多崎 礼

レーエンデ国物語シリーズ

イラスト1

レーエンデ国物語 4 夜明け前』とは

 

本書『レーエンデ国物語 4 夜明け前』は『レーエンデ国物語シリーズ』の第四弾で、2024年4月に600頁のハードカバーで講談社から刊行された長編のファンタジー小説です。

個人的好みからいうと、これまでの物語の流れからして今回は今一つの展開でした。

 

レーエンデ国物語 4 夜明け前』の簡単なあらすじ

 

四大名家の嫡男・レオナルドは佳き少年だった。生まれよく心根よく聡明な彼は旧市街の夏祭りに繰り出し、街の熱気のなか劇場の少女と出会う。-そして真実を知り、一族が有する銀夢草の畑を焼き払った。権力が生む欺瞞に失望した彼の前に現れたのは、片脚をなくした異母妹・ルクレツィアだった。孤島城におわす不死の御子、一面に咲き誇る銀夢草、弾を込められた長銃。夜明け前が一番暗い、だがそれは希望へと繋がる。兄妹は互いを愛していた。きっと、最期のときまで。(「BOOK」データベースより)

 

レーエンデ国物語 4 夜明け前』の感想

 

本書『レーエンデ国物語 4 夜明け前』は『レーエンデ国物語シリーズ』の第四弾の長編のファンタジー小説です。

これまでのシリーズ作品と照らしても意外な展開を見せ、またこれまで貼られた伏線を回収する作業に入っている作品でもあります。

ただ、個人的にはファンタジー物語としてそれなりの魅力は感じたものの、総じて本書の展開に対しては疑問符のつく作品でした。

 

その疑問符について詳しく述べることは本書のネタバレをすることになりますので実際読んでいただくことしかできません。

ただ、主役の一人であるルクレツィア・ペスタロッチの行動が納得のいかないものだった、個人の行動としてではなく、物語の展開として認めることができなかった、ということだけ記すにとどめておきます。

 

本書の主人公は一人は父ヴァスコと母イザベルとの間のレオナルド・ペスタロッチで、もう一人はレオナルドの異母妹のルクレツィア・ペスタロッチです。

九十年ほど前、聖イジョルニ帝国は始祖ライヒ・イジョルニの血を引いた五大名家のうち現在も残っているペスタロッチ家ダンブロシオ家などの四大名家で聖イジョルニ帝国を教区分割統治することになりました。

そのあと、四大名家のうちでも最弱の家柄だったペスタロッチ家がヴァスコなどの活躍で力を得、次期法皇帝になろうかというほどの力を得ていきます。

ヴァスコの息子で主人公であるレオナルドはペスタロッチ家の次期当主となるべき立場でした。

このレオナルドの友人だったのが、一人はペスタロッチ家の忠臣ジュード・ホーツェルの息子のブルーノであり、もうひとりがアリーナを母とするレオナルドの二つ年下の従兄弟のステファノ・ペスタロッチでした。

レオナルドとブルーノはポネッティ旧市街へイジョルニ人であることを隠して遊びに行き、「春光亭」のレオーネと知り合い、レーエンデ国物語 喝采か沈黙かで登場してきたリーアン・ランベール作の戯曲「月と太陽」と出会います。

そんな中、レオナルドの家に義母妹であるルクレツィア・ペスタロッチがやってくるのでした。

 

本書で作者が述べたいことは「正義」の衝突ということでしょう。

「正義」という観念は相対的なものであり、「正義」を主張する者の数だけ「正義」がある、とはよく言われることです。

それは今現在の現実社会で起きている戦争を見ればすぐにわかることで、どちらの側も自分の国の正義を主張した結果起きていることです。

作者は「普遍的な正しさは、僕ら人間には荷が重すぎるね」と新聞記者のビョルンという人物に言わせていますが、それは皆が感じていることだと思われます。

 

先に述べたように、本書に対する私の感想としては、疑問符がつく作品だったというにつきます。

本書でのルクレツィアの仕業は常軌を逸しているというレベルを超えており、本書中でも言われているように、ほかに手段があるだろうと思うからです。

物語としては確かに面白く、それなりに惹き込まれて一気に読み終えたのですが、私の好きなファンタジー作家の上橋菜穂子などの作品と比べるとどうしても上橋作品に軍配を上げてしまいます。

何故かよく分かりませんが、それは多分物語の組み立て方が上橋作品の方が緻密な印象を受け、物語世界の完成度が高い印象なのです。

つまりは、上橋作品は戦術や戦略面での視点や、国家間の地政学的な視点まで加味されていたりと、読者が気づかないであろう細かなところまで考えられていて読んでいてその視野の広さに引き込まれるのです。

その点田崎作品はストーリー展開の面白さはあるものの、上橋作品に比して視野の広さ、心象描写細かさにおいて今一つ及ばない気がします。

 

他の作家さんと比較するなど失礼かと思いますが、要は私の好みとして少し異なるのだ、ということです。

ですから、華やかなファンタジーものを好む方には本書のストーリー展開には胸躍るものがあり、かなり評価が高くなるのではないでしょうか。

でも、これまで文句を言ってきた私も最終巻となる次巻『レーエンデ国物語 海へ』を心待ちにしているのですから勝手です。

自分のことではあるもののやはり読み手は我儘だと思いますが、しかし正直なところです。

[投稿日]2024年06月19日  [最終更新日]2024年6月19日

おすすめの小説

日本のファンタジー小説

鹿の王 ( 上橋菜穂子 )
戦士団の頭であったヴァンは奴隷として囚われていたが、ある日黒い獣の一団が襲ってきた後、鉱山の者皆が流行り病で死んでしまう。生き残ったのはヴァンと幼子だけだった。2015年本屋大賞、第4回日本医療小説大賞を受賞しています。
十二国記シリーズ ( 小野不由美 )
古代中国思想を基盤にした異世界ファンタジーです。シリーズを通しての主人公は存在しないけれど、各作品の登場人物は時代を超えてリンクし合っています。未読ですが、かなり評判が良いようです。
折れた竜骨 ( 米澤穂信 )
折れた竜骨著の『折れた竜骨』は、獅子心王リチャードの存した十二世紀末の欧州の、ロンドンから三日ほどの位置にあるソロン諸島を舞台にした、剣と魔法の世界を舞台にしている、第64回日本推理作家協会賞を受賞した本格派の推理小説です。
図書館の魔女シリーズ ( 高田大介 )
高田大介著の『図書館の魔女シリーズ』はタイトルからくる印象とは異なり、口のきけない娘を主人公とする、剣と魔法ではない「言葉」にあふれた異色のファンタジー小説です。
残月記 ( 小田 雅久仁 )
小田雅久仁著の『残月記』は2021年11月に出版された、新刊書で381頁の中編のファンタジー小説です。「月」をモチーフとしたホラー中編集で、独特の言葉遣いと共に妙な魅力を持った、好みではありながらも若干の冗長さをも感じる作品でした。

関連リンク

『レーエンデ国物語』多崎礼 公式サイト 講談社
異なる世界、西ディコンセ大陸の聖イジョルニ帝国。母を失った領主の娘・ユリアは、結婚と淑やかさのみを求める親族から逃げ出すように冒険の旅に出る。呪われた地・レーエ...
『レーエンデ国物語』キャラクターは“幼い頃に憧れた王子様”そのもの! 作者・多崎礼×モデル兼ライター・青戸しのが共通点を語る対談インタビュー
全5巻に及ぶ長編大作ファンタジー小説『レーエンデ国物語』。「革命」をテーマに、架空の国家・レーエンデ国での群像劇を描く。家系に縛られ続けた無垢な少女のユリア、寡...
多崎礼 公式blog 霧笛と灯台
小説家多崎礼の個人ブログです。近況報告や新刊案内、創作の裏話なども綴っていきたいと思います。
多崎礼さんの読んできた本たち 「ファンタジーが得意でなかった」投稿生活から専業作家へ
数々のファンタジー作品で人気を集め、今年は全五巻のファンタジー大作『レーエンデ物語』(現在第三巻まで刊行)が大変な話題となっている多崎礼さん。幼い頃に指針をく...
本屋大賞ノミネート『レーエンデ国物語』は壮大な革命の物語。支配される者たちの残酷な運命と、それを切り開く革命に心打たれる
全3作まで発表されている多崎礼氏による『レーエンデ国物語』(講談社)は、すべてこの冒頭文からはじまる。いつの時代も、革命の多くは「自由」と「人権」を求めて蜂起す...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です