天使の囀り

ホラーです。

南米から帰った恋人が「天使の囀る声が聴こえる」と言い残して自殺してしまう。その後も南米への同行者が、次々と謎の自殺を遂げて死んでいく。そのことを疑問に思った主人公は、自殺の原因が南米で食べた猿からの寄生虫によるものであることを突き止めるのだった。

この展開はホラーと言っても、超常的なそれではありません。この手のものはそれ程怖くもないと思っていたら、この作家の筆力はものすごいものがあって、黒い家のような心に直接響く恐ろしさがあります。

人間心理のすきを突くような作者の展開の上手さを楽しんでもらいたいものです。

悪の教典

前評判や「新世界より」などの驚愕のイメージの世界を期待して読んだためなのか、本作品は期待外れ感が大きい結果となってしまいました。

主人公は生徒に非常に人気がある容姿端麗で頭脳明晰な高校教師の蓮実聖司です。この教師が学校を自分の支配下に置こうと様々な工作を施し、また自分のクラスには学校支配のために都合の良い生徒や、容姿の魅力的な女生徒を集めるのです。最初は学校運営を影から支配し、その上で密かに邪魔者を排除していくのですが、次第にその手段も大胆になっていきます。そしてついには・・・。

この学校に来るまでにも既に多数の殺人を犯しており発覚していません。そのことにより自信を深めている蓮見は、本校でも思うがままの行動をとります。その行動が、客観的に見るとあまり緻密な行動の結果とは思えず、事件が発覚しないという設定そのものが違和感を感じてしまうのです。そうした何件かの殺人の末に、ついにはクラスの生徒全員の殺害という手段に出ざるを得なくなるのですが、そこの設定もどうも感情移入できません。

確かに、教師が生徒全員を惨殺するという異常な設定なので感情移入しにくい、ということはあるかもしれません。しかし、 高見広春の「バトルロワイアル」はかなり面白いと思って読めたので、状況の異常性が原因だとは思えません。結局、本作品が貴志祐介という凄い力量を有する作家の作品という期待にそぐわなかったと言わざるを得ないようです。

評判を見てみると同じような意見の人も少なからず居るようで、決して私だけの意見ということでもないようです。

とにかく、感情移入できない結果、小説としてはかなり長過ぎると感じます。しかし、この長さを長いと感じずに読む人もかなりの数に上ることもまた事実です。その人たちにとってはかなり面白い小説と評価されることでしょう。

黒い家 スペシャル・エディション [DVD]

貴志祐介のベストセラー小説を再映画化した韓国ホラー。生命保険会社の査定員、チュン・ジュノはある日、面識のない顧客の家に呼び出され、衝撃的事件の目撃者にされる。以来、彼の私生活が脅かされるようになり…。ショッキングな残虐描写が話題に。(「キネマ旬報社」データベースより)

黒い家

第4回日本ホラー小説大賞を受賞した作品です。舞台は生命保険業界です。

保険金の査定を業務とする若槻慎二は、ある顧客からの依頼でその顧客の家に行き、その家の子供の死体を発見することとなった。会社は不信を抱きつつも保険金の支払いに応じてしまう。その後、その顧客からの保険金の請求事案が続くのだが。

今まで読んだホラー小説の中で一番怖かった作品かもしれません。

この作家の作品を見ているとどれも人間心裡に踏み込んで、そこから恐怖を紡ぎだしてきている感じがします。本書などその最たるもので、いわゆるホラーで思い浮かべる超人間的、超自然的なものの存在ではなく、人間こそが一番怖いのだと心から思い知らされます。

いわゆる超自然的存在の巻き起こす恐怖をテーマとするいわゆるホラーを期待しているとかなり違います。アクション性は全くありません。その点をふまえた上で人間の抱える本質的異常性を恐る恐る覗き見してください。

大竹しのぶ主演で映画化され、大竹しのぶの演技が評判になりました。

クリムゾンの迷宮

突然見知らぬ場所で目が覚めた。傍には「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」と表示された携帯ゲーム機があった。

状況の説明はありません。突然放り込まれた現状で、目の前にある「携帯ゲーム機」と、そこに表示された文字だけを頼りに、何か行動を起こさなければならないのです。同時に目覚めた他の8人との間で複雑な駆け引きが始まります。

山田某の著作に似たゲーム性の強い設定ですが、こちらは私が読んだ山田某の初期の作品と異なり、格段の文章力で書かれているので非常に面白く読めました。面白い小説の書き方の前後という感じです。

シチュエーションスリラーとも言えるのではないでしょうか。ホラーと言えるかは分かりません。ホラーの定義も人それぞれですが、強いて言えば私の考える、「恐怖」をテーマとする作品、というホラーの感じとは違うと思われます。

与えられた状況をどのように乗り越えるか、の興味が尽きず、一気に読んでしまいました。面白いです。