『火災調査官』とは
本書『火災調査官』は、2016年9月に東京創元社から刊行され、2018年5月に創元推理文庫から395頁の文庫として出版された、長編の推理小説です。
物語の舞台は関心のあるものでしたが、その内容は残念ながら興味を引くものではなかったと言わざるを得ません。
『火災調査官』の簡単なあらすじ
目黒区の空き家で放火が発生。現場には犯人の遺留物と思しき、ダ・ヴィンチの作品を模写した天使の絵が残されていた。そしてそれを皮切りに、都内で同じ手口の放火事件が頻発。なぜ同じ絵が現場に必ず残されるのか?被害者たちの共通点とは?有能だが本心では炎の美しさに執着している火災調査官・東と、正義感あふれるポンプ車小隊長・白木が事件の謎を追う、渾身のミステリ。(「BOOK」データベースより)
『火災調査官』の感想
本書『火災調査官』は、2018年5月に創元推理文庫から395頁の文庫として出版された火災調査官を主人公とした長編の推理小説です。
「火災調査官」という職種は全くと言っていいほどに情報を持っていない分野でもあって関心のあるものでしたが、物語としては面白さを感じることのないものでした。
登場人物を見ると、主人公は消防本部予防部調査課に勤務する火災調査官の東孝司という男です。
この男は、わが道を行くタイプであり、思っていることをそのまま口に出してしまうなど周りから浮いてしまうそうで、人との付き合いを苦手としており、また、火災現場に行くと「炎が見える」と噂されています。
反面、高校時代の二年上のバスケ部の先輩でもある白木はスポーツ万能で明朗な性格の持ち主であって、周りに溶け込むことができない東とは真逆であり、東が苦手としていた存在だったのです。
ほかにも、内藤や武井といった他消防署の火災調査官たちや、目黒署の榊刑事のような警察官などが周りを固めていて、捜査権を持たない主人公の調査を手助けしてくれています。
火災の原因や状況を調査し、再発防止策を講じるための専門職」であり、また「警察や消防、保険会社などの関係機関と連携して調査を進め」るそうで、「
火災現場での証拠収集や分析を通じて、火災の原因究明に努め、地域社会の安全を守る役割を担ってい」るのです( JOBOON! : 参照 )。
確かに、本書は火災調査官を主人公に据えているだけあって、消防に関してのお仕事小説としてのトリビア的な知識を得ることができる面白さはあります。
しかし、登場人物のキャラクター設定は成功しているとは思えず、人物の書き分けもあまりうまくいっているとは思えませんでした。
主人公の性格にしてもわが道を行く性格がはっきりとはしておらず、苦手な先輩である筈の白木との対立もあまり目立ちません。
火災調査官として調査に動く主人公の姿は積極的であり、他者との衝突の場面もあまり感じられません。
また、普通のミステリーの主人公と異なり捜査権を持っておらず、また私立探偵でもないので公務員としての縛りがあって調査官としての行動がかなり制約されます。
つまりは、主役の行動が制限されていて魅力が半減なのです。その上、残念ながら主題となる謎が弱く、敵役の存在もあまり印象に残りません。
そうした中、物語の流れは平板でストーリー展開にあまり変化が感じられず、淡々と進む印象です。
さらに言えば、本書の帯には「二人が追う」として、火災調査官とポンプ車小隊長とが放火を追うと書いてありましたが、実際は火災調査官だけが中心となっています。
結局、火災調査官という職種は珍しいものだし、本書についての関心を掻き立てるものではありました。
しかしながら、物語としては残念ながら面白くなかったと言わざるを得ないのです。

