天使の囀り

北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。( 「BOOK」データベースより)

 

長編のホラー小説です。

 

南米への同行者が、次々と謎の自殺を遂げて死んでいく。そのことを疑問に思った主人公は、自殺の原因が南米で食べた猿からの寄生虫によるものであることを突き止めるのでした。

 

この展開はホラーと言っても、超常的なそれではありません。

しかしながら、この手のものはそれ程怖くもないと思っていたのですが、この作家の筆力はものすごいものがあって、黒い家のような心に直接響く恐ろしさがあります。

人間心理のすきを突くような作者の展開の上手さを楽しんでもらいたいものです。

悪の教典 [DVD]

三池崇史監督が貴志祐介の同名小説を伊藤英明主演で映画化。生徒から絶大な人気を誇る高校教師・蓮実聖司。学校やPTAの評価も高く、教師の鑑とも呼べる彼の正体は生まれながらのサイコパスだった。通常版。(「キネマ旬報社」データベースより)

悪の教典

晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAから信頼され彼らを虜にしていた。そんな〝どこから見ても良い教師〟は、実は邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。少年期、両親から始まり、周囲の人間をたいした理由もなく次々と殺害してきたサイコパス。美形の女生徒をひそかに情婦とし、同僚の弱みを握って脅迫し、〝モリタート〟の口笛を吹きながら、放火に殺人にと犯行を重ねてゆく。
( 上巻 :「BOOK」データベースより)

蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による狂気の殺戮が始まった!ミステリー界の話題を攫った超弩級エンターテインメント。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

とある高校を舞台に一人の教師が生徒を惨殺していくその様子を描いた、文庫本で上下二巻からなる長編のスリラー小説です。

 

前評判や『新世界より』などの驚愕のイメージの世界を期待して読んだためなのか、本作品は期待外れ感が大きい結果となってしまいました。

 

 

主人公は生徒に非常に人気がある容姿端麗で頭脳明晰な高校教師の蓮実聖司です。

この教師が学校を自分の支配下に置こうと様々な工作を施し、また自分のクラスには学校支配のために都合の良い生徒や、容姿の魅力的な女生徒を集めるのです。

最初は学校運営を影から支配し、その上で密かに邪魔者を排除していくのですが、次第にその手段も大胆になっていきます。そしてついには・・・。

 

この学校に来るまでにも既に多数の殺人を犯しており発覚していません。そのことにより自信を深めている蓮見は、本校でも思うがままの行動をとります。

その行動が、客観的に見るとあまり緻密な行動の結果とは思えず、事件が発覚しないという設定そのものが違和感を感じてしまうのです。

そうした何件かの殺人の末に、ついにはクラスの生徒全員の殺害という手段に出ざるを得なくなるのですが、そこの設定もどうも感情移入できません。

 

確かに、教師が生徒全員を惨殺するという異常な設定なので感情移入しにくい、ということはあるかもしれません。

しかし、高見広春の『バトル・ロワイアル』はかなり面白いと思って読めたので、状況の異常性が原因だとは思えません。

結局、本作品が貴志祐介という凄い力量を有する作家の作品という期待にそぐわなかったと言わざるを得ないようです。

 

 

評判を見てみると同じような意見の人も少なからず居るようで、決して私だけの意見ということでもないようです。

とにかく、感情移入できない結果、小説としてはかなり長過ぎると感じます。

しかし、この長さを長いと感じずに読む人もかなりの数に上ることもまた事実です。その人たちにとってはかなり面白い小説と評価されることでしょう。

黒い家 スペシャル・エディション [DVD]

貴志祐介のベストセラー小説を再映画化した韓国ホラー。生命保険会社の査定員、チュン・ジュノはある日、面識のない顧客の家に呼び出され、衝撃的事件の目撃者にされる。以来、彼の私生活が脅かされるようになり…。ショッキングな残虐描写が話題に。(「キネマ旬報社」データベースより)

黒い家 [DVD]

日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介の同名小説を森田芳光監督が映画化。顧客・菰田の家に呼び出された生命保険会社の若槻は、そこで子どもの首吊り死体を発見する。以来、信じられない悪夢と恐怖が振り掛かり…。“角川シネマコレクション11月度”。

黒い家

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

生命保険業界を舞台に人間の怖さを描き出す、第4回日本ホラー小説大賞を受賞した作品です。

 

今まで読んだホラー小説の中で一番怖かった作品かもしれません。

この作家の作品を見ているとどれも人間心裡に踏み込んで、そこから恐怖を紡ぎだしてきている感じがします。

本書などその最たるもので、いわゆるホラーで思い浮かべる超人間的、超自然的なものの存在ではなく、人間こそが一番怖いのだと心から思い知らされます。

 

いわゆる超自然的存在の巻き起こす恐怖をテーマとするいわゆるホラーを期待しているとかなり違います。アクション性は全くありません。その点をふまえた上で人間の抱える本質的異常性を恐る恐る覗き見してください。

大竹しのぶ主演で映画化され、大竹しのぶの演技が評判になりました。

 

クリムゾンの迷宮

藤木はこの世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を覆う、深紅色の奇岩の連なり。ここはどこだ?傍ら携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」(「内容紹介」より)

 

見知らぬ世界を舞台に命を懸けたゲームを強いられる、長編のSF小説です。

 

状況の説明はありません。突然放り込まれた現状で、目の前にある「携帯ゲーム機」と、そこに表示された文字だけを頼りに、何か行動を起こさなければならないのです。同時に目覚めた他の8人との間で複雑な駆け引きが始まります。

 

山田某の著作に似たゲーム性の強い設定ですが、こちらは私が読んだ山田某の初期の作品と異なり、格段の文章力で書かれているので非常に面白く読めました。面白い小説の書き方の前後という感じです。

シチュエーションスリラーとも言えるのではないでしょうか。ホラーと言えるかは分かりません。ホラーの定義も人それぞれですが、強いて言えば私の考える、「恐怖」をテーマとする作品、というホラーの感じとは違うと思われます。

 

与えられた状況をどのように乗り越えるか、の興味が尽きず、一気に読んでしまいました。面白いです。