廃遊園地の殺人

廃遊園地の殺人』とは

 

本書『廃遊園地の殺人』は、新刊書で356頁の長さの長編の本格派推理小説です。

本格派の推理小説は私の好む作品ではないのですが、「王様のブランンチ」の紹介作品であり読んだのです。しかし、私の好みとはかなり異なる作品でした。

 

廃遊園地の殺人』の簡単なあらすじ

 

プレオープン中に起きた銃乱射事件のため閉園に追い込まれたテーマパーク・イリュジオンランド。廃墟コレクターの資産家・十嶋庵はかつての夢の国を二十年ぶりに解き放つ。狭き門をくぐり抜け、廃遊園地へと招かれた廃墟マニアのコンビニ店員・眞上永太郎を待っていたのは、『このイリュジオンランドは、宝を見つけたものに譲る』という十嶋からの伝言だった。それぞれに因縁を抱えた招待客たちは宝探しをはじめるが、翌朝串刺しになった血まみれの着ぐるみが見つかる。止まらない殺人、見つからない犯人、最後に真実を見つけ出すのは…2021年最注目の俊英による廃墟×本格ミステリ!(「BOOK」データベースより)

 

廃墟マニアの眞上永太郎は、資産家の十嶋庵からの招待状を受け取り、指定の日時にイリュジオンランドへを訪れた。

二十年前に起きた銃の乱射事件で四人の人間が命を落としたそのイリュジオンランドは、オープンすることなく朽ち果てていた。

すでに廃墟探偵シリーズを手がける小説家の藍郷灯至や、元イリュジオンランド経営陣である主道延、元イリュジオンランド渉外担当の渉島恵など十人が集められていた。

彼らを迎えた十嶋庵の代理人を自称する佐義雨緋彩は、イリュジオンランド内に隠した宝を見つけたものにはイリュジオンランドを譲り渡す、と言うのだった。

皆、自分こそがイリュジオンランドを譲り受けると張り切るが、その夜主道延が死体で見つかる。

警察を呼ぶべきという眞上永太郎の言葉に対し、警察を呼べばイリュジオンランドでの宝探しも終了となり、イリュジオンランドを手に入れることもできなくなると、眞上永太郎以外は皆警察を呼ぶべきではないというのだった。

 

廃遊園地の殺人』の感想

 

本書『廃遊園地の殺人』は、テレビ番組の王様のブランンチで紹介されていた作品です。

謎解きのために物語世界を設定し、外界から閉ざされた環境で発生した事件の謎を解くという、まさに本格派の推理小説の王道を行くような物語でした。

基本的にこうした本格派の推理小説を好まない私ですが、やはり本書はどうにも受け入れがたい作品でした。

本格派の推理小説とはいっても、例えば米澤穂信の『インシテミル』は最初は拒否感を覚えたいたものの、最終的には面白く読んだ作品でした。

また同じ作者の『折れた竜骨』は、最初からあまり拒否感なく読むことができました。

 

 

この両者の差は、作品自体の持つ物語性の差にあると思います。

本書『廃遊園地の殺人』はまさに謎解きのための舞台設定であり、解くべき謎を作り出すためにパズル的ないわゆるクローズドサークルという状況を設定しています。

舞台は十嶋庵という富豪が所有する廃園となったテーマパークであり、その関係者がこの廃園に呼び集められ、宝を見つけたものにイリュジオンランドを譲るという話が明かされます。

その後、主道延というイリュジオンランドの経営にかかわっていたという人物が死体で見つかるのですが、参加者は眞上永太郎を除いて警察への連絡を拒否し、宝物探しを続行するということになるのです。

 

こうした、廃園となったテーマパークという設定という謎解きのための物語の中でしか存在しない設定は、先に挙げた『インシテミル』も同様でしょう。

しかしながら、本書『廃遊園地の殺人』では登場人物同士の関係性の描き方など、どうにも背景となった物語に移入できません。

それに対し、『インシテミル』の場合、同様に地下に設けられたゲーム用の専用部屋というあり得ないクローズドサークルという設定でありながら、登場人物の人間の描き方がうまく、最終的には拒否感はなくなっていました。

折れた竜骨』に至っては、当初から剣と魔法の国という現実離れした設定だったのですから、特殊な舞台設定そのものが作品の前提となっているのですから、私の許容度が多分異なっていたと思われます。

個人的な嗜好として、ストーリーの妙を楽しむという読書傾向のある私にとって、本書のような謎解きのための舞台設定だけがあり、当事者の行動に意味を見出せない物語に楽しみを見出せないのです。

この点で、謎解きそのものを楽しもうとする人たちとの好みの差が出てきていると思います。

 

その他にも、登場人物の名前が藍郷灯至という小説家、常察凛奈というOL、佐義雨緋彩という代理人、それに銃乱射事件の被害者の中鋪御津花など、普通はお目にかかれない名前ばかりを集めてあることも違和感ばかりです。

この点は松岡圭祐の『高校事変シリーズ』も同様ではありますが、こちらは内容が内容だけに現実の同じ名前の人に重ならないように作者が配慮したという事情があったと聞きました。

 

 

しかし、本書『廃遊園地の殺人』の場合物語としてこの名前は違和感ばかりです。

他に、随時挟まれる「断章」はまあいいとしても、探偵役の眞上永太郎の存在が今一つ納得できないなど、気になる点が多すぎ、本格派推理小説というジャンルの問題以外にも私の感覚と異なる点があり過ぎました。

 

ということで、妙な感想になってしまいましたが、それでもやはり結局は好みの問題ということになるのでしょう。

たしかに、張り巡らされた伏線や終盤のその伏線の回収や過去の銃乱射事件が現在に及ぼす影響など、作者はかなり練り込んで本書を書かれたのと思われます。

その点は評価に値する作品だとは思うのですが、その構成自体が私の好みとは異なるものだったというしかないのです。

本書『廃遊園地の殺人』を少なからずの人たちが評価しているからこそ「王様のブランチ」でも紹介されていたのでしょうから、こうした私の感想はあまり参考にはならないと思われます。