特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』とは

 

本書『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』は2022年1月に刊行された、「このミステリーがすごい! 」大賞の選評まで入れて新刊書で267頁の長編のミステリー小説です。

2022年・第20回「このミステリーがすごい! 」大賞の受賞作であり、王様のブランチでも紹介された、現役弁理士が描く企業ミステリーです。

 

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』の簡単なあらすじ

 

特許権を盾に企業から巨額の賠償金をふんだくっていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、相方の弁護士と共に防衛専門の特許法律事務所を立ち上げた。今回のクライアントは、映像技術の特許権侵害を警告され、活動休止を迫られる人気VTuber・天ノ川トリィ。調査に乗り出した未来は、さまざまな企業の思惑が絡んでいることに気づき、いちかばちかの秘策に…!2022年第20回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

別件のトラブルを解決したミスルトウ特許法律事務所の弁理士大鳳未来は、相棒で事務所所長の姚弁護士から言われ、警告書が届いたという次の依頼者の「エーテル・ライブ」へと向かった。

「エーテル・ライブ」は、今はやりのYouTube上での活動が主なため一般的にVTuberと呼称されるバーチャル・ライバーが多数所属する会社だ。

「エーテル・ライブ」所属の稼ぎ頭のVTuberである天ノ川トリィの映像が特許権を侵害しているという警告書が届いたというのだ。

「株式会社ライスバレー」から届いた侵害警告書は、天ノ川トリィが使用している撮影システムの使用行為は弊社の有する専用実施権を侵害している、というものだった。

しかし、警告書に記されていたのは撮影システムの使用中止と「エーテル・ライブ全体の売上額に0.1を掛けた額」の損害賠償額という普通はあり得ないものであった。

さらには侵害があったことを立証する「クレームチャート」も同封されていないことを考えると、この請求には何か裏があると考えざるを得ないのだった。

 

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』の感想

 

本書『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』は、2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞の受賞作であり、特許権という未知の分野を舞台に展開する点で非常に興味を持てる作品でした。

同時に、VTuberの使用する送信技術という現代社会では無視できないテクノロジーを対象にしている点でもまた面白そうな作品です。

 

本書の登場人物としては、まず主人公の大鳳未来という弁理士とその相棒であり「ミスルトウ特許法律事務所」の所長でもある弁護士の姚愁林がいます。

そして大鳳未来を助けるスタッフ的な存在として、技術面での相棒と言ってもいいフリーの技術コンサルタントである新堂がおり、今回は問題の撮影システムの解析をしてもらっています。

さらに特許文献調査会社の「磯西技術情報サービス」の社長兼社員の磯西や、「夏目・リバース・エンジニアリング」という興信所の所長兼所員である夏目森太郎がいて、特許権者の背景事情などの調査を依頼しています。

次に問題となる事案の関係では、今回の依頼者である多数のVTuberを抱える会社「エーテル・ライブ」社長の棚町隆司、そしてそこのトップVTuberの天ノ川トリィが登場しています。

相手方としては、特許権を侵害しているという警告書を出したのが米谷勝弘を社長とする「株式会社ライスバレー」であり、それに華村基英を社長とする問題の技術の特許権者の「ハナムラ設計機器」がいます。

他に、「エーテル・ライブ」のもの言う株主の一人であり、問題を複雑にするだけの薄雲やほかの人物たちも登場しますが、そこは実際に読む中で確かめてください。

 

本書『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』は、知的財産に関する専門家である弁理士を主人公とする作品だけあって、私たちが普段耳にしない専門的な言葉が飛び交っています。

そこは作者である南原詠が現役の弁理士というだけあって、その言葉の一つ一つに簡単な説明が施されていて、「特許」関連のトラブルについて無知な読者にもそれなりに分かり易いように説かれています。

その点は自分たちが知らない世界について分かり易く、かつ面白く教えてくれていて、とても楽しく読むことができました。

本書の最後に記載されている第20回「このミステリーがすごい! 」大賞の選評で、専門的な言葉が出てきてわかりにくいという意見があるところを見ると、出版に際し加筆されたのでしょう。

 

さらには、人の動きをトレースしてコンピュータに取り込み、そのデータをもとにCGキャラクターを動かすというVTuberの根本的な映像技術を特許の対象とすることで、現代の人気業界の裏話をも見せてくれています。

レーザー技術によって人の動き取り込むなかで、スマホでも話題になっている5G技術までも活用した話として組み立てられているのです。

ストーリー自体の面白さが前提であることは勿論として、こうした未知の情報を教えてくれる作品は付加価値をつけてくれていて面白さが倍増します。

 

本書『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』では、主人公のキャラクターも今ふうでなじみやすいと思われます。

近年では新川帆立の『元彼の遺言状』がやはり男勝りの、お金こそすべてだと公言してはばからな女弁護士というキャラクターの作品でした。

この作品は本書と同じ『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作で、小気味よいタッチで描かれてはいましたが微妙に私の好みとは異なる作品でした。

 

 

また、柚月裕子の『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』もあります。

ただこの作品は、元弁護士の私立探偵である主人公の女性が助手の貴山との知的ゲームを楽しむという、気楽に読めるコンゲームであって、本書とはちょっとニュアンスは異なるかもしれません。

 

 

ともあれ、本書『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』の南原詠という作者はこれからも楽しい作品を送り出してくれるだろう作家さんとして楽しみな作家さんだと思えます。

今後が楽しみです。