星野之宣によって漫画化され、4巻の単行本に纏められた。内容は「ガニメデの優しい巨人」、「巨人たちの星」までを含み、独自の解釈や原作にないエピソードを加えている。(Amazon 商品紹介文より)
著者: J・P・ホーガン
未来の二つの顔 [ コミック ]
未来の二つの顔
人工知能を研究しているダイアー博士は研究中止命令の内示を受けて愕然とする。月面の工事現場で、コンピューターが勝手に下した誤った判断のために、大事故が起きたのだ。人工知能に仕事を任せる事の是非をめぐって論議がわき起こる。そのときダイアーが提案した実験とは……。ハードSFの第一人者ホーガンの待望の巨編!(Amazon内容紹介より)
AI(人工知能)対人間というテーマを描いた長編のハードSF小説です。
月での月面開発の現場でコンピューターの異常が見つかる。しかしそれはコンピューターの異常ではなく、人間の出した指令を実行しただけであり、ただ、通常人間が有する「常識」を有していなかっただけだと判明する。
この頃のコンピュータは人工知能を有し、簡単な指令のもと最大の推論を働かせ作業を行っていた。ここで、コンピューターは人類の脅威となるかが議論の対象となり、結論を得るために宇宙ステーションで実験をすることになった。
しかし、その実験(シミュレーション)の最中にAIは暴走を始める。能力の更なる向上を図るAIと、人間が幾重にも張り巡らせた防御機構との対決の行方は?
AI(人工知能)対人間という良く使われるパターンの物語です。しかし、そこはホーガンの作品であり、単なる対決ものであるわけがありません。
そもそも、コンピューターの異常と考えられた事態は、コンピューターが「小山を早く更地にせよ」という人間の命令に対し、地球へ送り出す手段であった岩石の射出機械を月面に向けて使用することが合理的と考えた結果に過ぎなかったのです。人間は土木機械の利用ということを当然の前提として考えていたために起こった間違いでした。
鉄腕アトムが人気を博す以前から、機械対人間という対立の図式が語られてきました。本書はその問いに対する、ハードSFという形を借りたエンターテインメント性に富んだホーガンなりの答えだと思います。
宇宙ステーションでの実験は、外形的にはコンピューターの暴走が起こったように見えます。しかし、それはコンピューターが自己の論理を突き詰めた結果としてあるに過ぎません。
次いで、コンピューターの論理性は人間とマシンの対立そのものについての考察へと至ります。そして、コンピュータは一つの結論を得るのです。この結末は是非自分の眼で読んでほしいと思います。
エンターテインメントとして十分に面白く、且つ、文明批評としても考えさせられるテーマが語られています。
創世記機械
【星雲賞受賞作】
若き天才科学者クリフォードは、統一場理論の研究を進めるうち、宇宙の無限のエネルギーを直接とり出す機械を発明した。この装置をうまく利用すれば究極兵器がつくれると判断した軍部は、ともすると反体制的なクリフォードを辞職に追いやる一方、独自の研究開発を続けたのだが……。ホーガン面目躍如の大作。(Amazon内容紹介より)
いかにもホーガンらしい現実の科学理論を駆使した長編のハードSF小説です。
天才科学者クリフォードは統一場理論の研究にからみ新たな理論を発見します。それによれば究極の兵器の製造さえ可能となるものでした。
東西冷戦のさ中にあって国家から利用されることを恐れたクリフォードは、民間に下り、国のしがらみのないところでの研究活動を続けようとします。しかし、国はそこにも手を伸ばしてくるのでした。
「統一場理論」というのは万物の根源にある素粒子に関係する理論です。ハードSFは、こうした実際の学問上の枠組みを根底に置いてその上に架空の物語を構築するのです。
しかし、科学的知識を持ち合わせない一般読者は、そうしたことはどうでもよく、いかにも科学的実在らしき描写をそんなものなのだろうと当然の前提にして読み進め、新たな発明、発見、展開をただ十分に楽しめばいいのです。そこにこそSFの醍醐味があると私は思っています。
本書は現実の「統一場理論の研究」を前提にしつつ、架空の理論を組み立てて物語の骨子としています。そして、科学的な成果を武器として利用しようとする国家という存在を前面に押し出し、科学の人類に対する貢献の仕方、人類の幸福に役立つ科学の在り方を提示しています。
勿論、物語として面白いのは当然であり、その点でホーガンの爆発的な人気があるのです。
星を継ぐもの
【星雲賞受賞作】
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。(Amazon内容紹介より)
謎解きメインのまるで推理小説のような作品ですが、それでも最もSFらしい長編のSF小説です。
月で人間の死体が発見されます。しかし、その死体は五万年も前の人間の死体でした。同じ頃、木星の衛星のガニメデでは異星の宇宙船が発見され、チャーリーと名付けられた月の死体との関連が議論されるのです。
五万年前といえば人類は石器時代の只中であり、文化の飛躍的な進歩がみられるという時代です。しかし、チャーリーは遺伝子レベルまで人類なのです。このチャーリーと現生人類との関係や、またガニメデで発見された宇宙船との関わりなどが論議されます。
これらの疑問を解き明かしていくのが、物質を透過撮影する技術を開発したヴィクター・ハントを中心とする科学者たちです。
しかし、一つの推論に対しては必ず明確な反論が存在し、また次々と明かされる事実がその推論を否定してしまいます。この論争の過程は現実の現代科学を基礎としたものであり、読者にも理解できるように描写してあるためその論争の中に引き込まれ、真相の解明がひたすら待たれるのです。
物語の内容が現実の科学に即しているところから「ハードSF」小説と呼ばれています
この過程が、昔から言われるセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれます。
派手なエンターテインメント性こそありませんが、この少しずつ明かされ、示されていく事実こそがSFの醍醐味を味あわせてくれるのです。
先にも述べたように、本書はミステリーとしても第一級の面白さを持っています。こうしたSF作品としては、A・アシモフの『鋼鉄都市』があります。ロボット三原則を基礎に人間型のロボットと組んで捜査を行うニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリの姿が描かれているこの作品は推理小説としても一級の面白さを持ったSF小説です。
ちなみに、本作品はSFコミックの第一人者である星野之宣の画で銭四巻として漫画化されています。この漫画は「『ガニメデの優しい巨人』、『巨人たちの星』までを含み、独自の解釈や原作にないエピソードを加えている」そうです。
この作品は以下の「巨人たちの星シリーズ」の第一巻目にあたります。出来れば、このシリーズを通して読んでもらうと、その壮大な物語が一段と迫ってくると思います。
巨人たちの星シリーズ
- 星を継ぐもの 1981年第12回星雲賞海外長編賞受賞作
- ガニメデの優しい巨人
- 巨人たちの星
- 内なる宇宙