『ほどなく、お別れです』とは
本書『ほどなく、お別れです』は『ほどなく、お別れですシリーズ』の第一弾で、2018年12月に小学館からソフトカバーで刊行され、2022年7月に288頁で文庫化されたファンタジックなヒューマンドラマの中編の小説集です。
とても評判のよい作品のようですが、個人的には続編を読むかどうかを迷うほどの印象でした。
『ほどなく、お別れです』の簡単なあらすじ
この葬儀場では、奇蹟が起きる。
夫の五年にわたる闘病生活を支え、死別から二年の歳月をかけて書き上げた「3+1回泣ける」お葬式小説。
大学生の清水美空は、東京スカイツリーの近くにある葬儀場「坂東会館」でアルバイトをしている。坂東会館には、僧侶の里見と組んで、訳ありの葬儀ばかり担当する漆原という男性スタッフがいた。漆原は、美空に里見と同様の“ある能力”があることに目を付け、自分の担当する葬儀を手伝うよう命じる。漆原は美空をはじめとするスタッフには毒舌だが、亡くなった人と、遺族の思いを繋ごうと心を尽くす葬祭ディレクターだった。
「決して希望のない仕事ではないのです。大切なご家族を失くし、大変な状況に置かれたご遺族が、初めに接するのが我々です。一緒になってそのお気持ちを受け止め、区切りとなる儀式を行って、一歩先へと進むお手伝いをする、やりがいのある仕事でもあるのです」–本文より
【編集担当からのおすすめ情報】
「私の看取った患者さんは、
『坂東会館』にお願いしたいです」
ーー夏川草介(医師・作家『神様のカルテ』)氏推薦!全国の書店員さんが熱烈支持!
『神様のカルテ』以来の最強デビュー作!「登場人物それぞれの気持ちに涙し、最期の別れの儀式を通して美空が成長していく様子を、まだまだ読みたいと思いました。心があたたかくなる作品です」
ーー宮脇書店ゆめモール下関店・吉井めぐみさん「坂東会館のお葬式は、旅立ちを迎えるその人の、生きた道を最後に照らす、あたたかい光でした」
ーー平和書店TSUTAYAアルプラザ城陽店・奧田真弓さん「大切な人を亡くした時、ずっと思い続けることが愛だと思っていた自分に、愛ある別れは必要だと、この作品は教えてくれた」
ーージュンク堂書店滋賀草津店・山中真理さん「別れが来ないうちに、生きているうちに伝えなければならない思いがある。抜群のデビュー作です」
ーー小学館パブリッシングサービス・松本大介さん( 内容紹介(出版社より))
『ほどなく、お別れです』の感想
本書『ほどなく、お別れです』という作品は、葬儀場を背景としたお仕事小説であって、大切な人との別れの場を描いた三篇の中編からなる感動の作品集です。
本書の主人公の美空は強い霊感の持ち主であり、その能力をもとに葬儀場ならではの切なさに満ちた別れを心温まる旅立ちとして送り出します。
「全国の書店員さんが熱烈支持! 『神様のカルテ』以来の最強デビュー作!」という惹句に惹かれて読んでみたのですが、『神様のカルテシリーズ』に比してみるとそれほどとは思えない、というのが正直な感想でした。
『神様のカルテシリーズ』では主人公の医者が医者としての日常の中で患者さんの死に直面し、看取る姿が描かれています。
それに対し、本書『ほどなく、お別れです』ではすでに亡くなられた方がいて、その方を見送る、または見送られるという話が描かれているのです。
ここで主人公が霊感が強く、また僧侶とともに死者との会話ができるという特殊能力があり、葬儀の裏側にある諸事情を知ることができるという設定になっています。
個人的には、本書は『神様のカルテシリーズ』と比べるべくもない、という印象になったのは、このようなファンタジックな設定であったことが一番大きいのだと思っています。
主人公の大学四年生で葬儀社「坂東会館」のアルバイト清水美空は、亡くなった人の霊が見えるという特殊な能力を有していました。
美空には美空が生まれる前に亡くなった美鳥という名の姉がいたのですが、その姉の存在を感じられていたのです。
また、美空の斎場でのアルバイトは、会館の社長が美空の父親の友人だったことから決まった仕事であり、母親も同居している祖母も礼儀作法が身につくと賛成してくれたのです。
ある日、かわいがってもらっている先輩社員の赤坂陽子からの手伝い依頼の連絡を受けた美空が坂東会館へと向かうと、ある通夜の席の後片付けをすることになりました。
その通夜の担当であった葬祭ディレクターの漆原は、「遺体にまつわる複雑な事情を見抜く観察力と、抜きん出た現場対応能力の持ち主
」でした。
またその通夜の式を務めた光照寺の僧侶の里見道生は、漆原の友人でもあり、また亡くなった方と話ができるという能力を有していて、この二人が行う葬儀は心休まる葬儀となるのも当然だったのです。
第一話は上記のようにして始まりますが、このようにして美空、漆原、里見という三人組が担当する葬儀の様子が語られていきます。
彼らの担当する葬儀は、里見の能力や漆原の対応力の高さに美空の霊を感知できる能力も加わって、一段と心のこもったお見送りをすることができるのです。
こうして、美空の担当する葬儀に絡んだ人間ドラマが展開されますが、そこには感動的なドラマが存在するのでした。
『ほどなく、お別れですシリーズ』の項でも書いたのですが、死者との対話と言えばまずは辻村深月の『ツナグ』という作品が思い出されます。
テレビドラマ化もされた、死者との再会の仲介をしてくれる「ツナグ」の存在を通した人間ドラマを描いた作品集でした。
この『ツナグ』という作品はかなり惹き込まれて読んだ作品でしたが、本書『ほどなく、お別れです』の作者長月天音という人は本書がデビュー作だということであり、辻村深月などというベストセラー作家と比較するのは酷だとは思います。
しかし、それが作品を作品として見たときの純粋な感想なのです。
ただ、作家としての経験の差ということを読み手が心しておけばいいのではないでしょうか。
結局、『神様のカルテシリーズ』ほどではないとは言ったものの、本書も小学館文庫小説賞を受賞していることもあり、死者との会話という仕掛けを通しての物語の構築力は素晴らしいと思われ、今後を期待してみたいと思います。