城山三郎原作の同名小説を元に、昭和30年代の通産官僚と産業界の人々の奮闘を描いた社会派ドラマのBOX。敗戦から立ち上がり、日本を世界と肩を並べる豊かな国にしようと情熱を燃やす、通産官僚たちの活躍を描く。第1話から最終第10話を収録。(「キネマ旬報社」データベースより)
著者: 城山 三郎
落日燃ゆ
東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。毎日出版文化賞・吉川英治文学賞受賞。(「BOOK」データベースより)
東京裁判で文官でただ一人A級戦犯となり死刑判決を受けた広田弘毅の生涯を描く長編小説です。
30年近くも前に読んだ本なので、その内容はあまり覚えてはいません。ただ、軍部の暴走に対抗し、平和的な外交での解決を目論んでいた人物として描かれていたと記憶しています。
何より、東京裁判での広田弘毅が、自己弁護を全く為さず、軍部の暴走を許したことに間違いは無いのだから、その点においては有罪である、との態度に終始していた点は印象に残っています。
その後少々調べてみると、この本が広田弘毅の伝記的な性格をもっていることから、事実に反するとの批判が少なからずあるようです。
こうした批判は司馬遼太郎や山崎豊子の例を出すまでも無く、膨大な資料を駆使して歴史上の人物を描写しようとするときは必ずと言って良いほど起きることのようです。
少なくとも読み手である私には史実がどうなのかは判断できる筈もなく、小説として面白いかどうか、という点に尽きます。
そして、その観点からしてもこの小説は第一級の面白さがあると思うのです。確かに、一般的に存在する広田弘毅という人物の、高潔な政治家としての人間象の成立に一役買ったかもしれませんが、それはそれだけこの物語に対する評価が高いということに他ならないでしょう。
蛇足ですが、一般に「A級戦犯」という言葉は「戦争に対する一番重い罪」として捉えられているようです。国会での政治家の先生の中にもそのような使い方をしている方がおられました。しかし、この言葉は「罪の重さ」ではなく「罪の種類」でしかありません。
「平和ニ対スル罪」「通例ノ戦争犯罪」「人道ニ対スル罪」が夫々A級、B級、C級の罪にあたるのです。一応の知識として知っておくべきだと思います。
詳しくは「ウィキペディア A級戦犯」を参照してください。
官僚たちの夏
「異色の官僚」と言われ、また「ミスター通産省」とまで言われた、佐橋滋という人がモデルだそうで、物語もこの人物の行動を追っているそうです。
先日(2009年)にTBSでドラマ化されたので知っている方も多いかと思います。残念ながらテレビドラマはあまり見ない私はこのドラマも見ませんでした。後で、かなり良かったという評判を聞き、残念に思ったものです。
特定産業振興臨時措置法案、通称特振法案の制定をめぐる通産官僚たちの思惑、行動が描かれています。
高度経済成長期の日本企業の育成のためには官による一定の保護が必要という観点からの法案だそうですが、結局は廃案になったそうです。大学を出て間もなくこの本を読んだのですが、その当時は(今でもあまり変わりませんが)この本の舞台や時代背景、また社会の経済活動の意味が良く分からないまま読んでいました。それでも十分に面白く読んだものです。
一般には全く知られていなかった、官僚と言われる人たちの激務と彼らの仕事に対する誇りは十分読み手に伝わったのではないでしょうか。
小説好きの一読者としてみると、単純に、見知らぬ世界の男達の生き様を的確に描いた物語として面白く読めればいいのであって、事実、とても面白く読みました。
価格破壊
ダイエーの創業者である中内㓛をモデルにしたと言われる長編の経済小説です。
消費者のために出来るだけ安い薬を提供したいという思いで、主人公谷口は安い薬の仕入れ先を探すが、メーカーは問屋への締め付けなど、谷口への卸行為を妨害する行為に出る。このため谷口は近県で断られると、更に遠くへと安い薬の仕入れ先を求めていかざるを得なかった。
「問屋、薬局への適正な利潤の確保がひいては消費者への薬の安定供給にも役立つ」というメーカーの論理にも、商人が自分の商品に適正な価格をつけているだけ、と自分の主張をつら抜き通す谷口。
そうした谷口への消費者の支持を背景に、谷口は食糧品や家電製品にも手を伸ばし、総合スーパーへと成長を遂げるのだった。
寡占販売を目論む巨大メーカーと主人公谷口との戦いは、読み手の心をつかんで離しません。一種の痛快ヒーロー小説的な面白さもあります。
それでいて経済の基本である物流の基本的な仕組みまで描いてあります。
勿論、現実の経済活動はこんなものではないという声も聞こえてきそうですが。
それでも、消費者のために出来るだけ安い商品を、という主人公の思い、そしてその思いに基づく価格破壊の行動は小気味良く、今でも一気に読める本ではないでしょうか
ダイエーの名称が完全に消えるとのニュースがあってかなり立ちます。イオンに完全に吸収されてしまったのです。時代の移り変わりを思い知らされたニュースでした。