神様がくれた指

出所したその日に、利き腕に怪我を負ったスリ。ギャンブルに負けて、オケラになったタロット占い師。思いっ切りツイてない二人が都会の片隅でめぐりあった時、運命の歯車がゆっくり回り始めたことを、当人たちはまだ知らない。やがて登場するもう一人がすべてを変えてしまうことも。「偶然」という魔法の鎖で結ばれた若者たち。能天気にしてシリアスな、アドベンチャーゲームの行方は。

この作品には、もう一つ感情移入できませんでした。少々ご都合主義にすぎるかなという点と、この作者らしからぬ舞台設定と感じたのです。「スリ」という設定の問題ではないと思うのです。読み手がそのテーマを好むかどうかによるかもしれません。

何よりもこの本で何を言いたいのか、作者の意図が良く分かりませんでした。単純に、面白い物語を提供する、でも勿論いいのですが、そうしたニュアンスも伝わりませんでした。「能天気にしてシリアスな、アドベンチャーゲーム」とは言えない、少々哀しみすら感じてしまうこの物語は、個人的には今一つでした。

しかし、本書のレビューを見ると、かなり面白いと評価する人が多いので、やはり以上の考えは個人的なもののようです。

第二音楽室

学校と音楽をモチーフに少年少女の揺れ動く心を瑞々しく描いたSchool and Musicシリーズ第一弾は、校舎屋上の音楽室に集う鼓笛隊おちこぼれ組を描いた表題作をはじめ、少女が語り手の四編を収録。嫉妬や憧れ、恋以前の淡い感情、思春期のままならぬ想いが柔らかな旋律と重なり、あたたかく広がってゆく。(「BOOK」データベースより)

ちょっと毛色が変わった、と言っていいのか、音楽が主題となった青春小説と言っていいのでしょう。

一瞬の風になれ』や『しゃべれどもしゃべれども』とは少々リズムが違います。もしかしたら、読み手によっては受けつけないかもしれません。私も、この二作品程にはのめりこむことができませんでした。

しかしながら、音楽を主題に青春期の繊細な心の動きを描いた、佐藤多佳子ならではの作品だと思います。骨太な作品を好む人には向かないでしょうが、繊細な感性をお持ちの方など、この手の作品を好きな人もいるでしょう。

サマータイム

佐藤多佳子デビュー作で、表題の「サマータイム」他3篇からなる(連作の)短編集です。

佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏。他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。鮮烈なデビュー作。(「BOOK」データベースより)

「サマータイム」は主人公進とその姉佳奈、二人の友人の広一とその母友子との物語。短編夫々に語り部が交代していきます。

そして、全編を通してその底に流れるのがあの「サマータイム」というジャズの名曲です。

進と佳奈の成長物語としても読めそうで、幼き頃の思い出から、青春のほろ苦さまでよくもこうまで美しく表現できるものだと感心しました。

しゃべれどもしゃべれども

俺は今昔亭三つ葉。当年二十六。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、未だ前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短い。女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に、落語指南を頼む物好きが現われた。だけどこれが困りもんばっかりで…胸がキュンとして、思わずグッときて、むくむく元気が出てくる。読み終えたらあなたもいい人になってる率100%。(「BOOK」データベースより)

しゃべることが苦手な、夫々の事情を持つ登場人物が二つ目(落語家の身分、上から2番目)の落語家である主人公のもとへ話し方を習いに来る物語です。

登場人物がきちんと書きこまれていて、その各々に気の短い主人公がどのように接していくのか引き込まれていきます。自らも落語家としての壁に突き当たっていた主人公が逆に教えられたり、淡い恋物語があったり、心温まる物語です。

是非読んでみてください。

一瞬の風になれ

あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並び称される、極上の青春スポーツ小説。
主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。夢は、ひとつ。どこまでも速くなること。信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。(「Amazon」商品説明より)

作者は陸上スポーツは未経験者だそうです。私が「一瞬の風になれ三部作」を最初読んだときは、当然、陸上スポーツ経験者であると思っていました。トラック競技をやっていたわけではない私ですが、その隣で楕円形のボールを追いかけていたので、汗の香りは知っているつもりです。それほどに登場人物及びその舞台の描写は真に迫っていました。

単に客観的な描写が見事というだけではなく、登場人物の微妙な心理描写がホントにそうなんだろうな、と思わせるのです。

私が読んだ陸上の世界をテーマにした小説では、他に駅伝を描いた 三浦 しをん風が強く吹いている、堂場瞬一の「チーム」という作品があります。それ以外では小山ゆうの漫画「スプリンター」が思い浮かぶくらいでしょうか。

文章のタッチも軽やかでさわやかな読後感のこの物語は是非お勧めです。