七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV

七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』とは

 

本書『七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』は、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の十四作目の、文庫本で294頁の四編の中編からなるハードボイルド作品集です。

今回もまた、社会の様々な事件を映し出した物語であり、マコトの小気味いい会話とスピーディーな行動が読者をひきつけています。

 

七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』の簡単なあらすじ

 

ネットで広がるデスゲーム。次々と提示される試練をクリアすると積みあがる「いいね」の山。しかし、試練は次第にエスカレートし、七番目に課されるのは、死を招く危険なものだった。けがをした高校生のために、マコトが「管理人」の正体を追う!表題作ほか3篇を収録、時代を色濃く映す人気シリーズ第14弾。(「BOOK」データベースより)

 

泥だらけの星
人のスキャンダルを無制限に楽しむのは、そろそろやめたほうがいい。
タカシから呼び出しがかかり、ダチが困っているから助けてくれといってきた。若手俳優のトップをいく鳴海一輝が抱いた咲良野エレンは市岡エンターテインメントの社長の市岡という男が慰謝料を請求してきたのだった。

鏡の向こうのストラングラー
欲望の形が見えにくい時代になった。セックス産業も不人気になっても、変態はなくならない。
マコトが解決した最初の事件、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の第一話に登場した首絞め魔(ストラングラー)が再び現れた。タカシによれば、知人の出会い系カフェの女の子が狙われたというのだった。

幽霊ペントハウス
ネット時代の現代でも、都会にも、地方にも、高層マンションにも闇はいくらでも転がっている。
祖師谷の墓地を見下ろすマンションに住む中学時代の同級生のスグルから、真夜中になると寝室の天井から音がするため、相談ン折ってくれと言ってきた。問題は、スグルの住む部屋はペントハウスであり、最上階だということだった。

七つの試練
「いいね」が人を殺し、「いいね」によって、人が死ぬ。おれたちの死は軽く、ほんの数メガバイトの情報にすぎなくなっている。
ネット上で「七つの試練」などと呼ばれているゲームが流行っているという。一つの試練をクリアするごとに押される“いいね”の数を誇り、最終的には建物の屋上から飛び降りて死ぬやつまで出る始末だった。

 

七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』の感想

 

本書『七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』は、これまでのシリーズの各作品と比べて特に変わっているわけではありません。

持ち込まれた相談事を広範な人脈の助けを借りつつ解決していくマコトの姿が描かれているのはいつものとおりです。

 

それでもなお、マコトの物語は読者をひきつけるのは、世相を反映しているストーリーがよくできているし、なによりも、マコトを始めとする登場人物たちの個性的なキャラクターが魅力的だからでしょう。

その登場人物として、当然のごとくマコトの相棒とも言えそうな、池袋のカラーギャング「Gボーイズ」のキングであるタカシも登場します。

今回はそれに加え、「鏡の向こうのストラングラー」では本シリーズの第一巻から登場している似顔絵かきが得意なシュンが登場しています。

また、「七つの試練」ではサンシャインシティの向かいにあるデニーズをオフィスとする北東京一のハッカーであるゼロワンも登場しているのです。

 

今回も、ネット社会で一層ひどくなった他人のスキャンダルを喜ぶ一般庶民、同様にネット社会でのSNSの弊害の一つでもある“いいね”を得るために無茶をする若者らの姿があります。

また、出会い系カフェを襲う変態や都会に潜む闇に関するトラブルを解決するいつものとおりのマコトの姿があるのです。

これから先もこのシリーズは続いていくのでしょうし、あらためてその面白さを見直した本書でした。

池袋ウエストゲートパークシリーズ

池袋ウエストゲートパークシリーズ』とは

 

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は、主人公のマコトのトラブルシューターとしての活躍を描き出す各巻四篇の物語で構成される連作のハードボイルド短編集です。

読みやすい文体と、的確に時代を反映させた内容とが長瀬智也主演のドラマのヒットと共に受け入れられベストセラーとなったシリーズです。

 

池袋ウエストゲートパークシリーズ』の作品

 

池袋ウエストゲートパークシリーズ(2021年10月16日現在)

  1. 池袋ウエストゲートパーク
  2. 少年計数機
  3. 骨音
  4. 電子の星
  5. 反自殺クラブ
  6. 灰色のピーターパン
  1. Gボーイズ冬戦争
  2. 非正規レジスタンス
  3. ドラゴン・ティアーズ―龍涙(りゅうるい)
  4. PRIDE―プライド
  5. 憎悪のパレード
  6. 西一番街ブラックバイト
  1. 裏切りのホワイトカード
  2. 七つの試練
  3. 絶望スクール
  4. 獣たちのコロシアム
  5. 炎上フェニックス

池袋ウエストゲートパーク外伝(2021年10月16日現在)

  1. 赤(ルージュ)・黒(ノワール) 池袋ウエストゲートパーク外伝
  2. キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇

 

池袋ウエストゲートパークシリーズ』について

 

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は、池袋西口に実際に存在する「池袋西口公園」をモデルにした「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」と呼ばれる公園をしばしば登場させながら、持ち込まれる様々なトラブルを主人公のマコトこと真島誠が解決していく物語です。

このシリーズは時代を彩る事柄をそれぞれの話に反映させ、何らかの問題提起をしているところを大きな特色としています。

 

登場人物で忘れてならないのが、池袋のカラーギャング「G-Boys」のリーダーのキングと呼ばれているタカシこと安藤崇の存在です。

池袋の若者から恐れられ、ヤクザも一目置いている存在ですが、マコトの工業高校の時の同級生であり、マコトをギャング団に引き入れようとしますが、マコトは断り続けています。

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は、マコトが主人公ではありますが、タカシもまた影の主人公的な位置にいて、マコトの助けに回ったり、マコトに問題を持ち込んだりもしています。

また、このタカシの存在が池袋の裏事情をテーマにすることを自然にしているとも言えそうです。

この二人の関係については『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』に詳しく書いてあります。

 

 

タカシがカラーギャングのリーダーであり、結局、暴力的な危険をはらむトラブルにも首を突っ込むマコトですが、中にはヤクザとのトラブルもあります。

そのヤクザとの伝手として、マコトの中学の同級生のサルこと斉藤富士夫がいます。

サルは昔はいじめられっ子でしたが、今では池袋を仕切る暴力団の「羽沢組」の構成員になっているのです。

一方、池袋署にも知り合いはおり、池袋署生活安全部少年課の刑事の吉岡や、マコトが幼いころからの近所のお兄さんであった池袋署署長の横山礼一郎などもいます。

 

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の主人公であるマコトは、母親が営む果物屋の手伝いながら、雑誌にエッセイを書いており、そこそこに人気もあるようです。

店では好きなクラシック音楽を流していますが、ギャングのリーダーのタカシも認める度胸と腕っぷしの持ち主でもあります。

 

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は2010年に刊行された『PRIDE―プライド 池袋ウエストゲートパークX』をもって第一シーズンが終わり、2014年に刊行された『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』から第二シーズンとして再開され、現在に至っています。

わたしも、第一シーズンの全部を読み終えたものの、第二シーズンの再開を知らずにいたのですが、2017年になり『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の存在を知り、再び読み始めましたが、その一冊で中断していたものです。

今回、第十四弾の『七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV』を読んだことからまた読み始めようかと思っています。

 

日本のハードボイルド小説もかなり面白い作品が増えてきましたが、本シリーズも軽く読めるハードボイルド小説として位置づけられると思います。

北方謙三志水辰夫大沢在昌深町秋生

似た傾向の作品として東直己の『ススキノ探偵シリーズ』や『探偵・畝原シリーズ』がありますが、

 

ちなみに、本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は、2000年に宮藤官九郎の脚本で、堤幸彦をチーフ演出とし、マコトを長瀬智也、タカシを窪塚洋介というキャストでテレビドラマ化され、大人気を博しました。

また、このドラマには他に坂口憲二や佐藤隆太、山下智久、高橋一生、妻夫木聡なども出演しており、また遠藤憲一、渡辺謙、阿部サダヲ、森下愛子、小雪、矢沢心などといった今では考えられない役者さんたちも共演していたそうです。

当時私はドラマに関心がなく、一話も見ていないことが残念です。

憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI

憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』とは

 

本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』は、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の十一作目の、文庫本で322頁のハードボイルド短編小説集です。

今回もまた、社会の様々な事件を映し出した物語であり、マコトの小気味いい会話とスピーディーな行動が読者をひきつけています。

 

憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の簡単なあらすじ

 

IWGP第2シーズン、満を持してスタート!ストリートの“今”を切り取り続けてきた本シリーズ。時を経て池袋は少しずつ変容しているが、あの男たちは変わらない。脱法ドラッグ、仮想通貨、ヘイトスピーチ。次々に火を噴くトラブルをめぐり、マコトやタカシ、そしてとびきりクールな仲間たちが躍動する。(「BOOK」データベースより)

 

憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の感想

本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』から『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の第二シーズンが始まります。

「北口スモークタワー」「ギャンブラーズ・ゴールド」「西池袋ノマドトラップ」「憎悪のパレード」の四編からなっています。

 

本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の主人公であるclass=”boldfont”>マコトこと真島誠も二十歳代後半になり、もう“おじさん”に手が届こうかという年代になっています。

しかしながら、本書で語られる内容はこれまでとは変わることはなく、池袋で起きた事件をタカシこと安藤崇とともに解決していくマコトの姿が描かれています。

第一話は脱法ドラッグ、第二話ではパチンコ依存症の男、そして第三話ではノマドワーカーの問題が描かれています。

 

しかし本書では第四話で語られるヘイトスピーチの問題がインパクトが強く、強烈でした。物語自体は単純ではありません。

まずヘイトスピーチ団体として「中排会」があり、反ヘイト組織としての平和団体である「へ民会」があって、「へ民会」の分派組織として武闘派の「レッドネックス」がいます。

今回Gボーイズが受けた仕事は、武闘派「レッドネックス」の襲撃から「中排会」を守って欲しいというものですが、警護の依頼者は「へ民会」だというのです。

著者いわく、「まず興味深いこととして、ヘイトスピーチ側ばかり注目されてるけど、それを批判しているアンチヘイトスピーチ団体のほうが過激だったりするんだよね。」ということを言われていて、その現状をそのまま物語として仕上げてあるのです。

その上で「日本人がもつ“正義のスイッチ”」の「恐ろし」さということを言われています。その人が正義と思う事柄の押しつけることの怖さを言われているのです( 週プレNEWS : 参照 )が、この点は全く同感です。

そこでは、本書で描かれているのは格差社会における底辺に生きざるを得ない若者の姿だと書かれています。

そして、そこから脱却するには自分の頭で考えることが大事だと、そのためには本を読め、とも書かれているのです。その上で『「みんなが読んでいるから」とか「売れているから」って理由で選んだ本は絶対にダメ』だと言います。

 

ここで、近時読んだ夏川草介の『本を守ろうとする猫の話 』を思い出してしまいました。

この本では、手軽で、安価で、刺激的な本が売れる本であり「読んで難しい」本は求められてはいないけれど、「難しい本に出会ったらそれはチャンスだ」と言うのです。

「難しいってことは、それは新しいことが書いてある証拠だ」とありました。

 

 

少々本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の内容から離れてしまいましたが、著者は結局は本当に自分の頭で考えること、脱法ハーブやヘイトスピーチなどの問題も自分の頭で突き詰めて考えることができれば袋小路に入り込むこともない、と言われているようです。

新しいシリーズになった本書ですが、マコトもタカシも少々歳をとっただけで中身は何も変わっていません。いつも自分の頭で考え、そして行動し、結果を出しているのです。

上記のような著者のメッセージを抜きにしても、単純に物語としても面白い作品として仕上がっています。

その裏のメッセージは二の次でいいのではないでしょうか。そうしたことは読めば知らずのうちに頭に入り、そのうちに自分の頭で考えるようになる、と思います。

続けて読み続けたいシリーズの一つです。

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』とは

 

本『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』は、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の番外編です。

池袋のキングこと安藤崇(通称タカシ)の誕生秘話が、いつもの通り主人公である真島誠(通称マコト)の語りで記されています。

 

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』の簡単なあらすじ

 

誰にだって忘れられない夏の一日があるよなー。高校時代のタカシには、たったひとりの兄タケルがいた。スナイパーのような鋭く正確な拳をもつタケルは、みなからボスと慕われ、戦国状態だった池袋をまとめていく。だが、そんな兄を悲劇が襲う。タカシが仇を討ち、氷のキングになるまでの特別書き下ろし長編。(「BOOK」データベースより)

 

タカシの兄タケルは、不良の名門校として有名であったマコトとタカシの母校でもある都立豊島工業高校のボクシング部の部長をしていた。

人望も強さも兼ね備えていたタケルは、数十もあった池袋のチーマーたちを一つにまとめようとしていたのだ。

群れるのが嫌いなマコトらは、興味本位でハシヅメという男がリーダーのオレオレ詐欺のグループに近づくが、一日でやめてしまう。

二人の落とし前をタケルに取らせようとしたハシヅメは、タケルの足首に怪我をさせてしまう。

その後、新宿を制覇した埼玉のチーマーのグループが、池袋にやってこようとしてタケルと衝突をするのだった。

 

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』の感想

 

池袋ウエストゲートパークシリーズ』は、真島誠を語り手とする青春ハードボイルド小説であり、2000年の4月から6月まで、TOKIOの長瀬智也主演で放送されたテレビドラマの原作です。

シリーズを通してその時代の社会的問題をテーマとして取り上げ、池袋のトラブルシューターであるマコトのもとに持ち込まれる事件を、タカシらの力を借りて解決していく形式の物語です。

本書はシリーズの番外編であり、主人公であるマコトとタカシの青春時代、タカシが如何にして池袋のGボーイズのキングになったのか、が描かれています。

 

こうして見ると、ヤンキーもののコミックのようでもあります。例えば渋谷のチーマーたちの争いを描いた山本隆一郎の『サムライソルジャー』(全27巻)というコミックがあります。

まあ、この手のヤンキーものは漫画の人気分野の一つでもあり、ストーリーも似たものが多いのですが、本書のカラーギャングの設定に似た、それなりに読み応えのあるコミックの一つとして挙げて見ました。

 

 

もう一作、ヤンキーもののコミックを挙げると、実写映画化もされた高橋ヒロシの『クローズ』(完全版全19巻)があります。

この作品も登場人物が高校生でありながらも授業風景や、先生たちの姿は全くと言っていほどに出てこず、常に高校生たちの喧嘩三昧の日々が描かれているのですが、ある種実録ものに至る前の東映ヤクザ映画の、任侠の世界に似た世界観が人気になっているように思われます。

 

 

他にも多分面白い作品はあるのでしょうが、この手のコミックを私があまり知らないため、範囲が限定される中での選定です。

こうしたヤンキー漫画を取り上げたのも、本書『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』が、そうした雰囲気を持っているからであり、後のマコトが主人公としてハードボイルドタッチの物語として登場する『池袋ウエストゲートパークシリーズ』とは微妙に雰囲気が異なるところにあります。

即ち、本書ではシリーズ本編の持つ社会的なメッセージは後退して、血の気の多い若者の成長譚になっているのです。

ギャング同士の抗争の末に兄タケルの代わりにとなって、タカシがGボーイズのボス、キングとして登場することになる裏話なのですが、タカシの話であると同時に、マコトの成長譚でもあるのです。

池袋ウエストゲートパークシリーズ』の面白さの一つの側面を切り取った物語とも言えるかもしれません。