色仕掛けによる謀報活動―「ハニートラップ」に溺れた日本の要人は数知れず。国防を揺るがす国家機密の流出疑惑を追う警視庁情報室トップの黒田は、漏洩ルートを探るうちに、この「罠」の存在に気が付いたが…。「情報は命」そう訴える公安出身の著者が放つ、日本の危機管理の甘さを衝いた警察小説の最前線。(「BOOK」データベースより)
公安警察官である黒田純一を主人公とする警視庁情報官シリーズの第二弾です。
本書では、まず小笠原の警察署署長として赴任している黒田純一の姿が描かれています。前巻での仕事の後の、一息入れることができる休暇のような勤務先でした。しかし、防衛省が絡んでの情報漏洩問題が発生し、再び情報室が再結成されることになり、黒田は再び中央に呼び戻されることになったのです。
情報漏えいの裏を探っていくと、そこには本書のタイトルにもなっているハニートラップにかかった役人の姿が明らかになってくるのです。描かれている事実が筆者の体験に基づくものなのか、それとも全くのフィクションなのかは分かりませんが、情報獲得の手段としてのハニートラップという言葉は、小説の世界だけではなく聞く言葉でもあります。
こうしたハニートラップの実態を暴くべく、警察が一丸となり、イージス艦絡みの情報漏えいに対する捜査網が敷かれ、黒田らが中心になって活躍するのです。
本書に描かれている情報の量は莫大なものがあり、その多量の情報を消化しきれないままに物語は進みますので、よほどきちんと読みこんでいかなければ、置いて行かれることになりかねません。少なくとも私はそうでした。
この情報を丁寧につぶしながら読んでいくことができれば、より読み応えのある小説だと思えるのではないでしょうか更に言えば、社会、経済情勢に強い人であればもっと面白い小説だと実感できたかもしれないと思います。
ただ、本書の場合文章が説明的です。会話文で流れを作っていくことが多い通常の他の警察小説、エンターテインメント小説とは少々その趣が異なります。
でも、それはもしかしたら濱嘉之という人が小説家としては新人というところからきているのかもしれません。であれば、もっと情報を整理して物語を構築できていれば、もっと読みやすい小説として仕上がったのではないかと思われます。
とはいえ、すでに人気小説としてシリーズ化もされているのですから、こうした意見はここだけのものなのでしょう。
ハニートラップが描かれたインテリジェンス小説としてすぐに思い出す作品は、残念ながらありません。ただ、話の本筋ではありませんが、柳広司の『ジョーカー・ゲーム』という連作短編小説作品のなかの「ロビンソン」という話の中で、D機関の伊沢が英国の諜報機関にスパイ容疑で逮捕されてしまいますが、その逮捕の原因がハニートラップにかかった外交官が情報を漏らしていた、というものがあります。
他にもあるとは思いますが、インテリジェンス小説自体がそれほど多いものではなく、そんな中で私が思い出すのはこの作品だけでした。