ダークナンバー

本書『ダークナンバー』は、警察と報道という関連する分野にいる二人の女性の活躍を描く、新刊書で378頁の長編の警察小説です。

警察の捜査と報道の調査とを、詳細に、そしてリアルに描き出した本作は読みにくさも感じましたが、その有する緊張感はかなりのもので、面白く読みました。

 

『ダークナンバー』の簡単なあらすじ

 

東京で連続放火殺人事件が発生。警視庁分析捜査係の渡瀬敦子はプロファイリングを元に捜査するが、犯行予測を外してしまう。一方、東都放送の土方玲衣は、同級生の敦子を番組で特集しようと企てる。より注目を集めるため、同時期に起きた埼玉の連続路上強盗致死傷事件を調べた玲衣は、二つの凶悪犯罪を結ぶ“あり得ない線”に気づく。協力し始めた二人が執念の捜査で辿り着いた「存在しない犯人」とは。緊迫の報道×警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

警視庁の捜査支援分析センターに所属する渡瀬敦子に、十年以上も前に捨てた草薙敦子の名で呼びかけてきたのが敦子の中学時代の同級生、東都放送報道局の土方玲衣だった。

渡瀬は、東京西部で起きている連続放火事件の専従班に分析捜査三係として参加するが、事件の解決に苦労していた。

その連続放火事件の捜査が行き詰まるなか、東都放送に勤務する土方が埼玉の連続路上強盗致死傷事件との関係性について情報をもたらしてきた。

土方は渡瀬の活躍に焦点を当てた企画で局内での復権を狙い、渡瀬は過去のしがらみもあって土方との情報交換に乗るのだった。

 

『ダークナンバー』の感想

 

本書『ダークナンバー』の帯によると、著者 長沢樹 は現役のテレビマンだとありました。

著者についてはその他のことは何も分からないのですが、本書でのテレビ局内での番組打ち合わせの様子が真に迫っていて、すぐに本書の帯の言葉を思い出してしまったほどです。

他にも、東都放送外信部海外素材版権担当デスクという立場にある土方玲衣の「報道立ち合い」という番組打ち合わせでの発言など、リアルというほかない描写です。

 

本書『ダークナンバー』の主人公のひとりである土方は、他局とトラブルが原因で外信部海外素材版権担当デスクに異動になっており、自分が報道へと返り咲くためにある警察官に眼をつけます。

その警察官が、警視庁刑事部捜査支援分析センター分析捜査三係係長である渡瀬敦子という女性です。

渡瀬と土方は中学時代の同級生であり、土方は渡瀬の人生にかかわるある事件で彼女を助けたという過去を持っていました。

 

本書『ダークナンバー』では主人公である土方と渡瀬という二人の女性の背景までかなり詳しく描写してあります。そのうえで、二人が連携して事件を解決する過程を緻密に描き出してあるのです。

その手段の一つとして、各章の項ごとに日付とその項の視点の主が表示され、時間の経過を示し、多視点での表現を取り入れてあります。

ただ、その視点の主は渡瀬敦子と土方の部下である羽生孝之、それに犯人であるトワという人物の三人だけです。

土方の視点ではなくその部下の視点で土方のパートを語らせているところがうまいところなのでしょう。

そのあたりは私にはよく分かりませんが、土方の強引さなどの強烈な個性を評価するのには客観的な視点であることがよかったのかもしれません。

この羽生という男は東都放送の子会社のディレクターだったのですが、映像の版権確認でミスをし、土方の下へと異動になったものです。

 

また、渡瀬の所属する捜査支援分析センターという組織が気になりますが、これは実在する組織です。

捜査支援分析センターについては下記サイトで詳しく説明してありました。

 

本書『ダークナンバー』では、東京都の東部での連続放火事件と埼玉県での連続路上強盗致死傷事件の関係性に気付いた土方が、渡瀬とともに事件を追跡する過程が先にも述べたように緻密に描かれています。

とくに、渡瀬のプロファイリングの思考過程があらわにされて犯人像を絞り込んでいく様子は読みごたえがあります。

同時に、対人関係の築き方がうまくない人物という設定はありがちではあるものの、対照的な土方の存在とも相まって効果的に感じました。

他方、土方の他者との係わり方は、いかにもやり手の人物らしく、強気でありつつ計算も働いている様子がきちんと描かれています。

現実にこのような女性がいたとして、本書で描かれているような行動が可能か、現場で通じるものかは不明ですが、そうした疑問さえも強引にはね除けてしまう印象でした。

そうしてクライマックスへとなだれ込んでいくのですが、このクライマックスの緊張感は大したもので、そんな中、物語は一気に結末へと進みます。

 

ここで、渡瀬の職務である事件の分析、プロファイリングを扱った警察小説としては今野 敏の『警部補・碓氷弘一シリーズ』に属する『マインド』という作品が警察庁の心理捜査官である藤森紗英という人物を登場させ、そのプロファイリング技術で事件を可決に導いています。

また、富樫倫太郎の『生活安全課0係シリーズ』の空気の読めないキャリアを主人公小早川冬彦の物語もまた同様です。

ただ、こちらは杉並中央署生活安全課に突然設けられた「何でも相談室」に配属されたキャリアの能天気な活躍を描いたコミカルな物語です。

 

 

ただ、本書『ダークナンバー』での描写が緻密であることはいいのですが、特に序盤での渡瀬が連続放火犯を追い詰めている場面など、細かすぎて物語の筋を見失いそうになる個所が少なからずありました。

この点は、読み手である私がもう少し丁寧に読み込んでいればよかっただけだという気もします。

そしてもう一点。土方の部下で、事件の解決自体に直接には関わらないものの、多くの場面で土方の雑用をこなし、けっこう重要な位置で土方を助けている凛々子という女性が登場しています。

しかしその割にはこの女性についての描写があまり無いのが気になりました。もう少し、この女性についての描写があればと思ってしまったのです。

 

とはいえ、こうした疑問点はたいしたことではなく、それ以上に本書『ダークナンバー』という作品の緻密でありながらも力強さを持った展開に驚かされ、惹き込まれたと言う方が正しいと思います。

端的に面白い作品だったというべきだと思われるのです。