在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦“いそかぜ”は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った“楯”が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した長編海洋冒険小説の傑作。( 上巻 : 「BOOK」データベースより )
「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず」ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るために―。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ。( 下巻 : 「BOOK」データベースより )
日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞などを受賞している、国防問題を取り上げたスケールの大きな長編の冒険小説です。
東京湾に浮かぶ最新鋭のイージス艦「いそかぜ」が、北朝鮮の工作員とそれに同調する自衛官のグループに乗っ取られてしまう。
このテロリストは生物化学兵器「GUSOH」を有しており、テロリストグループに東京を人質に取られたも同様だった。
この「いそかぜ」に先任警衛海曹仙石恒史と防衛庁情報局(DAIS)所属の如月行とが潜り込み、テロリストたちに立ち向かうのだった。
本書も、文庫本の上下巻を合わせると千百頁を超える分量という長い作品です。でも、その物語が決して長過ぎるとは感じません。
先に書いたように、ディテールを詳しく書き込んであるのですが、それが冗長に感ぜずに、舞台背景や人物の関連などの理解に役立っています。
自衛隊の装備や専門用語についても詳しく解説してあります。そうしたハード面の描写に加え、登場人物の人物造形もメリハリよく描写してあります。
更には、その多数の登場人物たちの人間関係の描写も読ませ、特に仙石恒史と諜報員としての実態を持つ如月行との関係は胸に迫るものがあります。
加えて敵役のテロリストたちもその思想や生活の背景の描写は詳しく、心情として犯人側に傾きやすい背景を用意したりと、小説としての構成も上手いと感じさせられました。
とにかく、骨太の物語で細かなところまでまで詳しく書き込まれた、日本には珍しいタイプの小説です。
本当は実に細かなところでの間違いもあるらしいのですが、気にする必要も無いところでしょうし、筋立ても読み手を裏切る意外性に富み、第一級の冒険小説だと思います。
自衛隊を描き出した作品としては月村了衛の『土漠の花』があります。アフリカのジブチとソマリアの国境付近で現地の勢力に襲われる自衛隊の隊員の、灼熱の太陽のもと、自衛隊の基地までの70Kmの行動を描いた冒険小説です。本作に比してアクション面が強い作品だと思われます。
また、安生正の『ゼロの迎撃』という作品のほうが、より本作『亡国のイージス』に近いと思われます。
というのもこちらは、防衛庁情報本部情報分析官の真下俊彦三等陸佐が三人の部下と共に、東京の中心部でテロ攻撃を実行した正体不明のテロリストに立ち向かうという、自衛隊の現下の状況を踏まえて法律論まで踏み込んで書かれている作品だと思われるからです。
ちなみに、本作品は真田広之や寺尾聰らの出演で映画化もされています。この映画は防衛庁や海上自衛隊、航空自衛隊らの協力のもとに製作され、なかなかの迫力をもった映画になっていたと思います。
ただ、アクション面が強調され、政治的側面や人間ドラマは、無いことはなかったのですが、あまり重きが置かれていなかったのではないでしょうか。