会津執権の栄誉

相次ぐ当主の早世により、男系の嫡流が途絶えた会津守護、芦名家。近隣の大名から婿養子として当主を迎えることになったが、それをきっかけに家中に軋轢が生じる。一触即発の家臣たちをなんとかまとめていたのは家臣筆頭であり「会津の執権」の異名を持つ金上盛備。しかし彼も老齢にさしかかり、領土の外からは伊達政宗の脅威が迫っていた。 (「BOOK」データベースより)

本書は六編の短編小説からなる連作の時代小説集で、第157回直木賞の候補作にノミネートされた作品です。

十八代当主芦名盛隆が殺され、その跡継ぎの亀王丸隆氏も三歳で病没し芦名家嫡流の男系が絶えてしまいます。芦名家存続の道は残された姫に他家から婿養子を迎えるしかなく、ここに日立の佐竹義重の次男義広を擁立しようとする一派と伊達正宗の弟を立てるべきという一派との家臣団の対立が生じてしまうのでした。

結局、跡継ぎは佐竹義広に決まりますが、今度は義広の補佐のために同道してきた佐竹家の家老たちと、芦名の子さんの家老達との軋轢が生じることになったのです。

本書は、四百年近く続いた奥州の名門芦名家が、戦国の梟雄とも呼ばれた伊達政宗に滅ぼされる過程を五人の異なる目線で描き出しています。そしてこれらの物語は最終話の「政宗の代償」を除いて、すべて芦名家滅亡の元となる「摺上原の戦い」へと収斂していきます。

そして、その最終話の「政宗の代償」がまた読み応えがあります。最後まで秀吉の呼び出しに応じなかった伊達正宗という人物、その心の内を、北条氏の小田原攻め落とすばかりの秀吉との会見に至る中で描き出しているのです。

多視点で構成された各話の出来事が、最後に芦名家滅亡という事件として全体象が見えてきます。

著者にとって、本書が最初の単行本だということです。でありながら第157回直木賞の候補作にノミネートされたという事実が著者の力量を物語っているのでしょう。

確かに、他の作品も読んでみたいと思わせられる作家さんでした。

このごろ、本書のように一つの出来事を多視点で描く作品が気になります。

2016年上半期の直木賞候補になった作品で門井慶喜の『家康、江戸を建てる』という作品があります。この作品は、小田原城攻防の折に秀吉から現在の三河等の土地と未開の江戸という土地の交換を言われた家康が江戸の町を作り上げる様子を、実際に現場で働いた土木や鋳造などの技術者集団の観点から描いた快作です。

また、伊東潤の『池田屋乱刃』という作品もありました。「八月十八日の政変」で失脚した長州藩を復権させるために京に火を放とうとしていた志士らの集まりに、その情報を掴んだ新選組が切りこんだ「池田屋事件」を、その場に参画した肥後の宮部鼎蔵らの五人の視点で描いた力作です。これまで池田屋事件を描いた作品は数多くありましたが、多視点の志士目線で描いた作品は無かったと思います。