菊地 秀行

初期の作品しか読んでいないのですが、当時の伝奇的なエロスとバイオレンス小説の旗手的な位置付けと言っていいでしょう。夢枕獏の初期作品と同じく、単純に楽しめばよく、理屈は要りません。

ただ、私はこの作家を途中から読まなくなりました。というのも、どうもこの作家の美文調と言って良いのかすら分かりませんが、独りよがりの文章に思えてきて、それが気になりだしたら読めなくなったのです。

相変わらず、物語世界は面白そうなのですが、そう思い始めて以降は、2~3年に1冊位を読むか読まないか、と言った程です。その点が気にならない人は、気楽な娯楽作品としてかなり面白く読めるのではないでしょうか。

個人的には、夢枕獏作品は単なるエロ、グロの作品から、より面白いエンターテインメント作品へ成長していったと思うのですが、この作家は当時で止まっている感じがします。

以上の次第で、ここで紹介する作品は初期作品に限られますので、ご了承ください。

ネクロポリス

ネクロポリス』とは

 

本書『ネクロポリス』は、2005年10月にハードカバーで刊行され、2009年1月に上下巻合わせて940頁の文庫として出版された、長編のファンタジー小説です。

 

ネクロポリス』の簡単なあらすじ

 

懐かしい故人と再会できる場所「アナザー・ヒル」。ジュンは文化人類学の研究のために来たが、多くの人々の目的は死者から「血塗れジャック」事件の犯人を聞きだすことだった。ところがジュンの目の前に鳥居に吊るされた死体が現れる。これは何かの警告か。ジュンは犯人捜しに巻き込まれていくー。(上巻:「BOOK」データベースより)

聖地にいる173人全員に殺人容疑が降りかかる。嘘を許さぬ古来の儀式「ガッチ」を経ても犯人は見つからない。途方にくれるジュンの前に、「血塗れジャック」の被害者たちが現れて証言を始めた。真実を知るために、ジュンたちは聖地の地下へ向かうが…。(下巻:「BOOK」データベースより)

 

ネクロポリス』の感想

 

本書『ネクロポリス』は、ホラー小説の雰囲気をまとったダークファンタジーと呼べばいいのでしょうか。奇妙な味わいのある長編小説です。

 

そもそも「ネクロポリス」とは、巨大な墓地または埋葬場所を言うそうです(ウィキペディア : 参照)。

本書は、そのタイトルの言葉のとおりに、死者がよみがえると言われる場所「アナザー・ヒル」をきっかけに展開されるミステリー小説でもあります。

 

本書の著者恩田陸の本屋大賞を受賞した青春小説である夜のピクニック」で物書きの想像力の豊かさに驚かされたのだけれど、この本を読んでその事実を改めて思い知らされました。

本書は「夜のピクニック」の爽やかさとは一変して、その対極にある「死」をモチーフにしてこうした物語を紡ぎだす力量には恐れ入るばかりです。

 

ただ、物語としての面白さは「夜のピクニック」に比べると若干劣る印象です。それは発生するイベントの差なのかもしれませんし、終盤の展開に若干首をひねる箇所も見られることも一因なのかもしれません。

どちらにしても、私の本の読み方は、その本を読んでいる時間が楽しいひと時と言えるか、に尽きるのですが、本書はその楽しさが若干ですが、劣ると感じられたのです。

 

 

とはいえ、本書のユニークさ、面白さは間違いのないところです。

ソリトンの悪魔

日本最西端に位置する与那国島の沖合に建設中の“オーシャンテクノポリス”。その脚柱が謎の波動生物の攻撃を受け、巨大海上情報都市は完成目前で破壊されてしまった。とてつもない衝撃は、近くの海底油田採掘基地“うみがめ200”にも危機的状況をもたらす。オイルマンの倉瀬厚志は基地を、そして遭難した娘を救出するため、死力を尽くすが…。( 上巻
:「BOOK」データベースより)

本能の赴くままに海上保安庁の巡視船を次々と破壊し、海上自衛隊や台湾海軍の潜水艦を翻弄していく、“蛇”と名付けられた謎の波動生物。はたしてその“蛇”を葬り去ることができるのか?究極の選択を迫られる倉瀬厚志。さらに、厚志らが閉じ込められていた海底油田採掘基地には、油田暴噴の危機が迫る。バトルの果てに感動のクライマックスが。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

エンターテイメント性抜群のノンストップアクション小説です。

 

海洋情報都市「オーシャンテクノポリス」の建設に携わっていた主人公倉瀬厚志は、娘の救出のためにオーシャンテクノポリスを襲った怪物、ソリトン生命体との対決に臨む。

そもそもこの怪物の正体の発想が普通ではない。ネタばれになるので勿論ここで書ける筈もありませんが、書いていいとしても科学に素人の私には説明できる能力はありません。流体力学のなんたらなど分かるわけもなく、如何にもそれらしいと思うばかりです。

その怪物に対し戦いを挑む中、自衛隊の潜水艦艦長や分かれた妻と共に科学的な言葉の羅列の中、読者を法螺話の中に引きずり込んでしまうのです。

是非読むべきでしょう。

二重螺旋の悪魔 完全版

遺伝子操作監視委員会に所属する深尾直樹は、ライフテック社で発生した事故調査のため、現地に急行した。直樹はそこで、かつての恋人・梶知美が実験区画P3に閉じ込められていることを知る。だが、すでに現場は夥しい血で染め上げられた惨劇の密閉空間に変質していた…。事故の真相に見え隠れするDNA塩基配列・イントロンに秘められた謎。その封印が解かれるとき、人類は未曾有の危機を迎える!恐怖とスリルの連続で読者を魅了する、極限のバイオ・ホラー。( 上巻
:「BOOK」データベースより)

二一世紀初頭。イントロンに封印された悪魔は解き放たれ、世界は焦土と化した。人類もまた、異形の物たちに対抗すべく最終軍を結成した。果たして、生き残るのはどちらか?人類の未来を賭け、悪魔の地下要塞に潜入した深尾直樹の運命は?そして、怪物たちは何故、遙か太古から人類のDNAに封じられていたのか?全ての謎がリンクしたとき、宇宙に秘められたる恐るべき真相が解き明かされる!斯界から大絶賛を浴びた壮大なバイオ・ホラー。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

疾走感がものすごい、長編のノンストップホラー小説です。

 

物語のインパクトというかアイデア、表現はかなり衝撃的です。

人間の遺伝子情報の中に隠されていた暗号を解いた時、様々の怪物が現れ、人類を滅ぼそうとするのです。

こうした法螺話は、その法螺話の中でそれなりの整合性、リアリティを持っていなくては面白い作品として成立しませんが、本作品は十分です。そのジェットコースター感にぐいぐい引き込まれてしまいます。この手の法螺話の好きな人にはたまらない物語です。

この手の物語がお好きな方には絶対お勧めの一冊です。

 

文庫本は古本でしか見当たらないので、上記イメージリンクはKindle版、楽天リンクは【楽天Kobo電子書籍】版に貼っています。

梅原 克文

もう10年以上も前のことですが、久しぶりに「法螺話の面白さ」を持った作家に出会った、という印象を持ったことを覚えています。

その「法螺話の面白さ」とは、驚きという点ではひと昔前のSFで言われていた「センス・オブ・ワンダー」という言葉にも似ていると思うのですが、若干異なるものと考えています。

「センス・オブ・ワンダー」とは、誤解を恐れずに言えば「新鮮な驚き」とでも言うべきもので、単なる驚きを越えたその基礎に科学的な根拠がある「驚異」のことを言い、一方「法螺話」は、既存(既知)の事実の積み重ねの中に嘘を紛れ込ませて、如何にもホントらしい話を組み立てることを言う、と思っています。その根拠を真実らしく見せているだけで全くの嘘なのです。

この梅原克文という作家の「二重螺旋の悪魔 」「ソリトンの悪魔 」という初期の2作はこの嘘の上に積み上げられた物語の面白さが群を抜いていると感じたのです。

残念ながら、その後に続く先品はどんどん法螺話の展開が無くなり、物語としての面白さが無くなっていきました。勿論これは私の感想なので、私の感覚と合わなくなっただけのことでしょう。しかし、それこそが私にとって問題なのです。

でも、とにかくこの2作品は絶対のお勧めです。

ちなみに、この作家の作品をSF小説と言ってはいけないそうで、サイファイ小説を言うべきだとか。まぁ、呼称はどうでもいいですけどね。

精霊の守り人 [ DVD ]

女用心棒のバルサは新ヨゴ国の王子チャグムが川に転落したところへ通りかかり、命を救った。宮殿に連れて行かれたバルサは、妃から「王子を連れて逃げてほしい」と頼まれる。チャグムには精霊の卵が宿ったが、その精霊は悪しき魔物と言われており、帝から暗殺されようとしていると言うのだ。やむなくチャグムを連れて逃亡するバルサ。バルサは闘い、生きる厳しさと身を守る術をチャグムに教えていく。シーズン1DVD-BOX。(「Oricon」データベースより)

 

綾瀬はるか主演のNHKテレビドラマのDVDBOXです。

獣の奏者エリン [ DVD ]

崇高な獣“王獣”と心を通わせた少女・エリンが、その類まれな才能ゆえに王国の勢力争いに巻き込まれ、波乱万丈の人生を送ることになり…。『精霊の守り人』の上橋菜穂子による巨編ファンタジー『獣の奏者』を、高いクオリティで定評のあるProduction I.Gとトランス・アーツの制作でTVアニメ化。第1話から第4話までを収録。(「Oricon」データベースより)

 

DVD12巻。全50話。未見です。

獣の奏者 [ コミック ]

上橋菜穂子×武本糸会が贈る珠玉の本格ファンタジー!!!闘蛇(とうだ)‥‥それは戦闘用の偉大なる獣。王獣(おうじゅう)‥‥それは王の威光を示す神聖な獣。エリンの母は、戦闘用の獣(けもの)である「闘蛇(とうだ)」の世話をする有能な医術師。だが、ある日その闘蛇が全て死んでしまった!母はその責任を問われ、裁きにかけられることになるが‥‥!人を恐怖させ、また、魅了する、神秘的で獰猛な「獣」。その存在に魅せられた少女・エリンの運命がここに廻(まわ)り出す!

母が指笛を吹いた時、彼女の運命が始まったーー!エリンは、獣ノ医術師である母・ソヨンと暮らす好奇心おう盛な十歳の少女。だがある日、母が世話している戦闘用の獣・闘蛇(とうだ)が全て死んでしまった!母はその責任を問われ、裁きにかけられることになるがーー。「精霊の守り人」などで知られる上橋菜穂子の原作を、武本糸会がコミカライズ!手触りと、温かみのある極上ファンタジーがここに!!(Amazon内容紹介より)

 

シリウスKC 全11巻。未見です。

獣の奏者

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。(「BOOK」データベースより)

 

「決して人に馴れぬ孤高の獣」を飼いならす少女の姿を描いた長編のファンタジー小説です。

 

緑の瞳を持つ少女エリンは獣ノ医術師である母と共に闘蛇衆たちの村で暮らしていた。

ある日母が世話をしていた闘蛇の中でも特に強い「牙」が死んだ。エリンの母はその責めを負わされ処刑されてしまう。

母と引き離され一人で生きていくことになるエリンだったが、蜂飼いのジョウンに助けられ、共に暮らすこととなるのだった。

 

この作品も読みごたえのある作品でした。

守り人シリーズ」でも書いたように、上橋菜穂子の作品は構成がよく練られていて、物語の奥行きが広く安心して読み進むことが出来ます。

大人も子供も上橋菜穂子の紡ぎだす世界に入り易く、読者が主人公の冒険物語に感情移入しやすいので人気があるのではないでしょうか。

 

本書は本来「闘蛇編」「王獣編」の二巻で終わる予定だったのですが、あまりの要望の多さに「探求編」「完結編」が追加され、さらに外伝を加えて全五巻になったそうです。

 

ちなみに、上掲の書籍の写真は講談社文庫版にリンクしていますが、各編を二分冊にしている青い鳥文庫版もあります。

 

 

この作品は全50話としてアニメ化され、2009年からNHK教育テレビで放送されました。