てのひらの闇

飲料会社宣伝部課長・堀江はある日、会長・石崎から人命救助の場面を偶然写したというビデオテープを渡され、これを広告に使えないかと打診されるが、それがCG合成である事を見抜き、指摘する。その夜、会長は自殺した!!堀江は20年前に石崎から受けたある恩に報いるため、その死の謎を解明すべく動き出すが…。(「BOOK」データベースより)

 

藤原伊織の長編ハードボイルドミステリーです。

 

企業小説として読んでもいいような、作者の電通勤務時代の知識が書かせると思わせられる広告業界の内幕が語られるのですが、次第にバイオレンス色が濃くなっていきます。

主人公が暴力団の息子として鳴らしたものだったという設定ですから、そもそも暴力に対しての禁忌が低いのです。ストイックさをもあわせもつ主人公は、個性豊かな仲間の助けを借りて真相を探っていきます。

 

ストーリは言ってしまえば単純ですが、ミステリーの要素も含みながら個々の人間描写が魅力的です。厚みのあるその文章と共に、面白い小説の最右翼の一つだと思います。

続編として、遺作ともなった「名残り火 てのひらの闇Ⅱ」が書かれています。

 

ひまわりの祝祭

自殺した妻は妊娠を隠していた。何年か経ち彼女にそっくりな女と出会った秋山だが、突然まわりが騒々しくなる。ヤクザ、闇の大物、昔の会社のスポンサー筋などの影がちらつく中、キーワードはゴッホの「ひまわり」だと気づくが…。名作『テロリストのパラソル』をしのぐ、ハードボイルド・ミステリーの傑作長編。(「BOOK」データベースより)

 

藤原伊織の長編ハードボイルドミステリーです。

 

あるカジノで、妻の死以来怠惰な日々を送る主人公の前に死んだ妻そっくりの女性が現れます。その後、何かと面倒なことが起き始めますが、それらの出来事の中心にはゴッホの「ひまわり」があるらしい。

 

ゴッホの8枚目の「ひまわり」の謎に加え、主人公の死んだ妻の死にまつわる謎もからめ、様々な個性的な人物が登場し、物語は展開します。

本作品は、この作家の会話の妙が十分に堪能できる作品であることに加え、エンタテイメント作品としての面白さがあります。

郷原宏氏の言葉を借りれば、本書の魅力とは「正確で美しい日本語、時代性を刻印した軽妙な会話、魅力的で彫りの深い登場人物群、奇想天外でしかも臨場感に満ちた物語展開」にあるのです。

また、誰かが本書を評して「愛の物語」と書いていましたが、まさにその通りではないでしょうか。

面白い小説として自信を持ってお勧めできます。

テロリストのパラソル

乱歩賞&直木賞ダブル受賞、不朽の傑作ミステリ!
爆弾テロ事件の容疑者となったバーテンダーが、過去と対峙しながら事件の真相に迫る。逢坂剛・黒川博行両氏による追悼対談を収録。
ある土曜日の朝、アル中のバーテンダー・島村は、新宿の公園で1日の最初のウイスキーを口にしていた。そのとき、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。全共闘運動に身を投じ、脛に傷を持つ島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。後日、テロの犠牲者の中には“同志”だった学生時代の恋人と、ともに指名手配された男が含まれていたことが判明した。島村は容疑者として追われながら、事件の真相に迫ろうとする――。
江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した、小説史上に燦然と輝く傑作。(「BOOK」データベースより)

 

とある昼間、新宿の中央公園で爆発が起こる。近くで飲んでいた主人公の島村はからくも爆発には巻き込まれなかったのだが、同様の事件を起こし人死にを出した過去を持つ身であるため、その場から立ち去る。しかし、その時自らが現場に残したウィスキーの瓶からは島村の指紋が検出され、更にはその爆発での島村の過去につながる人の死を知り、爆発事件の真相を探るべく動き始めた。

世に潜みつつアルコールに溺れる日々を送る主人公が自らの過去に立ち向かうその筋立てが、多分緻密に計算されたされたであろう伏線とせりふ回しとでテンポよく進みます。適度に緊張感を持って展開する物語は、会話の巧みさとも相まって読み手を飽きさせません。

1995年に第41回江戸川乱歩賞、翌1996年に第114回直木賞の両賞受賞という史上初の快挙を成し遂げているというのも納得できる作品です。

是非読んでください。面白いです。