きりきり舞い

『東海道中膝栗毛』の作者・十返舎一九の娘、舞。酒びたりで奇行ばかりの父、押しかけ弟子の浪人や葛飾北斎の娘であるお栄たち居候に翻弄される日々だった。十八歳だというのに縁談はみんな父が壊してしまう。そんな舞を武家の若者、野上市之助が見初めた。今度こそ恋が実るか!?奇人変人に囲まれた娘が懸命に生きる姿を、ユーモアと人情味たっぷりに描く時代連作集。(「BOOK」データベースより)

 

十返舎一九や葛飾北斎の娘たちが繰り広げる人情喜劇です。

 

諸田玲子という名前はよく目にもしており、評判も悪くないので期待して読んだのですが、残念ながら少々期待とは異なる作品でした。

特に前半は、奇矯な女と聞いているお栄が単なる我儘娘としか思えず、その個性を感じさせる振る舞いが見えないのです。あえて北斎の娘を持ってきた意味がよく分かりませんでした。

一九の娘の舞にしても、お栄の言うことに振りまわされているだけで、物足りなさが残ってしまいました。せっかく一九や北斎の娘たちという面白そうな設定を設けたのに、そのキャラクターが生きているとは感じなかったのです。

 

とはいえ、全体的にユーモラスで、文章も読みやすく、後半になるとそれまでよく分からなかった一九や今井尚武の出自が明らかになってきて、興も出てきます。

私の好きな宇江佐真理の『おちゃっぴい』という作品にも、北斎とその娘お栄が出てきます。こちらも同様に主人公は’お吉’というおちゃめな娘が別にいるのですが、お栄の描写もそれなりに描いてあったと思います。ただ、短編ですけどね。

 

 

評判を得ている作家さんはそれなりのものがあるのでしょう。多分、本作は私個人の好みとはほんの少しずれていたというだけと思われ、他の作品もいくつか読んでいようと思います。

 

他に、本作の舞ではなく、お栄を描いた作品として朝井まかて眩(くらら)という作品があります。こちらは、これまでに私が読んだ「お栄」を描いた作品中では一番生き生きとしたお栄(この作品の中では別名の応為と呼ばれています)が描かれていたように感じました。

北斎の娘で「江戸のレンブラント」と呼ばれた天才女絵師の生涯を、女としての応為、また絵師としての応為を十分に描いてあります。