お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある―大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。後輩たちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。そして彼の中にも、消せない炎がまぎれもなくあることを知った泉は―。早熟の天才少女小説家、若き日の絶唱ともいえる恋愛文学。(「BOOK」データベースより)
本書は、「名実ともに島本を代表する作品」である長編の恋愛小説です。
この作家、島本理生の第159回直木賞受賞作『ファースト ラヴ』がかなり心に残る作家でしたので、島本理央という作家のほかの作品を読もうと、彼女の代表作的な作品と言われている本書『ナラタージュ』読んでみたものです。
本書は、主人公である工藤泉の二人の男の間で揺れる恋模様を描いた作品です、と言っては間違いで、工藤泉の高校時代の恩師である葉山先生への思慕を描いた作品というべきでしょうか。
大学二年になっている泉に葉山貴司から連絡が入り、高校時代の仲間だった黒川博文、山田志緒とともに高校の演劇部の手伝いをすることになります。ただ、そこには黒川の友人の小野玲二も参加していました。
高校時代から葉山に対し恋心を抱いていた泉でしたが、妻と別れることができない葉山の真実を知り、小野からの交際の申し込みを受けてしまいます。
しかしながら、次第に本当の貌を見せる小野にやはり葉山への思いを断ち切れないでいる自分に気づく泉だったのです。
本書を読んでいてどうにも感情移入ができず、さらには読み続けること自体に拒否感を感じてしまいました。
それは、やはり恋愛小説は私には向いていないからなのか、本当にそう言い切ってわかりません。
というのも、例えば井上荒野の『切羽へ』はかなり惹きこまれて読んだからです。作品全体に醸し出されている官能の香りに、そういう文章、作品を知らなかったこともあり、ある種驚きをもって読んだものです。
原田マハの『カフーを待ちわびて 』にしてもそうです。本書は、沖縄の空気感をまといつつ、作品全体に漂う感傷を心地よく感じながら読み進めたことを覚えています。
そうしたことを思い合わせてみると、結局は本書に対する私の拒否感は、恋愛小説だからというのではなく、単に個人的な好みの問題に帰着するのかもしれません。
そういえば第158回直木賞の候補作である藤崎彩織の『ふたご』という作品でも似たような印象を持ちました。主人公の内心をしつこく描写する作風になじめず拒否感を覚えてしまったものです。
本書においても、登場する人物、それは主人公にしても、主人公が思いを寄せる二人の男にしてもそうなのですが、どちらにも共感を覚えることができず、それどころか嫌悪感すら持ってしまいました。
自分と同様欠点を持つ人間を改めて見せつけられることへの拒否感かもしれません。
いずれにしろ、この作者の筆の力は素人の私が言うまでもなくプロが認めているところです。「この恋愛小説がすごい! 2006年版」、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第一位、2006年の本屋大賞で第六位に選ばれていて、また第十八回山本周五郎賞候補にもなっている作品なのです。
とすれば、あとは個人の好みというしかありません。