幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。(上巻)
元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。新選組のもっとも得意な日々であった。やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。(下巻)(「BOOK」データベースより)
この本以降の多くの新選組を描いた作品に多大な影響を与えた作品です。厳密に言うと新選組を描いたというよりは、土方歳三という一人の男を描いた作品と言うべきかもしれません。剣士として、また策士としての土方歳三像を生き生きと描き切った作品であり、だからこそ後の作品に影響を与えたのでしょう。
新選組を描いた作品と言えば、まずは本書の前に、本書でさえもかなり参考にしていると言われる、子母沢寛の『新選組三部作』があります。まだ新選組の生き残りがいた明治も終りに、子母沢寛が実際に聞いて集めた資料をもとに、虚構を交えて書いた作品です。
しかし、本書はその三部作を下敷きに、新たに土方歳三という情熱に満ちた男を創造しました。著者である司馬遼太郎は、明治維新という時代の一大転換期に殆どの諸侯は官軍として「日本」に参加したのだけれど、どうしてもそれを良しとせずに時代から降りた男たちがいたのだと言います。その様子を「侠気」という言葉で表し、「まあ、小説に書くしかない」のだと言っているのです。
そうした「侠気」をもった男たちの集団を、土方歳三を中心として描ききっているのですから、面白くない筈がありません。明治維新という時代の変革期を剣と侠気で走り抜け、散っていった男たちの物語です。
このあとに、大内美予子の『沖田総司』、浅田次郎の『壬生義士伝』を始めとする新選組三部作、そして新選組を個々の隊員の視点で描いた青春群像としての木内昇の『新選組 幕末の青嵐』などの新選組をテーマにした名作が数多く出版されています。ここに挙げた三作品は私が特に面白く惹きこまれた作品であり、他にも下記の「新選組を描いた小説」に掲げているように、面白いと感じた作品は多数書かれています。その多くが、子母沢寛の作品や本書を参考にしていると言っても過言ではないのです。それほどの名作です。