ナンバー

所轄署から警視庁本部への転属が決まった西澤は、意気軒昂として桜田門に向かう。だが、所属は期待していた捜査一課ではなく捜査二課。横領や詐欺事件を捜査するその部署は、同僚をライバル視するエグい捜査員の集団だった。事件の全体像を示さず捜査情報も出さない二課にあって、誰よりも狡猾で悪事に長けた知能犯を西澤は追いつめて落とすことができるのか?犯人・同僚・上司・協力者…。事件に関る人間の裏表を、かつてない緊迫感で描く新しい警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

警視庁捜査二課という、経済事犯を扱う部署を舞台にした連作短編集です。

 

警視庁本部に転属がなった西澤だったが、配属先は一課ではなく二課だった。

新しい職場で張り切る西澤だったが、そこは新米刑事。知能犯という未経験の相手の事件処理に当然のことながら失敗を繰り返す。

そうした中、経験豊かな退職刑事の示唆など見えない助けをうけながら、新米刑事は失敗を乗り越えて成長していく。

 

困難な謎解きや、社会派の推理、派手なアクションなどを望むと期待外れになるでしょう。しかし個人的にはこうした人間味あふれた成長譚も好みです。

結構面白く読みました。

連続ドラマW 震える牛

人気作家・相場英雄のベストセラー小説をTVドラマ化した社会派サスペンス。食品偽装、狂牛病、大企業の隠蔽をテーマに、事件を追う刑事と記者、隠蔽しようとする組織との攻防をスリリングに描く。主演は『下町ロケット』の三上博史。全5話を収録。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

評判の高いWOWOWの連続ドラマで放映された作品です。

震える牛

警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。当時の捜査本部は、殺害された二人に面識がなかったことなどから、犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。しかし「メモ魔」の異名を持つ田川は関係者の証言を再度積み重ねることで、新たな容疑者をあぶり出す。事件には、大手ショッピングセンターの地方進出に伴う地元商店街の苦境、加工食品の安全が大きく関連していた。現代日本の矛盾を暴露した危険きわまりないミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

食品流通の現状を訴えて話題になった、社会派の長編推理小説です。

 

「平成版『砂の器』誕生」という謳い文句がありましたが、やはり少しの物足りなさを感じてしまいました。

 

 

警視庁捜査一課継続捜査班所属の警部補田川信一は中野駅前の居酒屋でおきた強盗殺人事件を担当する。

殺されたのは仙台市在住の獣医師である赤間裕也と暴力団関係者の西野守だった。

二人に関連性はなく強盗殺人として処理されていたのだ。しかし、田川はこの二人の関連を疑い、調査を開始するのだった。

 

確かに、本作も一刑事の執念が殺人事件の解決を通じて現代社会の構造的な欠陥を暴きだすという構成です。その点では、同様に事件を解決していく中で日本の負の歴史を暴きだすという「砂の器」に通じる側面もあると思います。

 

本書では、食肉の流通に関して十分な取材が為され、その取材に基づいた流通の負の側面がこれでもかと書かれていて、本書を読むと肉を食べることにためらいを感じる程です。

そして、その食肉の問題こそが問題となっている殺人事件の動機解明に役だっているのですから、この点でも構造は似ています。

 

しかし物語として見ると、刑事の事実を追うその過程の描写に粗さを感じないわけにはいかず、一方敵対する犯人側の描写も物足りなさを感じてしまうのです。

ここにあるのは経済であり、利益の追求につきます。「砂の器」における人間の哀しさとも言える思いが本書ではそれ程には感じられませんでした。読後の余韻がやはり違います。

 

でも、以上は宣伝のコピーとして書いてある「砂の器」との比較の上のことであって、本作品自体を見れば十分に面白い小説です。どうしても本作品そのものではなく、比較した印象になってしまってるので、その点は明確にしておきたいと思います。

純粋にミステリー小説としてみた場合、そもそもの事件の設定自体や謎の追及に若干の粗さがあったりとの不具合も無きにしも非ずなのですが、個人的な評価としては「面白い小説」という以外にはないと思います。

ちなみに、本作品はWOWOWの「連続ドラマW」枠で『震える牛』全5話としてドラマ化されています。