父の跡を継ぎ、上絵師として身を立てたい律だが、ままならず落ち込むことも多い。幼馴染みの涼太への想いも、深く胸に秘めるばかりだ。しかし副業の似面絵の評判は上々で、引きも切らず注文が舞い込んでいた。そんな折、母を殺めた辻斬りの似面絵そっくりな男に出会うのだが―。仕事に恋にひたむきに生きる女職人の姿を鮮やかに描く、待望のシリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
「上絵師 律の似面絵帖シリーズ」の第二巻目となる、連作短編の時代小説集です。
父親が残した似面絵に似た男を探す律のもとには様々な似面絵の男に関する情報が集まってきます。その中に幼馴染みの涼太が持ってきてくれた話がありました。
涼太はある質屋で律の父親のものと思われる根付を見つけたと知らせてくれたのです。その質屋へ行った律は、今度は父親のものらしき巾着を見つけるのでした。
しかし、その巾着はすでに売却先が決まっていて、律はその巾着を買った客と会うことになりますが、その質屋を怪しんだ涼太は、同心の広瀬保次郎や律の隣人の今井直之の力を借りて律の身を守ろうとするのでした。
本書は他の文庫本時代劇と同様に四話の短編からなっていて、その上で全体を通して律の親を殺した犯人捜しの話が本書全体を通して語られます。
つまり、一方で律の父親を殺した犯人を探すという全体を通した流れがあり、他方で、律の描いた似面絵をもとに迷子が見つかった話や、律の似面絵に描かれた女が殺されてしまった話などが個別に語られます。
その上で律の本業の上絵師としての仕事の上達の様子も描かれ、また律と涼太の恋模様もまだ安定していないのです。
それは、律には職人の基二郎との縁談が起こっていて、また涼太については涼太に思いを寄せる綾乃という娘の存在がありました。
こうした律の似面絵をめぐる個別の話と、律の私生活をめぐる大きな流れとをうまく描き分けながら江戸の市井を舞台に人情話が繰り広げられていきます。
華やかな物語ではありませんが、一人の娘の成長譚でもあるこの物語は、高田郁の作品とは異なった魅力があるようです。