本書『テロリストのパラソル』は、文庫本で383頁の長編の冒険小説です。
1995年に第41回江戸川乱歩賞、翌1996年に第114回直木賞の両賞受賞という史上初の快挙を成し遂げているというのも納得できる作品です。
『テロリストのパラソル』の簡単なあらすじ
乱歩賞&直木賞ダブル受賞、不朽の傑作ミステリ!
爆弾テロ事件の容疑者となったバーテンダーが、過去と対峙しながら事件の真相に迫る。逢坂剛・黒川博行両氏による追悼対談を収録。
ある土曜日の朝、アル中のバーテンダー・島村は、新宿の公園で1日の最初のウイスキーを口にしていた。そのとき、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。全共闘運動に身を投じ、脛に傷を持つ島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。後日、テロの犠牲者の中には“同志”だった学生時代の恋人と、ともに指名手配された男が含まれていたことが判明した。島村は容疑者として追われながら、事件の真相に迫ろうとする――。
江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した、小説史上に燦然と輝く傑作。(「BOOK」データベースより)
とある昼間、新宿の中央公園で爆発が起こった。
近くで飲んでいた島村はからくも爆発には巻き込まれなかったのだが、同様の事件を起こし人死にを出した過去を持つ身であるため、その場から立ち去ってしまう。
しかし、その時自らが現場に残したウィスキーの瓶からは島村の指紋が検出され、更にはその爆発での島村の過去につながる人の死を知り、爆発事件の真相を探るべく動き始めるのだった。
『テロリストのパラソル』の感想
本書『テロリストのパラソル』では、世に潜みつつアルコールに溺れる日々を送る主人公が、自らの過去に立ち向かうその筋立てが、多分緻密に計算されたされたであろう伏線とせりふ回しとでテンポよく進みます。
適度に緊張感を持って展開する物語は、会話の巧みさとも相まって読み手を飽きさせないのです。
暴力的というわけでもなく、露骨に事件について嗅ぎまわる姿が描いているわけもありません。
しかし、文学的とも称される格調高い文章で語られるこの物語は、主人公の気の利いた台詞とも相まって読者を引きずり込んでしまうのです。
第165回直木賞の候補となった『おれたちの歌を歌え』を書いた呉勝浩は、自分なりの本書『テロリストのパラソル』を書きたかった、と書いておられました。
本書『テロリストのパラソル』を是非読んでください。面白い作品です。