草介の『神様のカルテシリーズ』とはかなり異なります。

この『神様のカルテシリーズ』も現役の医師が書いた小説であり、ベストセラーになった小説です。

この作品は、地方医療の現実を描き出す内科医の姿を描き出した作品で、本書と異なり、主人公一止やその妻ハル、それに同じアパートの受任や勤務先の同僚、先輩の医師や看護師などのユニークな登場人物までも生き生きと描いてあります。

その上、作者の意図として楽しく読んでもらいたいと重くなりがちな命の現場の出来事も割と明るいタッチで描き出してありました。

 

 

それに対し本書の場合、主人公の雨野隆治はまだ一年目の研修医であり、リアルな医療現場の姿が描き出されています。

新米医師の目を通した医療の現場ですので、ベテランの医師よりは素人である読者の目線に近い、しかし医療を学んだ身であり素人ではない目線での現場が描かれているのです。

その上『神様のカルテシリーズ』では美しい信濃の自然の風景が折に触れ描いてあったのですが、本書の場合は自然の描写は殆どと言っていいほどにありません。

加えてユーモラスな描写も殆どないのです。本書の場合、徹底してリアルな医療現場の描写に徹してあるようです。

 

もちろん、そのことの良し悪しを言っているのではありません。

本書では外科医に限らず直面する新人の医者の直面する命の現場の様子を描き出してあるのです。そこに心象風景などの描写の要不要の話は、小説としての作法という別次元の話だと思うのです。

 

本書ではがん患者の家族だけに対しての、患者の命の存えうる時間ついての説明の場面があります。

その場面を読んでいると、先に「うまいとは言えない文章」などと書いたことがあほらしくなるような、現場を、現実を知る人間ならではのリアルな言葉が、新米医師の目を通して冷徹に示されています。

医者の、その言葉を聞く親の痩せた、シミだらけの手の描写は心に響きます。

そして、患者のお看取りの場面では、昨年突然逝ってしまった自分の母親の、お医者さんが丁寧に看取ってくれた場面を思い出してしまいました。

 

そうした、ノートパソコンの電源を落とさずに帰る研修医などの、現場を知る作者ならではの場面は随所に出てきます。

もちろん、看護師さんの新米医師への配慮など、看護師の力がいかに大事か、などの場面も出てきます。

 

続編はまだ図書館に入っていません。早めに入ることを期待します。

 

ちなみに、本『泣くな研修医』を原作として、GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーの白濱亜嵐が主演でテレビドラマ化され、本日2021年4月24日から放映されます。

本書の雨野隆司にしては白濱亜嵐という人はかっこよすぎな気もしますが、どうでしょう。

 

泣くな研修医シリーズ

泣くな研修医シリーズ』とは

 

本『泣くな研修医シリーズ』は、新人の外科医師を主人公とした青春医療小説です。

医療の現場における新米医師の実際を克明に記したリアルですが、感動的でもある青春小説です。

泣くな研修医シリーズ(2023年07月24日現在)

  1. 泣くな研修医
  2. 逃げるな新人外科医
  1. 走れ外科医
  2. やめるな外科医
  1. 悩め医学生

 

泣くな研修医シリーズ』について

 

本『泣くな研修医シリーズ』の主人公は大学を卒業したばかりの二十五歳の研修医の雨野隆治という新米医師です。

第一巻『泣くな研修医』の冒頭で、忙しく働いている両親に兄ちゃんの様子がおかしいという弟の話が出てきます。多分その弟が雨野隆治という主人公だろうという推測のまま、話は進んでいきます。

主人公の雨野隆治は第一巻目の『泣くな研修医』では、東京下町の総合病院に勤務する一年生です。

この後、第二巻目の『逃げるな新人外科医』では二十七歳の三年目の雨野隆治の姿があり、第三巻『走れ外科医』では五年目の、第四巻『やめるな外科医』では六年目の外科医となっています。

そして、第一巻『泣くな研修医』では、リアルな医療現場の現実が描き出されているところを見ると、第二巻、第三巻と隆治の成長物語であることは変わりません。

ただ、第五巻『悩め医学生』では、雨野隆治が鹿児島の国立大学医学部を受験し、医学部生となった様子が描かれていて、医者という職業の特殊性の一端が示されているように感じます。

 

つまり、少なくとも第一巻の『泣くな研修医』では、夏川草介の『神様のカルテシリーズ』で描かれている地域医療の問題や、大鐘稔彦の『孤高のメス―外科医当麻鉄彦』で描かれている大学の医局制度の問題などの社会的なテーマには触れられていません。

さらには信州の四季折々の風景のような、背景となる自然の描写もまずありません。

本シリーズは医療の現場を描くことを目指しているようです。そしてその現場で右往左往する新米医師の様子を描くことに徹しています。

 

 

小説としてどれだけ完成度があるのかは私には判断できません。しかし、決してうまいとは思えない文章で描き出されるこの『泣くな研修医シリーズ』は確実に読む者の胸に迫ります。

少なくとも、本シリーズの読み初めには、本書の文章が小説にはあまり慣れておられないのだろう、という印象が先にありました。

しかし、その文章が描き出す新米医師の実態は、彼が犯したミスに対し先輩医師が言った、医者は「ミスすると患者を殺してしまう仕事」だと言われた言葉に集約されるように強烈です。

そうした緊張感の中でただがむしゃらに病院に泊まり込み、患者に寄り添う主人公の姿は感動的ですらあります。

 

著者の中山祐次郎という人は、「普段は自覚しづらい命の価値」を認識し、その上で「死ぬ時に後悔しない人生」を送ってほしいという気持ちを伝えるには小説という媒体がより伝わりやすいという考えで本『泣くな研修医シリーズ』を描いたそうです( PRESIDENT 2020年1月3日号 : 参照 )。

その思いは読者にも深く届いていると思われます。

 

ちなみに、本『泣くな研修医シリーズ』はGENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーの白濱亜嵐の主演でテレビドラマ化され、2021年4月24日から放映されました。

白濱亜嵐は本書の主人公の印象にしては少々線が太く、かっこよすぎであり、またおちゃらけた人物像もかなり本書の隆治とは異なる印象でした。

そして何より、白濱亜嵐のファンの人には面白いドラマだったかもしれませんが、個人的には医療ドラマの側面が薄く感じ、三話ほどを見たもののその後は見る気もなくなってしまいました。

残念でした。