風神の手

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。隠された“因果律”の鍵を握るのは、一体誰なのか―章を追うごとに出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。数十年にわたる歳月をミステリーに結晶化した長編小説。(「BOOK」データベースより)

各章の話が最終的には一つの物語の異なる側面でしかなかったという、面白い構造を持った長編のミステリー小説です。

この物語の中心には遺影専門の鏡影館という写真館があります。多くの登場人物が、年月を違えながらもこの写真館に訪れ、思いもかけない発見や出会いをし、また出来事に遭うのです。

もう一つの中心がこの町を流れる西取川の護岸整備工事です。その護岸整備工事で西取川の汚染事故を引き起こしたのが中江間建設であり、第一章の主人公である奈津美の父親の会社でした。そのために中江間建設は倒産してしまい、野方建設が護岸工事を完了させることになります。そして、奈津美も家族と共にこの町を離れることになるのです。

 

第一章「心中花」は、西取川の護岸整備工事を行っていた中江間建設の社長の娘の奈津美が、西取川で行われている火振り漁の漁師である崎村に恋をした姿がほのぼのと、しかしせつなく描かれます。

第二章「口笛鳥」、“まめ”と“でっかち”との二人の少年の友情の物語です。悪者に攫われ閉じ込められているでっかちの父親を助けに行く二人でした。

第三章「無常風」は、自分の四季を悟った老婦人の告白を軸に、藤下歩と崎村源蔵という少年とが過去の出来事の意味を問い直します。

 

本書の惹句には「隠された“因果律”の鍵を握るのは、一体誰なのか―章を追うごとに出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。」という言葉が書いてありました。この“因果律”という言葉こそこの作品の軸だと言えるのでしょう。

この、「・・・出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。」とはうまくまとめたものだと思います。まさにその通りで、それまで示されていた事実についての解釈が全く違う顔を見せてくるのです。こうした意外性の描写は、この作者の得意とするところだと思われます。

また、この世で起きる出来事は他の出来事の原因であり、また他の出来事の結果ともなっているという指摘も腑に落ちます。小さな出来事が、波及して他の大きな出来事につながっていくという言い方もできるでしょう。

それは突き詰めれば自分の存在自体が他者に影響を与え、自分がいなければ他の人が幸せになっているという屈折した思いにも繋がっていきます。そうした感情を描いた作品に、2017年本屋大賞ノミネート作品にもなった 西加奈子の『i(アイ)』という作品がありました。全編主人公のアイの視点で、なお且つアイの心象のみで構成されていると言ってもいいほどであり、個人的には好みではありませんでした。

でも、本書の場合はそうした感情ではなく、自分の知らないところで他者に影響を与えるという現象がテーマです。これに関してはバタフライ効果という言葉が思い出されました。

力学に関する言葉らしいのですが、「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」という設問で語られる言葉です。この言葉をテーマにした映画として『バタフライ・エフェクト』がありました。誰かを救うために過去に戻り過去を改変すると、現在では思いもかけない誰かに影響を及ぼすという、タイムトラベルものでもありますが、因果の流れに焦点を当てられており、とてもよくできていて面白い映画でした。

本書はこの映画とは全く異なるプロットであって、因果律そのものを前面に押し出したものではありませんが、自分の行為が誰かに影響を及ぼしているという点を、うまくミステリーとして構築してあります。

もともと、この作者の作品は好みの作品ではなかったのですが、テレビであった『カラスの親指』という映画に魅かれ、いつの日かもう一度この作家の作品を読んでみようと思っていたところに本書の惹句を読み早速飛び付いたのです。

結果は、非常に満足のいくものでした。各章が独立した中編小説のようでありながら、全体として一つの長編として仕上がっているこの物語は、従来のホラーチックな作人とは異なり、心地よい読後感をもたらす作品でした。

花と流れ星

死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いを寄せる、売れない作家道尾。三人のもとに、傷ついた心を持った人たちが訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。自分のせいで孫を亡くした老人…。彼らには誰にも打ち明けられない秘密があった―。人生の光と影を集めた、心騒ぐ五篇。(「BOOK」データベースより)

本作はホラーシリーズである真備庄介シリーズの短編集です。この短編集には「流れ星の作り方」「モルグ街の奇術」「オディ&デコ」「箱の中の隼」「花と氷」の五編が収納されています。でも、ホラー小説というイメージではありません。

死んだ妻に会うために霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛と、彼女にほのかな思いを寄せる、売れない作家・道尾の三人を中心として夫々の物語は進みます。

個人的には一番最初の「流れ星の作り方」が一番好きでした。泡坂妻夫の作品を思いだすようなちょっとした仕掛がありながら詩情の漂う作品なのです。読んでいてホッとすると同時に、仕掛けにはまった驚きも心地よい作品でした。

二作目の「モルグ街の奇術」も、テーマがテーマだけにポーの作品めいて怪奇趣味を持った小品で、それでいてひねりが効いていて面白い作品でした。

残りの三作品は、前の二作品に比べると少々失速気味の印象がありますが、それでも面白くない作品という訳ではありません。

真備庄介シリーズということで慌てて手に取った作品だったのですが、この作品の前に出版されている、二編の長編作品を読んでいなくても十分に楽しめる作品でした。

笑うハーレキン

ある日突然、ホームレス家具屋東口のもとに弟子志願の若い女が現れ、ホームレスたちとの奇妙な共同生活が始まる。文字どおりの”疫病神”に付きまとわれている東口は、ある日奇妙な本棚修復の依頼を受ける。仕事、仕事で結局は会社を失い、更には供まで死なせてしまった男、東口の回生の物語。

この作家の作品はまだあまり読んでいないのではっきりとは言えないのですが、作風は決して明るくはない感じがしました。一応本書も未来志向の作品と言っても間違いではないと思うのですが、どうもその未来がバラ色を感じさせないのです。

物語としては、巧妙に張られている伏線が終盤生きてきて、話の展開が良く練られている印象がして面白いです。ただ、派手なアクションといった展開とは無縁のお話なので、主人公の回生の物語として読めば十分に楽しめる作品だと思います。

シャドウ

主人公の我茂鳳介は小学校5年生であり、母咲枝を癌で亡くしたばかりだった。そして、今度は近所に住む鳳介の幼馴染の亜紀の母親恵が自殺してしまう。恵は鳳介母親咲枝の学生時代からの親友であり、鳳介の父洋一郎の後輩でもあった。その後鳳介の周りで何かと事件が巻き起こるのだった。

面白くないといえば嘘になります。緻密に張り巡らされた伏線とその結果等は物語に緊張感と意外性をもたらし、高評価する読者が多数いると思われます。ただ、私の好みでは無いのです。

例えば、小学生が主人公という設定では、そんな考えや行動はしないだろうと思ったりして物語世界に浸れなくなってしまうのです。

でも、面白くないということではないので、そうした点が気にならない人にはお勧めでしょう。