触手(タッチ)

本書『触手(タッチ)』は、特殊な治癒能力を持つ主人公アランの苦悩に満ちた日々を緻密に描き出す長編のホラー小説です。

本書以前に読んだF.P・ウィルスンの二冊の著作とはまた異なる内容の作品ですが、これはまた面白い作品でした。

 

「あんただ!あんたがそうだ!」浮浪者の薄汚れた手がアラン医師の手を握った。たちまちアランは高圧電流にも似たショックを身体中に感じた。アランが奇跡の人になったのは、その時からだった―触れるだけでいかなる不治の病も治療できるようになったのだ!やがて彼の不思議な治療を受けようと、難病を患う人々が各地から大挙してアランの診療所に押しかけてきた。だが、この奇跡の力にはひとつ問題があった。おかげで、病人たちの間にパニックが生じるが…。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

ダ・タイ・バオ―ベトナムに古来より伝わる奇跡の癒しの力。アラン医師はこの力を得たために妻と家を失い、あまつさえペテン師の汚名を着せられて医師連盟追放の憂き目にあった。そんな彼に救いの手を差しのべたのがマクレディ上院議員だった。だが、この上院議員の申し出も、実は自分の難病を治すためにアランを監禁し、奇跡の力を一人じめする口実にすぎなかった…。『城塞』、『マンハッタンの戦慄』で著名のベストセラー作家が放つメディカル・ホラーの傑作。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

本書『触手(タッチ)』は、いわゆるモダンホラーの系譜とちょっとニュアンスが異なります。

異形のクリーチャーも出てこないし、アクションも派手ではありません。ただ、主人公は患者に触れるだけで病を治してしまうのです。しかし、この能力の代償は大きく、主人公の医師アランは数々の試練に立ち向かうことになります。

人間を正面から描き、少々つらい側面があります。それまでの作品のイメージとは違いますのでそのつもりで読んでください。

ナイトワールド・サイクル(「アドヴァーサリ・サイクル」)の第三作目なのですが、夫々の作品は全くといいほどにその内容は異なり、話自体も独立しています。

マンハッタンの戦慄

本書『マンハッタンの戦慄』は、1980年代のニューヨークのマンハッタンを舞台にした、長編の伝奇ホラー小説です。

かなり面白いホラーアクション小説として一気に読み終えた作品だったと覚えています。

 

巨大都市ニューヨーク。それは現代の魔都だ。この街の裏側では想像もつかない闘いがくりひろげられていた。酷暑の夏、マンハッタンでは街の浮浪者が次々に姿を消すという事件が起こっていた。しかし、その原因は誰にもわからなかった。一方、「保安コンサルタント」こと、非合法の世界で危ない仕事をこなす〈始末屋ジャック〉は、国連のインド外交官だという不思議な男クサムから、路上の強盗に奪われたという家宝のネックレスの捜索を依頼された。ジャックが首尾よくネックレスを取り戻すのと前後して、彼の周辺で奇妙な事件が続発しはじめた。老婦人の失踪、ジャックを誘惑する謎の美女。いくつもの手掛かりが結びつき、驚くべき謎の正体が解かれていく。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

〈ラコシ〉―それは鋭い牙と鉤爪を持ち。黄色い眼を光らせ。人肉を食らうこの世のものならぬ魔物だった。太古の旧支配者がつくり出した醜悪な怪物〈ラコシ〉を操る力をもった怪人クサムは、百三十年前に、インドの寺院からイギリス軍人ウェストファーレン大尉に財宝を盗まれた怨みを晴らし、その子孫を根だやしにすべく、はるばるニューヨークまでやってきたのである。愛する少女ヴィッキーを護るため、始末屋ジャックは死力をつくして戦うが、クサムと彼が放つ〈ラコシ〉は執拗に襲いかかってくる。吸血鬼小説『城塞』で注目されたF.ポール・ウィルスンが、現代の魔都ニューヨークを舞台に描く入魂のオカルト伝奇ホラー巨編。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

始末屋ジャックというハードボイルドチックな主役が登場し、ラブクラフト的怪物も現れ、モダンホラーの定番とも言える展開になってきます。第一級のエンターテインメント作品です。

本書『マンハッタンの戦慄』は、F.P・ウィルスンの作品群の中でも独特な位置にあり、今では「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズと呼ばれているらしい、ナイトワールド・サイクルの第二作目にあたりますが、同時に「始末屋ジャック」の幕開けでもあり、本書を第一作目とする「始末屋ジャック」シリーズは、以降二十作にもなるシリーズとして書き継がれています。

ただ、本書『マンハッタンの戦慄』は「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズの第一作目であり第二次世界大戦下のトランシルバニアを舞台にした『ザ・キープ』とは、その内容を全く異にしています。

私は、この後「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズの第三作目『触手(タッチ)』までしか読んでいないので何とも言えませんが、少なくとも次の作品までは実に面白く読みました。

ちなみにこの第三作目もまたそれまでの二作とはその内容を異にしています。

ザ・キープ

本書『ザ・キープ』は、ルーマニアのトランシルバニア地方を舞台とした吸血鬼の物語であり、長編の伝奇ホラー小説です。

若い頃に、かなり惹き込まれて読んだ記憶があります。

 

1941年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方。ドイツ軍に占領された中世の城塞に、ある夜、ただならぬ絶叫が響きわたった。地下室に駆けつけた兵士たちが見たものは、首を引きちぎられた仲間の無残な死体だった。さらに第2、第3の殺人が起き、恐慌をきたしたドイツ軍は、ユダヤ人の歴史学者クーザに調査を命じる。現場に残された古代文字を手がかりに殺戮者の正体を追うクーザの前にある夜、おぞましい異形の存在が姿を現わした。吸血鬼伝説とナチスの侵略という時代背景を巧みに融合させた伝奇ホラーの金字塔。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

クーザに前に現われた吸血鬼モラサールは、自分に協力すればドイツ軍を皆殺しにしてやると取引をもちかける。ナチスを憎むクーザはモラサールの申し出を受けるが、その背後に隠された恐るべき奸計を知るべくもなかった。同じころ、クーザの娘マグダは、グレンと名乗る謎の男と出会う。城塞の内部を詳しく知るこの男は何者なのか?そして、父親を救出するために、マグダとグレンが城塞へと向かったとき、人智を超えた戦いの幕が切って落とされた。正統派ホラー小説の旗手ウィルスンの代表作。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

第二次世界大戦時のトランシルバニアの古城に駐留したドイツ軍を襲う正体不明の存在に退治する主人公の姿が描かれますが、エンタメ小説として一級の面白さを持っていました。

本書『ザ・キープ』が属するシリーズは、以前はナイトワールド・サイクルと呼ばれていたと思うのですが、2020年の7月現在で本書のデータを見ると、「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズと呼ばれているようです。

その「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズの第一巻目である本書『ザ・キープ』は、伝奇ホラーの名作であり、D・R・クーンツロバート・R・マキャモンの初期のモダンホラー作品群のように物語はテンポよく進むのですが、より落ち着いた雰囲気を持っています。

また、原作の雰囲気はあまり残されていなかった記憶はありますが、映画化もされています。

ただ、DVD日本語版は未だ出ていないようです。Amazon ではVHS製品だけ販売されていました。