アノニマス・コール

3年前のある事件が原因で警察を辞めた真志は、妻の奈緒美と離婚、娘の梓と別居し、自暴自棄な生活を送っていた。ある日、真志の携帯に無言電話がかかってくる。胸騒ぎがして真志が奈緒美に連絡すると、梓は行方不明になっていた。やがて、娘の誘拐を告げる匿名電話があり、誘拐事件は真志がすべてを失った過去の事件へつながっていく。一方、真志を信じられない奈緒美は、娘を救うため独自に真相を探り始め―。予想を裏切る展開の連続と、胸を熱くする感涙の結末。社会派ミステリの旗手による超弩級エンタテインメント!!作家生活10周年記念作品。(「BOOK」データベースより)

アクション場面も盛り込まれた長編のノンストップサスペンスミステリー小説です。

三年前にある事件が原因で警察をやめた朝倉真志は、家族とも別れ、すさんだ生活を送っていました。そこに、ある日突然、娘からと思われる電話が入ります。別れた妻に確認し、娘が誘拐されたことを知るのです。朝倉は、この誘拐が自分が警察をやめる原因となったある事件に関する情報を自分が掴んでいることに関係していることを知ります。

本書は、とにかくストーリー展開がスピーディーです。本書冒頭からすぐに事件が起き、その後も立て続けに目を話せない出来事が続き、なかなかに本を置くことができません。

問題の事件のために、警察を信じることができなくなっていた朝倉は、どうしても自分自身が動かざるを得ず、若干胡散臭さのある岸谷と、戸田という青年の力を借りて探索を始めるのでした。

ノンストップ サスペンスと言える作品にも数多くのものがありますが、 高野和明の『グレイヴディッガー』という作品があります。骨髄移植のドナーとなって患者として苦しんでいる人を助けようとする八神俊彦というとんでもないワルの、ある一夜の逃避行を描いた作品で、その疾走感は久しぶりに読みました。ミステリーとは言えないと思いますが、エンターテインメント小説としての面白さは十分に持っている作品です。

アクション性に重きを置いて見るとより多くの物語が挙げられます。近頃読んだ作品で言うと、 月村了衛の『ガンルージュ』があります。韓国の大物工作員キル・ホグンが日本で韓国要人の拉致作戦を実行した際に、成り行きで秋来祐太朗と言う少年を誘拐してしまいます。そこで、元公安の捜査員であった祐太朗の母親の秋来律子は、ワケあり担任教師の渋矢美晴とバディを組み、息子の救出に挑むという、アクション満載のエンタテインメント小説です。

誘拐と言う側面に注目すると、これまで読んだ中で一番印象的だったのは天藤真の『大誘拐』という作品です。三人の若者に誘拐されたある資産家の老女の物語で、日本推理作家協会賞も受賞しているこの作品は、北林谷栄主演で映画化もされました。誘拐された筈のお婆ちゃん自ら100億円という身代金を決定し、テレビ局の中継車まで要求するという誘拐劇をしたててしまうのです。文藝春秋の「二十世紀傑作ミステリーベスト10」で一位になった極上のエンタテイメント小説です。

本書『アノニマス・コール』は、『大誘拐』ほどのユーモアはなくシリアスな作品です。また、岸谷勇治や戸田純平という朝倉の手伝いをする人物たちの書き込みが浅かったり、犯人像に若干無理があったりと気になる点はあります。

本来、薬丸岳という作家は本来社会性の強いミステリーを得意とされる書き手であり、本書のような作風の作品は珍しいのだそうです。だからというわけではないのですが、本書の疾走感はなお魅力的であり、面白い小説だと言えると思います。