『禁忌の子』とは
本書『禁忌の子』は、2024年10月に東京創元社から320頁のハードカバーで刊行された、長編の推理小説です。
とてもデビュー作とは思えないうえに医者しか書けない内容であり、さらには第34回鮎川哲也賞を受賞作し、また2025年本屋大賞で第四位になった作品です。
『禁忌の子』の簡単なあらすじ
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とはー。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!第三十四回鮎川哲也賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
『禁忌の子』の感想
本書『禁忌の子』は、第34回鮎川哲也賞の受賞作であり、また2025年本屋大賞で第四位になった、本格派の長編推理小説です。
現役の医者である作者の作家デビュー作だそうですが、物語の構成も、その達者な筆の運びも、とてもデビュー作とは思えないほどの完成度です。
そもそも、冒頭すぐに提起された謎にまず驚かされました。救急で搬送されてきた溺死体が主役である当直医師の武田航と瓜二つだというのです。
単に似ているというだけでなく、個人的な特徴の類似性まであるという滑り出しはこれまでにない謎の提起の仕方でした。
その後すぐに新たな殺人事件が起き、そこで密室殺人という謎が示されます。そこから本書の本格的な物語が始まるのです。
登場人物を見ると、主人公は先にも書いたように兵庫市民病院救急科の武田航医師です。そして、航の父親の浩司と母親の美由紀がいます。
また探偵役として、同じ病院に勤務する消化器内科の城崎響介医師が登場します。この人物は感情面で欠陥があり、感情が沸いてもすぐに消えてしまい、合理性だけで物事を考えてしまう人物です。
本書の主な舞台となるのが生島リプロクリニックであり、そこの理事長が生島京子医師で、院長が京子の息子の生島蒼平です。
そして、この医院の総務部主任が黄信一と言い、ほかに放射線技師の黒田稔や看護師の金山綾乃、そして緑川愛医師がいます。この緑川愛は武田航のK大学医学部野球部のマネージャーだったという人物です。
何より忘れてはならないのが、生島リプロクリニックで航が間違えられたのがタカハシユウイチという人物だったのです。
本書は、お医者さんが書かれた作品の中でも特異な位置を占めるのでないでしょうか。
というのも、本書で語られている内容は倫理的にも繊細な問題であって、医学的にもとても専門的なものだからです。
しかし、現役の医師である作者の筆は、難しいテーマを読者の興味、関心をそらすことなく描き切っています。
それだけ、読んでいて惹きこまれましたし、関心を持ったまま読み終えることができたのです。
話は変わりますが、作者自身の言葉では本書は新本格派のミステリーだということです。
たしかに、本書では密室殺人などの謎も設定されている上に推理を働かせる探偵役もいて、その点だけを見るとまさに謎解きメインの本格推理と呼ぶにふさわしい作品です。
しかし、本書は単純に本格派推理小説と言い切るには様々は要素が盛り込まれています。詳細は読んでもらうしかないのですが、社会派的な要素がかなりあると思えたのです。
医療小説であることはもちろんですが、かなり強烈なヒューマンドラマとしての一面も有していて、読後はかなり考えさせられる面もありました。
この点については担当編集者の紹介文がとても参考になると思います(小説丸 : 参照)。
これまでお医者さんが書いた推理小説はかなりな数に上り、その完成度はそれぞれにかなり高い作品が並ぶと思います。
例えば、本書同様に本屋大賞候補作となった作品として知念実希人の『ひとつむぎの手』があります。
良くも悪くも大学病院の医局を舞台にした小説で、絶対権力者の教授を頂点とする階層社会の中で苦闘する青年医師の姿が描かれています。
また、第四回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したチーム・バチスタの栄光は、やはり当時は現役の医師であった海堂尊の作品です。
この作品は「東城大学医学部付属病院」を舞台とした『田口・白鳥シリーズ』の第一作であり、海堂尊のデビュー作でもあります。