殺気

このざわめきは事件の予兆!?12歳で何者かに拉致監禁された経験をもつ女子大生のましろは、他人の「殺気」を感じ取る特殊能力が自分にあると最近分かってきた。しかし、その起因を探るうち、事件当時の不可解な謎に突き当たってしまう。一方、街では女児誘拐事件が発生。ましろは友人らと解決に立ち上がるが…。一気読み必至のミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

長編のミステリー小説です。

 

設定は面白いのです。超能力とまでは言えないだろう「殺気」を感得しうる特殊能力を前提に物語りは進みます。

文章は相変わらずに小気味良く、テンポよく読み進めることができます。

しかし、それ以上のものか感じられませんでした。

読みやすい物語、といった程度でしょうか。

つばさものがたり

パティシエールの君川小麦は、自身の身体に重い秘密を抱えたまま、故郷・北伊豆で家族とケーキ屋を開いた。しかし、甥の吐夢からは「ここは流行らないよ」と謎の一言。その通り、店は瞬く間に行き詰まってしまう。力尽きた彼女に新たな勇気を吹きこんだのは、吐夢と、彼にしか見えない天使の“レイ”だった…。小麦のひたむきな再起を見届けたとき、読み手の心にも“見えない翼”が舞い降りる。感涙必至の家族小説。(「BOOK」データベースより)

 

宣伝文句でこれでもかと「泣ける話」と聞かされて読んだ本です。

結論から言うと、それほど「泣ける話」ではありませんでした。

 

簡単に言えば郷里に帰ってケーキ屋を開くために女の子が奮闘する物語ですが、そこに家族やその他の問題が降りかかります。

一つには甥っ子にだけ見えるという天使の“レイ”の存在というファンタジックな設定があったからかもしれないけど、『クローズド・ノート』ほどの満足感はなかったように思います。

でも、この作家の文章のテンポの良さはやはり素晴らしいと思いました。それなりに一気に読み終わりました。

クローズド・ノート [DVD]

行定勲監督、沢尻エリカ主演によるラブストーリー。大学生の香恵は、引越し先のアパートで前の住人が置き忘れた1冊のノートを見つける。それは小学校教師・伊吹の恋の悩みなどが綴られた日記だった。通常版。(「キネマ旬報社」データベースより)

未見です。

犯人に告ぐ [DVD]

雫井脩介のベストセラー小説を豊川悦司主演で映画化!心に傷を負った刑事と姿なき殺人犯の緊迫の心理戦を描く本格サスペンス。川崎で起きた連続児童殺人事件。〈BADMAN〉と名乗りテレビに脅迫状を送りつけた犯人は3件目の犯行後、表舞台から姿を消す。膠着した警察は捜査責任者をテレビに出演させる大胆な“劇場型捜査”を決断する。担ぎ出されたのは過去に犯人を取り逃がし失脚した男・巻島。彼は犯人を挑発するが…。(「Oricon」データベースより)

 

もともと豊川悦司という役者さんが好きだったのです。この人が出ているだけで、その映画の面白さは保証されている役者さんの一人だと思っています。

この映画も大当たりとまでいかなくても、はずれではありませんでした。

クローズド・ノート

堀井香恵は、文具店でのアルバイトと音楽サークルの活動に勤しむ、ごく普通の大学生だ。友人との関係も良好、アルバイトにもやりがいを感じてはいるが、何か物足りない思いを抱えたまま日々を過ごしている。そんななか、自室のクローゼットで、前の住人が置き忘れたと思しきノートを見つける。興味本位でそのノートを手にする香恵。閉じられたノートが開かれたとき、彼女の平凡な日常は大きく変わりはじめるのだった―。(「BOOK」データベースより)

 

長編の恋愛小説です。

 

文章がいい。

映画化され、その解説などを読んでいると普通のお涙頂戴のラブストーリーだと思っていたので原作を読むつもりは全くなかったのだけれど、図書館でちょうど目の前にあったので、作者が「犯人に告ぐ」の人でもあったこともあり、つい借りてしまったのです。

読み始めるとさすがに面白い。テンポのいい文章に引き込まれついつい一気に読んでしまいました。

物語の流れは読み始め近くで予想がつくのだけれど、筆の力とテンポで引っ張られてしまいました。

最後がちょっとご都合主義的な感じが無きにしも非ずですが、それはまあご愛嬌ということで・・・。

 

引っ越した先のクローゼットに置き忘れられた一冊の日記。その中で息づく一人の女性とその女性に対する主人公の女性の想い、この作家のうまさが全面に展開されていると感じました。

単なる恋愛小説と思っていたので借りてみて良かったです。でもこの本は良かったけど、他の恋愛小説は多分読まないでしょうね。

とはいいながらも、やはり私は苦手、とつぶやきながら、第159回直木賞の候補作となった窪美澄の『じっと手を見る』や、2018年本屋大賞候補作の知念実希人の『崩れる脳を抱きしめて』などの恋愛小説にも手を出している私です。

 

 

なお、この作品は、監督は行定勲、ヒロインに沢尻エリカ、ノートを書いた教師に竹内結子というキャストで映画化されました。

 

犯人に告ぐ

犯人=“バットマン”を名乗る手紙が、捜査本部に届き始めた。巻島史彦は捜査責任者としてニュース番組に定期的に出演し、犯人に「もっと話を聞かせて欲しい」と呼びかけ続ける。その殺人犯寄りの姿勢に、世間および警察内部からも非難の声が上がり、いつしか巻島は孤独な戦いを強いられていた―。犯人に“勝利宣言”するクライマックスは圧巻。「普段ミステリーや警察小説を読まない人をも虜にする」と絶賛された、世紀の快作。(「BOOK」データベースより)

 

ユニークな設定で話題になった、長編のミステリー小説です。

 

この作家を取り上げる以上まずは「犯人に告ぐ」を取り上げないわけにはいかないでしょう。それほどに面白い。

誘拐事件で一度ミスを犯し被害者の子供の命まで失ってしまうという大失態を犯している主人公が、再び誘拐事件にかりだされます。その捜査が実にユニークで、マスコミを通じて犯人に語りかけるというものでした。

この主人公が結構短気で場所をも考えずに切れてしまったり、実に人間的で、すぐに主人公に感情移入してしまいます。

主人公、主人公が属する警察という組織、警察が利用しようとするマスコミ、そして主人公の上司とニュースキャスターの女性等々の思惑が絡み合い、事件は終結へ進みます。

しゃべれども しゃべれども 特別版 [ DVD ]

佐藤多佳子の原作を、国分太一主演で映画化した青春ドラマ。古典を愛する二つ目の落語家・今昔亭三つ葉。思うように腕が上がらず悩む彼の下に、「落語を、話し方を習いたい」とすこぶる無愛想で口下手な美人・十河五月らワケありの3人が集まって来る。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

国分太一が思ったより良い味を出していました。

原作とは若干登場人物等が異なりますが、期待せずに見た分だけ良かったです。

空より高く

廃校が決まった東玉川高校、通称トンタマ。卒業を控えた最後の生徒たちの「終わり」に満ちた平凡な毎日は、熱血中年非常勤講師・ジン先生の赴任で一変した。暑苦しい「レッツ・ビギン!」のかけ声に乗せられて、大道芸に出会った省エネ高校生が少しずつ変わっていく―きっと何か始めたくなる、まっすぐな青春賛歌。(「BOOK」データベースより)

 

主人公は廃校の決まった東玉川高校三年生のネタローこと松田練太郎。どこかで聞いたような、若しくは読んだことのあるような、特別エンターテインメント性が強いわけでもない、長編の青春小説です。

本書の主人公ネタローは、学年の途中で中年非常勤講師として赴任してきた神村仁先生の言葉「レッツ・ビギン」に反応し、何かを始めようということでジャグリングを始めます。それも、違う意味で反応してしまった女の子と何時もの仲間を巻き込んでのイベントを始めるのです。

 

自分自身の高校生時代を思うとこんな生徒はいないだろうと思われ、反面、学生運動の余波が高校にまで吹き荒れていた自分たちの時代も結局は似たような生徒がいて、似たようなことをやっていたのではないか、とも思えます。

では自分自身はというと、大多数の生徒と同じで何事にも中途半端でいたのではなかったでしょうか。

 

私の時代の青春ものと言えまずはテレビドラマということになります。石原慎太郎原作の「青年の樹」に始まり、夏木陽介主演の学園ドラマ「青春とは何だ」が大ヒットし、間に「これが青春だ」等々があって、中村雅俊主演の「俺たちの旅」、勝野洋主演の「俺たちの朝」と続きました。

 

 

小説では1969年に芥川賞をとった庄司薫の「赤ずきんちゃん気をつけて」があります。この「赤ずきんちゃん気をつけて」は、実に平易な文章で高校生のある日の出来事を語った作品でした。

 

 

本作品も難しい言葉は無く、淡々と高校生の日常が語られていきます。ただ、本作は典型的というか作られた「セーシュン」を描いているようで、どうもあまり心に響かないのです。

しかしながら、読みながら気付いたのですが、今の年代になった私は主人公のネタローよりもジン先生の目線で本書を見ていたのです。

年齢を経てしまうと青春小説も読めなくなったのだろうかと少々焦ったのですが、でも、三浦しをんの『風が強く吹いている』や恩田陸の『夜のピクニック』などは青春小説として琴線に触れるものがあったのですから、歳をとっても青春小説を読めない筈はないのです。

 

 

ということはやはり本書が少々「セーシュン」を正面から取り上げすぎていて、反発したのかもしれません。その意味では歳をとったら読めないのかもしれません。

結局、何とも感想の述べにくい作品でした。

あすなろ三三七拍子

藤巻大介、四十五歳、総務課長。ワンマン社長直命の出向先は「あすなろ大学応援団」。団員ゼロで廃部寸前の『団』を救うため、大介は特注の襟高学ランに袖を通す決意をする。妻と娘は呆れるが、社長の涙とクビの脅しに、返事は「押忍!」しかありえない。団旗を掲げ太鼓を叩き、オヤジ団長・大介は団員集めに奔走する。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

地獄の合宿を終え、『団』として成長した団長・大介と三人の団員たち。しかし初陣直前、鼓手・健太の父が危篤に陥る。軋轢を抱えながら向き合う父子に、大介が伝えられることはあるのか。人生の岐路に立つ若い団員たち、重い荷を負うオトナたち、そして同じ時代を生きるすべてのひとに、届け、オヤジの応援歌!(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

四十五歳のおっさんが大学に入り、部員数が足らないために廃部の危機にある応援団を立て直す、というユーモア小説です。

 

あすなろ大学の応援団は部員の不足により廃部の瀬戸際にあった。そこで、前身である世田谷商科大学の応援団員であったワンマン社長の命令により、総務課長藤巻大介があすなろ大学に入学し、応援団を存続させることになった。

応援団OBである斎藤と山下というコンビの指導のもと、藤巻は応援団を存続させることはできるのだろうか。

 

かつて『嗚呼!花の応援団』という「どおくまん」という作者の漫画がありました。どちらかと言うと雑ともいえる絵で、内容も品の無いぶっ飛んだ漫画でした。しかし、その漫画がとても面白かったのです。

当時はテレビでもあちこちの応援団のドキュメンタリーがあったりと、「応援団」という存在にかなり焦点が当たっていたと思います。

 

 

でも現在はかつての面影は無いようです。当時でもかなりアナクロな存在だった応援団は一時期は全く消えたようにも思えました。

しかし、今ではチアリーダーも取り込んでいるようで、形を変えた存在としてまだ残っているようです。

 

その応援団にこともあろうに四十五歳のおっさんを入団させようというのですから、『嗚呼!花の応援団』にも似た世界かと思っていました。

しかし、設定が設定でもあり、ユーモア満載の物語で、『嗚呼!花の応援団』ほど下品でもありません。あくまで今の応援団なのです。

おっさんが学ラン姿で闊歩するのですから周りは引くばかりです。そうした中で主人公藤巻の娘の彼氏や、応援団OBの息子たちの力を借りながら、何とか頑張っていく姿が読者の共感を得て来るのですから不思議です。

当初は若干ついていけないかとも思った物語でしたが、読み進めるうちに少しずつ引き込まれてしまいました。中年サラリーマンの悲哀を中心に家族の問題をも絡めながら、ユーモア小説としてきちんとまとまっているのです。

現在の本物の応援団も、人間関係などのけじめは残っていると思われ、そうした点を茶化しつつ認めている本書は、それなりにあり得る物語なのでしょう。

 

ちなみに、本書を原作として柳葉敏郎の主演でテレビドラマ化されました。普段ドラマは見ない私ですが、このドラマは原作を読んでいたこともあり見たのですが、なかなかに面白くできていたと思います。