憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI

IWGP第2シーズン、満を持してスタート!ストリートの“今”を切り取り続けてきた本シリーズ。時を経て池袋は少しずつ変容しているが、あの男たちは変わらない。脱法ドラッグ、仮想通貨、ヘイトスピーチ。次々に火を噴くトラブルをめぐり、マコトやタカシ、そしてとびきりクールな仲間たちが躍動する。 (「BOOK」データベースより)

池袋ウエストゲートパークシリーズの第十四弾で、「北口スモークタワー」「ギャンブラーズ・ゴールド」「西池袋ノマドトラップ」「憎悪のパレード」の四編からなる短編集です。本書から第二シーズンが始まります。

本シリーズの主人公である真島マコトも二十歳代後半になり、もう“おじさん”に手が届こうかという年代になっています。

しかしながら、本書で語られる内容はこれまでとは変わることはなく、池袋で起きた事件をタカシとともに解決していくマコトの姿が描かれています。

第一話は脱法ドラッグについて、第二話ではパチンコ依存症の男、そして第三話ではノマドワーカーの問題が描かれています。

しかし本書では第四話で語られるヘイトスピーチの問題がインパクトが強く、強烈でした。物語自体は単純ではありません。

まずヘイトスピーチ団体として「中排会」があり、反ヘイト組織としての平和団体である「へ民会」があって、「へ民会」の分派組織として武闘派の「レッドネックス」がいます。

今回Gボーイズが受けた仕事は、武闘派「レッドネックス」の襲撃から「中排会」を守って欲しいというものですが、警護の依頼者は「へ民会」だというのです。

著者いわく、「まず興味深いこととして、ヘイトスピーチ側ばかり注目されてるけど、それを批判しているアンチヘイトスピーチ団体のほうが過激だったりするんだよね。」ということを言われていて、その現状をそのまま物語として仕上げてあるのです。

その上で「日本人がもつ“正義のスイッチ”」の「恐ろし」さということを言われています。その人が正義と思う事柄の押しつけることの怖さを言われているのです( 週プレNEWS : 参照 )が、この点は全く同感ですね。

そこでは、本書で描かれているのは格差社会における底辺に生きざるを得ない若者の姿だと書かれています。そして、そこから脱却するには自分の頭で考えることが大事だと、そのためには本を読め、とも書かれているのです。その上で『「みんなが読んでいるから」とか「売れているから」って理由で選んだ本は絶対にダメ』だと言います。

ここで、近時読んだ夏川草介の『本を守ろうとする猫の話』を思い出してしまいました。この本では、手軽で、安価で、刺激的な本が売れる本であり「読んで難しい」本は求められてはいないけれど、「難しい本に出会ったらそれはチャンスだ」と言うのです。「難しいってことは、それは新しいことが書いてある証拠だ」とありました。

少々本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の内容から離れてしまいましたが、著者は結局は本当に自分の頭で考えること、脱法ハーブやヘイトスピーチなどの問題も自分の頭で突き詰めて考えることができれば袋小路に入り込むこともない、と言われているようです。

新しいシリーズになった本書ですが、マコトもタカシも少々歳をとっただけで中身は何も変わっていません。いつも自分の頭で考え、そして行動し、結果を出しているのです。

上記のような著者のメッセージを抜きにしても、単純に物語としても面白い作品として仕上がっています。その裏のメッセージは二の次でいいのではないでしょうか。そうしたことは読めば知らずのうちに頭に入り、そのうちに自分の頭で考えるようになる、と思います。

続けて読み続けたいシリーズの一つです。

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇

誰にだって忘れられない夏の一日があるよな―。高校時代のタカシには、たったひとりの兄タケルがいた。スナイパーのような鋭く正確な拳をもつタケルは、みなからボスと慕われ、戦国状態だった池袋をまとめていく。だが、そんな兄を悲劇が襲う。タカシが仇を討ち、氷のキングになるまでの特別書き下ろし長編。(「BOOK」データベースより)

「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズの番外編です。

池袋のキングこと安藤崇(通称タカシ)の誕生秘話が、いつもの通り主人公である真島誠(通称マコト)の語りで記されています。

「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズは、真島誠を語り手とする青春ハードボイルド小説であり、2000年の4月から6月まで、TOKIOの長瀬智也主演で放送されたテレビドラマの原作です。

シリーズを通してその時代の社会的問題をテーマとして取り上げ、池袋のトラブルシューターであるマコトのもとに持ち込まれる事件を、タカシらの力を借りて解決していく形式の物語です。

本書はシリーズの番外編であり、主人公であるマコトとタカシの青春時代、タカシが如何にして池袋のGボーイズのキングになったのか、が描かれています。

タカシの兄タケルは、不良の名門校として有名であったマコトとタカシの母校でもある都立豊島工業高校のボクシング部の部長をしていました。人望も強さも兼ね備えていたタケルは、数十もあった池袋のチーマーたちを一つにまとめようとしていたのです。

群れるのが嫌いなマコトらは、興味本位でハシヅメとうい男がリーダーのオレオレ詐欺のグループに近づきますが、一日でやめてしまいます。二人の落とし前をタケルに取らせようとしたハシヅメは、タケルの足首に怪我をさせてしまいます。

その後、新宿を制覇した埼玉のチーマーのグループが、池袋にやってこようとしてタケルと衝突をするのでした。

こうして見ると、ヤンキーもののコミックのようでもあります。例えば渋谷のチーマーたちの争いを描いた山本隆一郎の『サムライソルジャー』(全27巻)というコミックがあります。まあ、この手のヤンキーものは漫画の人気分野の一つでもあり、ストーリーも似たものが多いのですが、本書のカラーギャングの設定に似た、それなりに読み応えのあるコミックの一つとして挙げて見ました。

もう一作、ヤンキーもののコミックを挙げると、実写映画化もされた高橋ヒロシの『クローズ』(完全版全19巻)があります。この作品も登場人物が高校生でありながらも授業風景や、先生たちの姿は全くと言っていほどに出てこず、常に高校生たちの喧嘩三昧の日々が描かれているのですが、ある種実録ものに至る前の東映ヤクザ映画の、任侠の世界に似た世界観が人気になっているように思われます。

他にも多分面白い作品はあるのでしょうが、この手のコミックを私があまり知らないため、範囲が限定される中での選定です。

こうしたヤンキー漫画を取り上げたのも、本書『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』が、そうした雰囲気を持っているからであり、後のマコトが主人公としてハードボイルドタッチの物語として登場する「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズとは微妙に雰囲気が異なるところにあります。

本書ではシリーズ本編の持つ社会的なメッセージは後退して、血の気の多い若者の成長譚になっているのです。即ち、ギャング同士の抗争の末に兄タケルの代わりにとなって、タカシがGボーイズのボス、キングとして登場することになる裏話なのですが、タカシの話であると同時に、マコトの成長譚でもあるのです。

「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズの面白さの一つの側面を切り取った物語とも言えるかもしれません。