本書『夏への扉』は、古典SFの中でも名作と言われる時間旅行ものの、文庫本で416頁の長編のSF小説です。
宇宙も宇宙人も出てきません。ただ、ハインラインの描くストーリーを楽しむ心地よさを堪能してもらいたいものです。
『夏への扉』の簡単なあらすじ
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか―新版でおくる、永遠の名作。(「BOOK」データベースより)
主人公ダンはは友人マイルズと会社を設立し、主人公の開発した家事用ロボットの販売を開始します。
しかし、マイルズの裏切りにあい、ダンは冷凍睡眠に入ってしまいます。目覚めた西暦2000年でタイムマシンの存在を知り、過去に戻り復讐を図るダンでした。
『夏への扉』の感想
本書『夏への扉』は、タイムトラベルものの一大テーマである「過去の改変」をメインに据えた物語です。
しかし、タイムパラドックスを前面に押し出した物語ではありません。その点に関しては、別にパラドックスは良いじゃないか、ということになっています。
単に過去の事実を改変するだけです。改変の後はその事実に沿って歴史が流れていきます。その改変の作業と流れがまさにハインラインであり、人気なのでしょう。
本書『夏への扉』は1970年が舞台です。そして、冷凍睡眠により目覚める先は西暦2000年なのです。
今現在(2014年)の私達はその設定上の未来のさらに先を生きているわけで、その観点から本書を読むのもまた面白いのではないでしょうか。
メインの筋は以上のような過去の改変による復讐ですが、もう一筋の流れとして恋物語があります。
こちらも関心を持って読み進めることができます。
本書は「猫」の物語と言われているそうです。知りませんでした。
でも、はっきり言って、猫は全くとは言いませんがストーリーそのものにはあまり関係ありません。
ただ、冒頭と最後に物語の流れとは関係は無いものの、小説として実に重要な役割を果たしています。
それは本書の『夏の扉』というタイトルとも深く関係してくるのですが、こうした点がハインラインが人気がある由縁だと思います。
上記の書籍イメージ写真のリンクは福島正実氏の2020年12月に出された新約版です。小尾芙佐氏訳出の「夏への扉[新訳版] 」は下のリンクをどうぞ。
ちなみに、本書『夏への扉』は、山崎賢人主演により「夏への扉 -キミのいる未来へ-」というタイトルで映画化されています。全く知らなかったのですが、2021年に公開されるそうです。
この名作をそれも日本で映画化する。どのような脚本で、どのような映画になっているものか、是非見てみたいものです。