コンティネンタル探偵社支局員のおれは、小切手を同封した事件依頼の手紙を受けとって、ある鉱山町に出かけたが、入れちがいに依頼人が銃殺された。利権と汚職とギャングのなわばり争い、町はぶきみな殺人の修羅場と化した。その中を、非情で利己的なおれが走りまわる。リアルな性格描写、簡潔な話法で名高いハードボイルドの先駆的名作。(「創元推理文庫」版 Amazon説明 : 参照)
主人公には名前がありません。一人称で書かれた作中では、単に「私(若しくは俺)」とあるだけでです。一般にはコンチネンタル探偵社のオペラティヴ(探偵)を略して「コンチネンタル・オプ」とは呼ばれています。
本書は、分かりやすいところで言うと、黒沢明の映画『用心棒』の原案として知られている作品です。物語の細かな内容は全くと言っていいほどに違いますが、町を支配するヤクザの二大勢力を風来坊がやっつけるという構造がそのままです。映画『用心棒』でも三船敏郎演じる主人公が何故に命掛けでヤクザを相手に暴れまわるのか、などはほとんど説明はありませんでしたが、それは本書でも同じです。
本書の主人公は依頼を受けてこの町にやっては来るのですが、その依頼人は殺され、その親の実力者からこの町の掃除を依頼される、という流れはあります。しかし、単身ギャング相手に命をかける動機は明確にはされていません。そのこと自体が一つの手法としてあるのでしょう。
即ち、本書においては主人公の主観的描写は全くないのです。登場人物の主観的な側面を描かずに客観面だけを描くことで心情をも表現する、抒情性を排し客観的で簡潔な描写を特徴とする文体、作風を「ハードボイルド」と呼び、大人気となりました。ハメットは、本書やこのあとに書かれた私立探偵サム・スペードを主人公とする『マルタの鷹』でハードボイルドスタイルを確立した作家として名を馳せたのです。
ハードボイルドと言えば日本でも人気を博している分野です。古くは生島治郎や大藪春彦らを始めとする多くの作家がおり、今でも北方謙三、志水辰夫らの名前がすぐに上がります。他にも挙げればきりは無く、中でも逢坂剛の『MOZU』シリーズはテレビドラマ化され、更には映画化もされるほどの人気を得ました。
話は更にそれますが、黒沢明の映画『用心棒』は更にイタリアでも『荒野の用心棒』としてリメイクされ世界中で大ヒットし、クリント・イーストウッドが一躍スターダムにのし上がりました。更にはブルース・ウィルス主演でギャング映画として蘇り、『ラストマンスタンディング』としてリメイクされました。
ちなみに、本書に関しては中古品しかないようです。そのため上掲のリンクイメージ写真は、一番人気のある訳者の小鷹信光氏の「ハヤカワ・ミステリ文庫」版を掲げてありますが、値段が高めです。また、本のタイトルが『赤い収穫』となっています。
他に田中西二郎訳の創元推理文庫版(右掲)もあります。