AVでレイプされ、失踪した一色リナの捜索依頼を受けた村野ミロは、行方を追ううちに業界の暗部に足を踏み入れた。女性依頼人が殺害され、自身に危険が及ぶ中、ようやくつかんだリナ出生の秘密。それが事件を急展開させた…。乱歩賞受賞直後に刊行された圧巻の社会派ミステリー。「ミロシリーズ」第2弾!(「BOOK」データベースより)
私立探偵の村野ミロを主人公とする「ミロシリーズ」の第二弾となる、ハードボイルドタッチの長編ミステリー小説です。
今回のミロは、渡辺房江という女性解放思想系の個人出版社を営む女性から、あるAVビデオに出ている一色リナという女の子を探してほしいという依頼を請けることになります。
やはりというか、前巻同様に、私の個人的な好みからは少々はずれた小説でした。
文庫本で400頁を超えるボリュームを持つ小説であるにも関わらず、物語のテンポは緩やかであり、決して派手なバイオレンスやエロスが展開されるわけでもありません。
ただ、ミロの調査の様子が述べられるだけです。つまり本書は主人公のミロのキャラクターの魅力だけで持っている印象です。
それはつまり、私は本書のストーリーそのものにあまり魅力を感じていないということでもあります。
しかし、そのことは物語自体が面白くないとか、小説としての出来が悪いとかを言いするものではありません。単に、私の好みと異なるというだけです。
それどころか、作家の文章を丁寧に読み込み、登場人物の性格描写や物語の背景への言及などをじっくりと読み込むことの好きな読者にとってはとても魅力的な小説ではないかと思われます。
本書の場合、やはり主人公が女性であるということが特徴づけられるでしょう。
本書は、AVビデオに出演し、その行方が分からなくなっている一色リナという行方不明の娘を探すというまさに典型的なハードボイルド小説の形をとっています。
主人公のミロは、その調査の過程で出会う人々との関りの中で様々な出来事に出逢い、当然のことながら人間の様々な欲望の側面を見ることになります。
そんな中で、調査の過程で出会う男に反感を覚えつつも性的な欲望をも抱くその心理は、私にはわからないところであり、本書の魅力の一つにもなっています。
また別な魅力としては、アフォリズムとでもいえる一文が散りばめられている、まさにハードボイルド的な文章もあるでしょう。
例えば過去を引きずるミロを表現するのに「すべては過ぎ去ってしまってからわかる。わかった時はすでに遅いからこそ、残された思い出だけがいつまでも私を苦しめるのだ。」などの一文があります。
こうした文章で構成される本書は、強さを前面に押し出して生きているはずの主人公が、実は内心では鬱屈を抱えながらも暮らしている普通の人間の一人であることを感じさせてくれたりもするのです。
本巻では前巻と異なる登場人物がいます。それは友部秋彦というホモバーを経営する新宿二丁目の住人であり、独り身の寂しさを訴えるミロの心を支える重要な役割を果たしています。
この人物は、前巻では四人のフィリピーナが住んでいた部屋に住んでいて、何かとミロの相手となり、心の支えとなっているのです。
本書は、普通の生活では決して交わることのない裏社会の一端を垣間見せながらも、そこに住む男に肉体的に惹かれるミロが描かれます。
友部に心惹かれながらも、彼との間で肉体的な交渉が考えられない分だけ、反感を抱いている相手である裏社会の男に惹かれていくミロの姿は男の私には理解できません。
同じく女性が主人公の大沢在昌の『魔女シリーズ』とは異なって、本書は一段と地味です。それだけより現実的だと言えるかもしれません。
それはつまりじっくりと読み込んで味わうべき作品だということなのでしょう。簡単に手に取ることができ、読み易い小説ばかりを読むようになった私には少々近づきがたい作品でもありました。
なんとも中途半端に惹かれ、好みではないと言いながらもやはり続編が気になり、多分読むことになると思われます。