レーエンデ国物語 月と太陽

レーエンデ国物語 月と太陽』とは

 

本書『レーエンデ国物語 月と太陽』は『レーエンデ国シリーズ』の第二弾で、2023年8月に講談社からソフトカバーで刊行された、長編のファンタジー小説です。

シリーズ第一巻『レーエンデ国』にくらべ、よりアクション要素が増えている気がしますし、恋愛要素が少なくなっている分、より惹き込まれた印象です。

 

レーエンデ国物語 月と太陽』の簡単なあらすじ

 

名家の少年・ルチアーノは屋敷を何者かに襲撃され、レーエンデ東部の村にたどり着く。そこで怪力無双の少女・テッサと出会った。藁葺き屋根の村景や活気あふれる炭鉱、色とりどりの収穫祭に触れ、ルチアーノは身分を捨てて、ここで生きることを決める。しかし、その生活は長く続かなかった。村の危機を救うため、テッサは戦場に出ることを決める。ルチアーノと結婚の約束を残してー。封鎖された古代樹の森、孤島城に住む法皇、変わりゆく世界。あの日の決断が国の運命を変えたことを、二人はまだ知らない。大人のための王道ファンタジー。(「BOOK」データベースより)

 

レーエンデ国物語 月と太陽』の感想

 

本書『レーエンデ国物語 月と太陽』は、『レーエンデ国物語』の第二巻であり、第一巻と同様に聖イジョルニ帝国に対し反旗を翻した人々の物語です。

第一巻は、「レーエンデの聖母」と呼ばれることになるユリア・シュライヴァの物語と言ってもいい話でしたが、本書はその百年後の話です。

前巻での物語の後、帝国北方に位置する七州が「北方七州の乱」ののちに為したレーエンデからの独立の宣言により、聖イジョルニ帝国は南北に分裂し、長い闘いへと突入していました。

本書は、そのような状況下の聖イジョルニ帝国で、ユリアの父のヘクトル・シュライヴァの病没の約百年後にダンブロシオ・ヴァレッティ家に生まれた、のちに「残虐王」と呼ばれることになるルチアーノ・ダンブロシオ・ヴァレッティを主人公とする物語です。

 

本書『レーエンデ国物語 月と太陽』では、序章が終わって直ぐからヴァレッティ家が何者かに襲われ、燃え落ちる場面から始まります。

そして、ルチアーノはルチアーノの両親を殺し家に火をつけたという男に救出され、その男の言うままに逃走し、ティコ族の村であるダール村のテッサに助けられるのです。

ダール村ではイジョルニの民であることがばれると殺されかねないと、ルーチェという偽名を使い、暮らすことになります。

ルチアーノは、テッサの姉のアレーテやテッサ姉妹の友人であるキリルや、ウル族のイザークらと友達になります。

テッサは村の男の誰もかなわないほどの怪力の持ち主であり、ルチアーノは誰にも負けない頭脳の持ち主としてこの後の苦難を乗り越えていくのです。

 

テッサらがレーエンドの開放を叫ぶ理由は、帝国による理不尽な差別や弾圧に対する抵抗であり、そのための団結でした。

テッサは、村のために徴兵に応じて帝国軍に参画し、帝国軍第二師団第二大隊第九中隊、通称「斬り込み中隊」の異名を持つほどに常に最前線に配属されている部隊に配属され、兵士として鍛えられることになります。

そして、テッサはこの第九部隊での中隊長であるギヨム・シモンと出会い、兵士として、また人間として鍛え上げられていきます。

同様に、キリルも弓の腕を上げ、そしてイザークもまた一人前の兵士として育っていたのです。

その彼らが、郷里のダール村が帝国軍に襲われ皆殺しにあったことを聞かされ、軍隊を脱走し、ダール村の惨状を目の当たりにして帝国に対する決起を決意することになるのです。

 

この物語は、第一巻でもそうだったのですが、場面展開がかなりテンポよくなされているため、とてもリズムよく読み進めることができました。

ただ、これは賛否両論があるでしょうが、敵方である聖イジョルニ帝国側の登場人物の描き方があまり明確ではありません。

というよりも、表立ってテッサやルーチェに味方する人々、もしくは陰ながらでもレーエンデ地方の独立を願う民衆に属する人たちの描写はそれなりに書き込んであるのですが、それに敵対する人としては個人はあまり出てこないのです。

ダール村襲撃を命じた人物としては、東教区の司祭長グランコ・コシモという人物が序盤に登場しますが、その人物さえも人物像はそれほど書き込みがあるわけではありません。

そういう意味では、敵側の人物のほとんどは類型的とさえいえます。

 

でも、その分テッサやルーチェやその仲間たちの人物、行動の描写には力が入れられており、場面展開のテンポの良さなどもあって六百頁を越える長編の物語でありながら、あまりその長さを感じさせないのだと思います。

革命の物語ですから、主人公たちの原動力はやはり「自由」の獲得ということが第一義に語られます。横暴な権力に対する民衆の抵抗であり、自由獲得のための抗争です。

その自由とは、もちろん横暴な権力からの自由であり、理不尽な暴力からの自由であり、また好きな人に好きだと言える自由です。

 

こうした自由のための抗争が様々な人間ドラマと共に語られているところが本書の魅力です。

若干、単純化されすぎている印象が無きにしも非ずではありますが、その分、本書の文章がテンポ良く構成されていることになっていると思われ、単純に欠点とばかりも言えないようです。

ともあれ、本シリーズの語る革命の話は、今後も展開していくと思われ、続巻を待ちたいと思います。

レーエンデ国物語

レーエンデ国物語』とは

 

本書『レーエンデ国物語』は『レーエンデ国物語シリーズ』の第六弾で、2023年6月に講談社から496頁のソフトカバーで刊行された長編のファンタジー小説です。

まさに一つの国の成り立ちを描いていて、大きな時の流れの中でレーエンデという地方(国)こそが主人公だともいえる、大河ファンタジー小説です。

 

レーエンデ国物語』の簡単なあらすじ

 

聖イジョルニ帝国フェデル城。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父と旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタンだった。空を舞う泡虫、乳白色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。その数々に魅了されたユリアは、はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく。(「BOOK」データベースより)

 

レーエンデ国物語』の感想

 

本書は『レーエンデ国物語』、古来「呪われた国」と呼ばれているレーエンデ国を舞台に、「レーエンデの聖母」と呼ばれた女性の姿を描く長編のファンタジー小説です。

本書の巻末には2023年6月刊行の本書に続いて、2023年8月には第二巻の『レーエンデ国物語 月と太陽』が刊行される旨の広告が載っており、「レーエンデを渦巻く運命は動き出した。」との一文が載っています。

つまりは、本書『レーエンデ国物語』はあくまでレーエンデ国を舞台とする大河物語のイントロに過ぎないということだと思われます。

その第一弾としての本書を読むとまず「革命の話をしよう」と始まり、序章の内容からして中世のヨーロッパの騎士風のファンタジーと思い読み始めました。

しかしながら、読み終えてみると革命の話が語られたという印象はあまりなく、恋愛小説のようでもありました。

 

著者の多崎礼が、講談社の編集者から「空想世界で、国を滅ぼす年代記のような話を書きませんか?」と声をかけられ、面白そうだと思いつつも「“国を興す”話が書きたい」という旨を編集者に伝え、承諾を得たとありあました( 現代ビジネス/本:参照 )。

そうして、王道のファンタジーとして創り込まれた聖イジョルニ帝国が支配する世界で特異な位置を占めるレーエンデ地方を舞台とする物語が紡がれたのです。

神に見放された土地、呪われた土地と言われ、全身が銀の鱗に覆われていく銀呪病という死病を抱えており、始祖ライヒ・イジョルニに自治権を与えられたウル族ティコ族という少数民族が暮らすレーエンデ地方が物語の舞台となります。

 

主人公は後に「レーエンデの聖母」と呼ばれることになるユリア・シュライヴァという十五歳の娘であり、その父がシュライヴァ騎士団の団長であるヘクトル・シュライヴァです。

彼女が父親に連れられてレーエンデへとやってくるところからこの物語は始まりますが、レーエンデの北の要害ともなっている大アーレス山脈を越える見返り峠で「おかえり」という声を聞きます。

そして、自分はレーエンデにやってきたのではなく、還ってきたという確信を抱くのです。

その後、イスマル・ドゥ・マルティンや、その長女プリムラとその子の双子の孫娘ペルアリー、そしてユリアと同世代の次女リリスたちに出会います。

ヘクトルはレーエンデとシュライヴァとの間に交易路を作るための調査にレーエンデを訪れたのですが、その調査の道案内に紹介されたのがトリスタン・ドゥ・エルウィンという青年でした。

ここから、ユリアの父ヘクトルとトリスタンとの交易路開設のための困難な旅の模様が描かれ、同時に、ユリアの物語も語られていくのです。

 

本書『レーエンデ国物語』冒頭から中ほどまではいわゆる冒険ファンタジー的な色彩を帯びてはいたものの、半分を過ぎたあたりから何となく恋愛ものと言ってもよさそうな雰囲気が漂ってきました。

とはいえ、ヘクトルの兄王ヴィクトルやその息子ヴァラスといった敵役、それにノイエレニエの騎士団など冒険小説的な設定も次第に充実していきます。

本書の性格がよくつかめないままに、ストーリー展開そのものの面白さに惹かれ、かなり早く読みえるほどには惹き込まれたようです。

 

本書『レーエンデ国物語』を読み終えた時点では恋愛の要素が強いファンタジー小説という側面がかなり強く感じられた作品でした。

しかし、二作目までを読了した今では、レーエンデという土地こそが主役の物語と印象へと変化しています。

本書自体の恋愛がらみの冒険小説的な面白さと同時に、大河小説としての作品の始まりが描かれた作品としてみるとちょっと見方が変わったようにも思えます。

当初の、本書『レーエンデ国物語』の終盤に感じた、この話を取り急ぎまとめた、という急ぎ過ぎの印象でさえも、見方が変化したようです。

とはいえ、ユリアが「レーエンデの聖母」と呼ばれるに至った理由はやはり簡単に過ぎるという印象は否めないままではあります。

でも、今後の展開を心待ちにしようという気持ちは十分に持ち得るほどの作品ではありました。

レーエンデ国物語シリーズ

レーエンデ国物語シリーズ』とは

 

『レーエンデ国物語シリーズ』は、架空の国である聖イジョルニ帝国に存在する呪われた土地と言われたレーエンデ地方を舞台にした長編のファンタジー小説です。

巻ごとに主人公が入れ替わり、聖イジョルニ帝国からのレーエンデ地方の独立を果たそうとする試みを描き出した作品で、かなり惹き込まれて読んだ作品でした。

 

レーエンデ国物語シリーズ』の作品

 

レーエンデ国物語シリーズ(2023年11月20日現在)

  1. レーエンデ国物語
  2. レーエンデ国物語 月と太陽
  3. レーエンデ国物語 喝采か沈黙か
  1. レーエンデ国物語 夜明け前
  2. レーエンデ国物語 海へ

 

レーエンデ国物語シリーズ』について

 

レーエンデ国物語シリーズ』は、「革命の話をしよう。」という一文から始まる物語であって、剣と魔法の世界が描かれた王道のファンタジー小説のような始まりを見せながら、その実、巻ごとに年代が、そして主人公が変わりながらレーエンデ地方の独立を目指す革命の物語です。

そういう意味では、レーエンデという土地自体が主人公だというべきなのかもしれません。

それぞれの主人公は、レーエンデ地方の独立を勝ち取るために血と汗を流すのですが、その物語には喝采を送りたくなり、また涙を流すことになる冒険の話でもあります。

 

日本のファンタジー小説の第一人者といえば、まずは『守り人シリーズ』の上橋菜穂子の名が挙がると思います。

異世界を緻密に描きながらも文化人類学者としての知識を十二分に生かした物語づくりをされています。

 

 

次いで、小野不由美の『十二国記シリーズ』があります。

このシリーズも他に類を見ない独特な異世界を緻密に構築した物語であり、他話で面白い作品でした。

 

 

本シリーズはこれらの作者たちの作品とは異なり、ひとつの地方の独立までの歴史を語る(ことになるだろう)物語であり、異世界の情景を細かに構築するというよりも、戦いや冒険自体に重きを置かれているようです。

 

第一巻の『レーエンデ国物語』は、後に「レーエンデの聖母」と呼ばれることになるユリア・シュライヴァを中心とした物語です。

レーエンデ地方の紹介を兼ねた作品であり、ユリアとトリスタンという若者との恋愛の要素もありながらも、ユリアの父親であるヘクトル・シュライヴァたちのレーエンデ地方の独立を目指す戦いの始まりが描かれます。

この第一巻から「レーエンデ地方」の独立を目指す戦いの萌芽が見え、後の物語の始まりとなるのです。

 

第二巻の『レーエンデ国物語 月と太陽』は、第一巻の後約100年後の物語です。

聖イジョルニ帝国の弱小貴族のヴァレッティ家に生まれたルチアーノ・ダンブロシオ・ヴァレッティと、ルチアーノを助けたティコ族のダール村に住むテッサという少女を主人公とする反逆の物語です。

 

第三巻の『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』もまた、第二巻の後約100年後の物語です。

聖イジョルニ帝国の聖都ノイエレニエに生まれた のルミニエル座のリーアン・ランベールとアーロウ・ランベールという双子の兄弟の物語です。

 

今のところ(2023年11月時点)では、第三巻までしか刊行されていませんが、2024年には、続巻の『レーエンデ国物語 夜明け前』『レーエンデ国物語 海へ』が刊行されるそうなので、待ちたいと思います。