禁中御庭者綺譚 乱世疾走

群雄割拠の戦国時代、ついに上洛を果たした信長。天下布武を掲げた彼の者の心中は、我欲への依怙か天下静謐か―。信長の行状と真意を探るべく、剣聖上泉伊勢守の下に集められた五人のはみ出し者たちは、互いに牽制と信頼を繰り返しながらその異能を開花させていく。乱世を生きた若者たちの青春活劇開幕。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

新陰流の使い手、豪商の長男坊、陰陽師家の香道師、役の行者の末裔、男装の女剣士。朝廷の命運までも左右する信長とは、果たして何者なのか?その答えを探し続ける五人は、疋壇城近くで於市御寮人が実兄・信長へあてた密状を入手する。海道作品ならではの、典雅な世界観と豪快な剣戟場面に胸が躍る。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

戦国時代を背景に、天皇の耳目となり活躍する五人の若者の姿を描く長編時代小説です。

 

下流公家ではあるが天皇の信任の厚い立入左京亮宗継は山科言継と共に天皇の耳目となるべき禁中御庭番を作ろうと思い立つ。

そこで上泉伊勢守信綱、宝蔵院胤榮、柳生宗巌との知恵を借りて五人の若者を選びだした。新陰流の丸目蔵人、宝蔵院の大角坊、堺の商人の息子楠葉西門、陰陽師の香阿弥こと土御門有之、そして柳生宗巌の妹の凛の五人である。

五人は織田信長の動向を探るべく、山科言継の同行者としてまずは岐阜へと旅立った。

 

選ばれた五人が活躍する活劇ものだと思っていました。

確かにそうではあるのですが、歴史的事実の方が主人公だと感じました。つまり、歴史的事実があって、その狭間に本書の五人の行動が当て嵌められている印象なのです。

勿論、この五人の役目が天皇の目となり、耳となることであって、何事かを為すことではないのでそれも当然ではあるのでしょう。

 

しかし、個人的には「驚天動地の大活劇がいま始まる。」という謳い文句なのですから、冒険活劇小説を期待していたので残念でした。

この五人が何事かを為すことにより歴史的事実が変わるわけも無いので当り前ではあるのですが、そこはもう少し期待していたのです。歴史が好きで詳しい人ならばかなりはまる小説かもしれません。

 

この作品の後に『真剣 新陰流を創った漢、上泉伊勢守信綱』を読んだのですが、『真剣 新陰流を創った漢、上泉伊勢守信綱』はあまり資料がないからかもしれませんが、非常に面白く、この作家の力量に脱帽でした。

 

真剣

戦乱の世、上州の小領主の次男として生まれながら、武人としてより兵法者としての道を選び、「剣聖」となった漢がいた―。剣の修行に明け暮れていた少年は、過酷な立切仕合を経て出会った老齢の師から「己の陰を斬る」ための陰流を皆伝される。だが己自身の奥義はまだ見つからない。大型歴史巨編開幕。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

剛の神道流と柔の陰流を融合させ「新陰流」を編み出した秀綱。だが度重なる戦の中で兵法者として円熟を増しながら戦国武将としての苦悩は続く。敵方、信玄にまでその天稟を認められながらも晩年、兵法の極みを目指して出た廻国修行で、ついに「転」の極意に至る。己の信じる道を突き進んだ漢の熱い生き様。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

「新陰流」の祖であり、剣聖とよばれた剣豪上泉伊勢守信綱の生涯を描いた、長編の時代い小説です。

 

上泉伊勢守信綱と北畠中納言具教との試し立ち会いの場面から始まります。この北畠具教から宝蔵院胤榮の話を聞き、胤榮との立ち会いをすべく旅立ちます。

この後、話は上泉伊勢守の子供時代に移り、松本備前守や愛洲移香斎との修行の様子が語られるのですが、この修業の様子もまた興味が尽きません。

その後、長じた伊勢守は城持ちの武将として北条家や武田信玄との戦いに臨みますが、武田信玄に敗れ、その臣となった伊勢守は剣の道を極めるべく旅立つのです。

そして宝蔵院胤榮との立ち会いに臨むことになります。この宝蔵院胤榮の物語も少し語られていますが、この話も面白い。

また柳生宗巌との会話も、関西弁で為されています。当たり前と言われればそうなのですが、実にリアリティを持って読むことが出来ました。関西弁を話す柳生一族。面白いです。

ここでの柳生宗巌を立会人としての宝蔵院胤榮との立ち会いの場面の描写はとにかく読んでもらいたい、というしかありません。

 

池波正太郎の「剣の天地」もまた上泉伊勢守信綱の物語です。武将としての上泉伊勢守に焦点が当てられ、より一般的な上泉伊勢守が語られています。

本書「真剣」は剣聖としての上泉伊勢守信綱であって、剣の道に焦点が当てられているのです。

 

 

どちらも面白いです。個人的には「真剣」が好きですが、人間上泉伊勢守信綱もまた魅力的です。