完全黙秘 警視庁公安部・青山望

『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』とは

本書『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』は『警視庁公安部・青山望シリーズ』の第一弾で、2011年9月に文春文庫から411頁の文庫本書下ろしとして出版された、長編の警察小説です。

実に緻密に描き出される警察の各分野の捜査手法は読む人を選びそうで、個人的には没入する作品ではありませんでした。

『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』の簡単なあらすじ

財務大臣が刺殺された。犯人は完全黙秘。身元不明のまま起訴される。特命の極秘捜査にあたる警視庁公安部警部・青山望が突き当たったのは、政治家と暴力団、芸能界が絡み合う壮大な「戦後の闇」だった。捜査手法、情報戦の実態など公安出身者にしか書けない圧倒的なリアリティで描く、インテリジェンス警察小説の新シリーズ。(「BOOK」データベースより)

『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』の感想

本書『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』は『警視庁公安部・青山望シリーズ』の第一弾で、青山望を中心とする四人の警察官僚の活躍を描く作品です。

同期のキャリア四人の仲間のそれぞれの分野の捜査状況が詳細に描き出される本書はあまりに緻密に描かれすぎていて、個人的には感情移入する作品とは言えない作品でした。

 

四人が分担している警察の各分野とは、公安部、刑事部捜査一課、刑事部捜査二課、組織犯罪対策部の四つの分野であり、それぞれの特徴が描かれています。

そもそも本書は、財務大臣が刺殺され犯人は捕まったものの完全黙秘を貫いている、という事件が発端です。

公総課長からこの事件を担当するよう言われた主人公の青山望が、警察学校在学中から「古川カルテット」と呼ばれた同期の力を借りて事件に隠された真実を暴き出すのです。

 

その同期の「古川カルテット」を見てみると、まずは中央大学剣道部出身で警視庁公安部公安総務課第七事件担当係長の筆頭警部である青山望警部、三十七歳がいます。

次いで早稲田大学野球部の捕手だった警視庁組織犯罪対策部組対四課事件指導第一係長の大和田博警部、筑波ラグビー部スタンドオフだった警視庁刑事部捜査一課事件指導第二係長の藤中克範警部、そして関西学院アメリカンフットボール部ディフェンスラインだった警視庁刑事部捜査二課係長の龍一彦警部という三人がいるのです。

この四人が、それぞれの分野で、つまり公安、刑事、経済、暴力というそれぞれの分野のエキスパートとして当該事件の裏側を暴き出していくことになります。

 

そもそも青山望が、縦割りの行政システムにおいて複数の担当課にわたる事件を総合的にまとめて事件化する総括事件処理担当係長という立場にあるのも、警視庁内に上記のような仲間を始めとする横の連絡網を持っていたからでした。

そして、青山が命じられたテロ事件の調査を始めると、過去に警視庁内で発生した事件で完全黙秘の結果、被告人名が「蒲田一号」として結審した公防事件があることを知ります。

こうして財務大臣に対するテロ事件の背景を調べていく過程で、この事件が広大な広がりを見せていくことに気がつき、同期の仲間の力を借りることになるのでした。

 

通常は公安警察員が主人公になっている作品と言えば、リアルさを重視すれば手嶋龍一の『鳴かずのカッコウ』や、竹内明の『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』などが挙げられると思います。

そこにエンターテイメント性を求めれば、なんと言っても公安警察の驚愕の真実が日中にまたがる諜報戦争とともに暴かれていく、日本スパイ小説の大収穫でありエンターテインメント小説の最高峰ともいえる麻生幾の『ZERO』(幻冬舎文庫 全三巻)という大作がありますし、もう少し軽く読みたいのであれば今野敏の『倉島警部補シリーズ』などがあります。

 

結局、本書は警視庁公安部に所属する青山望を主人公とする公安警察の物語のようではありますが、全体としては警察全般の職種を動かす作品になっていると言えます。

警察という組織のそれぞれの職種とその機能の緻密な紹介を兼ねながら、エンターテイメント小説として組み立てられているのです。

ですから、リアルな警察小説が好きな人たちにとっては本書はかなり好感をもって読まれると思います。

それほどに物語としては実に面白い作品だと思います。ただ、個人的にはもう少し軽く読める作品のほうが好みだと言うだけです。

 

蛇足ですが、私は九月半ばからシルバーウイークの間、緑内障の手術のため入院していました。

本書はその入院中に読んだ作品であり、その内容を詳細に覚えているわけではないので細かな点で齟齬があるかもしれませんので、その点はご容赦ください。

警視庁情報官 ハニートラップ

色仕掛けによる謀報活動―「ハニートラップ」に溺れた日本の要人は数知れず。国防を揺るがす国家機密の流出疑惑を追う警視庁情報室トップの黒田は、漏洩ルートを探るうちに、この「罠」の存在に気が付いたが…。「情報は命」そう訴える公安出身の著者が放つ、日本の危機管理の甘さを衝いた警察小説の最前線。(「BOOK」データベースより)

公安警察官である黒田純一を主人公とする警視庁情報官シリーズの第二弾です。

本書では、まず小笠原の警察署署長として赴任している黒田純一の姿が描かれています。前巻での仕事の後の、一息入れることができる休暇のような勤務先でした。しかし、防衛省が絡んでの情報漏洩問題が発生し、再び情報室が再結成されることになり、黒田は再び中央に呼び戻されることになったのです。

情報漏えいの裏を探っていくと、そこには本書のタイトルにもなっているハニートラップにかかった役人の姿が明らかになってくるのです。描かれている事実が筆者の体験に基づくものなのか、それとも全くのフィクションなのかは分かりませんが、情報獲得の手段としてのハニートラップという言葉は、小説の世界だけではなく聞く言葉でもあります。

こうしたハニートラップの実態を暴くべく、警察が一丸となり、イージス艦絡みの情報漏えいに対する捜査網が敷かれ、黒田らが中心になって活躍するのです。

本書に描かれている情報の量は莫大なものがあり、その多量の情報を消化しきれないままに物語は進みますので、よほどきちんと読みこんでいかなければ、置いて行かれることになりかねません。少なくとも私はそうでした。

この情報を丁寧につぶしながら読んでいくことができれば、より読み応えのある小説だと思えるのではないでしょうか更に言えば、社会、経済情勢に強い人であればもっと面白い小説だと実感できたかもしれないと思います。

ただ、本書の場合文章が説明的です。会話文で流れを作っていくことが多い通常の他の警察小説、エンターテインメント小説とは少々その趣が異なります。

でも、それはもしかしたら濱嘉之という人が小説家としては新人というところからきているのかもしれません。であれば、もっと情報を整理して物語を構築できていれば、もっと読みやすい小説として仕上がったのではないかと思われます。

とはいえ、すでに人気小説としてシリーズ化もされているのですから、こうした意見はここだけのものなのでしょう。

ハニートラップが描かれたインテリジェンス小説としてすぐに思い出す作品は、残念ながらありません。ただ、話の本筋ではありませんが、柳広司の『ジョーカー・ゲーム』という連作短編小説作品のなかの「ロビンソン」という話の中で、D機関の伊沢が英国の諜報機関にスパイ容疑で逮捕されてしまいますが、その逮捕の原因がハニートラップにかかった外交官が情報を漏らしていた、というものがあります。

他にもあるとは思いますが、インテリジェンス小説自体がそれほど多いものではなく、そんな中で私が思い出すのはこの作品だけでした。

警視庁情報官 シークレット・オフィサー

『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』とは

 

本書『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』は、公安警察の実態を描きだす、文庫本で400頁の長編の警察小説です。

一人の高い能力を持った公安捜査官を主人公とする物語であって、公安警察の実情を知るうえでもとても興味深く、面白い作品です。

 

『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』の簡単なあらすじ

 

警視庁情報室。それは警視庁が秘密裏に組織した情報部門のプロ集団である。情報室へ舞い込んだ一通の怪文書。エース情報官・黒田は、抜群の情報収集力と分析力で、政・官・財界そして世界的な宗教団体までもが絡む一大犯罪の疑惑を嗅ぎつけるが…。公安出身の著者による迫真の「インテリジェンス」小説。(「BOOK」データベースより)

 

『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』の感想

 

著者の濱嘉之氏は公安警察出身であり、本書『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』は自身の経歴を生かし公安警察の内実を描き出した異色の長編小説です。

端的に言うと、優秀な情報収集力と、集めた情報を分析する能力がずば抜けている公安警察官が主人公のスーパーヒーロー小説です。

ただ、一般の痛快小説とは異なるのは、世間には知られていない公安警察の内情を紹介したインテリジェンス(諜報活動)小説だということです。

 

主人公は高度な情報収集力と分析力を持つ情報官の黒田という男です。彼はホステスは勿論、黒服、呼び込み、更には裏社会の人間などとも人脈を作り上げ、さまざまな噂話を集めています。

この男の素晴らしいところは、そうして集めた単なる噂にすぎない話から、国家の将来に影響を与える可能性のある情報を拾い出す能力を有しているところです。

問題なのは、それらの情報はメモとして提出されますが、上司に能力がなければそこで眠ってしまうことです。

結局は組織論でもあるのでしょうが、せっかく得た情報もそれを使いこなす能力やシステムが無ければ無に帰してしまうということでしょう。

こうした現場の描写は現実の公安警察に身を置いた人間しか分かりえないところであり、その臨場感はさすがのものがあります。

 

ただ、情報を収集する個別具体的な作業の様子はあまり描かれてはいません。黒田は部下に指示し、上がってきた情報を分析するだけなのです。

勿論、黒田本人が情報収集に当たることもありますが、それにしても具体的描写はありません。大切なのは集められた情報の分析だと言わんばかりです。

その道の専門家に聞いたことがありますが、日本の情報組織は決して胸を張れるものではないそうです。そこで、国としての情報を統括する機関をつくるという話は起きるものの、役所のセクショナリズムのおかげか、なかなかうまくいかないのだとか。こうした話は、他でも読んだことがあります。

 

公安警察の実際という点では、竹内明という、TBSテレビの報道局記者出身の作家さんがいます。この人は「オウム真理教事件」などの大事件を取材してきた人だそうで、『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』などの作品は、現場を知る人間でないと書けない臨場感満載の小説です。

 

 

また、この手のインテリジェンス小説としては、麻生幾の『ZERO』他の作品を挙げないわけにはいかないと思われます。

緻密なその描写は、インテリジェンスの世界をリアルに描き出しており、さらには壮大な冒険小説的な面白さも加味してある小説として仕上がっています。ただ、人によっては若干読みにくいと感じるかもしれません。

 

 

警察小説は数多くあっても、公安警察関連の作品は少ないと思います。その中でも今野敏が、『倉島警部補シリーズ』という作品を書いておられました。さすがに今野敏であって、公安のリアリティという点では濱嘉之らの物語に及ばないかもしれませんが、小説としての面白さは一日の長があるように思えました。

 



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