愛と名誉のために

二十一歳の夏、作家志望の青年ブーンは、ジェニファとの恋を失った。人生の目的をなくした彼は、酒に溺れ、失業を繰り返し、やがて抜け殻となった魂を抱えて流浪の旅へ出る。彼女にあてた、投函されることのない何通もの手紙とともに。が、七年の歳月を経ても変わらぬジェニファへの愛は、ある日ブーンに再生を誓わせる。青年の挫折と再生を通し、スペンサー・シリーズの著者が男の愛と誇りを問いかける感動の恋愛小説。(「BOOK」データベースより)

 

この本もある男の再生の物語です。

 

失恋した主人公は、今で言うならストーカーのように手紙を書きやはり振られます。酒びたりの日々を送り、仕事を次々と変え、ついにはあてのない旅に出た主人公はホームレスとなってしまいます。

しかし、ある日突然これまでの生活に決別することを思い立ち、肉体を鍛え、再度学業に励み自分を取り戻すのです。

 

その過程が、いかにもパーカーなのです。「初秋」でもそうでしたが、まずは強靭な肉体こそ誇りある男の礎とでもいうように、まずは体を鍛えます。まあ、体が資本というのは不自由な体になった私としては実感するのですが、パーカーの言う意味は少し異なるように思えます。

 

パーカーの描く男は「騎士(ナイト)」なのでしょう。「騎士」である以上は誇り高くなければなりません。外敵から身を、そして自分が守るべきものを守り得るだけの力が必要であり、そのための肉体の鍛錬、だと感じます。

そういう肉体を得て、その上で知性をも有していて初めて騎士となると言っているようです。

そして、男は家庭を、愛する人を、名誉を守り得る「騎士(ナイト)」になるのです。

銃撃の森

作家のニューマンは、マフィアの大物カールが殺人を犯す現場を偶然目撃してしまった。彼は警察に行き、裁判で証言することを確約して帰宅した。が、そこで待っていたのは、縛られて全裸で横たわる妻と、証言の撤回を求める脅迫電話だった。一度は脅迫に屈し証言を翻したニューマンだが、やがて屈辱感のなかで自ら銃を取り、カールへの反撃を誓った。スペンサー・シリーズの著者が鮮烈なタッチで描く男の壮絶な復讐劇。(「BOOK」データベースより)

 

主人公の再生の物語です。

 

パーカーという作家は男の誇りを取り戻す話が多いと思われます。この本もそうで、ある殺人現場を目撃したにも拘らずマフィアの脅迫に屈し証言を翻してしまった主人公は、同じく辱めを受けた妻と共に近所に住む軍人上がり友人の力を借りて己の尊厳を取り戻すために銃を手に立ちあがるのです。

 

男の復権の物語と言ってしまえばそれまでなのですが、スペンサーシリーズでもこの構図は随所に見られるように、男の生き方として誇りを失ってはならない、という強烈なメッセージを感じます。その主張を単に主張として終わらせるのではなく、面白い物語として仕上げていることがファンが多い理由なのでしょう。

警察署長 ジェッシイ・ストーン シリーズ

警察署長 ジェッシイ・ストーン シリーズ(完結)

  1. 暗夜を渉る
  2. 忍び寄る牙
  3. 湖水に消える
  4. 影に潜む
  1. 訣別の海
  2. 秘められた貌
  3. 容赦なき牙
  4. 夜も昼も
  5. 暁に立つ

 

妻が去り、酒に溺れ、ジェッシイ・ストーンは、ロス市警を辞職した。彼は追われるようにアメリカ大陸を横断し、大西洋岸の町パラダイスの警察署長になる。町は行政委員長ヘイスティに牛耳られていた。裏金を蓄え、私兵を組織する町の黒幕とジェッシイは激しく対立する。そしてヘイスティの愛人が死体で発見された時、対立は頂点に達した。ついにジェッシイは悪党を一掃すべく立ち上がる!警官魂が熱く昂る迫力の男の世界。(「BOOK」データベースより)

 

本シリーズは、スペンサーシリーズや女性探偵サニー・ランドルシリーズとも世界を共通にしており、スペンサーシリーズの「真相」やサニー・ランドルシリーズの「虚栄」、本シリーズの「秘められた貌」では主人公同士の共演も見られます。

 

スペンサー シリーズ

スペンサー シリーズ(完結)

  1. ゴッドウルフの行方
  2. 誘拐
  3. 失投
  4. 約束の地
  5. ユダの山羊
  6. レイチェル・ウォレスを捜せ
  7. 初秋
  8. 残酷な土地
  9. 儀式
  10. 拡がる環
  11. 告別
  12. キャッツキルの鷲
  13. 海馬を馴らす
  1. 蒼ざめた王たち
  2. 真紅の歓び
  3. プレイメイツ
  4. スターダスト
  5. 晩秋
  6. ダブル・デュースの対決
  7. ペイパー・ドール
  8. 歩く影
  9. 虚空
  10. チャンス
  11. 悪党
  12. 突然の災禍
  13. 沈黙
  1. ハガーマガーを守れ
  2. ポットショットの銃弾
  3. 笑う未亡人
  4. 真相
  5. 背信
  6. 冷たい銃声
  7. スクール・デイズ
  8. ドリームガール
  9. 昔日
  10. 灰色の嵐
  11. プロフェッショナル
  12. 盗まれた貴婦人
  13. 春嵐

 

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。―人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。(「BOOK」データベースより)

 

やはりR・B・パーカーといえばまずはスペンサー シリーズでしょう。

元警察官の私立探偵のスペンサーは大男で、常に体を鍛え、そのタフネスぶりを誇っています。何よりの特徴は彼の饒舌さにあります。単なるおしゃべりではなく、皮肉屋でもあり、彼なりの哲学に裏打ちされた饒舌さです。

最初はこのおしゃべりに拒否感を覚える人も少なからずいるかもしれません。しかし、ちょっとその点を無視していれば、彼の饒舌さもそれなりに面白く思えてくると思います。

 

彼を取り巻く登場人物がまた魅力的です。頭脳明晰で独立心が強く、スペンサーと距離を置いたこともある恋人のスーザン・シルヴァマン、スペンサーの危機に際しては常にそばに居る黒人の大男ホーク。他にも何冊かではありますが、警察官で事件の度に顔を出すサミュエルスン警部。ギャングのヴィニー・モリス。どれもひと癖ある人間達で、スペンサーとの会話が光ります。

 

本コーナーのリンク写真は「初秋」という作品で、本シリーズの中での一番人気であり、私も最も好きな作品です。

スペンサーが両親の離婚騒動の間を一人でいる少年の再生を手伝う物語です。「男」としての生き方を、共に生活し、体を鍛え、家を基礎から建てる、その行為の中で教えていきます。勿論ホークも加わります。

アクション重視のハードボイルド小説ではなく、主人公の生き方を主張している作品です。でも、できれば第一作目から順に読んだ方がスーザンとの出会い、別れなどのシリーズ全体を通した流れが分かり面白いでしょう。

 

本シリーズは装丁がまた魅力的でした。辰巳四郎氏によるカバーデザインは、拳銃や口紅などの小物と、人の顔若しくは眼や口などの顔の部分のリアルなイラストの組み合わせがインパクトが強く、強烈な個性を持っていました。ちなみに、菊池光と辰巳四郎というコンビはフランシスの競馬シリーズでも同様でした。

 

下記リストは翻訳済みの作品リストです。未訳の作品として『Chasing the Bear』が、通し番号で言うと37の位置にあります。ですから、シリーズ全体とすれば、正確には全40巻と書くべきでしょうか。